東方慟哭観   作:えのころぐさ

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before it rains

レミリアは照が飛んで行くのを見送るとすぐにズレへの追究を開始した。まず、合うべき人はレミリアの中で決まっている。実行に移すのは一歩踏み出すだけだ。

 進路さえ間違わなければ解決できるであろう『ズレ』をまず何かを突き止める為にレミリアは紅魔館の中にある図書館へと足を運び図書館の出入り口である扉の前で立ち止まる。歩きはするが扉一つ一つを開けるごとに咲夜が空間を圧縮して目的の場所にはあっという間についた。扉と図書館を繋げられるがそれでは屋敷の意味がないとレミリアが咲夜に対して注意したために近道はできなかった。自分の屋敷であるからには自分で見たいのだろうと咲夜は思う。

「咲夜にだけは言って置くわ、私は多分……、紅魔館の皆を危険な目に合わせるかも知れない、家族を危険に晒すかも知れない、それでも私はこの問題を追及したいと考えているわ。咲夜は裏切らないでね。絶対」

「お嬢様が好きにして下さい。私は貴方に付き随っている訳ではありません。好きだから、家族と思ってくれているからココにいて貴方を私の力全てを使ってサポートしています。メイドですが従者ではありませんよ?」

「愚問だったみたいね。じゃぁ、行こうかしら。ちょっとパンドラの匣を開けにでも――」

 扉を両手で押してレミリアと咲夜は図書館の中に入った。図書館には彼女がいる。『動かない図書館』『一週間少女』などと呼ばれた友人。パチュリー・ノーレッジその人だ。

 図書館に入ると最初に待っていましたと言わんばかりに鼻腔に突撃してくる寺院に似た古臭い臭いが香る。いや、臭いと言うべきなのだろう。

 木質の本棚と薄暗さが空気に重さを持たせ音を圧殺しているかのような静寂。人一人いない様相でもパチュリーはいる。

「パチュリーさまぁ、『レメゲトン』が無くなっていますぅ。またあの魔女ですよぉ! あ、でも『月の涙』は大丈夫でしたよぉ」

 忙しそうに本を抱えて東奔西走する従者の小悪魔がそれを証明してくれる。小悪魔はパチュリーに一途でありレミリアは一応に従うがパチュリーと天秤で量ればパチュリーが重いのだろう。

 パチュリーがいる方に足を進ませると彼女がいる大きな机が見えてくる。

 机には本が積み重ねられ山積みと表現するにはあまりにも多く積まれている。パチュリーはほんの置かれた机のほんの小さなスペースを利用して本を読み、右手で小悪魔をあちらこちらに飛ばしてほしい本を置くようにしていた。亭主関白とでも言うべきだろうか。

「パチェ、今日は大丈夫?」

「駄目、死にそう。死なないけど」

「どうかしたの?」

「幻想郷の力が変なのよ」

 『変』の言葉にレミリアは反応する。変と感じているのが自分だけではなかったと。

「私は幻想郷の力をほんの少し貰っていつも元気に拝読行動しているのだけど、時々不安定になるのはあったんだけど、今日は特に駄目、不安定ってものじゃない。無いの」

「ないの! どうして?」

「どうしても何も、私にも理解できていると思ってるの? こんなの初めてよ」

 レミリアの首筋に冷たい空気が流れる。幻想郷でなにが起こっているのか、何が始まろうとしているのだろうか、それともただの異変なのだろうか。

 酔狂で神社を壊した天人ではあるまいし、そんなことをすれば第一に八雲紫がすっとんで来る。

「そう、ならほんの少しだけ私の話を聞いて」

「えぇ、いいわよ。でも、聞くだけよ。聞くだけ」

 法杖をつき気だるそうにパチュリーはレミリアの話を聞く体制になった。

「私の記憶に『ズレ』が出来たの―――」

「――そんな話だったら別に聞きたくな――」

「――いいえ、違うわ。この『ズレ』は多分深刻なものよ」

 パチュリーはレミリアの話を遮ろうとした。それはパチュリー自身がレミリアの話が自分にとって利益のないことだからと下した判断ではなく、単純につまらない痴話と思ったからだが、まったくもって違っていた。レミリアが言いたい『ズレ』は『歪み』のことだった。

「それはどんな『ズレ』なのよ」

「歴史認識の誤り、いえ、この幻想郷全ての歴史が違ったように思えて他ならないの。それと、私の能力の限定的な拘束がある気がするの、この意味わかる?」

「……解るも何も能力の拘束? そんな事聞いたこと無いわよ。しかも、気がするなんて不明瞭を信じるって言うと思うの? それと、レミィ、私は貴方の能力を未だに信じていないわ。運命を変えるなんて、私には怖くて見えないわ――」

 力の拘束など聞いたことがないと一蹴したように感じるがパチュリーは内心の動揺を隠せなかった。対してレミリアは『能力の拘束』に出くわすのは初めてではない気がした。気がしただけで実際には不確定なかもしれない。憶測の域だ。

「――いいわ、能力の拘束って具体的になにが今できないの?」

 仮にレミリアの異変が正しいとして聞く。

「過去の定まった運命の一部変更かしらね。詳しいのは私にも理解できないし判らない」

「そう、それで、私になにをしてほしいの? 聞いたところで手伝わないけどね」

「コレの解明を手伝って、パチェ」

「拒否権がないのにどうしてあるような言い方をするのかしらね」

 馴染だから拒否権がない。パチュリーにとってレミリアのお願いは強制の意を持っている。

「諦めが結論よ」

 パチュリーはご尤もと頷く、諦めが結論だ。なにかの本で書いてある通りに人生には諦めが大半を占めているのだ。

 されど、幾ら馴染だとは言え。ただで動くほど『動かない図書館』は軽くない。自分がいかに動かないで済むか、レミリアの妥協点を探す。

「貴方が情報を私に持ってきてそれを私がまとめて仮定を出すのってどうかしら?」

「う~ん、それでもいいのだけれどねぇ」

「なら、そうしましょう」

 餌に食いついた魚を釣り上げられたとパチュリーは思った。やったことはないが釣りがこんな感じの快感を得られるものだと半分思い、半分罪悪感に見舞われた。

 しかし、釣りとはその後が大事である。釣り針を魚の口から取り出すそのときが一番油断してはならない時だ。

「いえ、やっぱり、それだと私が面倒だわ、貴方も来て」

 レミリアをどうこうできると思った自分が情けなくなるパチュリー。

 渋々レミリアのお手伝いをすることになったのはレミリアが運命を変えたからでもなく変えなくてもいい。すでに定まった運命だったからかもしれない。

「むきゅぅ~」

「あらためて聞きましょうパチェ。今日は一緒に出掛けない?」

「それはなんとまぁ、たのしいそうなんでしょう」

 やる気がない立ち上がり、服についた埃を手で払い。机に置いていた帽子を手に取り深く被る。深く被り過ぎたのか調整する。

 手鏡を小悪魔はポケットから取り出してパチュリーに向ける。

「身だしなみに気を使っている貴方を見るのは久々だわ」

「やるからにはキッチリとやりたいだけよ」

 準備が整えばまずは目的地を定めるところから始まる。

「さて、誰に聞いたら一番手っ取り早いかしらね」

「紫じゃない?」

「えぇ~、ゆかりぃ。不安要素しかないじゃない。知っていても隠すってことが考えられるわ」

「前にあった。ワーハクタクの上白沢慧音とかどうでしょうか、お嬢様」

 咲夜が割って入る。

「あぁ、あの。過去ばっかり見ているアイツね」

 ポンっと広げた左手に握った右手を置き、それと同時に顔は目を見開きいかにも思いだした顔をした。

 上白沢慧音は後天性の獣人でありながらも人の里に住み寺小屋を開いている。人里を愛し、里に危機が迫ったときは自ら守り手を担う真面目を体現した存在である。

 そんな寺小屋を開いている半獣人は寺小屋の先生の役割を持つと共に幻想郷の歴史編纂の担い手でもある。

 ここで一つ、ここでの『歴史』を定義しよう。この幻想郷の人の『歴史』とは誰かによって書き記された出来事のことを言う。話が少しややこしくなるが『歴史』の認識は妖怪と人の間で大きく異なっている。妖怪は長寿である為、昔の事は体験もしくは知っていたりするが、人間は妖怪とは違い寿命は短く欲が深い。

 なにかが幻想郷で起こった場合、起こったこと自体は『真実』でありその出来事は確かに存在するが、これではまだ歴史ではなく人の手によって出来事をまとめて広めたり語り継いだりして初めて『歴史』になる。

 つまり、書き記されなければ歴史には成れず、書き手の主観だけで記された嘘八百の出来事だろうと記され広められた時点で『歴史』となるワケだ。それは完全な書記された書物でしか人は幻想郷の昔を知る事が出来ないことを意味する。幻想郷の歴史は伝言げぇむに類するのだろう。

 慧音は『歴史』を元に戻したり、隠したりする。昔は都合のいい様に改竄道具として使われていたりもしたらしいが今は、そんなことはなく平穏な日々を過ごしている。

よく、迷いの竹林で藤原妹紅と行動を共にしているのは幻想郷では割と有名な話だ。蛇足だが、完全な幻想郷の歴史を知るのなら慧音の所に行くのもいいが、稗田家が代々所持する幻想郷縁起を読み解くのが一番の方法だろう。

「なら、いきましょう。レミィ」

「そうね。善は急げって言うしね。人里に言って寺小屋の場所を聞きましょうかしらね」

 




英語のサブタイトルです。
意味は自分でお調べ下さい。


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