飢餓と隙間と生きる意志を
「……ここは何処だろう」
少女の目には不規則に並べられた標識。今自分が何処に居るのかさえ分からなくさせる一面の黒色の景色が映る。先程までいた月明かりに照らされた丘とは全く違う場所に少女は浮いている。
何処となく誰かに見られているのか、首筋にジリジリとした熱さを覚える。
(私は死んだのかな、だとしたらココは天国かな? いや、真黒だから地獄かな)
少女の思考はもはや生と言う観点を見失っていた。
「そうね、言うなればココは貴方の意識の隙間からしらね」
(こころを読まれた!)
後ろを少女は振り返ると絢爛な衣装に純白な日傘をさして、宙に浮く一人の女性がそこにいた。
微笑みながら少女を見ていた。
「ゆ、紫さん」
少女はその紫に見覚えがあった
八雲紫と言えば幻想郷では有名な妖怪だ。
だが、いつになん時に知って会ったのか、少女には思い出せなかった。
「あら、覚えていてくれたのね。嬉しいわ」
日傘をくるくると紫は回した。本当にうれしい事なのだろう。
「あの、紫さん。私は死んでしまったのでしょうか?」
「いいえ、まだ、貴方は死んでいないわ。貴方は飢餓・貧困の象徴だったけどどうやら気まぐれで救われているわよ」
少女は一瞬だけ、顔を明るくしたと思えばすぐに暗くなった。
「気まぐれで救われる命なんですね。私」
「ええ、幻想郷は全てを受け入れるのよ。気まぐれでも、貴方が餓えて死ななくても貴方は年を取るし病気や怪我で死ぬ体でも幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ」
「……それは、そうですね」
飢えるけど、餓えでは死なない体。無限の生き地獄の様な日々が何日も続くのに死ねない。
死にたいと少女は思うが、死ぬ勇気がない。死ねない。
「そ、それで紫さんはなんでここに来たのですか? まさか、様子見だけではないですよね?」
「鋭いわね。でも、紫さんじゃなくて、紫でいいわ。私は親しい人にはそう呼ぶように言っているから」
実態が掴めない人だ。部外者の様に外で経ちまわると思えばすぐに関係者のように事の中心に入ってくる。
傍観者でもない、加害者でもない、被害者でもない。
本当に神様の様な人だ。
「あと丁寧な口調も出来れば止めてね。自然に御話をしましょう」
「い、いえ、これが私の自然体ですので、こればかりは――本当にすいません」
「そう、なら仕方ないわ。でも、心の距離は狭めてね」
「は、はい」
――やはり私はこの人には敵わないと確信した。
「良い返事。では、話を元に戻すわ、どうして私が貴方の意識の隙間に来たかと言えばね。様子見が六割、貴方のことについて四割かしらね」
「私の事とは?」
「貴方は何代目か忘れたけど餓鬼なのよ。大事な幻想郷の貧困・飢餓を一身に抱えてる飛世柱。貴方が死ねば次の餓鬼が出てくるけど、出てくるまでに幻想郷は少し困ったことになるのよ。そんな貴方が死にそうになったと言えば解るわよね」
心配する人ではない事は確かだった。所詮代りがあるモノになぜ、紫が心配するのだろうか、心配すべき人は博麗霊夢ではないかと。
「代えの算段でも整える為ですか、それとも、私を心配するとは思えませんが」
「それは心外だわ、私は貴方を思い続けているわよ」
「それは嘘ですね。なら、今日、私が死にそうな時駆けつけてくれなかったのか、なぜ、あんなに霊夢さんと笑顔で過ごしていたのですか?」
「私だって万能じゃないわ、見過ごすことも行けない事もあるわ」
「では、私が今まで死にそうになった時に駆けつけてくれなかったのですか? 餓鬼は所詮餓えた鬼のような小さき存在ですか? 汚らわしい存在ですか、服が汚れますか?」
「少しは立場を考えたらどう?」
紫の雰囲気が豹変し、突如布の様な黒い何かに口を塞がれた。
「いい? 私は貴方に同情する為に来たのでも、救いに来たのでも無いの。ただ、貴方を思ってきただけよ。思って来たの。思っただけよ。いい? 貴方が死んでも代りが居るわ、でも、貴方は死にたくはないのでしょう? なら、私を怒らせない事ね」
何も言えないのではく、少女は言っても無駄だと知った。使い捨てだと自分を思ってくれた人から言われたから。
「返事は?」
黒い何かは口から少しずれ、言葉が喋れるようになった。
「幻想郷は全て受け入れます。幻想郷の一部である私が主に反を唱えるつもりは……あ、あ――ありま」
ここで返事をすれば私が消える。
「どうしたの?」
生きたい気持ち。死にたい気持ち。コレからの気持ち。
「ありま……、いや、私は私例えどんなに苦痛な日々がこようとも私は餓鬼! 餓えるべき存在です。ならば生と言う点でも餓えるべきです。生きていくこれからに餓えるべきです! 紫様でもこの飢えは止められません! だって、これが私ですから!」
――殺されていい。言いたいことは言った。
「……良いわ、ここで貴方の飢えを否定すれば私は幻想郷を否定することになるわ、考えたわね」
(生かされた!)
しかし、安堵の息はまだつけない。
「良い返事が聞けたし、私は帰ることにするわ」
「……はい、ま、また会いましょう」
「よく、自分を殺そうとしていたかもしれない人にそんなこと言えるわね」
「いえます。私は紫さんが好きですし、所詮、私は」
「「餓えに餓えているだけ(ですから)」」
「フッ、良いわね。これからは確りと貴方を見守ることにしたわ、でも、最後のギャグはどうかと思うけどね」
紫の目の前に出た隙間の中に歩いて行った。あの隙間が何処に続くか解らなかったが、少女はどこか、自分自身の生きていると言う実感をし目を閉じた。
少女は妖怪なのか? と言う疑問が出るかもしれませんが
妖怪ではありません。ただ、飢えで死ぬことが無いだけです。