「私の部屋にようこそ、お姉ちゃんに新人さん」
一寸先の暗闇の向こうで声がする。吸血鬼であるレミリアと吸血鬼だと言っていた妹のフランドールにはこの闇は昼間と変わらずに見えているのだろうが照には全くと言っていいほど見えない。
「お初に御目にかかります。照ともします。最初に言って置きますが私は餌でも、畜生でもありません」
殺す意志が四肢を生やしたのか、それとも殺す心が体現したのか分かりはしない。ただ、照にとってそう言っておかなければ殺されると本能が告げていた。
照の体は震えあがった。肌は鳥肌に毛は逆立ち針のような鋭さに関節の節々がギチギチと音を立てる。
「一緒に遊んでくれるのかしら?」
コインの音がした。
鋭い八重歯が見えた気がした。荒々しい息が目の前で吐かれた気がした。
――気のせい。
「いくら出すのですか?」
「コインいっこ」
「一個では人命すら買えませんよ」
どこに誰がいるかなど分かるわけはない。
「あなたが、コンティニュー出来ないのさ!」
気が付くのが遅かった。照は人間、フランドールは――吸血鬼。鬼。
照が理解不能だと言葉に表す前に右腕が吹き飛んだ。
「あがっッ!」
消えた腕がどこかにいったのかもしれない。吹き飛んだのかもしれないだが、照は左腕で右肩を押さえた。痛みを抑えることもあるが本当に右腕が一瞬にしてなくなったのか確かめることもあった。
考えが甘かったと照は思った。何百年と閉じ込められていて精神が崩壊してない訳が無い。この牢獄から抜け出す手立てもあっただろうが脱け出していない。
餌だけ与えられて畜生のような育て方をされ続け怨んでいるのだろう。いや怨まない訳が無い。姉の存在を怨んでいてもおかしくはない。その姉が連れてきた新しい人間の従者。咲夜も人間だがあまりフランドールのことは話してはいなかったつまり、知ってはいたが遭遇はしていない。それに咲夜自身からフランドールのことは照は聞いてはいなかった。
「お、お止め下さい。フランドール様」
静止しても無駄である結論は照の脳内がすでに導き出ている。
「フランでいいよ」
「ッツ!」
すぐに転がってフランのなにかしらの攻撃を避けた。爆発にも似た音がすぐ横から聞こえた。
「私は待宵照と申します。照と以後お呼びください。フラン様」
ゆっくりと立ち上がり左手にスペルカードを出現させる。
《源符「弾幕」》
波動が照を中心として四方八方に広がりを見せる。照の持ちカードとしては最高のカード。
「何これ、力がおかしくなった?」
「そうですよ。この《源符「弾幕」》は発動中、いかなる弾幕も弱体化し、能力の使用を制限します。要は強制的に『弾幕ごっこ』をやらされる訳です」
「面白いもの持っているのね」
「御褒めに与り光栄の至りです」
皮肉を少し込めた。こんなことをしても何も変わらないだろう。
「明かりを付けていただいてよろしいですか?」
「うん。面白いから良いよ」
カチッと音がなると先ほどまで暗かった部屋に明るみに出る。
目が慣れるまで数秒かかるもその間にフランの攻撃はない。明かりにようやく目が馴染を見せたところ、すぐさま右腕を見る――なかった。
「他にスペカ(スペルカード)はあるの?」
視線を照の主に戻すと、そこには一人の可憐な少女が立っていた。服は全体に白と赤を特徴としたレミリアに似た服装、髪は活発的なイメージの金髪ショートカット。吸血鬼の象徴である羽はレミリアとは違い一本の枝らしきものが横に伸び果実のように虹色のクリスタルをぶらさがっている。動くとそのクリスタル同士がぶつかり独特な音を出していた。
「えぇ、色々ありますが《源符「弾幕」》を受けた対象者のカードを使えるようになりますので」
「へぇ、それは私のカードを把握したと言うこと?」
「えぇ、一応はそう言うことになります――」
フランは広げた手を見せつけるように照に向けすぐさま握った。
それが、フランドール・スカーレットが身につけている能力、ありとあらゆるものを破壊する程度の能力の使用なのだと照は理解した。
この《源符「弾幕」》を壊そうとしたのだ。
「それは壊せませんよ。フラン様」
「そう見たいね。でも、照は壊せれるでしょ?」
《禁忌「レーヴァテイン」》
フランが取り出したるは一本の杖。どこまでも黒く歪んだ杖だ。能力では無理と判断し物理で攻撃という判断で出した武器。
照に向かいフランは飛んで向かってくる。
「死にたくはないので避けます!」
杖を振り上げ斬りかかろうとするのを照はバックステップで避ける。
照はフランの顔を見ると笑っていた。瞬間、照は罠にはめられたと悟る。
《禁忌「フォーオブアカインド」》
照の視界に四人のフランドールが写る。分身し、距離を強引に詰めたのだ。
しかも、分身は横に広がるのではなく、照とフランの間を埋めるように縦に分身をした。
斬りかかるモーションのまま距離を詰められた。
「源符の影響を受けたのはフラン様だけではありませんよ」
《神槍「スピア・ザ・グングニル」》
照は切りかかってきているフランの分身に左手を向けて真槍を出す。形成されていく槍はフランの分身を貫き、形を成した。姉の鮮血の神槍がフランの目に映る。怨むべき姉の槍をアイツは持っているのだとフランは自身に言い聞かせ、答えが返ってくる――殺せと。
「久々に面白いよ。照」
「……私としては貴方の従者になりたいだけなのですよ」
いつまで自分が持つだろうか。血が出過ぎて思考回路が閉じ掛っている。足も段々言うことを聞かない。照は追い詰められた。
純粋なる吸血鬼と人が対じ出来るわけがはなからない。単純なるスペックが足りない。力も体力も腕力も筋力も反射神経も飛行能力も全て違う。
妖怪は人を恐れると言ったが八雲紫の存在が大きいから、本来なら妖怪は人を餌や恐れを抱く対象ではない。人が恐れる対象だ。
左手から真槍が落ちる。
(もう、力がでない)
「もう終わり? つまらないわ」
ゆっくりとフランは照により、剣が届きそうな所で立ち止まり照の顔を見た。
「おやすみ。人間さん」
照の左腕が斬り落とされ、そのまま心臓に落ちていた真槍を拾って突刺した。
照はゆっくりと膝から崩れ落ちる。
(私は……こんなところで……死にたくない……。道を間違ったのかな……。ごめん、先代様)
冷たい床がどことなく温かく感じた。
――照はよくがんばった。少し休んでいろ。なぁに、目覚めた時にはひと悶着終わってるよ。
「先代……様……」
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