B級ランク戦昼の部。雪ノ下隊vs玉狛第二vs鈴鳴第一の試合。
完全な思いつき作品です。読んでくれるとありがたいです。

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文字通り短編です。
続きは書きません。書く気力もありません。
書いていて楽しかったけど、つかれた~。
誤字脱字については報告して頂けると嬉しいです。

2018/08/27誤字修正


凍って腐った短編トリガー

「次の対戦相手は、雪ノ下隊と鈴鳴第一か」

 

「まあ、随分と難しいところと当たったな」

 

「烏丸先輩」

 

 先輩と呼ばれたもさもさしたイケメンが、コトッとテーブルにコーヒーを置いた。三雲がそれを受け取る。

 

「この雪ノ下隊と鈴鳴第一ってチームはそんなに手ごわいんですか?」

 

 コーヒーを飲む先輩に向きなおってメガネの三雲は一口飲む。最近徹夜気味の体によくしみた。

 

「鈴鳴第一にはアタッカー個人ランク四位の村上さんがいる。今回ばかりは空閑でも勝つのは難しいだろ」

 

「それは、痛感しました」

 

 玉狛支部に戻る前、それこそ本部でランク戦終了直後。三雲隊のエース、空閑遊真はその村上鋼と戦い十本勝負で負けている。

 それが彼の「強化睡眠記憶」という「ひと眠りするだけで学んだことをほぼ100%自分の経験に反映することができる」サイドエフェクトによって。

間に休憩を挟んだ十本勝負、後半は一本も取ることができなかった。しかし、それでも空閑が次も負けるとは三雲は思っていない。

 

「村上さんもそうだが、最も警戒するべきなのは雪ノ下隊だ。特にアタッカーの比企谷さん」

 

「比企谷、さん?」

 

 確か戦闘員が二人しかいない雪ノ下隊のもうひとりの隊員の名前だ。鈴鳴とあわせてメンバー表に目を通した時に目にした、特徴的な人物―――。

 

「あの、目が?」

 

「ああ、目の腐った人だ」

 

 ――――あ、やっぱり。

 

 同じ感想なんだな。三雲はそう思った。

 

 

 

 

「次の対戦相手鈴鳴かよ。別役ぶっ飛ばしていいか?」

 

「あなた、まだ報告書ダメにされたことを恨んでいるの? 小さい男ね」

 

「おま、俺が徹夜して書き上げた報告書を「ヒキタニ先輩コーヒーもってきましたぁああっ!?」てずっこけてびしょ濡れにしたんだぞ? PCごとやられたからまた徹夜な! しかも俺の買い置きしておいたMAXコーヒーをだぞ?!」

 

「……もしかして、報告書をダメされたことよりもあの甘ったるい飲みのものをダメにれたことを怒っているのかしら?」

 

「当たり前だ。千葉のソウルドリンクMAXコーヒーなしで俺は徹夜する羽目になったからな」

 

 どうせまだストックがあるくせにと、雪ノ下はその冷たい視線を隊室の奥に積まれたダンボール箱に向けた。

 この男、自分の給料の何割かをMAXコーヒーの取り寄せに使い、挙句隊室にまで持ち込んでいるのだ。しかし、雪ノ下も強く出ることはできない。

その目は直ぐとなりに置かれた自分のパンさんグッズにも向けられていた。その占領面積は正直、どっこいどっこいだった。

 

「で、玉狛第二か……あれ? 玉狛って第一以外にチームあったのか?」

 

「はぁ、ちゃんとランク戦開始前にチーム表を見ておくよう言っていたはずなのだけど。……全員レイジさん達玉狛第一の弟子らしいわ。アタッカーの空閑くんはとても新人とは思えない動きだし、スナイパーの雨取さんは基本がしっかりしている。三雲くんは……戦力としてはイマイチね、けれど作戦は彼が立てているようだし、隊長としてはそこそこ優秀よ」

 

 まだ情報の少ない玉狛第二の情報をたった二戦で正確に分析をしている。比企谷はテーブルの資料に視線を落とそうとして、途中で止まった。断じて同じく視線を落としている彼女の胸元を見るためではない。あるのかどうも怪しいものなど価値がない。しかし、無防備な姿を見ると目がいってしまうのは思春期の高校生としては仕方のないことであって――――。

 

「比企谷くん」

 

「ひゃぁい!」

 

「……何をしているの? 作戦会議中よ、集中して」

 

 バレてはいない。しかし、かわらず凍るような目が比企谷を貫いていた。

 

「なにもそんな必死こいて戦わなくてもいいだろ。二宮隊と影浦隊相手じゃA級には上がれないんだし、中級をウロウロして防衛任務についてれば上も文句言わないしな。それに上位に入ってめんどくさい任務に行きたくないし」

 

「最後のが本音でしょ? 引きこもりくんはそれでいいかも知れないでしょうけど」

「ちょっとまて、俺ボーダーの隊員だから、働いてるから」

 

「あら、ごめんなさい比企谷くん。あなたはそれでもいいかもしれないけれど、わたしはA級一位になるつもりよ。わたし、負けず嫌いだから」

 

 ――――しってる。

 

 少なくとも半年間一緒にいて、ほぼ毎日顔を合わせていれば相手の外郭くらいはわかる。

そう、外郭しか知らない。互いにだ。

 だからだろう。ふたりが周囲から高評価をもらいながらも、B級上位に長く滞在したことがないのは。

 ボーダー隊員にソロでA級の人間はいない。それはボーダーがチーム戦術を重視し、集団戦闘を推奨しているからだ。ならば、なればこそ、この一人と独りは勝ち進めないのだ。

 

「比企谷くん」

 

「なんだよ?」

 

「勝つわよ」

 

「……おう」

 

 だからと言って、この二名が勝つことを諦めることはない。そして、決して一人一人で戦うことが否定されているわけではない。

 

 

 

 

「げっ! 次の対戦相手雪ノ下隊じゃないですか!?」

 

「そうか、太一は比企谷くんに狙われているからね」

 

「そもそも、太一が比企谷くんの報告書をダメにしたからでしょう、自業自得なんじゃない?」

 

「もう一年前の話ですよ?!」

 

 鈴鳴第一の作戦室。またも比企谷に狙われると思うと別役は震えずにはいられない。過去四度の対戦、二戦目から別役は比企谷に執拗に狙われていた、最短記録は試合開始四秒でベイルアウトである。もはやシステムが比企谷に味方しているとしか思えない数字だった。

 

「太一に限った話じゃいよ。彼のスナイパー撃破率は尋常じゃない。もしかしたら太一にはベイルアウトしてもらうことになるかも知れないな」

 

「妥当かも知れないですね。俺が雪ノ下と空閑と落とせれば比企谷の抑えに回れます」

 

「だけどそれだと鋼の負担が多すぎるよ。空閑くんは強い、それに雪ノ下さんとの戦績だって楽観視はできない。一番新しい戦績は?」

 

「……この間とうとう五本取られました」

 

「そうか」

 

 雪ノ下雪乃は天才である。これは一部のA級と全B級隊員が認識している。なぜなら彼女の入隊時の模擬戦撃破タイムは一秒以下。そこから半月でB級に昇格、一時期ソロで停滞していたが、隊を結成してそのシーズン中にB級上位にまで上り詰め、以降上位と中位をうろうろしている。

 彼女の成長速度は並みではない。村上の強化睡眠記憶というアドバンテージを持ってしても差を徐々に詰め始め、彼に勝ち越す猛者に匹敵する勢いだ。

 

「……空閑くんと雪ノ下さん。一人一人点を取っていこう。特に雪ノ下さんはすぐに取れると思う。あとは、過去の戦闘データを見ながら考えよう」

 

 

 

 

「幸い今回もステージ選択権はこっちにある。どこを選ぶかは三雲次第だが、勝てない相手じゃない」

 

「けど、雪ノ下先輩と村上先輩相手に空閑一人じゃ厳しくないっすか?」

 

「鋼さんと雪ノ下……。遊真! 何が何でも勝ちなさい、私が許すわ! 特に雪ノ下! 彼女は絶対に倒しなさい! ぎったぎたよ!」

 

「ふむ。その雪ノ下という人と比企谷という人は強いのか?」

 

 玉狛支部のリビング。そこでは玉狛第一の面々と悠真が別室で作戦を考えてる三雲とは別に、対戦相手の話をしていた。

 

「ああ、小南先輩は雪ノ下先輩と模擬戦して勝ち逃げされたんだ。元々俺たち玉狛第一は本部で模擬戦をあまりしないからな。一戦一敗のままで再戦の機会が無くてこのとおり」

 

「うがぁー!」

 

 溜まった鬱憤が暴走している。雪ノ下と同じく負けず嫌いの小南も、負けているという実情が認められないのだ。悔しくてしょうがない様子。

 

「ほほう。小南先輩より強いってこと?」

 

 暴れる師匠は置いておいて、小南に初戦で勝っている雪ノ下に、村上に続いて興味が沸いた。

 

「一概にそうとも言えない。小南先輩は村上先輩に勝ち越してるし、雪ノ下先輩は村上先輩に負け越してる」

 

「む、雪ノ下先輩は村上先輩より弱いのか。だけど小南先輩に一勝してるのか。ますます意味がわからなくなったな」

 

 村上と小南、共に自分より強い相手。その二人相手に、片方には勝ち、片方には負けている。烏丸の言うとおり単純なものではないが、情報が少なすぎた。

 

「しかし、雪ノ下隊はメンバーがふたりなんだな。これで中位にいるってことはやっぱり強いのか」

 

「そうだな。A級にもふたりのチームはいる。だが、雪ノ下隊は少し違う」

 

 レイジの意味深な言葉に空閑は頭をひねった。メンバーがふたりであることを指しているわけでないらしい。

 

「どのチームも自分たちなりの戦術を持っている。荒船隊は互いに援護しあえる距離を保っているし、諏訪隊は笹森を囮にショットガンで仕留めることが多い。だが雪ノ下隊は完全なスタンドプレー、少なくとも俺はあいつらがチームプレーをしたところを見たことがない」

 

「……つまり、常に一対一ってこと? 雪ノ下隊が二人残っててて敵が一人でも?」

 

「ああ。おそらくな」

 

 

 

 

「B級ランク戦第三戦、昼の部がまもなく始まります。実況は風間隊オペレーター三上。解説は「あげせん食う?」でお馴染みの迅さん、A級一位の太刀川隊隊長太刀川さんです」

 

「「よろしく~」」

 

 ボリボリとお仲良くあげせんを食べる実力派エリートとソロ総合一位。

 

「玉狛第二が選んだステージは河川敷A。これはどいった狙いからでしょうか?」

 

「まあ、普通に考えればアタッカー封じですよね。橋を落とせばチームのエース鋼と雪ノ下は川を渡りづらくなる。玉狛の空閑はグラスホッパーを使えるからそこまで影響はないとふんだんでしょう」

 

「しかし、その場合スナイパーやシューター、ガンナーに狙い撃ちにされてしまうのでは?」

 

「雪ノ下隊は二人ともアタッカーだし、玉狛には大砲があるからな、味方の援護があればそこまで部の悪い賭けじゃない」

 

「なるほど。さあ、スタートまであとわずか、全部隊まもなく転送開始です」

 

 

 

 

マップ { 河川敷A }

 

天候  {  晴れ  }

 

転送位置{右の岸:比企谷・別役・空閑・三雲}

    {左の岸:村上・来馬・雪ノ下・雨取}

 

 

 

「一色、消えたやつの場所を教えろ」

 

『先輩こわいですよぉ。もう少し優しく言って欲しいです』

 

「あざといあざとい。で」

 

『むぅ。初期転送位置です。そんで消えた人は三人ですね』

 

「一人俺だろ」

 

 後輩のオペレーター、一色のあざといきゃぴきゃぴした声にイラっとしながら視界に共有された位置情報を確認する。

 この場にいる隊員は3、3、2の八名。消えたのはバックワームを使ったスナイパー二人と比企谷。右の岸で二人、左の岸で一人消えた。

 中央を流れる川のおかげでフィールドは左右に分断され、メンバーもバラバラ。ちょうど左右に四人ずつだ。

 

『雪ノ下先輩は反対側ですね』

 

「付いてるな」

 

 元々チームワークもへったくれもない隊だ。逆にわかりやすくなった。

 

『比企谷くん』

 

 まるでこっちの心を読んでいるようなタイミングで通信が入った。

 

「なんだよ」

 

『……勝ちなさい。隊長命令よ』

 

「……了解だ」

 

『あ、どっちも二人合流しました。これ玉狛か鈴鳴ですよね』

 

『「……」』

 

『あれ、どうしたんですか二人とも』

 

 

 

「鋼!」

 

「来馬さん」

 

 鈴鳴のエース村上と隊長の来馬はスタート早々に合流を果たしていた。オペレーターの(こん)からは反対側でも玉狛が合流していることを聞いた。

 

『あの雪ノ下隊が合流するわけないから間違いないわ』

 

「なら、こっちにいるあと二人は誰かな」

 

「太一があっちにいるなら、きっと比企谷もあっちだと思います。だから、こっちは雪ノ下と玉狛のスナイパーの子じゃないですか?」

 

 かなりむちゃくちゃな理論だった。しかし、実際にここ三戦は必ず別役の近くに転送されれているのだ。逆に離れたところに転送されることのほうが考えづらかった。

 

『先輩、空閑さんと三雲さんを見つめましたばぁ!』

 

 案の定、太一がベイルアウトした。間違いなく比企谷の仕業である。

 

『すみません! 比企谷さんにやられましたぁ!』

 

『……太一がベイルアウト。雪ノ下さんが来ます』

 

「……来馬先輩は下がってください」

 

「うん」

 

 

 

 

「千佳、鈴鳴と雪ノ下さんの決着がつくまで動くな」

 

『わかった』

 

「で、こっちに居るのは比企谷って人でいいの?」

 

「間違いない。千佳が鈴鳴の二人を見つけている。それに雪ノ下隊の戦闘データを見たけど、比企谷さんはスナイパーを落とすのがうまい。きっと落とされたのは鈴鳴のスナイパーだ」

 

 三雲が集めた雪ノ下隊の戦績。たった二人でB級を戦うチームだが、どちらも尖った戦いかたをする。

 比企谷はほぼ、いや絶対に姿を見せない。バッグワームもそうだが、レーダーにも、肉眼にも映らない。三雲が見たのは録画だったのでところどころ姿を見かけたが、対戦相手から絶対に見つからないように動くことに長けている。

 対して雪ノ下は真っ向勝負。普通のアタッカーと言えばそれまでだが、彼女は全試合味方の援護なしで戦っている。比企谷のスナイパー殺しを援護と言えなくもないが、雪ノ下はバッグワームを使わない。持っている可能性も否定できないが、どの試合も使う前に決着がついている。超攻撃的なアタッカー。

 

「修!」

 

「えっ」

 

 突然空が爆発した。

 

 

 

 

『雪ノ下先輩! 比企谷先輩がいやらしい戦いを始めました』

 

『ばっかお前、効率的な戦いといえ』

 

「卑怯谷くんは置いておいて、こっちも仕掛けるわ」

 

「雪ノ下きました」 

 

 孤月抜刀。

 

 雪ノ下、村上共に孤月を構える。来馬はバッグワームを使っているのか、レーダーにも視界にも写っていない。

 

「村上さん、今日は勝たせてもらいます」

 

「悪いが、負けてやるつもりはない」

 

『雪ノ下先輩、さっきまで写っていた来馬さんがいません!』

 

「わかってるわ。こっちはいいから比企谷くんの援護を」

 

 旋空孤月。雪ノ下の先手。剣の間合いを伸ばす孤月専用オプショントリガーを使った村上の間合いの外からの攻撃。

 村上は受けることなくかわした。あたりの建物を巻き込んでの一閃。隠れている来馬を意識しての一撃だ。幸か不幸か、雪ノ下の攻撃でベイルアウトはない。

 

「スラスター・オン」

 

 レイガスト専用オプショントリガーで急速接近。シールドチャージで間合いをつめる。雪ノ下が続けて太刀を振るおうとしたのを止めに入った。しかし―――。

 

「!!」

 

 レイガストと体の間に雪ノ下が現れた。

 

 

 

 

「これは一体?! 村上隊員がスラスターで接近したと思ったら雪ノ下隊員がレイガストの内側に現れました!」

 

 観客席も驚愕に包まれていた。雪ノ下の動きが全く見えなかったのだ。

 

「あれは体術ですね」

 

「お前知ってんの?」

 

 迅のコメントに太刀川がすかさず食いついた。

 ごほん、と間を入れて迅が解説に入った。

 

「雪ノ下隊員が優秀なのは周知の事実ですが、それは孤月に限った話じゃないんですよ」

 

 迅には未来の見えるサイドエフェクトを持っている。そのサイドエフェクトを使って女性隊員のお尻を触るというセクハラ行為をしているが、彼の未来予知は目で見た人間全ての未来を見ることができる。そして、彼が見た雪ノ下雪乃の未来。

 

「このまえ彼女と模擬戦をしたんですか」

 

「何!? お前、俺と決着をつける前に何やってんだ!!」

 

 迅と太刀川。共にアタッカー個人ランク一位を争ったライバルであり、最近までS級隊員になっていた迅と対戦をお預けされていただけに太刀川は鬱憤が溜まっている。

 

「まあまあ。それで、模擬戦をしたんですが、彼女俺にスコーピオンの使い方を聞いてきたんですよ」

 

「まさか」

 

「まあ、ご覧のとおり」

 

 スクリーンに写っている村上の左腕が落ちた。

 

 

 

 

「さすがですね。今ので落とすつもりだったんですけど」

 

「驚いたよ。いつの間にスコーピオンなんて覚えたんだ」

 

 ――――実戦レベルで。

 

 その言葉は飲み込んだ。

 胸元に伸びてきたスコーピオンの刃をレイガストを握った左腕を犠牲にかわしたが、動揺は収まらない。

 アタッカーには大きく二種類のトリガーがある。

 孤月とスコーピオン、どちらも優秀なトリガーだ。しかし、両方を使うアタッカーはあまりいない。単純に二つのトリガーを使うよりも一方を極めたほうが強い、当然の理論だ。しかし、それは凡人の話でもある。

 雪ノ下雪乃は紛れもない天才だ。なんでも、どんなことでも直ぐに身につけてしまう。これは村上とよく似ている。

 眠ることでほぼ100パーセント学習するサイドエフェクト。

 少し学ぶだけで直ぐに習得する優れた学習能力。

 

 違いは一つ、経験。

 

 村上は経験したことを余すことなく学習するサイドエフェクト。対して雪ノ下は技術を一つ一つ重ねて覚えていく。雪ノ下では圧倒的に厚みが足りない。ならばどうするのか、その結果が迅との模擬戦。

結局足りない経験を埋めるのは経験なのだ。

 

「百本勝負。まったく、雪ノ下隊員は意外と努力家でしたよ」

 

 貸しなんて作るんじゃなかった。見えていたくせに、珍しく迅は模擬戦のことを後悔していた。

 

「だけど、付け焼き刃には負けない」

 

「それはどうかしらね」

 

 雪ノ下は刃を構える。もちろん雪ノ下はしっかりと迅からスコーピオンの戦い方を盗んできている。付け焼き刃などではない。

 村上も孤月を構える。確かにスコーピオンを使う雪ノ下との戦闘は初めてだ。それでも、スコーピオンの動きは戦って十分に知っている。

 

 

 

 

 ―――どうする?!

 

 爆風に巻き込まれながら三雲は混乱していた。

 爆発するトリガー、メテオラ。ワイヤーのトリガー、スパイダー。この二つを利用した爆破トラップ。そして時々空から降ってくるバイパー。武器自体はスコーピオンで登録され、B級にもスコーピオンでなっている比企谷八幡。しかし、実際にその真価が発揮されるのは模擬戦、もしくは止めを刺すときだけだ。

 

「栞ちゃん、今のバイパーどこから打ってきた?」

 

『北の方角、通りを二つ挟んだところ。だけど全然反応がない。ずっとバックワーム使ってるみたい』

 

「……こいつ、戦い方はネイバ―っぽいな。効率的に敵を倒すことがうまい」

 

 ―――けど、殺し方は知らない。

 

 アステロイドも、メテオラも、目視せずにレーダーだよりの遠隔攻撃とトラップ。自分が相手を殺る瞬間を絶対に見ることができない。つまり、雨取と同じ人が打てないタイプの人間。もちろん、スコーピオンを使っていたり、こうして飽和攻撃で倒しにきている以上、殺せないことはないだろう。しかし、積極的に殺しに来ない。

 

「修、こいつは俺が仕留める。だから橋をわたって千佳の方に行ってやれ」

 

「空閑……だけど比企谷先輩相手だとそうやって動いて一人になったところを落とされる」

 

「いや」

 

 爆撃を凌ぎつつ空を見上げる。バイパーである以上打っている本人が軌道上にいる。

 

「こういう相手は修と千佳には合わないよ」

 

 

 

 

『先輩! 二人が別れました』

 

「やっとか、結構粘ったな。このちょっと素早いのが空閑だな……こっちを先に落とすぞ」

 

『先輩! 砲撃来ます!!』

 

「は?」

 

 比企谷と三雲の間が吹き飛んだ。バックワームを起動している以上レーダーには写っていない。つまりこれはどこかの太っちょと同じような適当打ち……のはずだ。だから、白い髪のチビと目があったのも偶然なのだ。

 

「そこか」

 

「来んなよ」

 

 空閑遊真と比企谷八幡が激突した。

 

 

 

 

『雪ノ下先輩! 先輩が空閑って子に捕まりました!』

 

「はぁ、全くあの男、役に立つのか立たないのかはっきりして欲しいわね」

 

 左腕と右腰から溢れたトリオンが空中に霧散する。対して、村上は落とされた左腕に加えて両足の太ももと右足の甲にある刺し傷からトリオンが漏れる。

 モールグロー、ブランチブレード、どちらも十分に実戦レベルのものだった。村上は間違いなく雪ノ下を侮っていた。自分のことを棚に上げるようだが、この学習速度は早すぎる。村上は優れたトリオン能力によるサイドエフェクト、強化睡眠記憶で異常な成長速度を持っている。それに人為的な、純粋な人としての才能で追いついてきた。少しだけ、村上は恐怖した。

 

「一体どうやってスコーピオンを覚えたんだ」

 

「学習してよ。強化睡眠記憶の村上鋼さん」

 

 完全にイヤミだった。

 村上から苦笑いがこぼれる。

雪ノ下は思わず惚れてしまいそうな笑みを浮かべた。

 おそらく来馬からの援護射撃はない。対岸のサポートをする砲撃。確かに強力だ、しかし、位置が割れた(・・・・・・)

 

「決めるわ」

 

 右手のスコーピオンが消失し、左腰に孤月を帯刀する。

 

「孤月とスコーピオンの二刀流」

 

「わたし、なんでもできるの」

 

 

 

 

「空閑隊員と比企谷隊員が激突、これは希少な比企谷隊員の戦闘が見られそうです」

 

「本当に珍しいな。俺も比企谷が戦っているのを見るのはソロランク戦以外では初めてだ」

 

「確かに。比企谷隊員はこれまでも対戦相手の前に出てこないことで有名ですからね。これは大変珍しいですよ」

 

 ひどい比企谷の評価である。しかし、何一つ嘘ではない。

 

「そして対岸では雪ノ下隊員が孤月とスコーピオンの二刀流。これについてはどう思いますか?」

 

「元々雪ノ下隊員の動きは剣道に近いものですから、二刀流についてはそれほど違和感なく使えるでしょう」

 

「確かに鋼のサイドエフェクトに対抗するのに変化をつけるのは有りだ。けど、そんな色々武器を変えてちゃ鋼には勝てない」

 

「それは、雪ノ下隊員に限っては当てはまらない話ですね」

 

 

 

 

「比企谷先輩さ、結構できるのになんであんな戦い方してるの?」

 

 ワイヤーのトリガー、スパイダーが張り巡らされた空間で、互いに傷からトリオンを流出して、スコーピオンを構える。

 比企谷は既にバックワームを解いて両手にスコーピオンを構えている。こうして両手に刃を握るのはもういつ以来だろう。間違いなく言えるのは、比企谷八幡がこうして本気(・・)でスコーピオンを握るのは、雪ノ下と戦争をして以来である。それはつまり、空閑がトップアタッカーと肩を並べる使い手だということだ。

 

「あん? ……そりゃお前、楽して勝てればそれにこしたことはないだろ」

 

 ピンッ。マンションの一室が吹き飛んだ。

 

「お前、強すぎだろ」

 

 

 ―――比企谷八幡ベイルアウト。

 

 

 

 

『雪ノ下、すまん』

 

『はぁ、所詮先輩ですね』

 

「まあ、仕方ないわね。でも、貴方がただでやられたわけじゃないんでしょ?」

 

『……少なくとも片足、もしかしたら体を削れたかもしれない』

 

 ボロボロと全身からトリオンをタレながしながら、その会話を村上は聞いていた。

 単純な話だった。左腕を、レイガストを奪うこと。それが決まった時点でこの勝負は決まっていた。スコーピオンでの戦闘はおそらく慣れきってなかったスコーピオンを完全慣れさせるためのおまけ。

 本命が二刀流。元々自分のスタイルにあった動きに圧倒的な手数。そして、いつの間にか詰まっていた二人の差。単純な手数の差が勝敗につながった理由はそこ。もう、村上と雪ノ下に武器以外の差はない。だから、手数の差で負けた。

 

 

 

―――村上鋼ベイルアウト

 

 

 

 

「鋼が負けた?」

 

 

 ―――雨取千佳自発的ベイルアウト

 

 

『今空閑くんと三雲くんが合流して雪ノ下さんと接触したわ。このまま三人をまとめて打つ?』

 

「……いや、先に三雲くんを落とそう。正直僕じゃ空閑くんと雪ノ下さんの相手は難しい。二人が削りあって消耗した後を狙おう」

 

 

「空閑、ここは任せる。僕は鈴鳴の来馬先輩を狙う」

 

「了解、隊長」

 

 

「さて、一対一対二ね」

 

 

 

 

「その足と脇腹、彼の置き土産でしょ?」

 

「あの比企谷って人、強かったよ。けど、今は村上先輩を倒したあんたの方が興味深いね」

 

「ありがとう。でも、私が勝つわよ」

 

 鋭い空閑の刃が雪ノ下の首を襲った。

 

 

 

 

「くっ、やっぱり強い」

 

「戦い方がうまい。けど、動きが素直だよ」

 

 鈴鳴第一と玉狛第二、二人の隊長の勝負はやはり来馬に分があった。経験値もトリオン能力も、圧倒的に三雲が劣っている。チームのために点を取りに来たが、やはりまだまだ、彼が自力で点を取る能力は小さい。

 

 

 

―――三雲修ベイルアウト

 

 

 

―――来馬辰也トリオン漏出過多によりベイルアウト

 

 

 

 だから(・・・)別のところで戦った。

 

 

 

 

「来馬隊長ベイルアウト」

 

「やるな三雲。確かに一つも有効打は来馬に通らなかったが、相手に打たせて、戦闘体を削って、射撃トリガーの弱点であるトリオン切れを狙ったのか」

 

「元々ちかちゃ、失礼。雨取隊員相手に結構打ってましたからね。最終的には自発的なベイルアウトで逃げ切りましたが、これを狙っていたんでしょう」

 

 

 

 

 旋空孤月。

 間合い度外視の一閃を雪ノ下が放ち、空閑の左腕が飛んだ。

 グラスホッパーとスコーピオンを使った代表的なアタッカーの動きは、雪ノ下もよく知っている。それに空閑の戦闘シーンはしっかりと予習済みだ。

 対して空閑も村上に加え雪ノ下の戦闘データはしっかりを予習済みだ。しかし、それは全く役にたたなかったが。

 

「ふぅ。強いのね空閑くん。正直予想以上よ」

 

「雪ノ下先輩も十分強いよ。けど、勝つのは俺だ」

 

「残念ね。私よ」

 

 

 

 

―――空閑遊真ベイルアウト

 

 

 

 

 

最終結果

雪ノ下{4(撃破3+生存1)}

玉狛第二{2(撃破1+トリオン漏出過多への追い込み1)}

鈴鳴第一{1(撃破1)}

 

 

 




あ~、気が向いたら解説編を後日溶接する可能性が微レ存です。
いや、ない……こともない?
作者の気分次第です。

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