東方慟哭観   作:えのころぐさ

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思考の錯誤

「照、今日の仕事はおやすみとするわ」

「……え? おやすみですか?」

 突発的なレミリアの言動にはなれていたつもりであった照だがまさか休みを与えられることまでは予測は出来なかった。

 照は呆けた声を上げた口を隠すように手を当て、すぐにレミリアに謝った。

「そうよ。まぁ、色々やりたいことをやるんだったら今の内にやって置いてという話よ」

 と言われてもやることがない照である。

 そもそも、親のように育ててもらった先代も他界し住んでいた家は妖怪のたまり場となっていた。

 帰れる場所などありもしない。

 ふと、空を見上げると一つだけ、やりたいことが見つかった。

「レミリア様、命蓮という御方を知らないでしょうか?」

「う~ん、昔にそんな僧侶が居たような、いなかったような……、命蓮寺にいる聖白蓮って僧がいるから行ってみたらどうかしら?」

 命蓮寺というお寺が村人たちから人気だとは照は昔に聞いた。

 なんでも、毘沙門天の化身の妖怪が人間側に付いているからだとか、『宝塔』という宝を持って要るだとか噂程度ではあるが要は、人間側でありながら妖怪側だと言う不思議な駆け込み寺。

「なるほど、では、行って参ります。お土産はなにがいいですか?」

「あぁ、いらないわよ。あの寺に住んでいる奴は嫌いなのが多いのよ。運命的に私は好かないわ」

 運命的に嫌いとレミリアはいうが今から用事で向かわなければならない照からすれば複雑な心境だ。だがしかし、人に好かれようと思わないレミリアらしい返事である。

「照。これだけは言っておくわよ。紅魔館の従者だと他人が居る所、ましてや人里やあの寺では絶対に言っては駄目よ」

「どうしてですか? 私はこの仕事に誇りを持っています」

「いいかしら、誇りなんて持ってようが人里は私達にとって『餌の保管庫』なのよ。紫との昔かにかわした協定が有る以上私はそこには干渉できないけど、協定が有る前は相当名を轟かせた存在だとは自負しているわ」

 レミリアは『妖怪に仕えている』ことを忘れてはいけないと言っていた。妖怪は人を食らう。人にとって負のイメージの塊が妖怪であると言える。そんな負に付き纏う従者など人からすれば恐れる対象以外何が有ろうか。

「今の幻想郷はおかしいわ。どこかいつもと違う感じ、照はわかるかしら?」

「今もおかしいですよ」

 レミリアの『おかしい』とは、先ほどから感じているズレを示す言葉であるが、照を含めこの場に居る者達はそもそもそんなズレは認識できてはいない。

 両者とも違った意味を持った言葉が違うことのように聞こえるがレミリアが抱える疑問の回答としては正しかった――今の幻想郷がおかしいのだ。

  数十秒の沈黙が二人の間に停留する。

「……そうね。今に限ったことじゃなかったわね」

 なんとしてでも、ズレの原因を突き止めようとレミリアは思う。それと同時に、照はこのズレに対して関わらせるのは危険だとも頭の隅に記憶した。

 照は無邪気だ。それは他者が認めるほど行動の一つ一つでさえ邪鬼は感じられない。だが、真底にあるものが見えてこない。無邪気なものは天真爛漫とまではいかずとも明るく軽い印象を与える底が見えるとも言えよう。

 氷の妖精チルノがその代表だと言えるが照の場合はどうだろうか、時々だが何かを隠している目や言えない過去がある目をする。巧く心を隠しているとレミリアは思う。

「なにか引っかかるような言い方をなさいますね」

「そうかしら? 気にし過ぎよ。もしかしてつかれているんじゃないかしら」

 レミリアは飛び照と目が合うほどの高さまで上がると手を肩に置き言った。

「疲労感は無いのですがね。今回の休暇はしっかりと休みます」

「それはよかったわ」

「ですが、フラン様はどうなさるのですか? 専属の私がいないと駄目とはいきませんが従者としてなんというか主人を無防備にさせるのは気がひけます」

心配そうにフランを照は見る。性格が性格だけにあまり外には出ないフランではあるが最近になって外の楽しさを知ったのかいつの間にか紅魔館前にある湖で遊んでいたりもする。不安で、不安で仕方が無い顔をレミリアに向けるが、「安心して、今日は美鈴に付いて貰うから安心しなさい」とレミリアはすぐに告げた。

照は安心したのかレミリアに一礼し小走りで紅魔館の門を通るとすぐに幻想郷では見馴れた飛ぶ能力を使用し飛んで行った。

 鼻歌交じりと共に裾がなびく照のメイド服。心地よくこのまま寝てしまいそうなほどのまったり緩やかな向かい風。旋回やローリングを繰り返した。

とくに速くなるわけではないが照は子供のようにはしゃぎたかったのかもしれない。紅魔館が嫌だったと言う訳ではないが心神の解放とでも言うべきか、従者になってから久々の紅魔館の外なのだから気持ちが高ぶるのはもはや当然のことかもしれない。

 空を眺めているとよく妖怪や時々人が飛び交っている。幻想郷の住人は飛べる者が多く飛ぶ行為は素早く目的地に到着できる画期的な移動手段だ。だが、照の場合はそんな都合のよいものではなく異なりをみせる。飛ぶ距離に比例して空腹を覚えてしまうのだ。照の飛行は他より格段と速いわけであるが割に合わない力だ。だから、いつでも歩けるようにと誰かが歩いて作った道を地面とギリギリの高度で飛ぶのだ。それが照の飛行の特徴だ。

 曲がりくねった林道を抜けると人里がそう遠くない場所に見えた。

 速度を落としゆっくりと地に降り立つ。不思議とメイド服は汚れてはいない。照の飛行技術の高さの賜物だろう。

 数分、進むと見馴れた人間の里があった。

(ここに来るのはいつ以来だろうか) 

 活気にあふれ、多くの有名な妖怪達が足を運んでくる場所。人間は見ない妖怪には警戒心を抱くが昼間から飲み屋に入り浸る鬼や花屋の前で色々な花を見つめ愉悦に浸っている幻想郷最強の一角を担っている妖怪には警戒は抱かない。

 まったくもってこの里は変わりない。変わってほしくはないのが照意見だ。

 そんな人里は出会いにあふれている。

「まさか、貴方がいるとは思わなかったです。『名無し』さん」

 照に話しかけた人物。稗田家が当主の稗田阿求その人だった。阿求は人里では有名な名家であり、妖怪について詳しく記してある『幻想郷縁起』を編纂する担い手だ。

 背は低く髪は菫のセミロング。服装は萌葱の長着の上に袖の部分に花が描かれた黄色の着物、下は赤い女袴。彼女のトレンドマークな服装だ。

「お久しぶりです。その節はどうも助けていただきありがとうございました。阿求さん」

「いいのですよ。それより、随分と綺麗な服装と顔立ちをするようになりましたね。『名無し』さん」

「いい職に巡り合えたものですから、それと、私は名無しではなく今は待宵照と名乗っています」

「転機がやっと来たのですね。私としては嬉しい限りですよ。照さん」

 阿求は懐から二つの書物を取り出し照に手渡す。

 受け取った二つの書物は『幻想郷縁起』と書かれた物と名前が無い書物。名前のない方を見る誰かは分からないがとある人間種らしき迷子について記してあった。

「これは?」

「コレから出そうと思う書物ですよ。タイトルはまだ決まっていませんがやっと決められそうです」

 疑問符が浮かぶ照の顔を笑う阿求は何かを思い出したかのように『また会いましょう』と言い残し人ごみの中へと去っていた。

 一拍置いて、照は気付く。

「……しまった! 阿求さんなら命蓮寺について知っているんじゃないですか!」

 阿求が行った方へと照は大急ぎで向かったがキツネに化かされたように何処にもいなかった。

 手にあるのは二つの書物の『幻想郷縁起』を取りあえず読みながら当てもなく歩いてみる。

 『幻想郷縁起』にはレミリアのことを含めて色々書いてあった。まだ出会ったことのない妖怪からすでに友人の中になった者まである。偏見も少しあるが目をつむればいい本である。

 読み進めて行くと命蓮寺に居る妖怪についてという項目があった。

 なんでも命蓮寺には虎丸星という有難い能力の持ち主を信仰の対象している。人と妖のどちらにも平等に接していると記してあった。

「ふむ、ふむ。なるほど」

 接し方や阿求なりの視点での印象など詳しく書いてある所を見ると虎丸星は良い妖怪らしく宝塔が大切らしい。

「一度会ってみたいも――」

「おっと、ごめんなさいね。前を見ていなかったもので」

 照にぶつかった者はすぐに尻もちをついた照に手を貸した。起き上がり手を貸してくれた者を見ると一人の女性の僧侶が心配そうに見ていた。

僧侶と言っても格好からすれば遊行僧だろう。しかし、笠はないところを見ると遊行僧でもないのかもしれない。

容姿は金色を元に紫の色合いが組まれた肩より長いロングウェーブの髪。目は金色に近い瞳。服装は白黒のゴスロリ風のドレス姿に表地が黒でありながらも裏地が暗い赤のマントをはおり、黒くも白のラインが入ったブーツをはいている。右手には錫丈を持っていた。

 照は服に着いた土を払い。自分も前を見ていなかったと頭を下げた。

 すると、僧侶は慌てふためき頭を上げるように言う。

「ごめんなさいね。服を汚してしまって」

「いいんですよ。洗えば済む話ですし」

 僧侶の照に対する心配そうな目は止まない。これ以上、そんな目で見られると照の良心が痛む

そこで、話題を逸らし、止める為に提案を照はする。

「そうだ。今、あるところに行こうとしているのですが、そこは最近できたお寺だそうなんですがどこか分からないんですよ。そのお寺の名前は『命蓮寺』というらしいのですが……、わかりますか? 良かったら教えてもらえないでしょうか?」

 にこやかに僧侶は答える。

「そこは私の我が家ですから、案内しましょう。私は聖白蓮、白蓮でも聖でもいいですよ」

 思考が落ちる音が照の脳内に響きわたる。考えようとするもしようとすれば鍵がかけられたように出来なくなる。

「あの、大丈夫ですか?」

「は、はい。大丈夫です。聖さん。私は待宵照と申します」

「よろしく。照さん」

 レミリアに言われた命連については白蓮に聞けばいいということを思い出す。

(この人が聖白蓮さんか、命蓮さんの事は知っているのだろうか……)

「あの、聖さん。聖命連さんと言う人を知っておられますか? 私の先代から託された巻物みたいなものを渡す様に言われているのです」

 照は両手を合わせ、呪文を唱えるとそれは音もなく出てきた。黒く細長い筒を聖に見せる。

「えぇ、誰よりも知っていました。だって、命連は私の弟でした」

 だったと言う言葉から照は察する。死んだのだと。口籠ってしまいそうになるが自分以上に前にいる聖の方が辛いのは明らかだ。

錫丈が手から離れ、聖と同じようにへたりこむ。今にも聖は泣いてしまう顔を両手で隠し必死にとどめていた気持ちを押し殺そうとしていた。照はそんな彼女の肩に手を置き、諭すように言う。

不思議とその声は包む様な温かさを持ち合わせていた。

「詳しい話は命蓮寺でお話してもよろしいですか? ここでは落ち着かないでしょう」

「……はい。そうしましょうか」

 聖が押し殺した涙が雨となって降り注ぐ。

「雨も降ってきましたし急ぎましょうか」

 笠がない聖の為に照は雨傘を筒を出した時のように取り出した。

 取り出した雨傘は二人が入れるほど大きくはないが、照が聖を背負うことでその問題は解決する。

 聖は最後まで照だけが雨傘を使えばいいと強情を張っていたがその照の提案で強情は緩みなくなった。

「いつ以来でしょうか、誰かに背負って貰うのは……」

 照が聖を背負い、聖が傘を持つ役割。

「人は誰かになにかを背負って貰う時が絶対あるのだと私の先代様が言っていました。時には背負って貰うのも悪くはないでいしょ?」

 彼女達二人に心の壁はなかった。

「なぜでしょうか、照さん、貴方は初対面と言う気がしないのですが、どこかでお会いしました?」

 それは照も思っていたことだった。

「私もそう思います。聖さんとは初対面だと思えませんよ」

 なんとも奇怪なことだろうか。二人は命蓮寺に着くまでに自身のことについて話し合った。

 気が合うという点もあったのだろうが仲は見る見る内に良好な関係へと変わって行く。

 聖は照の出会いを運命的な出会いだったと言ったのはそう遠くはない未来だ。

「しかし、今日の雨は赤い色をしていますね。なにかの予兆でしょうか」

 

 予兆と言う言葉を当てはめるには遅すぎるのを幻想郷にいる誰も知らなかった。誰もが気付いていない事件がすでに次の段階に入っていたことなど誰も知るワケがなかった。

 霊夢でさえこの変化には気づいていない。

 気付いているのは事件を引き起こした当事者達だけである。

照の深層にいる。『なり損ない』と『紅白』だけである。

 




今回は長くしてしまいました。
2000文字ぐらいにして更新ペースを早めようとした結果がこれです。
……すいません。書くのに夢中で投稿を忘れていました。
話が加速する! 加速する! 詐欺ぽいですがまだまだ起承転結の起です。
感想・質問などあれば書いて下さると必ず返答しますので

一章9節のサブタイトルの意味がようやくここで回収されます。
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