蜜柑の棘   作:とものり

2 / 3
プロローグはいわば氷菓で言うところの最初の鍵のくだり。
ここからが本編なんですが……

まあ、お時間があればどうぞ。


執着の終着〜前編〜

今日もつつがなく授業が終わった。田島が今日は部活に行くのかと聞いてきた。行くといったら嬉しそうな顔をして立ちさった。

 

因みに昨日も聞かれたが、昨日は用事があって放課後はすぐ帰ったのだ。

 

なんかいやな予感しかしないのだが、とりあえず部室に向かう。

 

途中、委員会かなんかだろうか。トランシーバー片手のやつとすれちがった。一応話しかける。

 

「委員会かい?せいが出るね」

 

でも。

 

「おお、不知火か。まあ、ね。んじゃ」

 

そう言って足早にさっていったが。俺、嫌われてるのか?

 

 

 

 

歴研。歴史研究部。2号棟の一番奥、《孤高の個室》と呼ばれている。部員は2名。俺と嵯峨山。そして顧問は、

 

「あ、山崎先生。先日はどうもありがとうございました」

 

「それはかまわないが、俺は《やまさき》だ」

 

「大丈夫です、漢字で書けば分かりませんから」

 

なんだそれは、山崎がつぶやく。

 

ところで、だ。

 

「やっぱりいたか、田島」

 

なぜか、部員でもない田島がそこにいる。図々しくも紅茶を飲んでいる。俺の持ち込んだ安い割にうまいアールグレイ。

 

「やっぱり、ってくるのがわかってたのかい」

 

「ま、予感だけだけどな。で、帰ってくれるか。お前は部員ではない」

 

そうか、そう言って紅茶を飲み干し部室を立ち去ろうとした。

 

なのに、

 

「いいじゃないか、田島。入ってくれよ。歴研」

 

そういわれるや否や田島は踵を返した。

 

「ちょ、先生。勘弁してください。」

 

そして何事もなかったかのように椅子に座った。

 

しかし、だ。呼びとめたのはわかる。

 

ほかの高校は知らないが小嶋高校の部活動は三役、――部長、副部長、会計――それがそろっている、つまり3人以上の部員がいなければ部費がでないのだ。

 

背に腹は代えられまい。

 

「わかった。籍を置いてくれれば認める。ただ一つ条件がある」

 

何だ、投げ捨てるように言う。

 

「部誌をかいてもらう」

 

部誌は歴研の伝統なのだ。

 

歴研の普段の活動は《歴史を研究すること》つまり、ない……いや、あくまで自主的なものだ。その雰囲気を俺は気に入っている。本を読みふけったり、宿題をしたり。流れで入った嵯峨山も一応いるがあいつはあんまり来ない。来ても別に邪魔はしない。

 

だが、こいつはどうか。これで面倒くさがってやめてくれてもいい。どちらにしろ俺にとって得策に違いない。

 

そんな俺の思惑なぞつゆ知らず。

 

「いーよ。じゃ入るわ。よろしく」

 

と、のうのうといった。

 

騒がしくなりそうなのだけは間違いない。正直嫌だったが、我慢しよう。何せ部費が出るのだ。

 

さて、静かに本を読むとしよう。

 

だがその静寂もすぐに破られる。

 

「そういえば、不知火。ちょっと気になることがあるんだけど」

 

「そうか。それは、大変だな」

 

俺はそっけなく返す。

 

うむ。そう言って山崎が立ち上がった。

 

「帰るんですか」

 

ああ、じゃ。そう言って部室を出て行った。出て行く時田島に何か話しかけたが、大方「入部ありがとう」的なことだろう。気にしない。

 

「で、気になることが」

 

田島はまた聞いてくる。

 

「だから…」

 

「長内さんのことなんだけど……」

 

部室に静寂が訪れる。さきに口を開いたのは田島だった。

 

「聞くか」

 

ああ、聞かせてくれ。あごで先を促す。

 

「ああ、最初に一つ約束。長内さんは虹原君と付き合ってるから」

 

「え、マジか」

 

冗談だろ。仲は良さそうだとは思っていたが、まさか。

 

「え、知らないのか。周知の事実だぜ」

 

ショックで、声も出ない。きっと口が半開きだったろう。

 

「はは、ほんとに好きなんだね。残念だけどあの二人はかなり相性ばっちりだよ」

 

そうでっか。うれしそうだな。おい。

 

「それだから、虹原君には内密に」

 

「なんでだ、むしろ逆だろ」

 

相談事とかなら彼氏に聞いてもらえ。

 

全く、これだから不知火は…。あきれ顔で続ける。

 

「付き合った経緯に問題があるんだ。長内さんは、新学期早々何人かに人に告白されたんだけどみんな断ってたらしい。ところがだ」

 

もったいぶって話すやつだ。全く。とはいえ妙に聞き入いっている俺。

 

「ところが、なんだ」

 

「虹原君が告白したときは《保留》って言われたらしい」

 

「微妙な返事だな。それは」

 

無視して、田島は続ける。

 

「しかも同じ日に同じバスケ部の谷君にも告白されたらしくって」

 

おいおい、タイミング悪い奴らだ。他人事だからどうでもいいけど。当事者だったら最悪だよこのシチュエーション。

 

「で、長内さんは谷君と付き合い始めたんだ」

 

「まじか」

 

つーか、谷って誰だ。知らんがむかつく野郎だ。一度その顔を拝んでみたいもんだ。

 

「それに怒った虹原君が谷君と、いろいろあって」

 

「まあ、怒るわな。流石に」

 

「結局長内さんは虹原君と付き合うことになったんだ。そういうわけで、長内さんとちょっとでも仲良くしてると虹原君にすぐ嫌われるんだ」

 

長内さん。犯人が誰であれ気を使っているとは流石だ。だが、一つ腑に落ちんことが。

 

「で、わざわざ彼氏に隠してるってことは、なんか面倒なことになってないか」

 

「ご明答」

 

と大げさに言った。俺は帰る支度をする。付き合いきれん。

 

まあまあ、話だけでも。結構な話だからさ、となだめてくる。

 

「ふん、続けろ」

 

再び椅子に座る。なんだかんだで気にはなるのだ。

 

「それで、その長内さんが、物を漁られているようなんだ」

 

……ほう。それは聞き捨てならんな。

 

「まあ、あの通りの美人さ。狙ってる人も多いしね、おっと、失礼」

 

そう言って肘で小突いてくる。ほんと失礼だ。まったく。

 

「俺は別に狙ってはいない。それで」

 

田島の頭をはたいて先を促す。

 

「落ち着いてよ。それで、ここ3日くらいずっとなんだ。なんでも、ペンが盗まれたり、ノートがなくなってたり」

 

「他には」

 

「さあ。本人に聞いてみないと何とも」

 

そうか。ふむ。

 

目的はなんだ。順当に考えれば、ペンは自分のがなくなったから。ノートは宿題終わってなかった、とか板書取り忘れた、とか。ただ、ノートに関しては許可を取ればいい。確かに嵯峨山のようにノートを貸さない奴もいるが、少数派だろう。長内さんがどういうタイプかはよくわからんから何とも言えんが。それに彼女が貸してくれなくともほかのやつに借りればいい……。まぁいやがらせって言うのもあるが。

 

てか……

 

「どこで聞いたんだ。まさか盗み聞きか」

 

「まさか。分実さ。同じ班でね。班の女子に言ってたんだよ」

 

分実、とは《文化祭実行委員会》の略である。

 

「じゃあ盗み聞きだな」

 

「違うよ、途中から話に参加してるし。最近では、メールでも相談を受けるよ」

 

こいつ。ケンカ売ってんのか。長内さんとメールしてるのか。メアド教えろなぞいえるわけないので、

 

「それは大変だな」

 

精いっぱいの強がりをしてみる。だがばればれなのだろう。そんなことにはお構いなく、薄笑いを浮かべながら話を続ける。

 

「それで、その手のことなら不知火が得意だ。って言っといたんだ」

 

思わず咳きこんだ。

 

「勝手に俺を売るな。第一、俺は引き受けるとは……」

 

部室の扉が開く。嵯峨山だろう。珍しい。

 

「おい、なんか知らんが田島が入部したぞ」

 

そう言って扉の方を見る。

 

扉の前に立っていたのは嵯峨山ではなかった。

 

すらりとした、セーラー服の似合う女の子。女子にしては高めの身長。

 

黒くてまっすぐの髪がなお清楚さを引き立てる。

 

「田島君。お待たせ」

 

「うん。さ、座って。こいつが不知火。知ってるかな。こいつもA組なんだけど。何せ影が薄い」

 

ひどい説明だな、と心の中でツッコむ。

 

「うん。知ってるよ。先生、いないんだね。」

 

そしてこちらに向きかえって、

 

「こんにちは。長内です」

 

その微笑みにおれは言葉が出ない。頭を少し下げるので精いっぱいだ。かわりに田島が答える。

 

「こいつは、緊張するとしゃべれないんだ。慣れればうるさいくらいしゃべるから安心して」

 

「おい、余分なことまで言わんでいい」

 

今度は言葉に出してツッコみ、俺は目で威嚇する。

 

ははは。しゃべる相手が違うよ。そう言って本を読みだした。あとは自分でやれ。と。

 

 

 

 

さて、

 

「で、大体のことはこいつから聞きましたが、一応あなたの口からも聞いておきたいので話してもらえますか。」

 

よし、噛まずに言えた。でも顔は見れない。恥ずかしくて。

 

隣で田島が笑っているが、無視する。

 

「わかったよ。あと、敬語使わなくていいよ。わたしも使ってないし」

 

そう言われても……。緊張してるんだよ。察してくださいよ。全く。

 

だが、隣でしつこく田島が笑っているのを無言で殴るのは忘れない。

 

「まずは、三日前。蛍光ペンがなくなってた。そして……」

 

「それはいつです?」

 

思わず割って入る。そしてノートを準備する。

 

「えーと。いつかはわからないけど家に帰って宿題やるときに気付いたよ」

 

「その前で最後に使ったのは?」

 

なんだか刑事ドラマみたいだね。と笑う。ふと顔を上げる。可愛いその笑顔を惜しみなく僕に見せてくれる。嗚呼なんて幸せなんだ。ずっと見ていたい。なんて大層なこと言っているが、目が合ってしまうと恥ずかしくてすぐまた下を向いてしまう。情けないこった。

 

「5時間目の化学の時かな。6時間目は体育だったし。それと体育の前には、バックに筆箱をしまったと思うよ。わたし、休み時間とかは筆箱はカバンに入れてるから」

 

なるほど。5時間目の化学の後、終礼まではペンをとるぐらいの時間はあるな。

 

「続けてください」

 

今度は手際よく答えてくれる。

 

「そしておとといは数学のノート。山崎先生に出す提出ノート。朝学校に来た時に確認して、気づいたのは授業前。授業で出すやつだったでしょ」

 

たしか、5時間目だったはず。これも時間はある。それと、

 

「この日に、田島たち分実のメンバーに一連のことを相談したんですね」

 

無言で、頷く。

 

「他にこの件について誰かに話しました?」

 

「ノートのことは昨日、山崎先生に軽く。あとは誰にも」

 

ふむ。彼氏とかに言ったりしないんだな。ま、無駄な心配をかけたくないのだろう。

 

「それで、昨日は」

 

「昨日は知らない」

 

あっけからんという。思わず語気が荒くなる。

 

「知らないって、わからなかったってこと?」

 

自分のことだろ、と思ったがぐっとこらえる。だが、おかげで敬語は取れた。

 

「昨日は休んでたよ。知らなかったの?」

 

悲しそうな顔で見つめてくる。

 

「ああ。そうか」

 

たしかに。長内さんは昨日休んでた。ああ俺としたことが。ごめんなさいと心で謝る。

 

「それで、今日は」

 

「今日はまだ確認してないよ。してみるね」

 

そういって床のリュックを開ける長内さん。ピンクの女の子らしいリュックには、鹿の小さなぬいぐるみが付いている。

 

あれ、忘れてきちゃったのかな。そういうと、

 

「筆箱忘れてきちゃったみたい。ちょっととってくるね。他は異常なしだよ」

 

そう言って小さなカバンだけ持って部室を出て行った。

 

蜜柑のにおいがした。

 

 

 

 

「どう思う。不知火」

 

急に声を出したのは田島。

 

「何だ、お前まだいたのか」

 

「ひどい言いぐさじゃないか。むしろ感謝されてもいいはずなのに」

 

お前に感謝するようなことはされてないがな。

「これで、お前が無事事件を解決すれば長内さんの評価は大幅アップだよ」

 

くっ、こいつ。舌打ちをする。嵌められた。

 

だが、おもしろい。受けて立とうではないか。

 

「わかった、やってみる。ただ……」

 

「ただ?」

 

「お前に協力してもらうぞ」

 

当たり前だよ。任せといて。と文字通り胸を叩く。

 

で、今日はどうだと思う?と田島が尋ねる。

 

「おそらく、筆箱そのものだろうな。ま、思い付きだが」

 

「なんだよ、思い付きって……」

 

咎めるような眼で見てくる。

 

「まあ、理由はなくはない、何故なら……」

 

 

 

そうしてるうちに、「おまたせ」と長内さんが帰ってきた。

 

で、どうだった。田島が尋ねる。

 

「筆箱じゃないか?」

 

俺が続ける。

 

「そうだよ、なんでわかったの」

 

まるで救いの手を見つけたかのような目でこちらを見ている。

田島と俺が顔を見合わせる。それには答えず情報を聞き出す。

 

「まるごとか」

 

と俺。

 

「ちがうよ、中身はあったけど筆箱がなくなってたの」

 

そう言って長内さんは持って行ったカバンから文具を広げる。

 

「あの筆箱は、中学校の友達とお揃いで買ったものだったの」

 

長内さんは涙目になっている。まあ、無理もない。何日も物を盗まれたりしたら泣きたくもなるだろう。

 

部室は静寂に包まれる。何か言わねばと口を開けようとした。

 

だが、

 

「ごめん、今日はもう帰るね」

 

そう言うと、乱暴に文具をしまいバックをつかんで出て行った。

 

彼女の涙を見て、絶対犯人を暴いてやる、そう思った。

 

単純だね。と田島に言われそうなので口には出さないが。

 

 

 

 

妙に後味が悪い。別に、今日作ったカレーが不味かったわけではない。

 

俺のカレーはそこらのカレー屋よりはうまい自信がある。

 

23時20分。今日のやることは終わった。もう寝てもよかったが、寝るに寝れない。普段はあまり使わないパソコンを開き、メールを確認する。健太郎のメールが数件と親からのメール。どれも大したことはない。

 

パソコンを閉じようとしたら新着メールが入った。知らない人だ。件名には「件名なし」と書かれている。誰だ。もしかして長内さんだろうか。意気揚々とメールをあける。

 

件名:件名なし

 

本文:こんばんはー田島です。

 

長内さんから!とか思ったでしょ。残念(笑)

 

今日は疲れたねー。

 

メアドはマエケンから聞いたよ。もっともメールあんま見ないらしいけど。一応メールしときました。  

 

見たら返信しろよー。

 

じゃ。

 

って、田島かよ。上がったテンションが一気に下がる。しかも、ばれてるのがなお苛立たしい。そのテンションのまま返信した。みた。と一言。

 

(はあ、寝るか。)

 

逆に吹っ切れた俺は、今度こそパソコンを閉じた。

 

思いのほかよく眠れた。

 

 

 

 

「お前、ふざけてんのか?」

 

翌日、教室の扉を開けた俺に田島が飛んできた。

 

「よくわからんが、とりあえず座らせてくれ。あと、みんな見てるから静かに」

 

みんなが何事かと、遠巻きに見ている。ああ、悪い。そう言って俺の前の席に座る。

 

「で、何のことだ」

 

「昨日、長内さんにメールしなかったらしいな。二時くらいまで待ってたそうだぞ。朝、メールがあった」

 

「いや、そもそも俺は長内のメアドを知らん」

 

「次のメールで送ったじゃん」

 

あきれ顔で言う。

 

「あの後メールしたのか。だったら一回で済ませろよ」

 

「いや、最初のを長内さんだ!っておもったらおもしろいなーって」

 

まんまと騙されたこと。死んでもいうものか。

 

「返事を見て、案の定だまされたみたいでこっちは爆笑だったよ」

 

「俺は、いつもああいう返事をするんだ」

 

ばれかかってる。何とかごまかさないと……

 

「やっぱりね。君はいつも返事をしないそうじゃないか。返事をしたことが答えさ」

 

田島め……だが、もっともではある。いちいち癪に障るが。

 

「で、今日も来るのか」

 

長内さんが、だぞ。お前じゃないぞ。と心で付け加える。

 

「うん。行くよ。おれも。」

 

お前は来んでいい。

 

「そうか。じゃあ、嵯峨山には一応、来ないように言っとかねーとな」

 

「嵯峨山君かい。あの人も歴研なんだ」

 

それは驚いた、と言わんばかりに目を見開く。

 

うん。まあな。そう呟いたのと重なるように、余韻たっぷりのチャイムが鳴る。田島と話していたせいで小テストの勉強ができなかった。一時間目なのに。怨むぞ、田島。

 

 

 

 

現在の時刻、16時30分。終礼が終わって一時間たつ。

 

遅れた理由は小テスト。1点足りなくて落ちて追試を受けていたから。

 

ぎりぎりいけたと思っていたが、答案はアニミズムがアミニズムになっていた。仮にも歴研部員ともあろうものが日本史の小テストに落ちるとは、何とも不甲斐ない。ちなみに田島は隣の某君のおかげで受かってたけど。

 

そして現在位置。歴研部室前。中から聞こえる声は、

 

「それは、傑作だね。」

 

と何が傑作かはわからんが、田島。相変わらずのでかい声だ。そして、

 

「……」

 

聞こえない。おそらく長内さんだろう。彼女の声が外まで聞こえるはずはないから。

 

「またせてごめんね。」

 

と対長内さん仕様の挨拶とともに扉をあける。

 

だが、またも田島に担がれたのだ。

 

「ずいぶんな挨拶だね。小テストの追試終わったかい。おっと、長内さんはまだ来てないよ。今のはケータイさ」

 

そういってスマホをかかげる。最新型のスマホだ。

 

別にうらやましいとは思わない。

 

長内さんと会話してると思ったかい。とニヤけた顔で田島が寄ってくる。返事の代わりにその腹に左ストレートをかます。田島はバランスを崩し尻もちをついた。

 

「ざまーみあがれ」気分はプロレスの勝者。調子に乗って倒れた田島を踏もうとした時、

 

「どうも……って、何してるんですか」

 

ああ、こういうこと前もあったけ。調子に乗ってるとき、遭遇するのは……

 

「お、長内さん。これはですな……」

 

な、何と説明すれば……

 

「お遊びだよ、長内さん。気にしないで。それより、うまくまけたかい」

 

と助太刀する田島。

 

目で、すまん。とわびる。この貸しはでかいぞ。と目で伝えてくる。いやな予感しかしないがいまさらどうしようもない。

 

「うん。大丈夫。それより………」

 

口ごもる長内さん。

 

「そうだね、それより、だ」

 

と事情通な田島。

 

……ああ、メールか。

 

「きのうはすみません。メール送るの忘れてて」

 

今日だけどね、もはや。とツっこむ田島は無論無視。

 

「ううん。大丈夫だよ。そのことじゃなくて」

 

そう言ってカバンから携帯を取り出し、操作して画面を見せる。

 

失礼。そう言ってから長内さんのスマホを拝借する。太陽光パネルのついた小さなキーホルダーがついている。ライトだろうか。

 

機種は田島と同じ最新タイプだ。こうなると田島のがうらやましくなる。ケータイを持ってない俺としては無縁の話だが。

 

さて、画面を見る。

 

件名:件名なし

 

本文:歴研入ったの?

 

送り主は虹原君。

 

「なるほど。だからまいたか聞いたんだね」

 

「やっとわかったかい。全く」

 

お前には言ってないぞ。

 

「昨日もいなかったと思う。多分だけど」

 

と心配そうに俯く。

 

「とりあえず、山崎に質問しに行ったとか適当に理由はつけれるだろう」

 

「その返答の仕方で昨日困ってたんだよ、まあちょうどそんな感じの返答したけどさ」

 

ふむ、よかった。なら、

 

一つ思い当たることはある。可能性としてはどうか。なくはない。さて……

 

「すまん。今日はもう帰ろう」

 

とわざとらしく切り出す。

 

「え、でもまだ何も話してないよ。私」

 

「長内さん、どうやら清人は何か思いついたみたいだ、ここはおとなしく従っておこう」

 

全く、人の心を読むな。

 

さて。

 

「田島、お前はこのあとちょっと付き合え」

 

「珍しいね。お前の方から。いいよ。じゃ、そういうことだからまた明日」

 

「うん。じゃーね」

 

と笑顔で部室を出ていく。

 

この笑顔は、満点だ。

 

―続く―




主人公はなるほど自分のつもりなんだろうけど、こう思うとおれも「この頃はまだ純粋だったんだなぁ」なんて思ってしまうね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。