はい、完璧に見切り発車ですね。だが、後悔はしてない。
日本の南、南洋の更に南に位置する、四つからなる島、四島市。
そしてこの島には、変わった光景がいつものように映るのだ。
反重力子の発見により発明された、空を飛ぶシューズ、アンチ・グラビトン・シューズ。 通称グラシュは、羽根、エンジンを使わず、身体能力のみで飛ぶことが出来るこの靴で、競技までにされている。
そして、全国的に最もグラシュの使用が多いとされるのが、ここ四島市なのだ。
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ジリジリジリという目覚まし時計の鉦によって、俺、
今の時刻は午前5:30分だ。 俺はむくりと上体を起こしてから、大きく伸びをし布団を剥いでベットから起き上がった。
それから洗面所へ行き、支度をしてから家を出、いつもの道をランニングしてから、ストレッチをする。 これは俺が小さい時から続けてきた事なので、FCを辞めたいまでも続けている。 いや、これが生活の一部に組み込まれてるの方が適切かもしれない。
ちなみに、今の俺はラフな格好だ。
「はあ……。 FCから離れても、これだけはやっとかないと落ち着かないんだよな」
俺は無意識に呟いていた。
朝の練習を終えてから家に帰り、学校へ行く支度を整える。
飯を作り、それを食べてから家を出た。
ちなみに、現在の時刻は、午前8:10分だ
「やべ! テレビに夢中になりすぎた。――あれ、晶也?」
俺が四島列島に引っ越してきた時、色々と教えてくれた友人だ。
晶也と見慣れない女子生徒は、浜辺で何かを探していた。
「おーい! 何やってんだ! 学校に遅刻しちまうぞ!」
「翔か! この子が自宅の鍵を落としちゃったみたいでさ!」
ふむ。 晶也が女の子と一緒に探していたのは鍵か。
「手伝うか!?」
「ああ、頼む!」
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俺は浜辺まで移動し、鍵を見つける作業を手伝うことにした。
数分間鍵を探していたら、女の子の傍で光り輝く物が目に入った。
「なあ、晶也。 あれじゃないか?」
「どれ?」
晶也は、俺が指さした方向に目をやる。
「ああ、あれだ。……多分だけど」
「おい、そこは断言しろよ」
俺は溜息を吐いてから歩き出し、晶也は背中を追う。
鍵を取った俺は、必死に鍵を探してる女の子の前に屈みこんだ。
晶也もそれに倣う。
「これか? 探し物は?」
「そ、それです! それ、私のお家の鍵です!」
俺がそう言うと、女の子はもの凄い勢いで顔を近づけてきた。
「お、おう。 それはわかったが、近いぞ」
「へ?……あ、ごめんなさい!」
女の子は慌てて引き下がる。
俺と晶也は膝を叩いてから立ち上がり、俺が女子を見ながら呟く。
「君はうちの学校の転校生? 見たところ同じ制服だからさ」
「は、はい、今日から久奈浜学院に通う、倉科明日香です!」
立ち上がった女の子が、ぺこりと頭を下げる。
「急がないと、学校始まっちゃうよ。 そ、それに、生徒指導の各務先生が校門で待ち構えてるよ。 きっと」
「だな。 急がないと、黒歴史が暴露されちまう」
何故か知らないが、各務先生は、各生徒の黒歴史を知っている。
俺も一度は暴露される所だった。
俺と晶也と倉科さんは停留所まで移動し、晶也はグラシュを起動させ、展開部分から翼を出現させる。
「オレは、倉科さんと一緒に飛ぶよ。 この子、飛び方知らないみたいだし」
「そうか。 じゃあ、俺は走るわ」
「え? 飛んでいかないのか?」
「……俺は、空を飛ぶの好きじゃないんだ」
俺はあの日から、グラシュは起動させないと決めているので、この数年間起動させたことは一度もない。 学校を遅刻しそうになった時もだ。
「そういうことだから、先に行ってくれ。 その子は、遅刻とかまずいだろ」
「あ、ああ。 わかった」
俺は手を振り、この場からもの凄い勢いで走りだした。
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「あと五秒、四、三、二、一……!――はい、そこまで! 今日も遅刻者なし。 よく頑張った!」
俺は校門を潜り、息を荒げていた。
「ま、間に合った。 つ、疲れた」
各務先生は、校門の扉を閉めながら聞いてきた。
「お前は、いつも歩いて登校してるな。 グラシュは使わないのか?」
「え、ええ。 俺のグラシュは、休憩時間ですから」
年単位の休憩だが。
「……そうか」
「ええ、そうです」
俺は頭を下げ、教室へ急いだ。
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俺は教室に入り、自身の席に着席した。
「……SHRまでには間に合ったな」
「お、翔君」
今俺に話しかけてきたのは、隣に座る青柳窓果だ。
女子の中では、話しやすい部類に入っている。(俺基準で)
「お疲れだね、なんかあったの?」
「見慣れない女子生徒の手伝いをちょっとな」
「日向君が、女子と手を繋いでたことと関係あったり?」
なぬ!? 晶也の奴、あの美少女(俺基準)と手を繋いできたのか!?
羨ましい、羨ましいぞ。 晶也よ!」
「あ、あの~、翔君。 心の声がもれてるよ」
俺は窓果の声を聞き、ハッとした。
俺は恐る恐る、
「も、もしかして、今の言葉クラス全員が聞いてたり……?」
「……結構大きい声だったからね」
「……お、終わった。 グッバイ俺の高校生活」
「そ、そんなことないと思うけどな~」
窓果は顔を逸らし、口笛を吹くふりをした。
いや、窓果さん。 その行動が、『……たぶん大丈夫だよ。 たぶんね』って言ってるように聞こえるんですが。
「まあいいか。 窓果みたいに話せる奴がいれば」
窓果はニヤニヤ笑いながら、爆弾?を落とした。
「お、私に愛の告白かな?」
「どこからそういう発想に至ったんだ。 この野郎」
俺はそう言い、窓果の頭をぐりぐりする。
「痛い、痛いよ。 翔やん」
「力を入れてないだようが、『翔やん』てなんや! 翔だ、翔」
「わ、わかってるって。 ちょっとした、遊び心で」
「ったく」
これが、俺が登校してからのいつもの流れである。
そして、いつものように視線を集める。
「――で、窓果さんや。 いつも感じるこの温かい視線は何ぞや?」
「さ~、何だろうね」
「てか、俺は年齢=彼女いない歴だ。 なので、恋愛なんてわからん」
俺は、フンスと胸を張った。
「そ、そこまで堂々としなくても……。 てか、翔君。 オープンすぎだよ」
「俺は、隠し事はしないと決めてるんだ。……はい、すいません。 冗談です。――そ、そうだ、晶也。 あの子は間に合ったのか?」
この時、クラス全員の声が一致したのだった。
『逃げたな』と。
「お、おう。 間に合ったぞ。 今は職員室に行ってるんじゃないか」
「そ、そうだよな。 俺より先に学校に着いたんだもんな」
そうこうしていたら、ガラガラガラと扉が開く音が耳に入ってきた。
出席簿と教材を持ちながら、我らが担任、各務葵先生が教壇に上がった。
「はいはい、全員席に着きな。 SHR始めるよ。――学年が新しくなって二週間だ。 委員会や部活など、新しいことを始める者は、きちんと申告するように。 また、新入生や困っている人には、率先して手を差し伸べる人間であることを期待する」
それから連絡事項諸々の説明があり、
「では、これでSHRを終わる。と、晶也――」
晶也は、各務先生の名指しを受けていた。
まあ、あれだ。 晶也、ガンバ!
俺は一限目の授業の教科書を取ろうと、机の中の教材を確認したのだが。
「あ、やべ。 朝急いでたから入れ忘れがあったんだ」
俺は、隣の席の人物に助けを求めた。
「ま、窓果さん。 数学の教科書見せてっちょ」
「ん~、どうしよっかな」
「……よし、今度の買い物の荷物持ちでどうだ」
「ふむぅ」
窓果は考え込むだけだ。
「じ、じゃあ、パフェとアイスの奢りもプラスだ!」
「にしし、交渉成立だね」
「お、おう。 で、いつ行くんだ」
「そうだね――」
窓果の声を遮ったのは、数学の教師の木下先生だ。
そう。 このやり取りは授業中に行われていたのだ
「……お前ら、今は授業中だぞ」
「「あ、すいません」」
とまあ、このようにして、俺の今日の授業が始まったのだった。
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時は経過し、今は放課後。
まあ、後は家に帰るだけだ。
その時、俺の左斜め前から、
「ほ、放課後だああァァ! お腹減ったああァァ!」
その人物は、机からがばっと起き上がった。
鳶沢みさき。 容姿端麗であり天才肌。
何このダブルコンボ……。 ほぼ敵なしだよね。
「やっとやっと今日が始まるんだー。 何しようか何食べようか? 無限の可能性が私を襲うよ」
言うまでもなく、みさきは低血圧だ。
なので、朝と放課後のテンションのまるで違う。 こいつ別人じゃね。的な感じだ。
「いや、無限の可能性が私を襲うって、意味がわからん」
「ぶー、翔のい~け~ず~」
「待て! 何でそうなる!」
すると、教室から出て行った各務先生が顔をひっこり出し、
「そうだった。 翔も晶也と一緒に来い」
「げっ、まじか」
「嫌なのか、嫌なら、翔の黒歴史を――」
「わ、わかりました。 行けばいいんでしょ、行けば。――そんじゃ、二人ともまた明日」
手を振り、この場を後にした。
その後、廊下で晶也と合流した。
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「「失礼します」」
挨拶をし、入口を見て左奥に座る先生から、『こっちこっち』と手招きをされた。
俺と晶也は、溜息を吐いてからそこへ向かって歩き出す。
「で、何すか? 俺帰りたいっす」
「まあまあ、そう言うなって、翔」
「先生、本題に入ってください」
「昔に比べて晶也も可愛げがなくなったな。 まあいい、お前たちに話とはこのことだ」
机の上にあらかじめ置いてあった一枚の紙を、俺と晶也の前に突き出した。
そして、見覚えがある顔も目に入る。
「お前らは面識があるはずだ。 倉科明日香。 今日手続きしたばかりの転校生だ」
「げ、まさか」
俺がそう言うと、各務先生がコーヒーが入ったマグカップを手に取り、口に流した。
「そのまさかさ。 転校してきた倉科に、グラシュでの飛び方の指導を頼みたい。 二人でな」
「はあ、公認指導員の資格なんか取らなければよかったぜ」
「だな」
俺と晶也は、がっくりと肩を落とした。
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それから数十分後。
俺と晶也は、グランドで指導員を待っている倉科さんの元へ向かった。
「ええっ! 指導員って、朝のお二人だったんですか!?」
「まあな。 俺の名前は如月翔だ。 よろしくな」
「オレの名前は、日向晶也だ。 よろしく」
「く、倉科明日香です。 頑張って覚えますので、よ、よろしくお願いします!」
倉科さんは、ぺこりと頭を下げる。
俺は後方を振り返る。
「で、何でお前らはいるんだ」
「ほらほら、私の友人が転校生ちゃんに悪さをしないように来たのさ」
「そうですよ。 男の子は狼なんですから」
俺と晶也は溜息を吐いた。
まあ、邪魔をしなければ問題ない。
「あの、日向さん、如月さん。 この方たちは」
「はじめまして~、2年C組の鳶沢みさきでーす。 常にお腹を空かせたキュートな女子高生で、うどんとお菓子をくれたら、どこまでも着いていきます~」
いや、どこでも着いていったら駄目だろ。
「はいはーい。 有坂真白ですー。 1年A組です。 みさき先輩の配下というか、しもべというか、そんな感じで楽しくやってます」
「えっと、その、あの……」
「お前ら、倉科さんが困ってるだろ」
そう言って、晶也が仲裁に入る。
こうして、指導が始まった。 最初にグラシュの歴史を説明した。
てか、晶也がほぼ指導してるので、俺の出番なくね。的な感じです。
「じゃあ、飛んでみようか」
倉科さんは、グラシュの展開部分から翼を広げた。
「い、いきます。い、いっせーので……Fly!」
空中での倉科さんは、とても楽しそうだった。
まあ、色々大変そうだったが。 バランスを崩して落ちそうになったりとか。
取り敢えず、こうして指導1日目が終了したのだった。
やべ、ヒロインどうしよ(-_-;)
コーチ二人はご都合主義やね(笑)