蜜柑の棘   作:とものり

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高校時代、「氷菓」に感化されて書いてあったものを今更ながら……
少々手直しをしましたがほぼ当時のものです。

……当時の友達にはクスリとするようなところがあるかもしれません(笑)



プロローグ〜事の発端〜

暇を持て余し、手帳にふと目をやる。五月ももう下旬となった。高校生になって早一ヶ月。現在五時間目。数学の授業中。

 

「だから、この式に代入して……」

 

やはり、五時間目は眠い。加えて初夏の空気が拍車をかける。個人的には山崎のことは良い先生だとは思うが、それと授業の面白さは必ずしも比例しない。ふと後ろを振り返ると田島は頭を垂れて爆睡していた。

 

みな学校生活にも慣れてきて授業中の時間の過ごし方なぞ完璧に熟知している。俺のポリシーとして授業中に居眠りはしないし、その他内職とよばれる行為もしない。黒板を漫然と眺めたり、廊下の消火器を眺めたりしながら時間を潰していく。隣の教室からは甲高い声が聞こえてくる。化学の下田だ。

 

(相変わらずうるさいやつだ)

 

そんな事を思ったりしているとチャイムが鳴り、宿題を告げ山崎は教室を去った。

 

「清人。最後の問題わかったか」

 

数学一式をしまい、体操服に着替えようとしたら健太郎に話しかけられた。

 

「いや、聞いてなかったよ」

 

本当は確率のところで面白そうだったから聞いていたが、面倒だった。

 

「おいおい、お前が確率の話を聞いてないなんてありえんだろ」

 

……まあ、ちゃんとばれているのだが。しかしここで妥協するわけにはいかない。何せ面倒なのだ。

さて、どう出ようか……

 

「おーい、早く行こーぜー」

 

早くも体操服に着替えやる気満々の田島がやってきた。これは良いボール。

 

「お前、元気そうだな」

 

と健太郎。

 

「さっき充電したもんな」

 

と俺。

 

田島は頭をかきながら、おうばっちりだぜ。

続けて、

 

「早く来いよ」

 

と言って教室を飛び出した。

 

だから数学の話が飛んだのは当然のことなのだ。助かった。

 

 

 

 

左バッターボックスで構える俺。体育の選択科目はソフトボールだ。今日は2番ファースト。

 

健太郎の外角の球に手を出す。三遊間を抜けて行った、レフト前ヒット。これで2アウト1塁。

 

バッターは3番ライトの田島。充電済みのはずだが今日は2三振。積極的に手を出すがボール球を振らされている。2ストライクと追い込まれた。

 

キャッチャーと何かを話し3球目。ど真ん中に絶好球。健太郎の失投だ。

 

(もらった、ストライクゾーンならこっちのものだ)

 

しかし、その絶好球はキャッチャーのグローブにそのままおさまった。田島はバットを振らず棒立ちをしていた。

これで試合は終了。結局一点差で負けた。だが、俺の田島に対する感情は怒りではなかった。

 

(何故田島はバットを振らなかったんだ……)

 

 

 

 

体育が終わって教室に戻るとき、体操服の誰かが保健室に運ばれていった。どうやら高1生のようだ。大丈夫だろうか。

 

着替えが終わり、終礼が終わった。

 

帰り支度をしていると、健太郎が寄ってくる。

 

「清人。ゲーセンいこうぜ、おれのチーム・ヤクルトと勝負しろ」

 

今日はラグビー部は休みらしい。いつもの対戦型野球ゲームでの勝負を挑んでくる。いつもなら断る理由もない。

 

だが、今日は……

 

「すまん、ちょっと気になることがあるんだ」

 

と逃げる態勢に。

 

「何だ、なんか面白い事あったのか。教えろよ」

 

うわ、噛んできたか。選ぶ言葉を間違えた。こうなるとこいつはしつこい。慎重に次の言葉を考える。

 

……うむ、三十六計逃げるにしかず――

 

「部活に行くんだ、悪いな」

 

じゃっ、そういって2号棟に行く。田島はとっくにいなくなっていた。

 

小嶋高校には2つの棟があり、1号棟はクラス教室、2号棟は特別教室と文化部の部室がある。

 

歴研の部室はその2号棟の3階の一番奥にある。俺は気取って《孤高の個室》だなんて呼んでいるが要は辺境地。部員は2人しかいない。俺と、嵯峨山。

 

さすれば部室は考え事をするのには申し分のない場所だ。

 

 

 

 

部室の前につき、扉をあける。どうやら彼もいる。好都合だ。

 

「ども」

 

ああ、と気だるそうな返事が聞こえる。そして間髪をいれず

 

「どうしたんだ不知火。何のための左投げだ」

 

(あ、見てたんだ)

 

確かに3回の守備はまずかった。タイムリエラーだ。

 

「そんなことより、なんか気になってるんだろ」

 

「流石です。そのことなんですが……」

 

まずは状況をまとめよう。シャーペンをノックする。

 

・田島は見逃し三振をした。(彼がかつて見逃し三振をしたのを見たことがない)

 

・直前にキャッチャーの北山に話しかけられていた。

 

・いつもなら試合の後は用具の片付けも率先するのに、さっさと行ってしまった。

 

と書いてからノートを彼にわたす。ふーむ。といって、

 

「あとは、女子が外で体育してたぞ」

 

そうだったかな。ああ、そうだった。

 

「おい、なんて顔してんだ。全く」

 

「そ、それはともかく、です」相変わらずの鋭さだ。気を抜く暇もない。

 

ほかに、何かあったっけか。思案顔の俺に、したり顔で尋ねてきた。

 

「不知火、そういえば藤咲は大丈夫だったのか」

 

藤咲。藤咲秋桜。読み方は、《ふじさき・あきら》クラスの女子だ。

 

昨今流行りのキラキラネームの犠牲者だ。まあ、《コスモス》と読むよりは幾分かましなのだろうが。でも何故……

 

「おれはあの時間ここにいたんだ」

 

この部室の窓からはグラウンドが一望できる。俺らがソフトボールをしていたところ。そのライト線の後方には授業用の小さなサッカーコートがある。

 

女子はそのサッカーコートでサッカーをしていた。

 

そして、保健室――

 

なるほど、と思わずもれた。……上からなら瞬殺だ。

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

「おや、俺は藤咲のことを聞いたんだが」

 

はいはい、自分で確認してくださいよ。そう言って部室を去る。

 

これは明日には解決だ。

 

 

 

 

「おや、今帰りかい」

 

靴箱で後ろから声がかかる。

 

「あれ、嵯峨山。帰ったんじゃないの」

 

ああ、そう呟いた後、

 

「ちょっとね、ついでだから一緒に帰ろうぜ」

 

初夏特有の生温かい空気が俺らを包む。

 

俺らは幼馴染だ。中学は親の関係で違ったが高校はまた一緒になった。というかした。

 

親は3年前海外に仕事に行った。そのため中学は祖父母のところから通っていたのだ。でも高校は無理を言ってまた地元に帰らせてもらった。

 

そういうわけで二人とも小嶋高校からはさして遠くないので徒歩で通学している。

 

なんかいいことあっただろ。嵯峨山が尋ねる。

 

そうかい。と俺。

 

「ふふ。お前、小学校の時と全然変わってないな」

 

ふと、呟いた。続けて、

 

「でも、変わったな」

 

「ふっ、支離滅裂だな」

 

まあ、わかるけどね。言いたいことは。

 

その後もしょうもない話をしながら家路を歩く。

 

今日は《明智光秀に天下は取れたか》という仮定のもとで話を進めていた。いかにして細川・筒井を味方につけるか。論点はそこになった。

 

「じゃ」嵯峨山はそういうとマンションの方に曲がっていった。もう少しで意見をまとめられそうだったのだが。まあ、いつでもこの手の話はできる。

 

さあ、今日の晩飯はどうしよう。カレーを今朝食べきっちゃったからな。

 

俺は一人暮らしなのだ。

 

 

 

翌日、意気揚々と尋ねた。

 

「藤咲は大丈夫そうで良かったね」

 

眼が見開いております、何のことだって顔をしている。ここで更に畳み掛ける。

 

「体育の時向こうを向いていたのは北山とお前だけだからな。後ろで何があったかは分からない、おそらく顔にボールでも当たったんだろう」

 

教室の隅にいる藤咲の顔は少し腫れている。そして、息をひそめて

 

「藤咲が好きなんだな。見逃し三振するほど」

 

田島は真っ直ぐとこちらを見つめる。

 

……あれ、もしかして見当違いなのか?

 

しかしその心配は良い意味で裏切られる。

 

「驚いた」

 

呆れたような楽しそうな、そんな顔をしていた。

しかしその顔も一瞬でいつもの顔に戻る。

 

「言うなよ」

 

「大丈夫さ、俺はこのことを貸しにしたりするつもりはないからさ」

 

(決まったぜ)

 

田島の肩をたたきながら最近ハマっていた本の主人公の決め台詞を言い放ち、颯爽と教室を立ち去ろうとした時……

 

ぶつかった。蜜柑の匂いがした。

 

「あ、ごめんね」相手が言う。

 

「ああ、すま…」

 

でも顔を見て、

 

「いや、こちらこそ申し訳ないです」

 

……ああ。恥ずかしい。

 

別にこっちはなんも悪いことしてないのに。いや、したといえばしたけどさ。ぶつかったし。

 

さっさと退散しようとしたが、

 

「おーい、不知火。借りは早く返せそうだな」と叫んでくる。

 

田島のくせに。ニヤニヤしやがって、生意気だ。

 

目の前で、何事かと目を白黒させてる相手に、

 

「ほんと、いろいろすみません」

 

といって足早にその場を去る。

 

まだ、俺は彼については知らなすぎたのだ。

 

彼の知らざれる能力。でも片鱗には気がついた。

 

 

―続く―




話自体はお粗末ですが、なんとも言えないテンポの良さが今の自分にはないなと思ってみたり。
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