「じゃあ、行ってくるよ!村長」
純黒の髪の少年は元気よく村長に挨拶をした。高齢化が進むこの村に子供は彼しかおらず彼は産まれた時から友達と呼べる者などいなかった。
今年で彼は19歳になった。そんな彼に村長は何を思ったか帝都に行くように命じたのだ。
村を救ってくれと言われたがおそらく本意は彼に友達を作らすことだろう。
餓死で死んだ両親の代わりに育ててくれた村長の初めての命令だ断る理由がない。
彼は直ぐに首肯した。そして今現在に至る。
「ウム…幼い頃からワシが育てたお前じゃ。その腕で出世のチャンスをもぎ取るんじゃ」
「任せてよ村長必ずこの村を救ってみせるから」
彼は村長に優しい笑みを見せる。村長は彼のその笑みを見て微笑み返して最後に言った。
「ではカネキ最後の餞別じゃ。コイツを持って行け」
そう言って村長が彼に差し出したのは気味の悪いマスクだった。右目の位置には眼帯が付いておりマスクには綺麗に並んだ白い歯と赤い歯茎がある。どうやらチャックで開くようだ。
カネキは村長からその眼帯マスクを右頬を引き吊り上げながら嫌々受けとった。
「そ、村長…これは?」
カネキがそう問うと村長は自信気に言った。
「肌身離さず持っていろ…きっといつかお前を助けてくれるじゃろ」
カネキはチラっと手に持った眼帯マスクを見て村長にあ…ありがとうとお礼を言い村を後ろに帝都へと向かった。
・・・・・
「はー!」
帝都に着いたカネキはポカーンとだらしなく口を開いていた。
カネキの目の前には城があった。カネキが育った村とは180度違った世界であった。
「凄いや…これが帝都かぁ」
カネキが唖然とした顔でそう言い終わると同時に腹がぐぅ~となった。
昨日村を出てから何も食べずにここまで徒歩で来たのだ。危険種に襲われたこともあった。勿論カネキに危険種などを倒せる訳もなくただひたすら隠れ、逃げるだけだった。お腹が空いても無理はないだろう。
キョロキョロと飲食店を探すカネキの後ろから女性の声が聞こえた。
振り返るとそこにいたのは金髪で巨乳、さらには露出の多い服を着た女だった。
これが帝都か…とカネキが思うのと同時にサイド腹がぐぅ~となる。
金髪の女はニヤッと八重歯を光らせて微笑むとカネキに言った。
「お腹がすいてるのかい少年?」
「あ、まあ…はい」
女と言えば年寄と答える少年にはこの女の格好は直で見ることは出来なかった。カネキは俯きながら答える。
「よし!お姉さんがいい店を教えて上げよう。その代わりに…」
その代わりに? とカネキが心の内で質問すると金髪の女は満面の笑みでお姉さんにゴハンおごって♡
と言った。お金には余裕があったのでカネキはお願いした。
・・・・・
「プハーッ」
とある飲食店にはゴトッとグラスをテーブルに置く金髪の女、そしてそれをげんなりとした顔で見るカネキがいた。
頬を紅潮させて金髪の女は机をバンッと叩きながら一人で叫ぶ。
「いやーっ昼間っから呑む酒は最高だね!!」
こちらもお願いした身であるのでカネキには文句が言えない。ただ心の中で遠慮なく呑むなぁと思うだけだ。そんなことを考えているなんていざ知らず金髪の女はまあ呑め少年。楽しく行こうと酒をススめる。
ずっと黙りこんでいたカネキに漸く気がついたのだろう。金髪の女がカネキに問う。
「少年は入隊したいのかい?」
カネキがコクりと頷くと女は続ける。
「でも厳しいかな…少年弱そうだし」
その言葉はカネキのプライドを傷つけた。カネキ自信そんなことは分かっている。自分が強ければ危険種と出会っても逃げずに戦うだろう。だがカネキには出来なかった。
村長の本意がカネキには友達を作らすことだと分かっていても村の為に何もしないのは気が引ける。
村長の口実通り入隊しようと思っていたのだがカネキが兵舎で見た光景はカネキに絶望を与えた。
カネキと同世代かそれとも年下の茶髪の少年が追い出されていたのだ。俺の腕を見てくれとまで言うほど自信がある少年を追い出したのだ。
力もメンタルもないカネキは話さえさせて貰えないだろう。
予想より落ち込んでいるカネキに女がアワアワとしてカネキに救いの言葉を差し述べる。
「私の知り合いに軍の奴がいてな。そいつに小遣い出せばすぐだすぐ!」
その言葉を聞いたカネキの目が光る。お金なら村長が貯めていたくれた大金が幸いある。
カネキは女に金を差し出し「これで足りますか?」と問うと女は目を見開き「オータリルタリル」と言った。
「僕は村の為に入隊しないといけないんです!お願いします!」
カネキは女にお願いをした。その時女がどんな表情をしていたのかは分からなかったが女は「こりゃ即決で隊長だな。まあコイツの5分の4位位で大丈夫だと思うよ。」と言いカネキが頭を下げると続けて「私との出会いは色々勉強になると思うよ少年!んじゃ話つけてくるからそこで待っててね♡」といい店の外に出ていった。
帝都っていい人もいるんだな。噂とは違うや。とカネキは思っていたのだが…一時間経っても三時間経っても、しまいには十時間経っても女は帰って来なかった。流石のカネキでもジト目になる。そんなカネキに追い討ちをかけるように店長が言った。
「お客さんそろそろ店じまいですぜ」
そんなことを言われてもカネキはまだ女を信じたかった。カネキの全財産を女に渡したのだ。村長がくれたお金を。村長が僕のためにくれた大金を…
「あ、あ…ぼ、僕人待ってるんで」
汗を頬にしたたせながらカネキは店長に答えた。のだが店長はカネキにさらに追い討ちをかけるように言った。
「見てたけどありゃアンタ金、持ち逃げされたんだよ」
薄々感づいていたけどカネキは事実を告げられ呆然とする他なかった。
「え…」
「今の帝都で人をホイホイ信じるとはな…残念だけど騙される方が悪いって。」
店長はカネキの方をポンと叩いて微笑んだ。
・・・・・
トボトボと夜の帝都を歩きまわる。あれだけあったお金は空っぽ。
あの女の人が言ってた勉強になるってこういうことか…
あんな嘘僕の村にはいないよ。
「今日は野宿かぁ…まあ地面が土じゃないだけマシかなぁ。あ、あはは」
溜め息をついて苦笑いをしながら柱にもたれ掛かる。
人が少ないせいか馬車の音が聞こえた。
「止めてっ!」
少女の声が聞こえたかと思うとカネキの目の前に先程音が聞こえいただろう馬車が停まる。
「泊まるアテないのかなあの人…気の毒に…」
少女がそう言うと近くにいた兵士のような男が少し驚いた声で「またですかお嬢様と言った。
「仕方ないでしょ性分なんだから」
少女はそう兵士に告げるとカネキの方にに走りかけてくる。いかにもお嬢様という感じの女の子だった。
「地方から来たんですか?」
「あ…あ、うん」
そう答えると満面の笑みになり少女は言った。
「もし泊まるアテがないんだったら私の家へ来ない?」
信じていいのだろうか。先程金髪のお姉さんに学んだばかりだ。
カネキが少し俯いていると少女の近くにいた兵士二人の内の一人が「アリアお嬢様はお前の様な奴を放っておけないんだ!」と言いもう一人が「お言葉に甘えておけよ」と言った。
それに続いてアリアという少女も「どうする?」と微笑みながら問う。
優しそうな人だしまだ子供だ。さっきのお姉さんみたいな性格ではないだろう。それに兵士までがそう言うのだから信じていいのだろう。
「じゃあお願いします」
カネキがそう言うと少女はとても嬉しそうに「じゃあ決まりね」と言った。
そのまま馬車に乗せられ少女の家に着いた。いや、家と言うより城だ。
城内をキョロキョロと見渡すと兵士が何十人といる。強いのが一目で分かる。こういう人がいるから得体の知れない僕にも優しく出来るのかな…
「おおっアリアがまた誰かを連れて来たぞ」
「クセよねぇ。これで何人目かしら」
と男の声と女の声が聞こえる。おそらくアリアさんのご両親だろう。優しそうな方だ。
「拾って頂きありがとうこざいます!!」
心からの感謝を込めてお辞儀をする。
「いいよいいよ。遠慮なく泊まってって」
アリアさんがそう言うと母だろう女性が微笑みながら
「人助けをすればいずれ私達にも幸せが帰ってくるものね」とアリアに冗談を言いアリアさんが少し怒りながら「アリアはそんなつもりじゃないよ!!」と言った。
仲がいい親子だな。僕には両親がいないから羨ましい。
そんなことを思っていたカネキにアリアさんの父だろう男性が食べ物を兵士に持ってこさせた。
「さあカネキ君遠慮なく食べてくれ。腹がへっているだろう」
帝都にもこんなに優しい人達がいるんだ。カネキは頂きますと手を合わせてから眼前に並べられた豪華な料理を口にした。
「美味しいです。」
そう告げると同時に目眩がカネキを襲った。
あ…あれ。意識が遠くなっていく。
既に前が見えない。
三人のクスクスと嘲笑うかのような声を聞いてカネキは意識を失った。
・・・・・
鉄の臭いが鼻につく。力のない呻き声が耳につく。ここはどこだ。カネキはあたりを見渡す。
「うわ!?な…なんだよ…これ」
カネキの、回りには死体の山があった。片足のない者、傷だらけの者、生きている者もいるが呻き声からしてそう長くないのが分かる。
「目覚めたのね」
ふと女の声が聞こえる。アリアさんとは別の声だ。
「き…君はだれ?」
カネキは怯えながら問う。何が何だか分からない。頭の中の情報がグルグルして混乱しているようだった。
その声は優しくカネキを慰めるように言った。
「貴方もあの女に騙されたのよ。私も、そこで苦しんでいる男も同じ…あの家族のせい。私はそう長くない。貴方もそうでしょうね…」
「嘘だ…嘘だ!アリアさんがこんなこと…するわけ…」
そこまで言った時カネキは意識が途切れる時に聞こえた人をバカにするようなあの家族の声を思い出した。クスクスと意識が途切れかかっているカネキを見ていたあの人を人と思わないような目付き。
カネキの体がブルブルっと恐怖で震える。
バンッと扉が開く音がする。
「ここでお別れのようね。天国で会いましょう」
「ほんっとムカつくわねアンタ…」
あの時カネキに手を差し出してくれたアリアさんとは思えないドスの聞いた声がした。
「髪の毛サラサラで生意気なのよアンタ!!」
そうアリアが言うのと同時にブシャっと音がなり女の悲鳴がし、カネキの体全身に生温かい液体が吹き飛んでくる。
鉄の臭いが酷くなった。
「生意気なのよ!生意気なのよ!生意気なのよ!」
鉄の臭いが更に酷くなり女の悲鳴がしなくなるとアリアが此方を振り向く。
手には何かを持っているようだ。どこか満足な顔でカネキの前に手に持っていた何かを投げ捨てるように置いた
「今日の餌置いとくわ」
そう告げるとアリアは外にカネキわ後ろに外に出ていく。扉が閉まる音が聞こえた。
カネキは恐る恐るアリアが言う餌を手に取る。
「うわぁぁぁぁ!!!」
それは紛れもない足だった。血が滴っていたがこれは右足だ…
さっき話してた女の足…
カネキは地面に嘔吐する。嘘だ。この足の女は言っていた。貴方もそうでしょうねと言っていた。僕も死ぬのか…嫌だ…
恐怖に襲われているカネキの耳に先程まで苦しんでいた男の怒りに満ちた声が響いた。
「あの野郎!!!サヨを殺しやがった。殺しやがった殺しやがったぁぁ!!」
もう嫌だ死にたくない…こんなところで終わりたくない…
どうして…こんなことに…こんなことに…
カネキは金髪の女を思い浮かべながら意識を失った…