The Genius Jockey   作:抹茶小豆餅

3 / 5
 この小説を書き始めたとき、まだ春のクラシックが始まる前でしたよね……。
それが見てくれ、もう秋のクラシックが始まろうとしてるんだぜ……。
いやあ、時間の流れって早いなあ(白目)


 と、冗談はさておき、本当にすみませんでした(土下座)
リアルの事情がありまして、モチベーションを保てなくなっていました……。
 と、謝罪はまたお知らせにでも書かせてもらいます。ここに書くのは何か違うと思うので。


 秋華賞が来週始まりますね。シンハライトは回避ですが、牝馬三冠最終戦を取るのは誰なのか……見物ですね! 桜花賞馬か、新鋭か……。


天才は、虚ろに日常を過ごす

 

 

 競馬というコンテンツが世間に与える影響というのは本当に微々たるものだ。競馬を見ているという人間は、この日本に1割もいないのではないかと思う。

 

 

 また競馬を知っている人間も、騎手が1人表に出てこなくなったとしても、時が流れるにつれて徐々に記憶は薄れゆくものである。当初は騒がれたとしても、半年余りが過ぎれば落ち着きを見せるものだ。

 

 

 普通であれば……だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

『阪神JFも終わり、いよいよ来週は有馬記念です。今年を占う競馬の祭典、皆さんの夢を乗せた16頭の優駿が中山の舞台で躍動することでしょう。

 

 そして同時に、去年競馬界を震撼させた天才ジョッキー、結城騎手が突如姿を消してもう半年が過ぎようとしています。皆さんの推測では落馬負傷で復帰が遅れているとみているようですが……なんにせよ、この競馬界にもはや結城騎手はなくてはならな――』

 

 

 そこまで聞いてテレビを消した。

 

 

「……俺は、そんなに持ち上げられるようなジョッキーじゃないさ……」

 

 

 虚ろに、そう呟いた。

 あの日病院を退院して以降、響はトレセンにも競馬場にも顔を見せていない。調教に乗ってもいないし、レースにも出てはいない。

 

 

 もう乗る意味がない。乗りたいという気持ちが湧いてこない。怠惰に朝食を食べ、適当に街をぶらつき、適当に立ち寄った本屋で本を読んだり、中学時代の友達と遊びに行ったり……およそ19歳の少年が過ごしている日常を過ごしている。

 

 

 親も突然帰ってきた時は驚いていたが、理由はなんとなく分かっていたのだろう。母は優しく、いつまでも家にいたらいいと言ってくれた。父も多くは語らなかったが、響の好きなようにさせてもらっている。ただ少し、寂しそうな顔をしていた。

 

 

 あれほど常日頃、馬の事を考えていたのが嘘のような日々。親の気づかいに甘えて何時しか半年もの月日が流れた。

 

 

「ん?」

 

 

 今日も街をぶらつくかと腰を上げたとき、机の上の携帯が震えた。

 

 

「……」

 

 

 ディスプレイには藤原先生と記されていた。響はちらっと見て、胸が締め付けられる気がした。

 響が逃げたあの日から、欠かさず連絡を寄越してくれる先生に、申し訳なさと自分の意気地のなさ、諸々の負の感情が響を束縛している。

 

 

 やがて、携帯は震えなくなった。

 

 

「先生……」

 

 

 ポツリと言葉を落とした。

 するとその時、再び携帯が震えた。だが2度震えると、再び携帯は落ち着きを見せる。

 これは今までにないことだった。普段なら、一度電話が入ったあと震えだすことはないというのに。

 

 

 何かとディスプレイを覗くと、不在着信と新着メールの着信を示すマークが点滅していた。

 

 

「メール? いったい誰から……」

 

 

 もしかしたら中学時代の友人から遊びの誘いかな? そう思いメールを開こうとして、手が止まった。

 

 

 

「藤原、先生?」

 

 

 

 電話しかしない藤原からの初めてのメール。そこにはいつもの負の感情ではなく、なぜ? という疑問が浮かぶ。

 だがそれでも、メールを開いて確認しようとは思えなかった。見たくなかった。見てしまったら、再びあの恐怖と向き合わなければいけない気がした。

 

 

「ごめん先生、もう俺は……俺の乗った馬が死ぬところを見たくないんだ。もうあの、デスティニーのような虚ろになっていく悟ったような眼を見たくないんだよ」

 

 

 そう言葉を零して、携帯を再びたたんで、ズボンのポケットに入れた。

 

 

 いつも以上に胸に穴が開いたような感覚を覚えつつ、街をぶらつくためのズボンにパーカーと言ったシックな装いに身を包み、玄関で靴を履く。

 

 

「行ってきます」

 

 

 そう言って、ドアを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

「よお響、やっと見つけたぜ」

 

 

「ッ!?」

 

 

 瞬間、ドアをバタンと勢いよく閉めた。奥の方から母の非難の声が飛んでくるが、今の響にとってそんなのはどうでもよかった。

 

 

(な、何でこんなところに――先生がいるんだ!?)

 

 

 そう、先ほど家の前に立っていたのは藤原だった。調教で朝早くからトレセンにいるはずの藤原が、なぜこんなところにいるのか。そもそも顔を合わせたくないとか、いつも連絡に出なくて合わせづらいとかいろいろな感情がごちゃ混ぜになっていた。

 

 

 こうなると、外出するという選択肢は無くなっていた。出ていかなければ、先生も諦めて帰っていくだろう。何をしに来たのかは知らないが、とにかく会いたくなかった響はガチャリと鍵を閉め、念のためチェーンを掛けてリビングへと向かった。

 

 

 しかし、リビングのドアを開いた先に、信じられない光景が広がっていた。

 

 

 

 

「あらあら先生、もうよろしいのですか?」

 

 

「いや奥さん、もうとは言いますが、すでに紅茶15杯くらいは体に入ってしまっているのですがねぇ……もうタプタプですよ」

 

 

「あらあら」

 

 

「いやあらあらじゃないよ!! 母さん何してんの!?」

 

 

「あら響、出かけるんじゃなかったの? それに人を指さすんじゃありません。母さん、そんな子に育てた覚えはありませんよ?

 

 

 あ、そうそう先生聞いてもらえます? 小さいころの響はそれはそれは泣き虫でしてね。何かあるとお母さーんって」

 

 

「かあああああああああああああああああさんんんんんんんんんんんんん!!??」

 

 

 このままだと人の黒歴史をべらべらと喋りかねないと、響は近くにあったレシピ本を投げつける。その本をキャッチし、流れるようにキッチンの方に投げ返し、レシピ本を固めてある本棚に見事吸い込まれていった。

 

 

 いや、そんなことはどうでもいい。そんなのは今に始まったことじゃない。

 

 

「せ、先生、どこから入ったんですか!? 玄関のドアにはカギを」

 

 

「そこのベランダからちょちょいっと」

 

 

「不法侵入ですよ!?」

 

 

「んなもん、お前に会うためだ。それくらい何でもない」

 

 

 何でもないって……何でもないって……。

 

 

 響はぐっと拳を握りしめ、蚊の鳴くような声でポツリとこぼした。

 

 

「……何で、来たんですか」

 

 

「そりゃお前、可愛い可愛い教え子を迎えに来たんだろうが」

 

 

「ッ!! い、嫌です……」

 

 

「――というと思ったからな。今回の目的はそうじゃない。奥さん、ちょっとこいつを借りていきますね」

 

 

「あらあら」

 

 

 いやそれ返事じゃねえから!! とか思っていると、先生はおもむろに俺の手を掴んでベランダに向かい、出る前にご馳走様でしたと一言言って、響と出ていった。

 

 

「ちょっ!? 先生、いったい何なんですか!?」

 

 

「あん? お前は黙ってついてくりゃいいさ。心配すんな、取って食おうってんじゃねえから」

 

 

 そして家の前に停めてあった車の助手席に響を投げ入れると、バタンとドアを閉め、藤原も乗り込んで、すぐさま車を発進させた。

 

 

 その最中、響はこう思った。

 

 

 

 

 

(あれ? これって普通に誘拐なんじゃ……)

 

 

 

 

 




 いやあ久しぶりの解説コーナーですね。とはいえ用語は出てきていませんが。



トレセン……トレーニングセンターの略称。主に関西の栗東と関東の美浦に分かれる。
競走馬を一か所に集め、合理的に調教する施設。


阪神JF……阪神ジュベナイルフィリーズのこと。元々は阪神3歳ステークス(芝1200m)で始まり、1991年に条件を3歳牝馬、名称を阪神3歳牝馬ステークスに変更された。そして今の名称に変更されたのは今の馬齢表記に変更された2001年。この時に名称も阪神JFになった。


有馬記念……中山競馬場で年末に行われるG1レース。俗にグランプリと言われる。距離は2500m。1956年に中山グランプリとして創設され、翌年、名称を今の有馬記念に変更される。詳しくはwiki参照。


 と、書くこともないのでレース解説を軽く交えてみました。
 この馬齢表記が変更されたというのは、元々今の2歳のことは3歳とされていたんですね。
 当時は当歳と呼ばれず、数え年を用いていて、生まれた時点で1歳だったわけです。
 でも国際的には生まれた時点では0歳とそこから数えていくので、1歳ずれていたんです。
 それで混乱を避けるために、2001年から国際表記に改めたわけですね。

 ちなみにこれにより、2000年阪神3歳牝馬ステークス優勝馬、テイエムオーシャン号は、この年の最優秀3歳牝馬賞を受賞。翌年馬齢表記の変更により、テイエムオーシャン号が2年連続で最優秀3歳牝馬賞を受賞するという珍事も起きたそうです。


 こういった歴史を知っているのも面白いですよね。今後も解説の後に交えることができたらと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。