東方慟哭観   作:えのころぐさ

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前回の訂正。 寅丸○ 虎丸×
ほんとすいません。


過去情報媒体テレポーテーション

 雨の中、聖が指で指示する方向に歩いて行くと賑やかなお寺と長そうな石段が見え始めた。道中、何人かの人間と妖怪にあいさつをされたが彼等があいさつをしていたのは照が背負っている聖に対してだった。

 人脈が広く人格が良い証拠だろうが他にも人気の要因はありそうだ。これを羨ましいと思わない者はいないだろう。かくゆう照もその一人だ。

 白い石段を登り続けやっとの思いで命蓮寺がみる。脹脛から発せられる疲労が今まで何段を上ったのかを教えてくれる。

 飛ぶのもいいがそんな気にはなれない。聖との時間が彼女には楽しかったのかもしれない。

 赤い雨はまだまだ降る。

「赤い雨を実は私は体験したことが一度だけですがありますよ」

「一度あるのですか?こんな雨が降った幻想郷に」

「えぇ、弟である。命蓮が死んだ時に確か降っていました。今見たくいつもの雨ではなく、もっと深々と降っていました。幻想郷が弟の死に対して泣いてくれていると思っていましたが、そうでもないと今は思えます。ですが、雨が降ったことは私の死に対する恐怖を異常なまでに駆り立てました」

 聖がここで人生をなぜ語る のかは分からない。ただ、聞いてくれる人が居たからかもしれない。

「今でも死は怖いですか? 私は怖くはないですがなにも残していないことと主を残して先に逝くことだけは怖いです」

「強いのね。照さんは」

 「そんな訳がない」とは言えなかった。自分は数週間前までは死にたがっていたとは聖が持つ自分の印象を踏みつけてしまうそれだけは避けたいのが今の照である。

「……ほら、つきましたよ」

 雨はやまぬままに命蓮寺に着いた。門は大きくも威圧は感じられず逆の寛容さがある。

 門が見えると門の傍に傘をさしている尼の恰好をした命蓮寺の修行僧がこちらに気付く。尼は聖とは服の色が異なっており青色が主体で頭巾を深く被り顔を隠している。

 上着は雲のように白い長袖、スカートの上は白のままだが下は藍色と二色に分かれており白色と藍色の境目は浮雲の紋様が施されていた。チラリと見える靴下は灰色で靴は珍しい黒い靴だ。

「姐さん、どこにいっていたんですか」

 聖は照の背から降りると服に着いた水滴を払うと水滴は服には付着せず色もつかないまま聖の右手の上で眼球ぐらいの大きさに集まる。それを聖は水路に投げ入れた。水の球体は水路に入るまで形を留め、水路に入ると音もなく崩れた。

 照についた水滴も同じ要領で取る。

「布教活動もありましたが野暮な用事がありましてね」

「そうですか、ならいいのですがそちらの方は? 入信者ですか?」

「いいえ、命蓮のことでなにかあるようなのでここに連れてきました」

 合点がいったのか修行僧がポンと手を叩いた。

 修行僧は照に体を向け、自身の名前を言う。

「初めまして、私は雲居一輪、隣にいる入道が雲山です。今後ともよろしく」

 一輪の右肩上に雲山と呼ばれる入道がいたことにようやく気付く。

「私は待宵照。従者をしております」

「一輪、すいませんが私と照さん二人だけの部屋を用意できますか? 誰も入れない部屋が好ましいです」

 聖は一輪の予想より早急に解決したい話だった。一輪からすればこの照と名乗った少女を今まで見たことがない。ましてや、メイド服を着て従者と肩書を持っているのならあの館の関係だ。

 だがしかし、接点がない。紅魔館と命蓮寺、或いは聖自身との接点は経験上一輪の中にはない。

 警戒すべき人物なのか、そうではないのかと意見が一輪の中で交錯する。

「わかりました。すぐに用意しますが、寅がまた宝塔失くしたのですが、見ませんでした?」

 結論が導き出されるまでの閑話。

「そうですか」

 淡白な返事を聖はした。あまりにも淡白な返事に一輪は聞き返した。

「えっ? それだけですか?」

「他に言葉があるのですか?」

 聖に別の答えを一輪は求めていた。一輪の中での聖の姿は御人好し。いつもなら、「それは困りました。私もこの話が終われば探しに行きましょうか」とでも言って笑う筈なのに今回は違う。

 ここで一輪は気付き結論が出る。待宵照は警戒するべき相手だと。

「いいえ、ありません。姐さんの部屋なら誰もこないかと思います。ぬえにも言っておきますので入ってはこないでしょう」

「ありがと、一輪」

「……」

 一輪はただ照を見つめ、聖は照の手を引き自室へと向かった。

 依然として雨は降り続きいつになったら止むのか、もしかすればこの雨雲は一輪の心情でも表しているのだろうかと思うほど雲は灰色だが落ちる雨は赤い。

 お寺の中は意外と広くはなくすぐに聖の自室の前までついた。 障子を開け座布団を二枚と四角い小さな机を二枚の座布団の間に置いた。それでも部屋は照には広く感じたが紅魔館ほどではないことは確かであった。

 部屋の隅にある行灯に火が燈った蝋燭を入れ曇り空で薄暗くなった部屋を明るく朗らかにする。

 そこまで聖はすると一旦自室を出ると再び入ってくる頃になると両手に湯呑を持ってくると机に置いた。

 聖は座布団に正座すると照に命蓮の話をしてほしいと深い深呼吸をして言った。照も聖の遺志を聞く姿勢に入ったのを確認して話始める。不思議なことに先代からこと預かった内容を忘れず一言一句伝えられた。照からすれば別に覚えていようともしなかったし忘れようともしなかったただの記憶だったのだが鮮明にこと預かった日のことを覚えられていた。

 話をしているときの聖は喜怒哀楽の全てが見られた。全てを話終えると聖はただ一言「ありがとう」と涙を流した。

 照はメイド服の右ポケットにしまってあるハンカチをすぐに聖に差し出した。

「この黒く細長い筒は先代様からです。どうぞ受け取って下さい」

 机に照は筒を置くと聖は先ほど見たときには気付かなかった点に気付く。

 照から渡された筒はどう見ても聖が持っていた魔人経巻そのものだった。恐る恐る聖は魔人経巻似の筒を手に取ると魔人経巻と同じ要領で中に入っている情報を広げた。

 巻物から出てくる文字は聖の魔人経巻の時とは異なっていたが内容は読めた。

『命蓮からいつも慕うたった一人の家族に

 これを見ていると言うことはきっと僕は死んでいるのだろうと思う。死んでいなかったらこの先は読まないでほしい。

 姉さん。貴方はきっと死が怖くなって力を欲するのだろう。だけど、変わらずに人を助けたり、妖怪に手を差しだしたりしていると僕は思っている。合っているのかな? まぁ、いいや。

 そんなことがあってきっと僕以上の信頼関係が築けた家族ができると僕は予想しています。大切にしてね。 

  さて、色々書きたいことがあるけどこれが限界みたいだ。もっと書いて、もっと姉さんと一緒にいたかった。ごめんなさい。伝えたい事がありがとうしかないよ。ありがとう。

 僕の大好きな姉さん。 

 追記、絶対に全てを知っても幻想を憎もうと思わないで、壊させないでほしい。僕はその道を選んだのだから僕の責任だ。

それと、もし、赤い雨が降って濡れた妖怪達が出たのなら彼等の性格や力が不安定になるから気を付けて。本当に最後になった。ありがとう。ありがと――――』

 巻物を元の筒上にすると聖は机に置くと立ち上がり部屋を飛び出て雨降る外に出ると啼涙した。顔に当たり滴り落ちる赤い雨は紅涙と称しても変わりはしない。

 曇天を仰ぎ感情の丈をぶつける。

「ごめんなさい。命蓮。私は……私は……、未だに貴方を越えられない愚かな姉です。そんな私をまだ姉さんだと貴方は慕う。死んでも私の為なんかに、貴方は、貴方は」

 嗚咽が言いたい事を止め、頭の中で考えた言葉が中で発せられないと反旗を掲げる。なにを言っていいのか、何を言うべきなのか聖自身にも分かりはしなかった。

 照はただそれを見つめ、何事かと飛び出してきた命蓮寺にいる妖怪達も黙っているしかなかった。

 聖が抱えている問題は聖が解決しなければならないとどこかで理解していたからだ。

 本当の所はなにもしてやれないと知っていたからだ。

 ただただ、雨に打たれる聖を見てるしかないのだ。

 

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