翌々日の土曜日。
俺はFC部の部室があるバス停へ、窓果と共に向かっていた。
何でも、昔、海沿いを一周出来る周回道路があったらしい、海に落ちそうな周回道路だったので部分部分で廃道されたらしいのだ。
その崖の真ん中にバスが放棄されていたので、そこを部室代わりにしたらしい。
まあ確かに。 部室での、今後の方針を決めるミーティグは必須になるのは間違いない。
海も近いので、絶好の場所らしいのだ。
「うーむ。 何か弄られそうなのは気のせいか?」
「それはないと思うよ。……たぶん」
「って、おい。 たぶんかい!」
と、その時、思いもよらない人物とはち合わせることになる。
FC部の顧問である、各務葵先生だ。
「お、翔。 コーチをしてくれる気になったのか?」
「……ええ、まあ。 色々ありまして」
今この人と話すと、墓穴を掘りそうで怖いです……。
「そうか、助かるよ。 妖精姫がコーチしてくれるんだからな」
この二つ名に、窓果が食いつく。
「それ、誰のことですか?」
「FC選手だったころの、翔の二つ名だよ。 まだあるがな」
各務先生は、クク、と腹を押さえて笑う。
各務先生は、俺がFCの選手だったことを知っていたらしい。
この人も元FCの選手であり、世界に通用する実力の持ち主でもあったのだ。
今でも、熱烈なファンもいるという話だが。
「……まじでやめてください。 誰がその安直な二つ名をつけたかは知りませんが、呼ばれる身にもなってください」
姫とか恥ずかしすぎる。
昔俺は、この言葉を完全にシャットアウトしてたのに。
「まあでも、お前が再び飛んでくれて、私も嬉しいよ」
「……何処でその情報を知ったんですか? まだ一昨日の話なのに」
「FC関連の、私の情報網を甘く見るなよ。 白鳥蓮とも一緒に練習するらしいじゃないか」
「……それも情報網からですか?」
各務先生は頷くだけだ。
てか、どんな情報網を持ってるんですか。
FC関連のことは、この人に隠し事が出来ない気がする。 うん、まじで。
「そうだな。 白鳥もFC界では上位に君臨する選手だからな」
「そうですか」
そういえば聞いた事があった。
最近蓮にも、二つ名がつけられたらしい。
俺と窓果は一礼し、FCを練習してる場所へ向かった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「じゃあ、まずはフィールドフライから」
「はい! たしか、空中をクルクル回ることですよね?」
晶也の練習内容に、明日香が確認をとる。
まだ初心者である明日香たちには、必要な練習になる。
「そう。 距離をとってクルクル回ることだよ。 まずは綺麗な姿勢を作ることが重要だからね」
「そんなことしないで、バチバチしようよー」
晶也の言葉に、みさきが不満に答える。
退屈な練習ではあるが、この練習には、ちゃんとした意味があるのだ。
「ダメ。 まずは基本から始めないと。 これを見て、みんなのグラシュの設定も考えるんだから。 スピードは出さなくていいから、真っ直ぐラインに沿って、ゆっくり飛ぶんだぞ」
「はーい」
「わかりました」
「りょうかいです」
みさき、明日香、真白は、翼を展開させ飛翔を開始した。
三人が飛んだと同時に、俺と窓果が姿を現す。
「晶也」
晶也は振り返った。
「しょ、翔か!?」
「おう。 まあ色々あって、コーチをすることにしたよ」
「ほ、本当か!? でも、どうして急に?」
晶也よ。 それを聞いてきますか。
まあ、あれだけコーチの件を拒んでたからな。
「俺の隣に立ってる子のおかげだな。 空を飛ぶのを誘導された感じだったけど」
そう言い、俺は窓果を見る。
窓果は照れたように、右手を頭に乗せた。
「えへへ、照れるな~」
「いやいや、褒めてないから。――……まあ、感謝はしてるけど」
窓果はニヤニヤにながら、
「お、これは捻デレってやつかな」
俺はソッポを向くだけだ。
「……照れてないし」
「でもでも、翔やん。 練習では飛ぶの?」
……『翔やん』に突っ込むのは諦めよう。
みさきにも言われてたしな。
「わからんな。 てか、競技用のグラシュもないし」
「あー、そういえばそうだね。 あとで買いに行く?」
ふむ。 競技用のグラシュと言えば、スカイスポーツ白瀬か。
久しぶりに行ってみようか。
「つきあってくれるのか?……男女交際のことじゃないからな」
「わかってるよ。 買い物って意味でしょ」
晶也は頬を掻いた。
「いつも思ってるけど、翔と窓果って仲いいよな」
「いいよ」「普通だ」
「「へ?」」
「……あー、うん。 わかった」
「「なにが?」」
俺と窓果は首を傾げる。
何がわかったんだ?
俺が上空を見上げると、「はわわわー」、「あひゃー」とか叫び声?が聞こえてくる。
主に、倉科さんからだが。
「そういえば、みんなグラシュ買ったみたいだけど。 設定とかは?」
「んー、まだ正確には決まってないかな」
「そうか。――さて、みんなのグラシュの種類は」
俺は上空を見上げる。
えー、倉科さんが飛燕四型。 みさきがレヴァーテイン。 有坂がシャムか。
てか、みさきのグラシュはピーキーだな。
そうこうしてると、晶也が皆に指示を出していた。
『皆、下りてきてくれ。 報告がある。』
「「「はーい」」」
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
窓果が俺の隣に立ち、他の皆は、俺の前に整列する。
俺は、んん、と咳払いをした。
「え~、今日からFC部のコーチに就任する、如月翔だ。 よろしく頼む」
と言い、俺は頭を下げる。
すると窓果が、
「入部届け等は、私がやっとくよ」
俺は頭を上げた。
「おう、頼むわ」
「りょうかい~」
みさきがニヤニヤしながら、
「てか、窓果。 どんな魔法使ったのさ。――翔やんは、あんなにFCを拒んでたのに」
俺はこの話題(恥ずかしいから)触れられたくないので、視線で『窓果。 この話題は逸らしてくれ』と懇願する。
「にしし、それは企業秘密だよ。 一つ言えることは、私の秘策が上手くハマったくらいかな」
「秘策?」
「うん、翔やんを空に帰そう作戦だね」
「ちょ、それは言わんといて……」
俺はあわてふためくが、時すでに遅しだ。
倉科さんは目を輝かせていた。
「そ、それって、如月さんは飛ぶってことですか!?」
「うーん。 部活の練習では、飛ぶかわからん」
「じゃあ、他の練習で?」
「まあ、そうだな」
蓮と練習する約束をしたので、ほぼ自動的に空を飛ぶことになってるのだ。
その時後方から、
「おお! 如月か! うんうん! オレの熱意がお前の心に届いたんだな!――うおォォんん!」
青柳先輩は、号泣しながら顔を近づけてくる。
「ちょ、号泣しながら顔を近づけないでください。 てか、今日は挨拶だけなんで」
「そ、そうか。 是非とも、君の練習を見てみたかったんだが。 またの機会もあるしな」
「今日は、そういうことでお願いします」
「うむ! わかった」
俺は晶也に向き直る。
「そういえば、各務先生の要件って何なんだ?」
次の晶也の言葉で、俺は声を上げることになる。
「実は、高藤学園から合同合宿の勧誘を受けてな」
「はああァァああ――! 高藤って、FCが有名な高藤だよな!?」
まだ部が発足して数週間だというのに、合同合宿は早すぎる。
部長以外の全員は、まだ上手く飛ぶことすら覚束ないのに。
「ああ、翔が言ってる高藤で間違えないぞ」
「で、晶也は何て答えたんだ?」
「あっちから話が来たんだ。 これを利用することにしたよ。――とまあ、そういうことだ」
「「「「え――!!!!」」」」
皆は驚愕するのだった。
まあうん。 この反応は正しいと思うぞ。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
部活が終わった帰り、俺と窓果は商店街に向かっていた。
自身のグラシュを買うため、スカイスポーツ白瀬に寄ることになっているのだ。
店内に入ると、たくさんのスポーツシューズが陳列されていた。
それはFC、――フライングサーカスのシューズだ。
「ほへ~、FC関係がたくさんあるんだね」
「ここはFC専門店みたいなもんだからな。 てか、グラシュ選びの時に来なかったのか?」
「うん、その時はマネージャーの仕事が忙しくてね」
「ああ、なるほど」
「いらっしゃい。 おお、翔か。 久しぶりだな、元気だったか?」
今、俺に声をかけてきた人物は、この店の店長、白瀬隼人さんだ。
元FC選手でもあり、各務先生とも面識があるらしい。
「いつも通り、元気っスよ」
「そうか、よかった。 翔、空には……」
隼人さんの言葉は、徐々に小さくなって言った。
おそらく、俺に気を遣ってのことだろう。
俺は、重い空気を払拭する声で言う。
「最近になって飛びましたよ。 まあ、俺だけの力じゃありませんが」
「……よかった、ホントよかったよ」
「だけど、選手に復帰することは暫くしたくないですね」
「まあ、それは翔のペースでいいんじゃないか」
「ですね」
隼人さんは、俺のことをとても心配してくれていたらしい。
何だか、とても申し訳ない気持ちになる。
隼人さんは、グラシュを眺めてる窓果を見た。
「グラシュを見てる子が手助けを?」
「そうですね」
隼人さんは小指を立てた。
「翔の彼女さん?」
「ぶふッ!――げほげほ……」
何言うとるんや。 この人は!
「ち、違いますよ。 FC部のマネージャーです」
「ちぇー、残念」
「久しぶりだからって、弄るのはやめてください」
グラシュを眺めていた窓果が、会話に混ざってくる。
「なんの話してるの?」
「……えーと、あれだ。 どんなグラシュがいいか聞いてたんだ。 はは……」
当然、真っ赤な嘘である。
口籠って答えたので、バレる確率は大だ。
窓果に、じー、と見られ、俺の背には冷汗が流れる。 隼人さんは傍観者としてニヤニヤ笑うだけだ。……覚えてろ、このやろう。
「ま、そうゆうことにしといてあげるよ」
「お、おう。 そうしてくれると助かる」
「そういえば、翔がコーチをするんだって」
隼人さんが、顎に手を当てながら聞いてくる。
「ええ、まあ。 色々と成り行きで」
隼人さんは、目をキラーンとさせた。
……嫌な予感がする。
「……もしかして、女子だけのハーレムチームだったり。 いいね~、男の夢だよ」
「い、いやいやいや、部長は男性ですし、晶也もいますから。――はあ~、まあいいです」
俺は溜息を吐くだけだ。
「ところで、何のグラシュをお探しかい?」
「オールラウンダー向けの飛燕がいいですね。 うちの部員の一人も、これにしてましたけど」
飛燕の型は、俺が昔から履き続けているグラシュでもあるのだ。
俺の持論では、同じ型のグラシュを履き続け、そのグラシュの感覚?を掴んでスピードに乗れば速くなれる。 あくまでも、俺の持論だ。
「翔は渋いチョイスをするね。 まあ、オレも好きなモデルだけどね。 四型だけどいいかな?」
「OKです。 色は青で」
「了解~」
♦♦♦♦♦♦♦♦♦
それから数分後。
手持ち袋を持って、隼人さんが店の奥から現れた。
「飛燕四型だよ。 色は希望通り青だから」
「サンキューです」
会計をし、袋を預かる。
「まいどあり、いつでもこいよー」
「了解です」
「またきますね~」
そう言って、俺と窓果はスカイスポーツ白瀬のドアを潜り外へ出る。
外に出た俺は、大きく伸びをする。
「ん~、疲れた」
「私は疲れてないけどな~。 で、どうする? 何処かで飛んでみる?」
ふむ。 スカイスポーツ白瀬でも試しに飛んでみたが(窓果だけの前で)、室内では空の感覚がつかめないからな。
「どうすっか? まあ、人目につかなければ飛んでもいいかも」
「みんな帰宅したと思うし、部室に行こうよ」
俺はその提案に乗ることにした。
あの場所なら人目につかず飛ぶことが出来そうだ。
てか俺、今後は飛ばないかもと言いながら、それを悉く破ってるような……。
まあでも、日が浅い人の前では飛ぶことはないだろう。
「歩いて行こうぜ。 むやみに飛びたくないからな」
「そういうと思ったよ」
俺の言葉を聞き、窓果は苦笑するだけだ。
てか、俺の思考ほぼ読まれてるのは気のせいか。
何それ怖い……。
それからは、談笑しながら部室へ向かった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
部室で競技用のグラシュに履き換えた俺は、部屋を出、飛ぶ準備をする。
飛翔の準備を終えた俺は、深呼吸をしてから翼を展開させる。
「んじゃ、飛んでみるわ」
「OK。 私は見てるね~」
俺は、空へ羽ばたく言葉を紡ぐ。
「――Fly!」
飛ぶのに応じて、グラシュの踵部分から、綺麗な青い光が放出される。
これは、競技用のグラシュから出る、コントレイルだ。 簡単に言えば飛行機雲だ。
反重力子と極一部を特殊な間合いで空気に触れ合わせると、光がプリズムに似た状態になるのだ。
つまり、光が屈折したり、分散したり、反射したりするのを利用して作り出したものだ。
『いつ見ても、競技用のグラシュから出る光は綺麗だね』
「まあ確かに。 カッコいいしな」
インカム越しから、窓果の声が耳に届く。
てか俺、選手に戻った時、セコンドはどうするのだろうか?
まあ、その時に考えればいいか。
「さてと」
スタートしてから今出せるスピードで加速し、セカンドブイにタッチしてから急停止。 体を捻ってから丸め、足の一点に吸収させた全ての力を一気に蹴る。 トップスピードを乗せたエアキックターンだ。
爆発的に加速し、サードブイにタッチをする。
『はやッ! 翔君、今のメチャクチャ速いね』
「自慢じゃないが、現役の時はもっと早かった。……うん、練習あるのみだな」
その後は様々な技を試した。
出来は、全ての技に於いて、まあまあだった。
数分飛んでから、窓果の前に着地する。
「翔君は、ホント綺麗な姿勢で飛ぶんだね。 妖精姫の所以がわかったかも」
「うっ、妖精姫はやめてくれ」
俺と窓果は、笑い合いながら帰りの準備をする。
うん、今日は有意義な一日だった。 一昨日発覚したことなんだが、俺と窓果の家は、二軒挟んだ場所にあるらしい。 なぜ今まで気づかなかったか不思議なくらいだ。
「さて、帰るか」
「そうしよっか」
俺と窓果は帰路についた。
合宿までの残り時間は、残り三日だ――。
次回は合宿?ですね。
上手く書けるかな。
てか、翔君、コブラ出来そうですね(笑)
ではでは、感想、評価、よろしくです!!