窓果ちゃん。策士だね(^O^)
翌々日の放課後。
窓から外を見てみると、何故か晶也がFCのコーチをしていた。
おそらく、誰かが、晶也に再び空を飛ぶ楽しさを見せたらだろう。
まだコーチだが、何かの切っ掛けがあれば、晶也は選手に戻ることが出来るだろう。
「ま、俺には関係ないけど」
俺はそう言い、昇降口の下駄箱から、通学用のグラシュに履き替える。
昇降口を出たら、そこには、2年のFC部一行が俺を待っていた。
「翔。 FC部に入ってくれないか?」
と言い、晶也は俺に深く頭を下げてきた。
「翔のセコンドの指示を見て、オレは、翔がFC経験者だと思ったんだ。 だから――」
いや、何というか。 晶也ってこんなに熱い性格だっけ?
もしかして、晶也の中のFC熱が蘇ってきたのか?
「まあ確かに、俺はFC経験者だ。 だがな、俺は空に背を向けたプレイヤーだ。 その証拠に、俺はこの数年間グラシュを起動させたことは一度もないんだ。 いつも俺が歩いて登校してるのは、見てるだろ」
「で、でも、何で飛ぶことが嫌いなんですか? 空を飛ぶのはあんなに楽しいのに……」
倉科さんも、俺に食いついてくる。
そして実感する。 この子は、本当に空を飛ぶのが好きなんだと。
晶也が、FCのコーチになる切っ掛けを作ったのは、きっとこの子なのだろう。
俺は笑みを浮かべた。
「倉科さんは、初めて空を飛んだ俺みたいだな。 その心は大事にしろよ」
「そ、そうなんですか?」
倉科さんは、あたふたしながら答える。
「そうだ。 その心を持ち続けている限り、倉科さんの可能性に限界はないよ。 でも、努力することも忘れるなよ。 日々の積み重ねも重要になってくるから。――あと、絶対に空を嫌いになるな。 それは、自身の可能性を捨てると同じことだからな」
「は、はい! わかりました!」
そう言い、倉科さんは俺にぺこりと頭を下げる。
てか、何で俺はコーチみたいな助言をしてるんだ。 早く帰りたい。
「翔やん。 私にはないのかにゃ~」
「私にもください!」
今、みさきと有坂が助言を求めたが、俺はソッポを向く。
「知らん。 俺は帰りたい! コーチなら晶也がいるだろ」
「「え~」」
「翔、FC部に入ってくれないか、オレはあそこまで踏み込んだ助言は出来ない。 頼む!」
「断る。 俺はFC部には入らない、追いかけて来ても答えは変わらないからな」
そう言い、俺は学校を出る。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「ねぇ、翔君のことは私に任せてくれないかな?」
「窓果?」
みさきが、眼をぱちくりしながら言う。
皆の視線を集める中で、窓果は答える。
「……実は、私知ってるんだ。 翔君がFCを拒んでる理由」
「そ、それは何なんだ!?」
晶也が食いついてくるが、窓果は首を左右に振った。
「……ゴメン。 それは教えられない。 約束だからね、翔君たちと」
「そうか」
「でも、私は翔君の空を飛んでる姿を見たいんだ。 だから――」
「いいんじゃない、窓果に任せて。 私たちの勧誘じゃ、ビクともしないよ。 彼」
みさきが軽い口調で言う。
「……ま、窓果ちゃん。 私、如月さんの教えをもっと聞きたいです! 晶也さんの教えと合わせたら、より速くなれるような気がします!」
明日香は、眼をきらきら輝かせながら、グイっと顔を近づけて言う。
たしかに、晶也と翔の助言を合わせたら、レベルアップするのは間違いないのだ。
「あ、明日香ちゃん。 近い、近いよ」
「あ、ごめん。 窓果ちゃん」
「じゃあ、窓果先輩に任せると言う事で、よろしいでしょうか?」
真白がそう言い、
「「「異議なしー」」」
晶也、明日香、みさきが同意する。
満場一致で、窓果が、翔の勧誘を一任することが決定したのだった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
時間は経過し、翌日の放課後。
俺は教室を出、下駄箱で通学用のグラシュに――。
「翔君、一緒に帰ろう」
「何言ってんだ。 窓果は部活があるだろ?」
「いやいや、今日は合宿に向けた準備をしないとでね。 救急備品買いに行くんだ。 救急関係は私より、翔君の方が詳しいかなーって。 一緒に来てくれないかな?」
俺は暫し悩んだが、
「まあ、そういうことなら」
「じゃあ、決まりー!」
俺と窓果は、通学用のグラシュに履き替え学校を出る。
この間も、空を飛ぶことは一切しない。
俺と窓果は、歩いてドラックストアに向かっている。
目的地に到着し、自動ドアを潜り店内に入る。
「さて、まずは包帯関係だな。 6番通路だ。 行くぞ、窓果」
「ちょ、翔君待ってよ~」
俺と窓果は、6番通路の真ん中に陳列されている包帯を眺める。
「たくさん入ってて、長いのがいいのかな?」
「そういうのは、すぐに緩んだりするんだ。 あんまり入っていなくても頑丈なものを選ぶんだ。 値段が高くても、選手の体のケアの方が重要だからな」
「なるほどねー。――買い物が終わったらアイスが食べたいなー」
これは、前の約束のアイスだろうか?
じゃあ、パフェも入っていると言う事か?
「おう、パフェでもいいぞ」
「それは、次回ということで」
次回だと。 てか、これって傍からみるとデー……。
いやいやいや、そんなことは考えるな如月翔よ。 クールにいこうクールに。
「おう、パフェは次回な。 ところで、アイスはどこのだ?」
窓果は、人差し指を唇に当てた。
「うーん、コンビニでもいいかな」
「……窓果がそれでいいなら」
まじか。 デパートの三段アイスとか、本格的な、北海道バニラアイスなど注文がくると思ったんだが。 コンビニのアイスでOKだとは。
「んじゃ、一通り買ってから、コンビニ行こうぜ」
「OK」
俺と窓果は、救急用の備品を一通りカゴに入れてから会計し、コンビニへ向かった。
ちなみに、買った物の荷物は俺持ちだ。
コンビニでアイスを買った俺と窓果は、浜辺の階段に座り食べていた。
「海が綺麗だねー」
「だな。――もうちょっと贅沢な物を買ってもよかったな」
海は、夕焼け空の光を浴びて、綺麗な光を反射していた。
「この空の下で、飛んだら気持ちいいんだろうな」
窓果は、そう無意識に呟いていた。 窓果は空の話題を出してしまった為、ハッとした。
「ごめん、今のは無意識に……」
「いや、構わないよ。 飛びたいのか?」
窓果は小さく頷いた。
「……翔君、一緒に飛ばない?」
「…………いや、俺は」
「そろそろ我慢は終わりにしよう。 一緒に飛ぼうよ」
窓果は、笑みを零しながらそう言う。
「……今日は、やけにグイグイくるな」
「ん~、だって翔君は飛びたいのに、それを必死に我慢してるんだもん。 拗ねてる感じで」
俺は、ぐっ、と言葉を詰まらせる。 たしかに窓果の言う通り、無意識に意地を張っているのかもしれない。 蓮も、俺が空を飛ぶことを願っているのに。
数秒考え、――――俺は覚悟を決めた。
「…………今日だけだぞ」
窓果は、満面の笑みで答える。
「OKOK。 じゃあ、飛ぼうか」
俺と窓果は立ち上がり、俺は息を吐いた。
「何年ぶりだろうな。 飛ぶのは」
「はいはい、そんなこと言ってないで、手を貸して」
俺が右手を、窓果が左手を出し、ゆっくりと繋いだ。
俺と窓果は、空を飛ぶ魔法の言葉を紡ぐ。
「「――Fly!!」」
俺と窓果の体が、ゆっくりと空中に浮かんでいく。
久しぶりの空は、とても爽快感があった。 空中から見える夕焼け空も、とても綺麗だった。
「どうかな。 久々の空は」
「ま、まあ、あれだな」
俺は上手く答えられず、口籠るだけだ。
「蓮さんに報告しないと、翔君が空を飛びましたって」
「そうか。 蓮は見えない呪縛に囚われているのか……。 俺のせいで。 だが、今後も飛ぶとは決まってないぞ」
「でも、飛んだんだよ。 蓮さんもこれで一安心だよ」
「……まあ確かに。 蓮を呪縛から解放できるのは大きいな」
「これで蓮さんも、選手として再スタートできるね。 あ、そうだ。 今度蓮さんと練習しなよ。 飛ばなくても、陸上トレーニングならできるでしょ」
窓果の意見は尤もだった。
陸上でなら、蓮と昔に戻ったようにトレーニングできるのだから。
「そうだな。――もしかしたら、例の浜辺で練習してるかもな」
「じゃあ、飛んで行こうよ」
「今日だけだぞ」
「わかってるって」
そう言い、俺と窓果は、蓮がいつも練習してる浜辺まで飛翔した。
その間、風がとても心地よかった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
浜辺で、タオルで汗を拭いていた蓮は、目を丸くしていた。
何故なら、飛ぶのを拒んでいた俺が、空を飛んでいるのだから。
俺と窓果は、蓮の眼の前で着地する。
「蓮、ごめんな。 今まで待たせて」
「……ホントに長かったぞバカ野郎。 また飛んでくれて嬉しいよ」
「今後も飛ぶかはわからないけどな」
「でも、前みたいに断固拒否はしないんだろ?」
俺は、目をきょろきょろさせる。
「ま、まあ、そうかもな」
「……それで構わないよ。 ゆっくり空に慣れていけばいいさ」
蓮は、何か憑きものが落ちたようだった。
今まで縛られていた呪縛から、解放されたのだろう。
「陸上練習なら、いつでもOKだ」
「本当か!? でも、お前。 基礎体力とか大丈夫なのか?」
蓮が心配するのは当然だった。
いきなり厳しい陸上のトレーニングをして、大怪我をしました。とか洒落にならない。
「走りこみ、腹筋、背筋はいつもやってたからな。 問題ないぞ」
蓮は、俺の言葉を聞き笑みを零した。
「そうか。 FCから離れても、基礎体力作りは欠かさなかったんだな」
「まあな。 基礎体力作りは、俺の生活に組み込まれてたからな」
「お前は、やっぱり空が大好きなんだな」
「……否定はしない」
蓮は、窓果に向き直った。
「窓果ちゃん、ありがとう。 翔を再び空に飛ばせてくれて。 何かできることはあるかな? できる範囲なら応えるよ」
「んーと。 じゃあ、翔君にコーチを頼みたいな。 蓮さんは、次の大会で賞をとって欲しいです」
「うっ、そう来たか」
予想通り、コーチの件が来たか……。
さて、どうしようか?
「オレは構わないよ。 次の大会で必ず賞をとるよ。 翔は、時々でいいから練習につきあってくれ」
俺は腕を組んだ。
「うーん、わかった。……空の練習もか?」
「そりゃもちろん。 翔のトップスピードに追い付くのが目標でもあるし、トップスピードをばねにしたエアキックターンの技も盗みたいしね。 あれ、今の所FCの選手で出来るのは、翔だけなんだよ」
「マジッ!?」
「うん、マジだよ」
「ほへ~、翔君って、ホント凄い選手なんだね」
窓果は、俺を見て感嘆な声を洩らす。
たしかに、俺みたいな子供が、FCトップクラスの選手とは想像もつかないだろう。
「ま、まあ、俺もコーチの件は了解したよ。 俺の恩人の頼みは、無下に出来ないからな。 何かわからないけど、弱みも握られた気もするが……」
「にゃははは、気のせい、気のせいだよ!」
「……そういうことにしとくよ」
俺は肩を落とした。
蓮は頷き、
「翔がコーチか。 教える人は経験者なの?」
俺の代わりに、窓果が答えてくれた。
てか、俺はその場にいなかったから、何もわかっていないのだが。
「えっと、明日香ちゃんと真白ちゃんは初心者で、みさきちゃんは経験者だね」
「初心者が二人いるんだ。 三人のスタイルは?」
「明日香ちゃんがオールラウンダー、真白ちゃんがファイターを希望してて、みさきちゃんは、ファイターで決まりかな」
「三人は、自身にあったグラシュを選ばないとね。――翔たちが、この三人にどんな翼を与えるのか、楽しみだよ」
俺は唇を尖らせた。
「……ハードル上げんなよ。 まあ、晶也もいるから大丈夫だと思うけど」
「夏の大会、楽しみにしてるよ。 そろそろ時間だし、オレは帰るな」
「俺らも帰るか」
「そうだね」
俺、窓果、蓮は立ち上がり、帰路についた。
久奈浜学院と蓮のFCは、始まったばかりだ――。
翔君が空を飛びましたー。
窓果ちゃんの誘導凄いね(笑)あんなに拒んでいた空を飛ぶとは。
まあ、作者も早く飛ばせてあげたかったんですが。
てか、翔君のトップスピードをばねしたエアキックターンって、めっさ早くね(笑)
全ての力を吸収してますからね(笑)
荷物やゴミ等々も、ちゃんと持ちかえってますよ~。
ではでは、エネルギーになる感想、よろしくです!!