東方慟哭観   作:えのころぐさ

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world is mine.

   †

 

「だからね。このままいっても急展開なんて見込めない。早急に霊夢を虚ろから出すべきだ。なりそこない」

 

 紅白は自身の通りに動かない照に対しての憤りをテレビのリモコンに乗せ眼にもとまらぬ速さで壁にぶつけた。リモコンのプラスチックパーツが壁の周りに散乱する。データを送信する基盤などもプラスチックと同じに砕けていた。

 なりそこないはその行為をとがめるわけでもなく藍に破片を集めて持って来るように指示した。

 

「いいのよ。将棋でも歩が金になるには進んで危険を冒して敵陣地に侵入しなければならないけれどもタイミングってものあるのよ。今回の雨の目的は幻想郷の《地質変化》ってことにまだ気がついてもいないしあともう少しよ。それを隠すためにわざわざ私が力を使って今までの異変が起こっているように見せかけているじゃない」

 

「地質変化って言うけどね。私はそもそも貴方の計画すら教えられてないのよ? わけわからない空間を作ってテレビを見せられてるわ。部屋でゴロゴロさせられるし八雲藍を鹵獲するしどうなっているのよ」

 

「貴方子供の頃によくこんなことを言われたことはない? 『人の嫌がることをしてはいけないよ。いつか絶対に仕返しが来るから』って」

 

 「こちらに」とちょうど拾い集めたリモコンの欠片を布に包み藍はなりそこないに手渡した。

 布をどうするでもなく包み広げるとリモコンは壊れる前の姿に戻っていた。

 紅白は不思議がることもない。見慣れているといったところだ。

 

「親がいない私達に言ってどうするのよ。それと、見せびらかすように力を自慢するなんて趣味悪いわよ」

 

「それもそうね結局のところ母親の代わりだった筈の紫はなにも博麗にも友人であるはずの西行寺も教えていなかったのね。それと人知や妖知を超えた力を持っているとねつい自慢という自己陶酔と愉悦に浸りたいものなのよ。私は」

 

 元に戻ったリモコンを紅白に投げ渡す。

 

「今度は壊さないでね」

 

「承知しておりますよ」

 

「……さて、そろそろ閻魔か鬼か地霊殿の可愛い子達が気付いてくるかしらね」

 

乾いた笑いを余所にコンコンと木製のドアをノックする音が部屋に響いた。

 この空間にドアなどという客を受けつける物はざっと見た限りないのにも関わらずに音が鳴った。

 ノック音に反応と返事をしたのはなりそこないだった。彼女は重い腰をあげ真っ白な空間にポツンと区切られていた部屋と言うよりは箱の中を区分けしたような部屋の壁を目の間に立つと不可思議に取り付けられていたドノブを捻り押す。まるで最初から玄関のように当たり前に開くがもともとそんなものはなかったと言っておく。

 扉の向こうにいた人を見てなりそこないは眉を少し動かした。驚きとはまた違った意外だったのだろう。

 

「これは意外や意外。貴方がまさかこんな境界までくるなんて思いもしなかった。でもいいわ。ようこそ我が幻想郷に」

 

 訪問者は戸惑いの顔を見せて一呼吸。落ち着きを取り戻しいつも誰かと接する普通の対応を心掛けた。

 

「何言ってるのよ! ここの界にもこんな歪みきったものを作ってなにをしようとしているのよ。ここは私が作った魔界よ貴方にも干渉されないようやってきた。それなのに何食わぬ顔でアンタはなんでここに……くるのよ! 貴方が死んで私達は霊夢の記憶から消えたようになくなって過去になったアンタがあんな計画があったせいで――問いただしたいことはいっぱいあるんだからね!」

 

 怒っているわけではいがそういった接し方になってしまったと神綺は後悔をするもなりそこないは知っていた。顔を見ればわかるのだとも言えるが理解できたことにはかわりない。

 それを理解した上で神綺の疑問を言葉で解決する。

 

「久々の再開なのに凄い剣幕ね。なんで私がまた現れたかって? アリスに大人になるために扉の鍵を渡した貴方と同じよ。いつか子供は親から離れて自分の世界を作って親がしんで子が泣いたりするように自分の目で見ることが全て真実になるように一人で生きてほしいと親が思うように私はするのよ。親がいつまで居ても邪魔なだけ貴方はいつから足枷となったの?」

 

 親指と人差し指だけ伸ばしピストルの形を作り出しそれを神綺に向ける。

 

「熱くなりすぎたわ。あれを見てたのね。本当にいやな奴、嫌いな方だわ」

 

 卑屈な態度になりそこないの顔は笑顔で答える。

 これが神綺にとってはやり返しだととらえることも考えなかった。

 

「いいのよ。子離れはいつ見てもいいものだもの。立ち話も疲れたでしょうし折角ここまで来たんだったら面白いの、みていかない? それとも久々に運動かしら?」

 

「戦いなんてご遠慮。家に上がってくつろぐのもご遠慮ものよ。じゃ行くわ、くれぐれも魔界に手を出さないように。もし手を出したら殺すから」

 

 神綺はし返すようになりそこないにピストルの形をした指を向ける。

 両手をあげてなりそこないは降参した。

 

「魔界には手は出さないわよ。出す要因がないからね。でも、幻想郷にいるアリスには何らかの手が加わると思うわよ」

 

「いいわよ。それがあの子にとって試練でありここをでた代償でもあるのだからね」

 

「意外にスパルタね」

 

 

「甘いだけじゃ子供も物もいいものにはならないの。それに水にいくら砂糖をいれたところでおいしくはないのよ。それだけを確認しにきただけよ。さよなら」

 

 神綺はそう言い残しどこか遠くへと飛んで行った。名残惜しそうにしていたがわからないがチラチラと後ろを振り返っていた。思い残すものでもあったのだろうか。

 八雲藍はそっと扉を閉めた。

 

「いいの? なりそこないはそれで」

 

 後ろに控えていた紅白が前にでた。

 

「それでって言われてもね。難しい話なのよ」

 

「かもしれないけど私はなりそこないを感謝してるし尊敬といった念もある。でも同時に妬みと私を信用してくれない僻みがあるの。難しい話だからといっても一人で抱えて考えるより二人で考えた方が想定外にも対応できる」

 

 誰一人としてなりそこないのしたいことを知らないでいる。

 

「確かに理には叶うものだけれども私の筋道に外れてるのよ。紅白が夢を一緒に見たい。叶えたいと言っても私は見てほしくもないし一緒に叶えようとも思わない。いいかしら、貴方は私の道具。私兵にして死兵よ。死ぬ時は私の盾。生きる時は私の矛なのよ」

 

 声を張り凛とし覇気が付着した道徳的でありつつも背徳的で退廃的な文句。

 紅白の閉じる時間の長い瞬きは先ほどまでの自分の馬鹿を捨てる行為。

 「あぁ、この人はこんな人なのだ」と落胆した。つい先程まで捨てきれなかった良心をゴミとした。

 昔は違ったと自身の中で形成していた身勝手な想像上での彼女はもういない。夢で会ってほしいとすら思える。

 直ったリモコンが視界の端に映る。手を伸ばして壊してやりたい。これを片手に無垢な脳天に向けぶつけて壊して脳漿をこの部屋一面に散布してやりたい。

 

「返事なんてしなくていいわ。しかしながら、彼女達には幻滅したわ。全く気付いてくれなかったわね。幻想郷の地質変化がおこったことを今ようやく知ったところね。これも時代の流れかしらね。計画を次に移行。魔理沙をここに呼ぶわ。紅白、手伝いなさい。いいわね?」

 

このなりそこないと呼称された化け物をだれが作り出したのか。

博麗靈夢は懇願する。

 

「断れないのは承知でしょ」

 

博麗霊夢を助けてと。

 

「貴方の今回の役割は四季映姫の相手と地霊の妖怪達よ。絶対に殺さず倒しなさい。ダミーの拠点におそらく双方は向かっている筈だから」

 

「どうしてそこまで読めるのよ。どうしてそこまでことをなそうとするのよ。神綺がきたときは親離れの為とかいっていたけど私には嘘にしか聞こえないわ」

 

「好きに解釈してどうぞ。なさねば皆が死ぬの、大義名分を掲げるわけではないけれどやるだけの名分は私にはある。たとえ幻想郷の全てが敵でも私は構わないわ。勝てるもの」

 

「――変わってなかったのね。昔から何も強い芯だけが体を通ってそのためなら自己犠牲もいとわない。疑った私がわるかった。従いましょう」

 

 本心では従うわけがなかった。変わってなかったからこそ紅白は変えなければならなくなってしまった。なにをなりそこないが隠しているのかは知り得ないが自分を犠牲にしてしまうのはわかったからで。自己犠牲を許せるわけがない。

 鬱蒼になってしまう顔を作り笑いで濁す。

 

「お願い。私を信頼なんてしないでほしいだけなのよ。貴方は私のいいなりになっていたの良いわね?」

 

「断れないのは承知でしょ。じゃ、ちょっといってくる」

 

「気をつけて。相手は強敵で複数いるわ」

 

「知ってるでしょ、私はこれでも博麗よ。妖怪退治はお任せものよ」

 

 符に念を込めると紅白は居なくなっていた。

 

「じゃ、私も魔理沙のお迎えに行こうかしらね。藍ついてきなさい」

 

 パンっと手を叩き目の前に通路を開けた。

 どことなく紫の境と同じ雰囲気のある不気味な通路だ。

 踏み出し通路に入っていく。後を追うように藍も付いていくが不思議となつかしい感じがあったことに藍の中で推測が生まれたのであった。

 

「いつもの使っている扇子はいらないのですか?」

 

「――ちゃんとあるわよ」

 

 手を出して手に扇子があることを藍に教えた。

 

「ほらね。ちゃんともってる」

 

 

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