「な、なのは!?」
【高町さん!】
見たことない白い服を着て、傍らにステッキのような物が転がっていた。
――コイツ、魔導師だったのか………だから仕事がどうのこうの言ってた訳ね…
オレはなのはを抱き上げて揺すった。するとなのははうっすらと目を開けてオレの方を見る。
「……悠牙…君…?」
「ああそうだ!悠牙だ!大丈夫か?」
「う…ん…大…丈夫…」
なのははニコッと笑ってはいるが、口調は途切れ途切れで痛みのあまり体が動かせていない。
【軽い全身打撲ですね。命に別状は無いと思われます】
「そうか…分かった…」
オレは暴走体達を睨み据えると瞬歩で懐に飛び込み、霊圧を溜め込む。
「――月牙…」
オレはなのはを傷つけられた事に腹がたち、さっきよりも威力を大きくするため、霊圧を上げて技を放つ。
「天衝ォ!!!」
青白い光がデカい2体の暴走体を包み込む。
小さくすばしっこそうな奴が避けていたが、逃がしはしない!
瞬歩で先回りし、月牙を放つ。
「はぁぁっ!!」
綺麗に半分に断ち切った暴走体は小さな結晶を残し消えた。オレはその結晶を掴み取り握り潰す。
パキン!という音とともにそれは砕け散った。
「よし!終わり!」
そう言って斬月を背負ってなのはのもとへ向かう。
「大丈夫かなのは?」
「うん…さっきより大分楽になったよ」
「そうか…良かった…」
ついついホッとしてしまいなのはの頭を撫でてしまった。
「あぅ……/////」
「あっ!ゴメン…」
慌てて手を引っ込めて謝る。なのはは顔を真っ赤になって下を向いている。
「と、とりあえず帰るか!!」
「う、うん!そうだね!」
帰ろうとした直後、背後から急に巨大な魔力を感知した。それだけでなく押し潰す様な威圧感も同時に襲い掛かる。
「!? 誰だ!!」
後ろを振り向くとそこにはピンクの髪をした女性が立っていた。バリアジャケットを展開し、武器を持って空を飛んでいる事から容易に魔導師だと分かる。
全くと言っていいほど身動き一つしないため、今の内に斬月の柄に手を掛ける。
掴んだと同時に女性が剣を構えて突撃して来た。オレはとっさに斬月引き抜きそれを受け止める。
「てめぇ…
「貴様こそ何者だ…」
女性は静かに言った。その言葉と眼と剣からは何故か、悲しみとか寂しさとかいうマイナスの感情しか読み取れない。
そんな考えに現を抜かしていると女性の力が一瞬にして強くなり、オレは弾き飛ばされた。
「ぐっ!!」
【大丈夫ですか悠牙!】
「あァ…だけどなんかおかしい…」
【何がです?】
聞き返してくるルナに理由を説明する。
「戦い慣れしてるのはなんとなく分かる、けどアイツの剣からは悲しい感情の類しか流れ込んでこない」
【悲しみ…ですか…】
「そうだ。なんとなく、だけどな」
オレは斬月を構え直し立ち上がる。
――ちょっとリミッター外してみるか?
「ルナ、リミッター少し外してくれ」
【分かりましたが、少々時間がかかります。よろしいですか?】
「あァ、構わない」
【了解。リミッター解除作業開始】
オレは相手の出方を見るために攻撃を仕掛けてみる。
瞬歩で移動して相手の近くまで行き、刀を振り抜く。しかし簡単に当たるはずもなく、避けられた。
「チィッ!速すぎて追いつかないっての!!」
小さな月牙を放つとスピードは間に合うか威力が足りなく打ち消されてしまう。
だがオレは逃げる相手に必死に食らいつきなんとか追いつくぐらいにスピードを慣らしてきた。それに加えただ体を慣らしていた訳ではない。
――一か八かで勝負!!
オレは斬月で足元を攻撃、そして上に飛んだ相手に向かって小さな月牙を撃つ。すると月牙を防ぐために一瞬だけ動きが鈍った。
――予想通り!!
オレは瞬歩で相手の背後に回り込んだ。
「ここだぁ!!――月牙天衝!!!」
思いっきり斬月を振り下ろし相手にぶつけた。とは言っても相手は女性。勿論加減して撃っている。
轟音をたてながら青白い光を放つオレの霊圧。それの方が濃度が濃すぎて相手の魔力を感知出来ない。
「どうだ?」
【分かりません…ですがまだ生きていると思います】
「どうしてそこまで言い切れる?」
【だって悠牙が人を殺すはずがないですから♪】
オレは呆気に取られて何も言えなかった。
ここまで信頼してくれているとは思っていなかった。
――流石、頼れる相棒だな…
しばらくすると、煙に紛れてさっきの女性が出て来た。
「ハァ…ハァ…ハァ……」
女性は肩で息をしていてこちらを睨んでいる。
目立った外傷見当たらないが、バリアジャケットの鎧はすでに所々欠けていて布の所も破れている箇所がある。
「お前の予想通りだな」
【でしょ?】
少し余裕をかましていると相手が更に睨んできた。
そして見て分かる程にイラつきながら叫んできた。
「何なんだ!貴様の魔法は!!」
「ん?今のは斬撃に霊圧を乗せただけだぜ?」
「斬撃…だと?……ふざけるな!!あれのどこが斬撃なのだ!!」
相手はまたオレ向かって突っ込んで来た。スレスレの所を避けたが、さっきとは違い攻撃が単調になってきた。
「さて、そろそろ
【アレがギリギリ出来る程度になら、解除は間に合っています】
「りょーかい。んじゃいきますか!!」
オレは体中から霊圧が溢れ出てくるのを感じながら斬月を持っている右腕を前に出し、左手をそこに添えて叫ぶ。
「卍…解!!」
【Sound System Complete Break mode】
赤黒い霊圧がオレを包み込み、徐々にバリアジャケットが黒い着物から赤黒いロングコート状の着物を羽織った姿に変わる。斬月も出刃包丁から漆黒の日本刀に変わる。
「……天鎖斬月」
オレが卍解をした時…いや霊圧を解放した時から彼女の顔色は既に真っ白だったと思われる。肩は震え、剣を握る手はほんの少しだけ緩んでいた。
彼女だけでなく、なのはも少しおののいていたのは確かだ。こんなデカくて禍々しい霊圧を初めて感じて引かない方が逆におかしい。
「まだやるか?……オレ的にはもうやりたくないんだけど」
彼女は再び剣を握り直し、立ち上がってオレに向かって構えた。
「私は……こんな所で立ち止まる訳にはいかないのだ!!」
すると彼女のデバイスと思われる武器から『カシャン!!』という音が聞こえ、そばに弾丸の薬莢のような物が落ちた。
――カシャン?薬莢?
その音が鳴った途端、彼女の剣に炎が集まり始めた。それも強大な霊圧……じゃなくって、魔力が練られている。
「まさか、あの時……」
【はい、そのまさかです。彼女のデバイスの中には自身の魔力を籠めた弾丸のような物がいくつか入っています。おそらくそれですね】
「おそらくってか絶対そうだろ?」
【はい】
はぁーと溜め息を付く。しかしアレはどうにかして止めなきゃな。
「よし、やるか」
オレは赤黒い霊圧を天鎖斬月に溜めて構える。
「「はぁぁぁぁ!!!」」
相手が強大な魔力を籠めた炎を放ってくる。それを打ち消すためにオレも技を放つ。
「――紫電一閃!!!」
「――月牙天衝ォ!!!」
赤黒い斬撃と、紫色が混じった炎がぶつかり合う。
激しいぶつかり合いの末、どちらの技も互いの技によって相殺された。
――まだだぜ…
オレは瞬歩で彼女の後ろをとり、首筋に斬月の刃を傷つけない程度につける。
「!? ……フッ…完敗だな」
「そうでもねーよ。本気じゃないとは言え、オレの月牙を相殺するなんてアンタもなかなかやるじゃん?」
「なに!!?本気では無いのか!?」
「もち!!」
刀を握っている反対の手でビシッ!と親指を立てて言う。
相手は呆れかえって何も言えなかった。
オレは真顔に戻り真面目な口調で話し出す。
「それより、なんでアンタはここに来たんだ?」
「…………」
何も答えない。だがこちらも理由が分からないんじゃなんとも言えない。
「なんか答えろよ」
「断る」
なんとも素っ気ない返事でだんまりになる。オレは少し脅してみる事にした。
「アンタの首をここで切り落としてもいいんだぜ?素直に吐けば命は見逃してやる」
そう言うと彼女は振り向きオレの眼を真っ直ぐ見て言った。
「ならば殺せ。私にはそれくらいの覚悟はできている。主の……あの人のためなら……」
オレはハッとした。コイツの眼から一筋の涙が流れたのを見たからだ。
その眼は何人たりとも揺るがない強い意志を感じられた。
オレは斬月の切っ先を下ろし、数歩下がった。
「!? 何故殺さない!」
「殺す理由が無いからだ。オレは元々なんの理由も無しに人を殺したくはない。ただそれだけだ。それにアンタは優しいしな」
奴は驚いて目を大きく見開く。そして歯軋りをしてオレを睨んで叫ぶ。
「貴様…私を嘗めているのか……たったそれだけの理由で殺さなかったのか!!」
「ああそうだよ。アンタは人を大事にする奴だ。真っ直ぐで良い眼を見れば分かる」
オレ達の間を風が通り過ぎる。アイツのピンクの髪が揺れ、斬月の鎖が音をたてて揺れる。
しばらく間を置いて続けた。
「そういう奴、オレは好きだぜ」
そう言うと奴は耳まで真っ赤にして言った。
「なななななななにを言っている!!よくもそんな事を恥ずかしげも無く……ゴニョゴニョ…」
なんでそんなに驚いてるんだ?ただホントの事言っただけなんだが。
ま、とにかくコイツは帰すか。何も用事は無いしな。
オレは卍解を解いて始解に戻る。
「早く帰るべき所に帰りな」
「な!何を言っているのだ!!情けはいらん「わけねぇだろ!」……!?」
オレは思わず奴の襟首を掴んで引き寄せた。
「いいからさっさと帰れ。待ってる人のために!……またいつか戦ってやるから」
そう言うと奴は驚いた様な顔をして「すまない」と言い残すとさっさと帰った。
オレはそれを見送るとなのはの所に戻った。
「大丈夫かなのは?」
「つーん」
何かそっぽ向いて不服そうな態度をとるなのは。理由は大体検討はつく。
「……なぁ、魔導師だって事を黙ってて悪かったよ。……けど不安にさせたくなかったんだ」
「つーん」
コイツ……さっきから『つーん』の一点張りだな……
どうしたら許して貰えるんだ……?
そんな事で頭を抱えていると、なのはが悲しそうな顔でこっちを向いて言った。
「……全部…話してくれる……?」
「え?……あ、あぁ!それは勿論!!」
そう言うとなのはは頷いた。
「分かった。だから今から私の部屋で洗いざらい全部話してもらうの!!」
「え?………えぇぇ!!!い、今から!?」
オレは慌てて時計を見る。時間は10時を回っていた。なのはがこんな遅くまで外にいる事を士郎さんは知っているのか?
「大丈夫!フェイトちゃんの看病を付きっきりでするって言ってきたから!!」
おう!!?な、なんでオレの考えてる事分かるんだ!!?読心術でも習得してんのか!?
「とにかく、私が納得するまで帰さないからね!!」
「はぁー…分かったよ」
ここまで言われたら仕方ない。腹括って話すとするか。
オレはなのはと共に家に帰った。
だがオレは知らなかった。少し離れた場所で黒い着物を着て、白い羽織を羽織って腰に刀を差している女がいた事を………
「黒木悠牙…か……噂通りね『アンリ』……」
【そうだな『由樹』。彼らとなら大丈夫だろう……】