無職転生 -静After-   作:メダカの子

5 / 5
第五話「再会」

 プルルルル、プルルルル...

 

 

 プルルルル、プルルルル...

 

 

「んー。なによ...こんな朝から...」

 

 

 私は枕元の携帯を開く。

 まだ朝の6時、良い子は寝ている時間だ。

 

 電話の相手を見ると、黒木 誠司とでている。

 仕方なく電話に出ることにした。

 

 

「はい、もしもし」

 

「あ、やっと出た!おはよう!」

 

 

 朝っぱらからそのハイテンションはついていけないわよ。

 

 ふぁ~...とあくびを一つして相手に告げる。

 

 

「あのさ」

 

「そういえば今日って...ってなに?」

 

「おやすみ」

 

 

 言ったと同時に通話を切る。

 

 ごめんなさい。悪気はないのよ、全然。

 ついでにマナーモードにしておく。完璧ね。

 

 

「さて、もうひと眠りしますかね」

 

 

 そして、私の意識は深い闇の底へ落ちて...

 いかなかった。

 

 

「うーん。セイは何を言おうとしていたのかしら」

 

 

 不覚にも、何のために連絡してきたのか気になって眠気が覚めてしまったのである。

 何度も瞼を閉じて寝ようとするが、なかなか寝付けない。

 

 仕方なく、真剣に考えることにした。

 

 

「今日って何かあったっけ?」

 

 

 壁に掛けられているカレンダーを見る。まだ12月のカレンダーだ。

 クリスマスからは一週間くらいしか経っていない。

 

 

(ん?クリスマスから一週間?

 それと12月のカレンダー...あっ!)

 

 

 最初から携帯の日付を見ればよかった。

 

 うん。ちゃんと書いてある。

 

 

「そうか、今日は元旦だったのね」

 

 1月1日。午前6時。

 セイは元旦のあいさつをしたかったのだ。

 そう思ったら自分の行動が申し訳なくなってきた。

 

 

「急いでかけなおさなきゃ」

 

 

 電話帳を開き、セイの電話番号へかける。

 

 

 プルルルル

 

 

「はい、黒木ですが」

 

 

 なんとまぁ、ワンコールで出てきた。

 さすが現代高校生ね。早いわ。

 

 

「おはよう、セイ。さっきは電話切ってごめんね。

 それと、明けましておめでとう」

 

「あ、うん、え?」

 

「聞こえなかったの?明けましておめでとうって」

 

「お、おう。こちらこそ明けましておめでとう」

 

 

 どうやら彼の方は、急な電話の内容についていけなかったらしい。

 電話の向こうでは「はー」だとか、「ほー」なんて口にしている。

 

 よっぽど驚くことだったのだろうか。

 

 

「それにしても驚いたなぁ。まさかそっちから電話を掛けてくるなんて」

 

「ちょっと待ちなさい。先に電話してきたのはあなたでしょ?

 何言ってるのよ、もう」

 

「あはは、すまん。こんな朝早くから」

 

「いいわ。もう起きちゃったしね。

 というか、まさかそれだけのために電話を?」

 

 

 まぁ、新年のあいさつを言うために、電話をかけるのは分からなくはないけど...

 

 

「いや、癖でな。毎年のように初詣のお誘いの電話をかけていたんだよ」

 

「あぁ」

 

 

 そういえば、毎年アキとセイと三人で初詣行っていたけど、私たちを誘ってたのはいつもセイだったわね。

 それが当たり前だったからこそ、全く気が付かなかったのかな。

 

 

「ごめんなさい。急に切ってしまって」

 

「いやいや!全然構わないさ。

 むしろ謝りたいのは俺の方だよ。君が入院していたのに電話を掛けてしまってごめんよ」

 

「それは全然悪いことじゃないわ。毎回ありがとうね」

 

「おう!」

 

 

 ん、自分でも気づいたが、この頃の私は前より素直になってきてないかしら。

 悪いことじゃないんだけどね。

 

 

「じゃあ、俺はこれで」

 

 

 電話を切ろうとするセイを慌てて引き留める。

 

 

「え?初詣行かないの?」

 

 

 と問うと、彼の方も驚いた感じで

 

 

「え?外出許可降りたの?」

 

 

 と返してきた。

 今は、午前6時35分。確かに時間的にも早すぎる。

 

 

「あとからなら行けると思うけど。その時どう?」

 

「んー...許可降りるかなぁ...」

 

 

 セイはクリスマスの件で私から怒られた後、だいぶ反省したらしい。

 自分からお医者さんの方に謝りに行って、許してもらったとか。

 

 

「あの時は、時間超過で怒られたんでしょ?

 でも今度は大丈夫よ。午前中だけだし」

 

「いや、たぶんそれ違うと...」

 

「え?違うの?」

 

 

 初めて知った。というより、怒られてた時の話を全くと言ってもいいほど覚えていない。

 なんて言われてたかしら、私。

 

 んー、と頭をひねったり、首を回したりしているがなかなか出てこない。

 

 

「時間超過はもちろんだけど、弱ってる体であまり無理をさせたくないってのが、医者の言いたかったことだと思うよ」

 

「なるほど」

 

 

 それはそうね。うん。言われていた気がする。

 まぁ、ちゃんと聞いていなかったし、仕方ないわよね。

 

 

「と、いうことで、今度はちゃんと医者と話し合って決めることにするよ」

 

「そうね、分かったわ」

 

「うん、じゃあ、10時頃にね」

 

「はーい」

 

 

 電話を切る。

 携帯を枕元に置き、上体を起こして背伸びをする。

 

 

「んー。ってあれ?」

 

 

 ふと気づいた。セイは10時って言ってたわよね。

 

 もう一度携帯を開くと、まだ午前7時にもなっていない。

 あと三時間以上もあるんだけど...

 

 

「小説の続きでも書いていこうかしら」

 

 

 ベットの上でうつ伏せになり、メモ帳を開く。

 まだ物語の三分の一しか書き終わっていない。

 

 

「終わるのかしら、これ」

 

 

 一応終わりまで考えているのだけれど、どうも執筆ペースが遅いように感じる。

 割と昔のことまで鮮明に覚えている気がする。

 

 それだけ刺激の強い日常だったことが分かる。

 

 

「少し真面目に頑張りますかね」

 

 

 よし、と気合を入れ画面に集中する。

 

 病室では、カタカタカタと音が鳴り響いていた。

 

 

 

 *

 

 

 

「----ぃ」

 

 

 何か聞こえる。

 

 

「---ぉい」

 

 

 まるで私を呼んでいるような...

 

 

「起きて」

 

「はっ」

 

 

 がばっ!っと枕から顔を上げた私にセイは笑いながら話しかけた。

 

 

「すまんな、早く起こしたから眠たかったんだろ?」

 

 

 現状を把握する。私はいつの間にか眠っていたらしい。

 携帯の液晶もOFFになっていて、中はばれていない。

 

 

「ごめんなさいね。つい寝てしまったわ」

 

「大丈夫。気にするなよ」

 

「それより今何時?」

 

「10時12分だよ」

 

 

 もう10時を過ぎていた。

 やはり、寝ると時間が過ぎるのが早いのね、と改めて実感する。

 

 

「あ、じゃあお医者さんに話しをしなきゃ」

 

 

 体を起こして、身なりを整える。そしてお医者さんを呼んでもらおうと思ったのだが

 

 

「あぁ、それならさっき話してきたよ

 何時までとかじゃなくて、二時間だけならいいとさ」

 

「何かと優しいのね。あのお医者さん」

 

 

 割とあっさり承認してくれるお医者さん。

 自分の担当医はずいぶん気前がいいらしい。

 

 

「だな。じゃあ俺は廊下で待っておくから、その間に着替えてくれ」

 

「了解」

 

 

 ドアからセイが出て行ったのを見て、今年初の服選びを始める。

 

 

「んー、初詣ならこの格好かしら」

 

 

 おばあちゃんが家から持って来てくれた服を、布団の上に広げていく。

 いろんな服を買っていたらしい。

 

 

(向こうではあまり服装を気にしなかったけど、やっぱり外へ出るときは正装をしなきゃね)

 

 

 黒をベースとしたシャツと、動きやすいジーンズ。

 茶色のコートを羽織って松葉杖を握る。

 

 

「この格好で皆と会うのかしら...

 早く、自分の足だけで歩けるようになりたいわ...」

 

 

 少し、松葉杖が様になってきた自分を見るのが恥ずかしい。

 

 早く松葉杖を卒業したいと、切に思う私であった。

 

 

 

 セイと向かった神社はこの街の中で唯一の神社で、この時間帯は多くの人でにぎわっていた。

 見あげるような大きな鳥居をくぐると、ずらーっとどこもかしこも人で埋まっている。

 

 

「お、いたいた。おーい!」

 

 

 隣にいたセイが急に大声を上げる。

 両手を振って誰かに話しているらしい。

 

 

「急にどうしたの?」

 

「あぁ、お前と仲良かったやつ、呼んでおいたぜ」

 

 

 セイが手を振っていた方向に顔を向けると、確かにそこには仲の良かった友達が揃っていた。

 

 

「お久しぶり!静」と遠藤 真希子

 

「元気そうね」と高峰 蒼

 

「心配したんだからね~」と林田 響子

 

 

「お、皆ー!お久しぶりだね!」

 

 

 こちらも「おーい」と片腕をブンブン振る。

 そこにはいつもよく集まる友達が待っていた。

 

 一番先に話しかけてきたのは、真希子ことマッキー。

 割とガサツな性格だが、根はとても優しい子である。

 

 

「いやぁ、事故にあったって聞いたときは驚いたよ。お見舞いには行っていたんだけどね。

 この頃行けなくてごめんよ」

 

「ううん。ありがとうね」

 

 

 二番目に話しかけてきたのは、蒼。

 彼女には学業の面でもお世話になっている。

 

 

「早く戻ってきなよ、待ってるわ。

 ノートはしっかり取ってあるからね。」

 

「ありがとう!頑張るよ」

 

 

 最後は、響子ことキョウちゃん。

 今日は少し大人っぽい服で来たのだろうけど、やっぱり幼く見える。

 

 

「元気そうで嬉しいよ!でも無理はしないようにね?

 風邪ひいちゃうと辛いからね」

 

「うん、気を付けるね。ありがとう」

 

 

 全員と言葉を交わしたところで、もう一人奥にいるのが見える。

 少し影になっていて見えにくいが、身長は150くらいの女の子だと思う。

 

 

「ん?誰あの子。初めて見たけど...」

 

 

 その子は、こちらをじーっと見つめているが何も話そうとしない。

 

 

「あ、もう来てたのか。こっちに来いよ!」

 

 

 どうやらセイの知り合いらしい。

 それにしても見覚えのない顔だけど...

 

 

「はーい」

 

 

 セイに呼ばれてこっちへ来た彼女は、すごく可愛くてびっくりした。

 それこそ、顔が整っていてモデルが出来そうなくらいであった。

 

 

「初めまして、先輩。御堂 香織です」

 

「初めまして。私は、七星 静です」

 

「えぇ、知ってます。知ってますよ?」

 

 

 んー、少し突っかかってくる子だなぁ。

 私なにかしたっけ?こんな可愛い子に。

 

 そんな感じで顔をしかめていると、彼女の方も慌てた様子で

 

 

「あぁ、すいません。

 誠司さんの方から話は伺ってまして、前に一度病室に訪ねに来たことがあったんですよ」

 

 

 なるほど。でもなにかしらこの違和感。

 セイの事を先輩ではなく誠司さんと呼ぶあたり、まさかこの子...

 

 

「なるほど。お見舞いに来てくれたのね、ありがとう」

 

 

 まぁ、確定もしてないのに疑うのは良くないわね。

 セイが呼ぶくらいだからそれ相応の仲なのだろう。

 

 そう思っていると、彼女は急にキョロキョロと周りを見渡して

 

 

「誠司さん、誠司さん。はやく並びません?人が増えてきてますよ?」

 

「あぁ、そうだな香織ちゃん。並んでおこうか」

 

「さ、行きましょ!」

 

 

 彼女はセイに手を差し出す。

 だが、セイはそれが見えてなかったのか、こちらに振り返り

 

 

「静も行くか」

 

 

 と声をかけてくれた。

 

 

 なぜか...少し嬉しかった。

 少しばかり心が高ぶったのである。

 

 

「えぇ、行きましょうか。皆で」

 

 

 今はまだこの優越感に浸ろうと思う。

 ふわふわしたような感じ。

 

 この時私は、この感情がなんなのかをまだ理解していなかった。

 

 

「今年のお願いは何にしようかしら?」

 

 

 周りの皆で話をしながら列に並ぶ。

 どうやら聞くところによると、うちのリア充どもは今日は彼氏を呼んでいないらしい。

 

 

「彼氏と初詣行かなくても良かったの?」

 

 

 詳しく聞いてみると、

 

 

「おう!夜中にもう行ってきたからね!」と、その割には眠くなさそうなマッキー。

 

「私の彼氏は友達と行ってきたらしくて、朝連絡したら寝てたのよね」と、顔をしかめる蒼。

 

 遠くを見詰めて「いいな...」と、呟いたキョウちゃん。

 

 

 あまりにもキョウちゃんが辛そうだったので「私も一人よ!同じじゃない!」と肩を叩いてフォローしてみるが、「あんたねぇ...」とあきれられてしまった。

 

 はて、何かしただろうか、私。

 

 

 そんなふうに、きょとんとしていたのが気に食わなかったのか

 

 

「鈍感って罪よね~」

 

 

 と周りの皆に話しかけていた。

 

 

 なんやかんや話をしていると、とうとう自分たちの番が来た。

 

 向こうの世界ではなかったので、久しぶりのお参りだ。

 お願いはもう考えている。

 

 50円玉を財布から取り出し、お賽銭箱に投げた。

 ほかの皆も続々に投げていく。

 

 

「ルーデウスが無事に過ごせますように」

 

 

 一つ目はもちろんこれだ。自分を二度も救ってくれた恩人ルーデウス。

 彼には返しきれないほどの借りがある。

 

 そして、ずうずうしくも二つ目も考えていた。

 

 

「アキが幸せに眠りにつけますように」

 

 

 現実世界でも未練を残して逝ってしまった彼は、向こうの世界に転生した後も満足せずに死んでいった。

 そんな彼には、せめて死んだあとは安らかに過ごしてもらいたい。

 

 そう思って、願い事を考えてきた。

 

 

「静はなんて言ったの?」

 

「ん?あぁ、アキのことよ。

 これから安らかに過ごしていけるようにお願いしたの。

 そういうあなたは?」

 

「毎年同じく、皆が幸せになれますように、だよ」

 

「あなたらしいわね」

 

 

 セイが気になって聞いてきたが、一つ目は答えないでおく。

 セイは毎年あのお願いしているらしいが、今年はお願いしている時間がいつもより長かったような気がする。

 

 きっと、去年いろいろあったからだろう。

 いつもよりたくさんお願いしてきたに違いない。

 

 

「それじゃあ、帰りましょうか」

 

 

 時間的にもそろそろ帰らないといけないので、皆にそう告げる。

 すると、まだ居たかったのか、口々に「えー」と文句を言ってきた。

 

 

「誰かさんのせいでね、時間厳守しなきゃいけないのよ」

 

「ごめん!ごめんって!」

 

 

 セイの慌てっぷりにはみんな笑っていた。

 

 

「それじゃあ、またね~」

 

 

 手を振って振り返り、病院へと戻る。

 

 その時セイが「あ、俺も」と言っていたが、どうやら後輩の女の子に捕まったらしい。

 「誠司さんはこっちです」と引きずられていく様子が横目で見れた。

 

 

「ほんと、何やってんだか」

 

 

 独り言のように呟いたとき、胸の奥の方が『チクリ』と痛みを感じた。

 

 

 

「あ...そっか...」

 

 

 やっと、分かった。

 

 セイに対する自分の気持ちが。




遠藤 真希子のスペック
・顔 ショートヘアーで日焼けがある、可愛い
・運動神経 良い
・彼氏 同じ部活の隼君

高峰 蒼のスペック
・顔 ロングヘアーでおしとやかな感じ、可愛い
・彼氏 一つ上の先輩、幼なじみだとか
・特徴 一言で表すなら『清楚』である

林田 響子のスペック
・顔 ボブヘアーで幼さが残る感じ、愛でたい
・目標 身長を伸ばす
・彼氏 欲しいとは思っているが、相手からは妹のような扱いしかされず困っている


どうも、メダカの子です。

初詣に行かなくなって数年経ちました。
どうも元旦はすべてが面倒になってきがちです。


静は秋人を忘れたわけではありませんが、この感情が芽生えます。
じつはこれ、ずっと前からあった感情だったというオチです。

浮気ではありません。


ではでは、また次話で

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。