魔法少女リリカルなのは ~悲しみを断ち切る者~ 作:ひなたぼっこ
穏やかな日々を願った。
誰もが平和に、笑って、泣いて、落ち込んで、時には喧嘩をして、そしてまた笑って…。そんな当たり前のことを当たり前のように出来る世界を願った。
だけどそれは淡い夢物語。
守りたい筈の命は奪われ、涙と共に散っていく。
どれだけ夢を唱えても、思いだけでは何も救えない。
だから力が欲しかった。
目に見える悲しみを断ち切れる程の力を。
人々に希望を齎す英雄のような力を。
どれだけ傷を負っても構わない。
どれだけ血を流そうとも立ち続けよう。
数多の罪を重ねようとも、数多の悲しみを背負おうとも必ず前へ進んでみせる。
全ては懸命に生きる人々の為に、その先に誰もが笑顔でいられる未来があると信じて。
これは、そんな理想に燃えた男の物語。
そして、その終焉である。
◇
「やるしか、無いようだな…」
荒れ果てた大地。
断崖絶壁が広がるこの土地には、街は疎か建物も無ければ緑も無い。そんな辺鄙な場所で燃え盛る炎の様な真紅の髪が風に靡く。
遠くを見つめる様に呟かれたその顔は、恐らく10人中10人が振り返ってしまうと言っても大袈裟では無い程に整っているが、その表情は何処か愁いを帯びていた。
だがそれも一瞬のこと。
すぐに表情を引き締め、その澄み渡った空の様な蒼色の両目で一点を見据える。
「「「「「…………」」」」」
その視線の先には剣や銃といった武器を彼に向けて静かに構えている者達の姿があった。
顔をマスクで隠しているため表情は伺うことはできないが、剣の切っ先を彼に向けている者、引き金に指を掛けている者。
この場にいる彼以外の人間が彼に明確な殺意を向けていることは確かであった。
しかし、そんな光景を前にしながらも彼の瞳に動揺の色は見えない。なぜなら、彼にとってこの光景は既に普通と化しているからだった。
理想を追い続ける過程で一人で大多数の者と戦い、そして勝利を収めた経験が彼にはある。それも数え切れない程に。
それが彼が最強と呼ばれるようになった理由の一つでもあった。
「(それなりに鍛えられているようだが一人一人は大した脅威ではなさそうだ。しかし問題は…)」
いつものように冷静に相手の力量を測りながら現状の把握に努める。
この程度の実力なら彼にとってさして脅威でもなく、普通なら何の問題も無かったのだが、今回は少しいつもと違っていた。
「(数が多い。軽く千は超えているだろうな。)」
敵の数があまりにも多過ぎたのだ。
さすがにこれほどの人数を相手に戦った経験は彼には無い。
「これは少し骨が折れそうだ」
敵の戦力を目の前にして青年は深い溜め息をこぼす。
しかし言葉とは裏腹に、その表情からは不敵な笑みが浮かばれており、その手は自然と鞘に納められた剣へと伸びていた。
やや反りのある特徴的な片刃の剣。「カタナ」と呼ばれる知名度の低い珍しい武器。
それと同時に彼にとって恩人とも呼べるような者に託された「思い」とも呼べる剣。
それを鞘から引き抜いた青年は、ゆっくりと前へ歩を進める。
次第にその足取りは速くなり、やがて青年は風の如き速さへと到達する。
そして――
「ハアァァァァァァァァ!!」
彼は数千もの敵に向かってその刃を振るった。
これが彼、クロード・レインハートの最後の戦いだった。