「アカメ!そっちはどうだ?」
「標的はズタズタに殺されていた」
やっぱりこの少年がアリアを殺したのか。
レオーネは無惨な姿になってしまったカネキを見て自己嫌悪に陥っていた。酷い傷だ。胸元の皮膚が抉れ化膿しているところもあり、黒かった髪は白くなっていた
こうなってしまったのは恐らく私のせいだろうな…
カネキの目から涙が1滴流れ落ちた。
「なあアカメ…この少年持っていかないか?」
アカメが意味が分からないとでも言いたげな顔をするがレオーネは続ける。
「恐らくこの少年が標的を殺したんだと思う。アジトはいつだって人手不足だ」
レオーネの説得に納得がいったのだろうアカメが首肯する。
レオーネはそれ確認するとカネキを肩に乗せるように背負い仲間との集合場所にアカメと向かった。
・・・・・
集合場所に着くなりピンク色の髪をツインテールにした少女マインが二人に怒鳴り付けたのだがレオーネが背負っているものを見るやいなや点とした表情になり
「何よその気味の悪い奴…」
と言った。カネキのつけている眼帯マスクをみてひいたのだろう。
レオーネが仲間にカネキを紹介する。
「コイツは今日から仲間になる予定の……名前は知らない!」
「何よ…それ」
マインが冷たい視線をレオーネに向けるがレオーネは気にすることもなく
「ブラっち!こいつヨロシク」
レオーネがブラっちと言う鎧の者に気絶しているカネキを、放り投げブラっちことブラートは優しくカネキを抱え込んだ。何故か頬を赤く染めて。
「作戦終了帰還する!」
アカメのその言葉でレオーネの仲間全員(一人を残して)がアジトへと帰還した。
・・・・・
「ッハ!?」
カネキは勢いよくフカフカのベッドから飛び起きた。久しぶりのベッドだ。いやそんなことよりここはどこだ?
あれだけ酷かった傷は完治していた。跡1つ残っておらずあの出来事が全てなかったように感じたのもつかの間、黒かった髪は未だに真っ白のままだった。
ゾクリとカネキの体が震える。
殺した…殺した…僕は人を殺した。
「ぐぐぅ"…おおッうぇ"ぇ"」
そのままベッドに向かって嘔吐してしまう。あの時の僕は僕じゃない…僕じゃないんだ…
アリアをこの手で切り裂いた感触を思い出す。気持ち悪い…もう一度吐きそうになったとき部屋のドアが誰かによって開かれた。
「目~覚めたぁ?」
その声をカネキは知っていた。鼓動が早くなっているのが分かる。全ての元凶と言える女。なんで…お前が!
「なんで…なんであなたが…」
無意識にカネキの手が枕の横に置いてあった眼帯マスクを取ろうとしていた。バッと手を引っ込める
これを付けたらダメだ…また…また人を殺してしまう…
震えるカネキをレオーネが優しく抱き込んだ。
「ごめんな少年…本当にごめん…」
心の底から謝っているのが分かった。
いや信じるな…帝都は皆が悪魔だ。僕が騙されたから村長が殺された。僕が騙されたから…
レオーネを薙ぎ払いカネキは部屋の外に逃げる。
「少年!」
後ろで僕を呼ぶ声がするが無視して兎に角走り続けた。
逃げないと、逃げないとまた…また何かされるに決まってる。兎に角外に出ないと…
出口を見つけたカネキの足に何かが絡まりつきカネキは転げてしまう。
なんだ…これ?
カネキの足に絡まりついているのは透明な糸。こんなに細いのに切れない。
「逃げられたら困るんだよなー」
緑髪の少年がカネキに近づいて来た。
「俺はラバック宜しく」
にんまりと笑顔でカネキ名前を告げる。この笑顔にもきっと裏があるに決まってるんだ。騙されるな…
「ラバ、少年が逃げれないようにもっとぐるぐる巻いてくれ」
「おーけー」
ラバックが人差し指と親指で丸の形を作りそう言うとカネキの体にさらに糸が巻かれる。
苦しくはなかったがどれ程力んでも体が動かない。
「大丈夫だってお前に危害は加えないからさ」
「もう…止めてくれ…僕を自由に…して」
カネキの嘆きなど意にせずレオーネはカネキを担ぎ歩き始める。
「皆に自己紹介しに行こうか!ってあれ?少年傷治ってる?」
あんな思いはもうしたくないんだ…
・・・・・
「成る程、事情は全て把握した。ナイトレイドに加わる気はないか?」
レオーネに連れてこられた場所はどうやら作戦などを会議する場所のようだった。ここに連れて来ると直ぐにラバックと言う男はカネキに巻いていた糸をほどいた。
カネキを囲むような形で7人が集まった。
先程カネキに勧誘したのがおそらくボスだろう。この人にナイトレイドと言う暗殺集団についても説明された。
疑心暗鬼になっていたカネキも漸く心が落ち着いてきていた。
「断ったら口封じで殺されるんでしょう…」
「いや、それはない。だが帰すわけにもいかないからな。我々の工房で作業員として働いて貰うことになる」
意外な答えにカネキは目を見開いて驚く。そんなことを言われたら答えは決まっている。
「…僕は…帝都へ出て入隊して貧困に苦しむ村を救うつもりだった。でも今は分かります。僕に人は殺せない…」
ボスと思われる女が「そうか」と少しがっかりしたように言った。
ここにいる誰もが仕方ないと思う中一人が突然口を開く。
「ダメだ!カネキにはナイトレイドに加わってもらう」
レオーネだった。
なんで…なんであなたは僕を…自由にさせてくれないんだ…
会議室にいるナイトレイド全員が背筋に悪寒が走るのを感じた。
カネキから異常な程の殺気を感じたのだ。
いち早くブラートが行動を起こす。手刀を作りカネキ首筋をガッと叩き延髄に衝撃を与え気絶させ、ラバックが糸でカネキの体を先程の2倍以上グルグルに巻いた。
マインが頬に汗を滴せる。
「何…今の殺気」
「どういうことだレオーネ」
ボスがレオーネに問うとレオーネは表情を曇らせて事情を説明し始める。
「カネキとはさ…この前の作戦以前から会ってたんだ」
「だから一目惚れしたカネキにこだわっていると?」
「これから説明するから黙って聞けラバック」
いつもより真面目な態度のレオーネにラバックは何も言い返せず黙りこむ。
「その時のカネキの髪は真っ黒だったんだ」
「!?」
全員が驚く。レオーネの予想通り地毛だと思っていたようだ。
「アイツ飲食店探してたから奢ってもらう代わりに教えてやったんだ。で、予想以上に金を持ってたから…つい」
「盗ったんだな…そうかそれで一門無しとなったカネキは今回の標的に捕まったわけだ」
「それで、なんでカネキを無理ににナイトレイドに加わらせようとしてんのよ」
マインが誰もが思った疑問を尋ねる。
「アイツをこのままにしておいたら駄目な気がするんだ」
「私もそう思う」
アカメがレオーネの考えに賛同する。
「何故そう思うんだ?アカメ」
「お前もさっきのカネキから殺気を感じただろブラート?あれはレオーネだけに向けられていない」
「あぁ俺にはこの世界を憎んでいるように思えた」
アカメがブラートの言葉にコクりと頷く。暗殺者だからこそ分かることである。普通の人間にも殺気は感じるだろうが誰に向けられたものかまでは分からないだろう。
カネキは世界を憎んでいる。殺したい、潰したい…そんな思いが込められた殺気だった。
「確かにこのままカネキを工房で働かせるのも危険だな。監視が必要だ。」
満場一致で全員が首肯する。
「決まりだな。カネキにはナイトレイドに加わってもらう。条件としてレオーネはなるべくカネキには近づくな」
「そんなぁ~」
心底残念そうにしているレオーネにマインが「当たり前よ」とツッコム。
ボスはそんな彼女らのやり取りを微笑ましく見た後にシェーレにカネキと組むように命令した。
・・・・・
「カネキ…儂はこっちじゃ。カネキは戻れ」
「…何を言ってるの?村長…村長もこっちで一緒に…」
「いつまでも儂に甘えてるんじゃない!」
いつも…ずっと…優しかった村長が今まで見たことのないような表情でカネキを怒鳴り付ける。
「で…でも!」
「お前はもう分かってるはずじゃ…これからは仲間と戦っていけ」
無理だ…無理だよ村長…僕には力なんてない。ずっと傍にいてよ。ずっとずっと傍に…
「あの眼帯マスクはお前にきっと力を貸してくれるじゃろう。さよならじゃカネキ…来世でまた会おう」
「まって…まってよ村長」
僕を…一人に…
「ネキ…カネキ」
カネキは何者かに名前を呼ばれて目を覚ました。カネキの右頬を伝う1滴の涙を声の主は優しくハンカチで拭き取る。
「カネキは今日から私の部下になるそうです…宜しくですぅ」
おそらくこの人も寝ていたのだろう。眠そうに言った。
確か…この人の名前はシェーレ…ナイトレイドの一員だ。その人の部下になる。何で?僕は僕は断ったはずじゃないか!
シェーレは欠伸をしたあと目をこする。
「そんな顔しないでください。ナイトレイドはいい人ばかりですから」
「僕はもう騙されない!もう何も失いたくないんだ!」
もう本当に何も失いたくない。断ったはずなのに…なんでなんでなんで…
「ナイトレイドはあなたを救ってくれます」
シェーレが穏やかな声で言った。歪んだカネキの心を撫でるようなその声はカネキに落ち着きを取り戻させる。
しかしカネキのトラウマはそれだけでは消え失せなかった。
「そんな訳がない!」
「私は救われたから…私はナイトレイドの皆に救われました。」
・・・・・
シェーレの過去を聞いた。友を助けるためにしたこなのに震えられ、友を失った。家族も殺され一人になった。人を殺した兎に角殺した。
僕だけじゃなかった…皆色々抱えているんだ。シェーレの話を聞いだろうか…この人達は信じていいと思った。
「でも…僕は人を殺したくないんです。」
「それでいいんですよ。」
シェーレは優しく言ってくれた。
「一応部下と言っても世話係と同じです。あなたの心をケアするために一員にしたのですから。これはレオーネの案ですよ」
その言葉が嬉しかった。久しぶりに空気が美味しく思えた。苦しく潰されそうだった心が軽くなったように感じた。
村長…僕、この人達と居ていいのかな?村長の仇のレオーネさんも信じてみていいのかな?
青い空に向かって手を伸ばし村長の顔を思い浮かべる。どこからとなく村長の声が聞こえたような気がした。