目を覚ますとフランが日傘を持って心配そうに照を見ていた。
照は起き上がると服装を正しフランを日避けのあるテーブル席に案内しフランを座らせた。
テーブルの近くには先ほどまでなかった茶やお菓子などが積まれたワゴン車が近くにあった。
咲夜が用意してくれたのだろうと照は内心で感謝の意を伝えほうじ茶と煎餅をテーブルに置いた。
「……これは、有りなのか? 洋館で洋の景観の中でこれは……ありか……」
「フラン様、私の顔になにかついていますか?」
「紅茶じゃなくてほうじ茶と煎餅を私に出したことを除いて。倒れていて心配しないわけがないわ。私のたった一人の専属人間従者なんだから……」
どうして倒れたのか照には解らなかったが、主を心配させてはいけないと大丈夫そうに装った。装ったと言ういい方は語弊があるかも知れないが、右腕と胸部の中心部分が耐えられるほどの痛みがあったからだ。
耐えられるといっても大丈夫のように装うのが精いっぱいの痛み。
「いいんですよ、私は幸せ者です。捨て子からあの紅魔館の従者になれるなんて思いもしません。こんな幸せな時があるのにどこかで無理をしない訳がありませんよ」
フランは首を傾げた。人生の長さで言えばフランの方が段違いに長いであろうが人生経験ともなれば別だ。照の方が圧倒的に幻想郷の状況も体験した挫折も多い。
言うなれば照の言葉は経験の積み重なった者でしか真意は理解できない。老人が子供に人生を語るに等しい。
「難しいのは分からないけど、照が今、無理をしているのはわかるよ」
「鋭いですね。隠しても隠しきれませんでした。咲夜さんみたいに瀟洒とはいきませんか」
「そこは私との主従関係の深さをまずわかるべき」
「それもそうですね」
フランが一枚、醤油味の米菓煎餅を手に取りバリッと音を立て食べた。口の中でボリボリと音が鳴るがそれも美味しさの一つだと考えるべきだろう。
一枚の煎餅を食べ終えると口の中に醤油の塩辛さと焼き醤油の香りをリセットするかのように冷たいほうじ茶を飲む、水だしのほうじ茶の苦みとせんべいが残した甘さを中和させ、丁度よいぐらいになる。ほうじ茶をもう一口飲めば口の中はほうじ茶の苦みとあの独特な味でいっぱいになる。
「ありね。洋の中で和を堪能するって、でも、そもそも、ワゴン車にこれを入れてある咲夜も咲夜よね」
フランがほうじ茶の入った湯呑を置く、純白のテーブルクロスの上に置かれる湯呑と煎餅。
「和洋折衷が曲折した完成形かもしれませんね」
「言い回しがなんだがネタを狙っている感じ」
「狙っている感じが否めませんでしたね。改善しましょう」
そんな幻想郷ではありふれた一場面にレミリアが慌しい形相で羽をパタパタさせ飛んできた。
お付きである咲夜はレミリアに日の光が当らないように日傘をさしながら並行している。瀟洒なメイドの姿がそこにある。
フランが座っているテーブル席の手前で飛ぶのを止めゆっくりと着地し身だしなみを整えて席にレミリアは着いた。
咲夜はすぐさま紅茶とスコーンをレミリアに出した。
テーブルに煎餅、ほうじ茶の入った湯呑と紅茶の入ったティーカップ、スコーンが並んだ。
「か、完璧な和洋折衷曲折の究極形ですね……フラン様」
「ちょっと長く持ちすぎよ。照」
フランと照の何気ない会話をレミリアは聞いてはいない。息を整えるのに専念していたからた。
レミリアが息を整え開口一番。
「こ、こんな所で奇遇ね」
嘘だと照もフランも知っていたが話を合わせる。
「奇遇ですねお姉様」
軽い会釈を照がするとレミリアは手で「顔を上げて」と指示した。
「ところで、フランはいつ照と仲良くなったの?」
「お姉様が照を紅魔館につれてきた頃からじゃない。私が専属従者に照を指名した時も横で見ていたお姉様がそんなこと言うの?」
照も首を傾げ咲夜も捕捉するようにフランの言葉は正しいことを耳打ちする。
――この場で違和感を覚えるのはレミリアだけであった。
他の者に同じ様に照とフランの関係を聞いても同じ答えが返ってくるだろうとレミリアは理解した。
ズレを認識できたのはレミリアただ一人である。だが、そのズレがなんであるか、どうしてズレが起きているのかはレミリア自身も分かっていない。ただ、なにかがおかしいと言う感覚。
皆に分からぬズレ、ほんの少しいつもより反応が遅い両手の掌を見つめレミリアは考える。
脳内が疑問のヒントになるかもしれない人物達をぼやけた写真のように出す。
彼女達なら答えに近いものを出してくれるのではないか、なにかしらのヒントを出してくれるのではないかと淡い期待を寄せた。
その人物達は。
一人は紅魔館のもう一人の住人であるパチュリー・ノーレッジ。
もう一人は幻想郷の管理人である八雲紫。
「差し出がましいかもしれませんが、レミリア様。どうか成されましたか? 私の顔ばかり見て」
レミリアの最大の懸念点は照の存在である。なぜかレミリアの本能に近いなにかが先ほどから警鐘を鳴らすのだ。
照は信用できるが、ズレとは関与させてはいけない気がした。そう言う意味での警鐘なのかもしれない。
照は不思議そうにレミリアの物思いにふける顔を見る。咲夜は何事もないかのように先ほどから動かないが度々時を止めて紅魔館の掃除に勤しんでいるのか汗や息の上がりが見えた。
時を止めると言ってもなにかしらのデメリットがあるのだろうと照は思った。
「フラン。私が外出している間に照を貸して貰っていいかしら?」
レミリアは考えることが終わるとフランに照の貸出を要求した。フランは不服そうに顔色を濁したが要求に答えた。
「私からしたら絶対嫌だけど、お姉様の言うことだから許可するけどそこまで長くは借りないでしょ?」
「えぇ、しないわ。最長でも一日よ」
「うん。なら照がいいならどうぞ」
「拒否権があると見せ掛けて実はないじゃないですかってネタで返すか、フラン様の気持ちを無碍にはできません。いきますの、二択で悩んでいるんでもう少し待って下さい」
このとき照を天然と思ったのは咲夜も含め全員だったが照が知る由もない。
当然、この後に照がレミリアに貸し出されたのは言うまでもなかった。
毎回サブタイトルには意味が有ります
話を読んでからタイトルを見ると「あぁ、そう言うことか」となると思いますよ
今回のタイトルもそう言った意味ではおもしろいタイトルですよね。
まず、あとがきから読んでいる方はこれを読まずに本作品を一番最初から読んで下さい。作者である私との約束ですよ!