魔法少女リリカルなのは ~悲しみを断ち切る者~   作:ひなたぼっこ

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第1話 終わりと始まり

 

 

~クロードside~

 

 

黒、埋め尽くす程の黒。

 

 

「……ここ…は?」

 

 

地に足が付いている実感も無く、ただプカプカと宙に浮いている様な感覚の中で自分の意識がゆっくりと覚醒していく。

 

目が覚めた俺の視界は景色と呼ぶには程遠い、黒で塗り潰されたような真っ暗な世界を映していた。

 

右も左も上も下も、ありとあらゆる場所が黒一色。

それ以外は何も見えない、何も聞こえない、何も感じない。正直気が狂いそうだ。

 

何よりここが何処なのか、どうして自分がこんなところにいるのか…。

 

目が覚めた俺の頭の中は、そればかりが支配していた。

 

 

「俺は…たしか……っ!?」

 

 

だがそれも数分のこと。

やがて俺はここに来る前に起こった出来事を少しずつだが思い出していった。

 

 

「そうだ…俺はアイツらと戦って…」

 

 

脳裏に浮かぶのは剣や銃を持っていた男達の姿。

引き金を引き、剣を振るい、殺さんとする意思が俺へと向けられる。

 

蘇ったのは戦いの記憶。

弾丸を避け、剣を払い、敵を討ち、戦場を駆ける。

 

理解したのは己の最後。

増えていく傷、流れていく血、そして朦朧としていく意識。

 

 

ああ、そうか。俺はーー

 

 

 

「死んだのか」

 

 

 

 

 

 

死ぬことは覚悟していた。あの時の戦いに限らず、剣を取ったその日から。

 

戦いに絶対は無い。

どんなに格下が相手であろうと油断や慢心、地の利なんかで戦況は大きく変わる。

 

戦場に身を置いている以上、いつかは自分も誰かに負けて死ぬということは十分理解していたつもりだ。

 

そう、つもりだった。

自分の死を自覚してからというもの、心にポッカリと穴が開いたような虚無感に捕われている自分がいる。

 

結局俺は本当の意味で死というものを理解していなかったのだろう。

 

だがそれも仕方ないだろうと思う。

こんな気持ち、死んだ人間じゃないと分からない。分かる筈が無い。

 

たぶんどんな人間であろうと、どれだけ覚悟を決めたとしても、自分の人生が終わったと思うと一度は陥ってしまうのではないだろうか、そんな気がする。

 

そうやって結論付けて、しばらくの間ぼうっと何も考えずにいる時間が続く。

 

1時間くらい経った頃だろうか、時計も無く、太陽も月も無いから詳しい時間は分からないが、何も考えない時間というのは意外にも自分の心を落ち着かせてくれるには十分だった。

 

 

「思えばいろんな事があったな」

 

 

目の前で悲しんでいる者、苦しんでいる者を助けようと心に決め、ひたすら理想に向かって走り続けた。

 

救えなかった者もいた。目の前で死なせてしまった者もいた。

 

もっと早く助けに行けていれば。

 

俺にもっと力があれば。

 

そんな後悔だけが独り歩きしていた時期もあった。

 

 

――完璧な人間なんていねぇ。人は必ず何処かで間違いを犯す。大きかろうが小さかろうが、そいつの運命を左右するような間違いだろうが関係無くな――

 

 

不意にあの人の言葉を思い出す。

いつもヘラヘラと笑い、何を考えてるのか分からないまるで雲のように掴み所の無い男。だが誰よりも熱く、誰よりも人間味があり、そして誰よりも強かった男。俺の目標であり、恩人でもある男。

 

俺の人生は間違ってたんだろうか。少なくとも完璧な人生とは言えないだろうな。

 

 

でも…

 

 

それでも、この歩み続けて来た人生の中で

 

 

ーーたくさんの笑顔に出会えた。

 

 

ーーたくさんの幸せを見ることができた。

 

 

俺の人生が間違いだらけだったとしても、これだけは間違いじゃないと胸を張って言える。

 

だから例え戦い続けた結果が己の死でも、悔いは無い。

 

 

「悔いは無い…けど」

 

 

どうにも胸のつっかえが取れない。

気持ちがスッキリしない。

 

何故?

答えは簡単。俺がまだ生きることに対して未練があったから。

 

なら未練とは何か?

それはーー

 

 

「結局、俺は見つけることが出来ないまま死んじまったのか…」

 

 

それはたった一つの約束。

あの人と交わした約束を果たすことが出来なかったこと。

 

 

「幸せを見つけろ…かぁ」

 

 

他人のではなく自分の幸せを見つけろ。

 

約束と言うか、どこか命令にも似たその言葉。今でもその答えは見つかっていない。

 

ほとんど戦い続きの毎日だった所為か、頭の片隅に置いておくだけだった。

 

旅の合間に何度か自問自答したが結局分からず仕舞い。

 

 

「俺の幸せって何だったんだろうな?」

 

 

他の誰にでもない、自分自身に問い掛けるように呟く。

 

勿論答えなど帰ってこない。そう思っていた。

 

 

――そう思うんなら、こんなところで油売ってねぇでさっさと探しに行きやがれ!!――

 

 

「…っ!?」

 

 

無音だった空間から罵声が響き、慌てて振り向く。

 

突然聞こえたことにも驚いたが、何よりその声に1番驚いた。

 

とても懐かしい声だった。聞き間違える筈がない。

 

けれども、そこには人の姿は無く相変わらずの黒だけだった。

 

空耳か。あるいは俺があの人との約束のことで感傷に浸っていたことによって生まれた錯覚か。そう自分の中で結論付けるしかなかった。

 

 

その時だった。

 

 

突然目の前から溢れんばかりの光が真っ黒だった俺の視界を覆い尽くした。

 

あまりの眩しさに目を開ける事が出来ない。

 

咄嗟に手を顔の前に翳して眩しさを軽減させようとしたが、指の間から入ってくる強烈な光を前に微かに目を開けるのが精一杯だった。

 

段々と光は強さを増していく。翳している手が既に意味を成さなくなっている程に。

 

その度に少しずつ自分の意識が薄れていくのが分かる。

 

 

「一体、何が……!?」

 

 

俺の疑問など露知らず光は更に輝きを増していき、何が起こったのか分からないまま俺は意識を手放した。

 

最後に耳にした微かな声を耳に残して。

 

 

――見つけて来い、クロード。お前の幸せを――

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

〜???side〜

 

 

 

「おめでとうございます。元気な男の子ですよ。」

 

 

声が聞こえた。

喜びと安心が含まれた女性の声。

 

何事か気になり、重くてなかなか開いてくれない瞼を必死に開けてみるが、ぼやけていてよく見えない。

 

視界に映ったのは朧げな景色と恐らく人だと思われるシルエットだけだった。

 

 

「本当によくやった…優衣」

 

 

次に聞こえたのは男性の声。低くて通りやすい、それでいて涙ぐんだ声。

 

不意に一粒の雫が頬に触れる。

 

これは…涙?

 

でも俺のものじゃない。じゃあ誰の?

 

そう思って声のした方へ首を動かそうとするが動かない。まったく動かない。

 

まるで自分の身体じゃないみたいだ。

 

 

「あなた、この子の名前なんだけど…」

 

 

今度は女性の声。

でもさっきの女性の声とは違う。

 

 

「そうだな。決めないといけないな。実は何個か考えたんだが…」

 

 

ペラペラと紙を捲るような音が唯一正常に機能している聴覚に届く。名前?決める?一体何の話をしているんだろうか。

 

意識が朦朧としている所為か頭が回らず、ただぼうっと動かない身体で天を見つめながら会話に耳を傾ける。

 

すると急に自分の身体がフワリと宙に浮くような感覚に襲われた。

 

その原因が誰かに抱き上げられていることに気づくのにそれ程時間は掛からなかったが、どうしてだろう。

 

顔も名前も知らないのに抱き上げられているだけで心が静まっている自分がいる。

 

 

何故だか分からない。

ただ、その腕の中が――

 

 

「実は、この子が産まれた瞬間に思いついたの。この名前にしようって。だから私が決めてもいいかしら?」

 

 

――とても温かくて…

 

 

「そうだったのか…。いいぞ。どんな名前なんだ?」

 

 

――とても優しくて…

 

 

「ありがとう、あなた。この子の名前は…」

 

 

――とても心地好かった。

 

 

「刹那。 1分、1秒を大切に…その瞬間を強く、一生懸命に生きてほしいという願いをこめて…刹那」

 

 

彼女の温もりと澄んだ声を子守唄に重くなった瞼を閉じ、深い眠りにつく。

 

これが俺の第二の人生の始まりであったことも知らずに。

 

 

「神谷刹那かぁ…。良い名前じゃないか。きっと優衣の願う通りの子供になってくれるよ。何たって俺達の息子なんだからな」

 

「そうね。でも別にそうならなくても良いの。この子が元気でいてくれるなら、私はそれだけで幸せ」

 

「そうだな。これから先どんな未来が待っていても二人で見守っていような」

 

「ええ」

 

 

こうして俺の、神谷刹那としての物語が幕を開けた。

 

 

side out

 

 

 

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