「魔法少女? 次の女装は魔法少女がいいという遠回しな意味なん?」
「……もういいです……」
秀樹の真剣な悩み相談はこんな感じであっけなく終わった。
(また夢だ……)
アリシアは、自分が夢を見ていると自覚して、夢を見ている。
自分の思い出なのは間違いないとは思うのだが、全てを思い出すには至らない。
記憶の欠片がちぐはぐに繋ぎ合わさり、いつのことなのかがハッキリしない。
そんな状態でアリシアは夢を見ていた。
『………リニス、アレの調子はどう?』
『素晴らしいですよ、―――――。流石、貴女の娘だと……』
『そんなことはどうでもいいの。あとどれくらいかかるの?』
酷いノイズが走り、白衣を着た女性の顔と名前が分からない。
この人の名前を知ってるはずなのに、この人の顔をよく知ってるはずなのに。
何かが邪魔をするように、白衣を着た女性の素顔を見ることが出来ない。
『あと3年もあれば、あの娘はきっと超一流の魔導師に……』
『遅いわ! もっと急ぎなさい!!』
『で、ですが………』
『以上よ。はやく出ていきなさい………』
(あの娘って誰……?)
憂い顔で部屋から退出するリニスの必死な想いが伝わってきた。
もっと〝あの娘〟を褒めてほしい。もっと〝あの娘〟との時間を作ってほしい。
しかし、その想いは白衣を着た女性には届くことなく、会話が終了した。
『ごめんね、私にはバルディッシュを遺してあげることしか出来ないみたい』
(バルディッシュ?)
切なそうな表情のまま、女性は作業に勤しむ。
その後ろ姿を最後に、アリシアの意識は夢の世界から薄れていった。
〇朝〇
巨大な樹木の事件から3日が過ぎていた。
町には巨大な樹木が残した痛々しい爪痕が残っているが、死傷者が出たという情報はない。
しかし、あの日からアリシアは不思議な夢をよく見るようになった。
「あの人が私のお母さんなのかな……」
そう呟くのと同時に、アリシアは自分が寝る敷き布団から上半身だけを起こす。
あの夢を見た後、アリシアの胸の中には何故か虚しさと悲しさがどうしても残った。
どうしてこんな気持ちになるのだろう?
あの白衣の人は自分の母親?
リニスは自分にとって何者なんだろう?
バルディッシュってなんのこと?
…………いったい私は誰なんだろう………
その答えを誰かに教えてほしくてたまらない。
なんであの公園のベンチに独りぼっちで座ってたんだろう?
秀樹と出会った後のことはなんでも覚えているのに……
「ねぇ、お兄………」
「もう食べられねぇって………Zzz Zzz Zzz…………」
「……………………」
自分の隣の布団で幸せそうに寝てる秀樹にアリシアは何も言えなくなった。
ただ自分の悩みを聞いてほしくて声をかけようとしただけなのに。
(お兄ちゃんのバカ)
そう心の中で呟き、幸せそうに寝てる秀樹に対してアリシアはそっぽを向く。
自分がこんなに悩んでいるのに、なんで秀樹が幸せそうな顔で腹を出して寝ているのか。
寝相も相当酷いもので、きっと一緒の布団で寝てしまうと後悔してしまうに違いない。
(少し懲らしめてあげよ♪)
アリシアは、慌てて起きる秀樹の様子を想像する。
特に恨みはないのだけれど、少し困らせてやろうと考えた。
音を立てぬように静かに立ち上がり、寝てる秀樹から距離を取る。
寝てる秀樹の胸に思いきりダイブし、自分の相手を存分にしてもらうつもりだ。
(せーのっ!)
タイミングを見計らい、アリシアは思いきり跳んだ。
あとコンマ数秒でアリシアは秀樹にダイブするだろう。
だが、秀樹が寝相で少し股を開く体勢に変わってしまった。
それを特に気にすることなく、アリシアは秀樹の胸に着地する。
…………秀樹の股間にアリシアの右膝がゴールインする形で……………
「朝だよ! お兄……」
「〇$%&@☆★▽△◆!!?」
アリシアは秀樹の絶望的な悲鳴に言葉を失った………
『こぉら! そんな起こし方をしたらいけませーん!』
『ごめんなさーい♪』
という流れになるのを想像していたのに、秀樹は過呼吸で股間を押さえながら蹲っている。
「ぉ、ぉぉぉぉぉぉぉ俺のボッスンとサスケがァア………」
ボッスンとサスケについてはピンとこないアリシア。
でも、自分が秀樹に対して大変なことをしてしまったことだけは分かった。
「アリシア、男の弱点に膝蹴りするんじゃない」
「そ、そんなつもりは………」
「そんなつもりはなかったことくらい分かってる………
でもね? 男にとって、股間に膝蹴りは致命的ダメージなんだよ………」
悲愴感漂う表情で秀樹はアリシアに訴えかける。
アリシアを目の前に正座させ、自分はガニ股で仁王立ちしながら注意する。
もう2度とこんな過ちを繰り返させないため……と秀樹は真剣に語りかける。
なんとか生き残ってくれたボッスンとサスケの無事を静かに喜びながら………
「ごめんなさい………」
反省して俯くアリシアの顔を見て、秀樹はチラッと時計を確認する。
「………顔を洗ってきな?」
「………許してくれるの?」
「バカだな。そんなに怒ってないっつーの」
そう、股間に残る苦痛を笑って誤魔化し、秀樹はガニ股のまま笑顔を見せた。
〇八神宅〇
「今日も来たぞー」
「はやてお姉ちゃーん♪」
朝食を済ませた秀樹とアリシアは、八神宅のインターホンを押す。
二人は、はやての家に遊びに行くのが日課になりつつあった。
「いらっしゃい♪ 待ってたで♪」
「今日は何か手伝うことあるか?」
「特にないよ。兎ちゃん、気を使ってくれてありがとうね」
「別に。昼飯と晩飯をタダで食わせてもらってるからな」
「兎ちゃん、案外律儀なんやな」
「はやて。俺はな………3借りたら7返すタイプなんだよ」
秀樹は、ドヤ顔で自分の前髪を七三に揃えて笑う。
しかし、はやては無言でアリシア〝だけ〟を玄関の内に招き入れ、そっと扉を閉めた。
「アリシアちゃん、絵本読んであげるわ」
「はやてお姉ちゃんが読む絵本ならなんでもいいよ♪」
「ふふ♪ ホンマに嬉しいことを言うてくれるわぁ♪」
「ちょっと待ってぇええええええええ!!?」
アリシアとはやてのほのぼのとした雰囲気を秀樹が情けない面でブチ壊す。
「なんやの! 大声で叫んだら近所迷惑や!!」
「あ、すんません。そうじゃなくて、俺も入れろやボケ!!」
ごく自然な形で八神宅に入れなかった秀樹は怒った。
「なんで!? 昨日までは普通に入れてくれたじゃん!?」
「いや、ついノリで閉めてもうたんよ。堪忍してや?」
「ノリって何!? けっこう傷つくからね!?」
「お兄ちゃん、近所迷惑だよ?」
「………………………ごめん」
アリシアの一言で大人しくなった秀樹は、ようやく家の中に入れてもらえた。
「兎ちゃん、今日は……」
「分かってる。今日は病院で検査なんだろ?」
3人はテレビゲームやボードゲームを楽しんだ後、午後の予定についての話題になる。
「そうなんやけど、その前にお墓参りしたいんよ」
「お墓参り?」
「私のお母さんとお父さんに二人を紹介しようかなー……なんて」
自分の右頬を少し掻きながら言うはやてに、秀樹とアリシアは顔を見合わせた。
「なんで急に?」
「ちょっと安心させてあげようかなぁって思ったんよ。
もう私が一人やないってところを見せてあげたくて……」
照れくさいのか、はやては少し顔を逸らしながら秀樹の顔を窺う。
「はやて」
「………一緒に来てくれるん?」
「いや、それ死亡フラグになってないか?」
「なんの心配しとんねん。このバカ兎」
はやての照れくさそうな表情がゴミを見る冷たい表情へと一気に変わった。
〇墓地近辺〇
「機嫌直してくださいよぉ。冗談だったんだって」
「アリシアちゃん、この道は暗いから気を付けて歩こうね」
「はーい」
はやての家を離れて数分後、秀樹は二人から3歩後ろに下がって歩いていた。
アリシアは、はやての乗る車椅子を頑張って押して歩き、はやてと楽しく談笑している。
はやては………秀樹を完全無視していた。
「アリシアちゃん、疲れたやろ?」
「ううん! 私、もっともっと頑張れるもん!」
「エエ子やな。お姉ちゃんは幸せ者やで……」
アリシアの頑張る姿に心を撃たれるはやて。
「無理するな。後は俺が押していくから」
「触んな、ゴミくず」
「なんで俺だけそんな感じ!?」
今日一日は秀樹を許さないと決めているはやて。
あの手この手で自分の機嫌を直そうとしてくる秀樹を軽くあしらい続けた。
「ここで一旦休憩にしよ?」
「はーい」
「はやて様、そこの自販機でジュースを買って参りました」
「殊勝な心がけや、ご苦労様。アリシアちゃん、あっちで一緒にジュース飲もうや♪」
「う、うん……」
秀樹から缶ジュースを受け取ったはやては、アリシアを連れ、秀樹から離れた場所で缶ジュースを開ける。アリシアは、暗い顔で地面をジー……と見つめる秀樹のことを心配した。
{はやてお姉ちゃん……}
{?}
{お兄ちゃんを許してあげないの?}
アリシアは、小声ではやてに秀樹を許してもらおうと試みる。
{………大丈夫やで。もうとっくに許しとるよ?}
{えっ?}
{ただ……もう少し反省してもらいたいだけやねん。不謹慎なことを言った代償は重いで}
{不謹慎?}
{ほら? さっき死亡フラグとか言うたやん、あのバカ}
{うん}
{乙女が真面目に頼んだのに、死亡フラグやで? 乙女心が傷付いたわ……}
{ハハハ……}
沈んだ表情を見せるはやてに、アリシアは苦笑いする。
そんなとき、アリシアは遠くの茂みからガサガサという物音を聞いた。
(あれって?)
はやてと秀樹は気付いてないようだが、アリシアは気付いた。
茂みの奥を小さい影と少し大きい影が走り抜けていくのを。
少し大きい影に小さい影が追われているのは明らかだった。
「ハァ……私も意地張るのやめよ。アリシアちゃん、一緒に………あれ?」
はやてが少し目を離した隙に、アリシアの姿が見えなくなっていた。
〇墓地〇
「ハァハァ……確か此方に……」
アリシアは、小さい影のことがどうしても気になり、息を切らしながら走っていた。
あの小さい影と少し大きい影が駆け抜けた雑草が生い茂る粗末な道を掻き分けながら。
しばらくその道を走っていると、はやてが目的地とした墓地へと辿り着いてしまった。
「……………………………」
「カァ! カァ!」
「ひゃう!?」
見渡す限りの墓石と静寂な墓地の雰囲気が、アリシアから明るさを奪う。
この薄暗くて怖い雰囲気の場所に一人だけという事実に気付いたアリシアは言葉を失う。
そこへ烏が嘲笑うかのように鳴いたから、アリシアは変な声を上げてしまった。
「…………どうしよう」
アリシアは後悔した。
こんな怖い雰囲気な場所に来てしまったこともそうだが、勝手にいなくなった自分を秀樹とはやてが探してるはずだ。きっと怒られてしまうだろう。そう考えると、自然と両目から涙が流れそうになる。あと少しで声を上げて泣いてしまう。
そんなとき、一人の少年がアリシアの背後から声をかけた。
「嬢ちゃん、こんな所に一人で何してんだ?」
「ひぅ!?」
突然知らない人に背後から声をかけられたアリシアは、心臓が止まりそうになった。
慌てて振り返ると、学ランを着た男子中学生がアリシアのことを見下ろしていた。
「うぇ……」
「な、泣くなって! 驚かせちまって悪かったよ!!」
アリシアの涙のダムが決壊寸前のところで、男子中学生は懸命に謝罪した。
「嬢ちゃんは迷子なのか? それとも誰かの墓参りか?」
「お姉ちゃんのお母さんとお父さんの……」
少し落ち着いてくれたアリシアに男子中学生はホッとした後、アリシアから事情を聞いていた。お姉ちゃんとお兄ちゃんの3人で墓参りに来たが、自分が迷子になってしまったと、アリシアは話した。アリシアの事情を把握した男子中学生は、しばらくアリシアの傍にいることにした。
「そっか……俺も墓参りなんだ」
「お兄さんも?」
「あぁ……」
アリシアは、寂しい目で空を見上げる男子中学生の顔を見つめる。
「お兄さんは誰に会いにきたの?」
「先生に会いにな」
男子中学生は、花と饅頭が供えてある墓石に視線を移した。
そこには『八神家』と文字が彫ってあったが、アリシアには漢字が読めない。
アリシアは、自分が一足早く目的地へと辿り着いていたとは夢にも思わなかった。
「どんな先生だっ……………」
「に゙ゃあああああ!!?」
アリシアが言葉を言い終える前に、何かの悲鳴が墓地に轟いた。
「…………猫の喧嘩か? 穏やかじゃねぇな……」
「何処!?」
「嬢ちゃん! 何処行くんだ!?」
アリシアは悲鳴の轟いた場所へと走る。
男子中学生は、アリシアの行動力に戸惑いながらも跡を追った。
「あ!?」
走ってから数秒後、アリシアはようやく小さい影と大きい影の正体が分かった。
小さい影の正体は傷付き血を流して横たわる仔猫。大きい影の正体は体格の良い大型犬だった。
「ひでぇな……あの仔猫は、あの犬に何したんだ?」
「た、助けないと!」
「待ちな」
犬と仔猫の間に割って入ろうとしたアリシアを男子中学生が制止する。
「君が行っても仕方ないと思うぞ」
「どうして!?」
「あの犬が優しい性格なら話は別だ。
しかし、あの仔猫をあそこまで痛めつけてる様子だと、どうやらかなりの性悪らしい。
それに君と犬の体格差を考えると、絶対に行かせる訳にはいかないよ」
それは、誰が見ても一目瞭然というヤツだった。
犬の体格から考えると、体重は50kgを軽く越えているだろう。
5歳児の女の子が、もしそんな大型犬に襲われると考えるとゾッとするくらいだ。
万が一のため、男子中学生はアリシアの身の安全を常に確保する義務がある。
「でもぉ……」
アリシアは悔しくて涙が溢れてきた。
このまま仔猫を見殺しにしてしまうことに我慢なんて出来ないからだ。
そんなアリシアの悔し涙を見せられた男子中学生は、スッと学ランを脱ぎ始めた。
そして、綺麗に畳んだ学ランをアリシアに預ける。。
「汚したくないから持っていてくれ」
「え?」
そう言い残し、男子中学生は猫と犬の間に割って入った。
「ヴゥゥゥゥゥウウ!」
「首輪が付いてやがるな。お前の飼い主の面を拝んでみたいもんだよ」
牙を剥き出しにして唸る大型犬に対し、男子中学生は恐れなど全く抱いていなかった。
「警告するぜ。今すぐ飼い主のところに帰りな、尤も犬に言葉が通じれば苦労しねぇが……」
「ウォオン!! ウォン!! ウォン!!」
「…………やる気なら仕方ないよな?」
男子中学生は呆れて目を瞑り、深呼吸をして右手を握り拳にする。。
大型犬は、男子中学生の腕にでも噛みつくつもりなのか、牙を剥き出しで男子中学生に襲いかかろうと向かっていく。
「コォオオオオオ……ドラッ!」
「キャンッ!?」
大型犬は、自分の身に何が起こったのか理解出来なかった。
相手の拳が自分の顔を完璧に捉え、自分を宙にブッ飛ばしていた。
だが、理解出来ないのはそこではない。
殴り飛ばされる前の自分と相手の距離を考えれば、絶対に拳なんて届くはずは……
(今、この人の右腕が伸びた?)
アリシアは自分が見たことに半信半疑になる。
第3者からの視点で見たことをありのままに話せば、男子中学生の右腕が伸びた。
まるで己の関節を自由自在に外し、無理矢理パンチの射程距離を稼いだかのような……
「失せな。今度はグレートに凄ェ1発を叩き込むぜ」
殴り飛ばされ地面に無様に這いつくばる大型犬。
男子中学生の鋭い眼差しが「次は無ェぞ?」と語っていた。
大型犬は敵わないと悟り、遠くへと走っていった。
男子中学生は、その背中を黙って見つめ、面倒が終わったと安堵した。
「猫ちゃん、しっかりして……」
「おっと……肝心なことが終わってなかったな……」
アリシアの声に、男子中学生は自分のするべき大切な用件を思い出す。
泣きそうな顔で仔猫を抱き締めるアリシアの頭を男子中学生は優しく撫でた。
「嬢ちゃん、俺に任せてくれねぇか?」
「…………………」
「俺なら助けられる。その仔猫の怪我を治してやれる」
「本当!?」
仔猫を助けられると宣言した男子中学生に、アリシアは詰め寄った。
それと同時に、男子中学生の背後から〝何か〟が出現し、怪我をした仔猫をそっと触れた。
その間、僅か0.5秒。アリシアは最後まで〝何か〟に気付くことはなかった。
「あ、あれ?」
「にぃ?」
「もう大丈夫みたいだな」
アリシアは何が起こったのか理解出来なかった。
傷付き、下手をすれば死んでいたかもしれない仔猫が回復した。
ありえなかった。ほんの数秒前まで大怪我を負っていた仔猫の傷がなかった。
まるで、「最初から怪我なんてしてませんでしたよ?」と言ってるみたいに。
アリシアが目の前で起こった不可思議な奇跡に固まっている間、仔猫はアリシアの腕から脱出しようともがく。呆気に取られていたアリシアは、すぐに仔猫を腕から離してしまった。自由になった仔猫は、アリシアと男子中学生の顔を交互に見た後、大型犬が走り去った逆の方向へと走っていってしまった。
「あ、待って!? リニスーーーー!!」
「リニス? 嬢ちゃん、もう名前なんて付けてたのか?」
「え?」
男子中学生にそう聞かれ、アリシアは我に返った。
(なんで……リニスって呼んじゃったんだろう……?)
無意識に呼んでしまった名前にアリシアは混乱した。
夢で見たリニスは人間だ。決して猫には見えない。
それなのに、自分は当たり前のように〝リニス〟と確かに叫んでいた。
「嬢ちゃん?」
「あっ……こ、これ!」
男子中学生の声で、アリシアは再び我に返る。
そして、自分を見下ろす男子中学生に向き直り、学ランを差し出した。
「ありがとな?」
アリシアに預けていた学ランを笑顔で受け取り、男子中学生は再び学ランを羽織った。
「アリシアーーーーー!? 何処行ったんだーーーーーー!?」
「!? お兄ちゃんだ!」
遠くから自分を探す秀樹の声に、アリシアは笑顔になる。
それを見た男子中学生は、もう自分のやるべきことはないと悟る。
「嬢ちゃん、お別れだな」
「え?」
「はやく本当のお兄ちゃんのところに行ってやりなよ」
「ううん、本当のお兄ちゃんじゃないよ?」
「え゙っ!?」
男子中学生は、最後の最後にアリシアの言った事実に不覚にも虚を突かれた。
「でもね、お兄さんみたいに凄く優しいんだ♪」
「……そっか!」
それを聞いた男子中学生は、もう何も気にすることはないと思った。
家庭が少しばかり複雑なのだろうが、この娘の笑顔に不幸の影は見えない。
安心だ。はやくその優しいお兄ちゃんに再会してほしいと心から思う。
「じゃあな。元気でな?」
「うん!」
元気な返事でアリシアは自分を探してる秀樹の元へと合流しにいく。
男子中学生は、その背中を見送った後、静かに振り向いて歩き始める。
「アリシアーーー!! 何処行ってたの!?」
少し遠くからお兄ちゃんとやらの大きな声が聞こえる。
どうやら無事に再会出来たようで一安心だった。
(ちゃんと妹を可愛がってやれよ。お兄ちゃ……)
と、男子中学生は呑気にそんなことを思ってアリシア達の居る方へ振り向いてみる。
しかし、この温かい気持ちが一発で消し飛ぶくらいの衝撃が男子中学生の眼に映る。
「旨いな。この饅頭」
少し遠くで何かを口に頬張り、八神家の墓に手を合わせる少年を見つけた。
くっちゃくっちゃと口を動かし、あっという間に何かを飲み込む姿が見える。
つまり、何が言いたいのかと言うと………
喰いやがった。自分が墓に供えた………〝饅頭〟………を………
「こんのクソガキがァアアアア!!」
「へ?」
饅頭を呑気に頬張っていた少年の顔がキョトンとなる。
自分より一回り大きい男子中学生が鬼の顔で走ってきたからだ。
「俺が供えた饅頭を勝手に喰ってんじゃねぇぞォ!!」
その怒号が終わるのと同時に、男子中学生の背後から奇妙な巨人が顕れた。
歯を食い縛り、眼を鋭く光らせ、男子中学生の怒りに呼応し、絶賛ブチキレた状態で。
「え? スタン………」
『ドラァア!!』
饅頭を喰った少年(秀樹)は、強烈なアッパーを避けることが出来ずに宙を舞う。
「お、お兄ちゃーーーーーん!?」
秀樹は、アリシアの戸惑う声をマトモに聞くことなく、気を失ったのだった。
遅ればせながら、
ジョジョの奇妙な冒険 Part.4 ダイヤモンドは砕けない
アニメ化おめでとうございます。