それでは、本編をどうぞ。
指導三日目。
倉科さんは、徐々にだが飛べるようになってきた。
「倉科さん、落ち着いて。 グラシュを起動してれば地面に落ちる事はないから」
……前言撤回、まだ初心者の域だった。
三日目だししょうがないよね。 これが一週間続いたらあれだが。
まあ、俺が見た感じ、倉科さんは何かの可能性を秘めている気がする。 才能って言えばいいのか、それとも天才肌と言えばいいのか。
そこら辺はハッキリしないが。
「晶也、そろそろ時間だぞ」
そう。 そろそろ17時になる。
完全下校時刻は18時だが、17時を回る頃には夕焼けが見える時間なのだ。
てか、俺って必要なのか? 各務先生に、ほぼ無理矢理(間接的に)FCに携われって言われてるような気がするが。
「そうだな。――倉科さん。 そろそろ練習を終わりにしようか。 下りてきて」
「はーい。 日向さん」
うーむ。 倉科さんと晶也の空間が出来てる気がするのは気のせいだろうか。
てか、俺邪魔者じゃね、的な。
「んじゃ、俺は帰るわ」
俺は自宅に向かって走り出した。
うむ。 お邪魔虫は早々に退散しなくては、晶也に申し訳ない。
俺が遠回りして走っていたら、見覚えがある人影が見えてきた。
久奈浜学院の制服を着た、男子生徒と女子生徒だ。
どうやら、何処かの学校とFCをやっているらしい。
「どれどれ得点は、0-9!? 完敗状態じゃん」
この光景を見ながら、俺は浜辺に足を向けていた。
ただ見るだけなら問題ないはずだ。
「晶也、何で倉科さんがFCやってんだ?」
「うーん、オレにも詳しくはわからないんだ。何か、院の字を守るとか……」
「は? 院の字を守る? 意味がわからん」
「オレにもさっぱりだ」
「で、さっき倉科さんが一度下りてきたけど、何か秘策があるのか?」
おそらく、晶也はFCの経験者であり、世界を轟かせた一人だ。
なぜFCから離れたかわからないが、これは晶也の問題である。
部外者が口を挟むことではない。
「一度だけの上空からの奇襲だ」
「なるほどな。 たしかに、一度だけの作戦だな」
俺と晶也は、上空を見上げた。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「背中、いただきます」
「上空からの奇襲ですか。 いい作戦ですが、わたくしの前では無意味です」
対戦相手が軽く体を捻り、倉科さんの上空からの奇襲を避ける。
皆が、ああ、負けたな。と思っていたが、俺が晶也のインカムを奪い指示を出す。
『いいか倉科さん。 まだ試合は終わってない』
「き、如月さんですか? で、でも、これ以上は……」
『1ポイント取りたいなら、今から俺の指示に従ってくれ』
「は、はい」
『よし。 今落下してる最中だが、そこから体を捻って体勢を立て直すんだ。 それで、足に力を込めてトビウオみたくジャンプしろ。 これが上手くいけば、完璧な奇襲として1ポイントとれるはずだ。 自分を信じろ!』
「は、はい! わかりました!」
俺の指示に従った倉科さんは、体を捻り、トビウオのようにジャンプした。
これには、対戦相手も倉科さんも、晶也も審判の男性も声を上げた。
「「「「え?」」」」
倉科さんは、俺が昔得意としてた技。 エアキックターンの高等技術で、対戦相手の背中を見事にタッチし1ポイント先取したのだった。
「……い、今のって、エアキックターン?」
「まあ、俺指示で上手く出来るかは0.2割程度だったが、成功してよかったよ。――じゃ、俺はお暇するよ。 また明日」
「お、おい。 待ってくれ」
俺はこの言葉に、歩きながら右手を上げるだけで答えた。
だが翌日。 思いもしないことが起きるとは、この時翔は微塵も思っていなかったのだ。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
翌日。
教室に入った俺は、迷わず自身の席に座り、机に突っ伏して、狸寝入りに入った。
昨日、審判を行っていた男性が倉科さんと晶也を取り巻きながら、熱く何かを語っていたのだ。
俺は、絶対に面倒事だ。と思い狸寝入りに入った所存である。
「如月さん。 おはようございます。 昨日はありがとうございました」
「(マジかー。 倉科さん、天然を発揮しちゃいましたか)」
ここで挨拶しないのは、純粋に挨拶をしてくれた倉科さんに失礼だ。
なので俺は、溜息を一つ吐いてから、むくりと上体を起こした。
「うん、おはよう。 倉科さん」
まあ、俺の声に筋肉男性(俺命名)が反応するわけで、こちらにやってくる。
「おお、オレの名前は青柳紫苑だ。 FC部の部長でもある! 昨日のセコンドは見事だった。 まさか、初心者にエアキックターンを出させる指示を出すなんてな。…………オレは昨日気づいてしまった。 君は…………天才だ!!!!!」
いや、貯め過ぎでしょ。と俺は心の中で突っ込む。
「ぜひ、君の力をFC部に活かして欲しい、入部してくれないか!!!!!」
「俺はFCに関わることはしたくないんで、他を当たってください」
「君も、日向と同じ諸葛孔明なのか……。 そうか、オレのやる気を試しているのか……。 うお――――!!!!! 筋肉が全て解決してくれる! 次の休み時間も来るからな! 日向に如月!」
てか、俺の名前調べたんですね……。
どこまで勧誘に必死なんすか。
……うん、青柳?
俺は、隣の席に座る窓果を見る。
「なあ、窓果。 青柳ってことは……」
窓果は顔を赤くしていた。
「……私のお兄。 ちょー、恥ずかしいよ」
「…………まあ、うん。 察するよ。 で、窓果はどうするんだ?」
「マネージャーをしようかなー、って思ってるんだ。 たぶん、倉科ちゃんは入部する気がする、それに続いてみさきとかも」
「なら、晶也も強引に誘って五人だな。 これで部に昇格だ」
晶也は、倉科さんやみさきのFCの熱に押されて入部する確率が高いだろう。
まあ、俺はそういうのに感化されないから関係ないけど。
「え、翔君は入らないの?」
「……すまないな。 事情があってな」
「……そうなんだ」
「……ああ」
そして次の休み時間も、
「如月! 日向! 考えは変わったか! オレと共にFCをやろうではないか。 お前らの思いは、筋肉が解決してくれる!!」
「だから、入部する気はありません!」
「オレも入りませんよ!」
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翌日の水曜日。
「日向! 如月! FC部に入ってくれないか。 土下座でも何でもするぞ!!」
「ちょ、土下座とか勘弁してください! 人目につきますんで!」
「オレはたち入らないと決めているんです!」
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翌々日。木曜日。
「日向! 如月! 考えは変わったか!」
「下校時間ズラしたのに、何で空を飛んでくるんですか!?――晶也、別れるぞ!」
「了解!!」
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金曜日。
「よし、部長は君たちのどちらかにやって貰おうじゃないか、オレは甘んじて平部員になろう! 筋肉だ――――!!!!!」
「だから俺は入る気はありません! 他を当たってください!」
「オレもです。 何度言われても答えは変わりません!」
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土曜日。
「何が望みなんだ。 金か? 地位か? オレが用意できるものなら何でも用意しよう。 まだ、オレの熱意を試しているのか? オレは、お前らが入ってくれるまであきらめんぞ――――!!!!!」
「もう、疲れました。 お引き取りください……」
「はい、オレも同じく……」
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そして周が終わった月曜日。
俺は登校してから机に突っ伏していた。
青柳先輩の熱心な勧誘は、何というか、凄いの一言だ。
そして、衝撃の真実がSHRで明かされることになる。
「あー、私は今日から、FC部同好会の顧問になった」
何じゃそりゃああぁぁああ!!??
いやいやいや、てか、晶也が各務先生を睨んでるし。
「先生、後で職員室に!」
「晶也、それは私の言葉だ」
はあ、何か一波乱ありそうで怖い。と俺は心の中で呟くのだった。
一限目の授業が終わり休み時間。今日は珍しく青柳先輩が勧誘にこなかった。
代わりに、窓果がFCについて聞いてきた。
「翔君。 どうしてFCをそんなに拒むの?」
俺は言うか迷ったが、窓果は口が堅いと思い言うことにした。
「昔、俺は親友と楽しく空を飛んでたんだけどな、俺が親友のFCを一時的に奪ったんだ。 だから、FCに関わることはしたくない」
「……その親友はどうなったの?」
「ああ、今は飛べるようになって、選手に復帰してるよ。――でも、俺は飛ばない。 絶対にだ」
「……そっか、わかった」
「すまないな。 窓果」
俺は申し訳ない気持ちで、窓果に頭を下げた。
こうして時は過ぎ放課後。
「俺は帰るわ。 じゃあまた明日」
俺は、友人に声をかけて教室を出た。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「今日は、例の浜辺に行ってみるか」
俺は例の浜辺に足を向けた、尾行されてるのを気づきながら。
数分歩き、浜辺に到着した。
俺を見て、親友、
「来てたのか、翔」
俺と蓮は、拳と拳をコツンと合わせる。
「まあな。 昔よりスピードが上がったんじゃないのか?」
「いや、翔には全然届かないよ。……なあ、翔。 飛ぶ気にはならないのか?」
「……うん、俺は飛ばない。 絶対に」
「……やっぱり、オレがあの時怪我をしなければ、翔から空を奪う事は……」
「蓮のせいじゃないさ。 あの時、蓮に無理やり飛ぼう何て言わなければ、蓮は足を故障しないですんだんだ。 俺が蓮から空を奪ったんだ。――すまない。 暗くしちゃって、練習頑張れよ。 蓮なら世界を目指す事も不可能じゃないと、俺は信じてるぞ」
俺は歩きながら、手を振りこの場を離れた。
翔と入れ替わるように、窓果が姿を現す。
「あの~、すいません。 翔君の親友で合ってますか?」
「うん、合ってるけど。 どちらさま?」
窓果は慌てたように姿勢を正して、お辞儀をした。
「久奈浜学院、2年C組、青柳窓果です。 翔君とは仲の良い友達です」
「翔の友達か。 可愛いね」
「いやいや、初っ端から口説かないでくださいよ」
「悪い悪い、今のはジョークだ」
窓果は、真剣な顔つきになり本題に入る。
「今日は、部活を休んでここに来ました」
「それって、FC部?」
「はい、そうです。 先程の会話を少しだけ聞いちゃいました、すいません!!」
窓果は深々と頭を下げる。
「まあ、オレは構わないよ。 翔も窓果ちゃんの尾行には気づいてはずだよ。 ここまで連れて来たっていうことは、聞かれても問題ないってことだね」
蓮はニコっと笑う。
「えッ、気づかれてたの!?」
窓果は驚愕した。
普通の人ならばれるはずがない尾行をしたのだ、それがばれるとは思ってもいなかった。
「翔の気配察知は、FCでも凄かったからね。 数メートル後方は軽々と見抜かれるよ」
「へ~、翔君って凄い選手だったんだ」
窓果は、感嘆な声を洩らした。
「うん、凄い選手だった。 各務葵の秘蔵っ子と張り合うくらいのね。 いや、翔の方が一枚上手だったかも。 FC界では、伝説になってる選手だよ」
「……やっぱり、さっきの話が原因で、翔君はFCから離れたんですか。……あ、あれです。 蓮さんが悪いとか、そういう事じゃないんですよ!?」
「…………いや、オレが翔から空を奪ったんだよ。 オレがあの時、翔に、怪我してるから飛ぶことが出来ないって、怪我をしてることを隠さないで言えばよかったんだ……。 この一言だけで、翔から空を奪う事はなかったのに……。 オレはね、翔にFCに戻って貰う為に空を飛んでるんだ。 それが、オレの償いだと思っているから」
「……そう、なんですか」
窓果は俯いた顔を上げた。
「私、決めました。 翔君を絶対空に帰してみせます!」
「オレも、翔が空に戻ってくるように練習を人一倍頑張るよ。 ただの勧誘だけでは、翔の心は動かないかも」
「それはわかってますよ。 私のお兄が悪い例ですから」
「うん、窓果ちゃんの方が、翔に効果がありそうだ。 オレには無理だったことが、君ならやってくれそうな気がするよ」
「頑張ります!」
如月翔を空に帰そうという、窓果の決意が固まった日になったのだ――。
今回の話で、翔君の過去?を少しだけ出しました。
翔君は、晶也君より凄い選手だったんですね。
ではでは、エネルギーになる感想、よろしくお願いします!!