東方慟哭観   作:えのころぐさ

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真偽の所在

 霊夢の社にいくのなら先客がいるのを忘れてはいけない。神社は人間より妖怪のほうが遭遇率は高いのも忘れてはいけない。

 会いたくない強い奴が気まぐれで訪ねてくし狂信的な霊夢愛を持ってくる者もいる。果ては信仰を広げたいがために来たり信仰対象が来たりしてしまう。それだけ霊夢が慕われているのかもしれないが魔理沙は疎ましく思ったり思ってなかったりする。

 霊夢の人徳が凄いのか世話焼きが多いのかどっちかしかこの幻想郷にはいない。異常思考の怪物を除いて。

 

「れいむぅ~。いるか?」

 

 いないのは知っているが呼ぶことが習慣になってしまっている以上したかがない。頭の上の防止を意味もなく整え意味もなく靴を揃える。揃えなければ怒られるのが浮かんでしかたがないからだ。

 霊夢が消えてから目に浮かぶことが増えた。なくなって初めて大切さがわかる。

 

「久しぶりね。魔理沙」

 

 魔理沙は見知らぬ人物に居間でであった。見知らぬ人物は当然のことだがなりそこないなのだが。一方的になりそこないが知っているだけである。扇子でだれかと判別することができた藍とは違う。

 

「お前はだれなんだゼ?」

 

「それは言わない方が互いのタメになりますよ」

 

「えぇ~っと確か八雲藍? なぜいるんだぜ?」

 

「それは私から言うわ。まぁお茶を出して頂戴藍」

 

 扇子を広げて口もとを隠す。

 魔理沙が違和感を覚え始めるのはここからである。デジャヴに似る類似した行為の相違。

 

「置いてある場所しらないですよ?」

 

「あぁそうなの? 茶筒とかはそこにあるわよ」

 

 扇子を指す方向には台所につながっている障子があるが障子の向こうにある戸棚と言いたいのだろう。

 

「お茶が来るまで質問タイム。なにか質問ある? 霊夢の居場所とかだったら答えるわよ?」

 

「知ってるのか! 霊夢の居場所を」

 

「えぇ、もちろん。場所は貴方の目の前よ」

 

「はい? どういう意味なんだぜ?」

 

 小首を阿呆のように傾げたのも無理はなかった。修辞技法を使ったととらえられても仕方がない言葉をワザとなりそこないは選んだのだから。誘導してほしい返事を引き出した。引き出すことができるかどうかを確かめたことに魔理沙は気付かぬだろう。

 ほしい返事を引き出せるとわかるとなりそこないは口元を扇子で隠しておいてよかったと思う。にやつく表情を相手に見られなくて済んでしまうのだから。

 もし、八雲紫がいるのなら性根が腐っているといい式神たる藍も思うだろう。 

 

「小細工なしでややこしいのもなしでぶっちゃけると私が霊夢ね。体を奪ってここに私はいるわよ」

 

「ジョークならもっと気のきいたのがほしいのぜ」

 

「あら、ならこんなジョークはどうかしら?」

 

 先ほどまで広げていた扇を閉じ扇子の先端を自らの心の臓物があるとされる胸の真ん中あたりに押し当てる。

 当たった瞬間、テレビの砂嵐に酷似した表示障害が出たと認識した直後、表示障害が一気に上半身にまで広がり隠していたモノが露見した。

 霊夢がよくきている服装。魔理沙が見慣れた白の生地に際立つ朱色のライン。目を疑うそぶりもみせる必要はない。

 慣れた顔。小さな顔に最適化を受けた筋の通った鼻。小花が咲き咲き出でたような唇。玲瓏な瞳が魔理沙をとらえる。清々としたすらっと伸びる髪をまとめる原色の朱の髪留め。

 顔色は廃れたような蒼白。

 

「……魔理……沙……。駄目……」

 

 言葉がいい終わるころには顔は霊夢ではなく自分になにが起こったと辺りを見渡した。

 

「お子様には刺激が強かったかしらね。とは言え言葉はわかったわよね?」

 

 ガタンッ。

 魔理沙はなりそこないの服を掴みかかった。憤慨したのかもしれないが魔理沙は行動に移し終わった後に目の前の怪物になんと言えばいいのかわからなくなってしまった。

 罵詈雑言を吐き八卦炉で顔を何度も殴打すればいいのだろうか。

 それらしいく吐きすれてばいいのだろうか。

 もはや、霊夢を助けることが考えられない。手が震え足が竦む。

 目を瞑り深く深く肺が酸素を要求しなくなるまで深く吸い。止める。

 吐くのを耐える。苦しくなるとなりそこないから手を引いてため込んでいたモノを吐く。

 

「お前は何者なんだぜ」

 

「何者って酷いわね。貴方がこの世に落ちてきたときにはそっと手を伸ばし初めて立つこと魔法を使うこと良心に呵責を覚えたことそのトンガリ帽子を初めて着けて初めて魔法に失敗して初めて霊夢とお友達になった時全てで私は貴方の誰よりも近くにいて愛して助けて愚痴も聞いて、両親にモノを壊したからと怒られて泣いていた時もやさしく貴方を抱きしめて、両親のもとを出て一人暮らしをして初めての夜も朝も張りきったのはいいけど失敗してしまって黒焦げの目玉焼きも異変を初めて解決したときもすべて隣で見ていた私を知らないのね」

 

 くるった愛情が魔理沙を包む。のばされた手を振りほどこうともせずなされるがままになりそこないにその身体を包まれた。

 

「あぁ、本当に会いたかった。魔理沙」

 

「は、放せ!」

 

 力を込めてなりそこないを剥がそうとするも剥がれない。単純な力不足なのかもしれないと地味な魔法を使うがまだ力で負けていた。

 鬼以外なら勝てる力なのだがまるで魔理沙の力に対応するようだ。

 

「放しはしない! 貴方達をもう……失いたくないの。事情は起きてからお話しするからしばらく眠ってて」

 

 魔理沙の耳元でなにかをつぶやくと魔理沙の目は虚ろになり意識が段々と薄れていき脱力していった。

 音もなく砂時計の落ちる砂のよう実にゆっくりと眠るように崩れた。

 

「はな……せ……」

 

「《愛しき一名確保》霊夢に続きもう一人。第二段階目の作戦スタートと共に他の子も連れてこないとね」

 

 奥から藍がお盆に二つお茶を乗せ台所からでてくる。

 目につくのは眠っている魔理沙をまるで母のように膝枕をしているなりそこないの姿。

 

「いいの。このちゃぶ台の上に置いておいて。懲りないお客さんがきたわ。そうでしょ。紫ちゃん」 

 

 ちゃぶ台を挟み眼前に隙間がでてくる。

 隙間の登場と共に魔理沙を通路に落とし入れ替わって隙間から紫が現れた。

 

「お気づかいどうもありがとう。私の大切なものを取り返しにきたわよ。それと、たかがあんな封印で私は無力化できないわよ」

 

 なにごともなかったかのように湯のみを手に取り藍が用意した茶をすする。何気ない行動だが紫の癪に障るのだ。

 

「本気でする訳ないでしょ。私が紫に対して」

 

「言いたいことはそれだけ?」

 

 なりそこないとは対角に座りお茶を自分の下へと移動させる。

 

「紫、貴方は私を消せるとでも? 貴方の大好きな、大好きな私を」

 

「間違っている幻想郷。この私が、幻想郷の主であるこの八雲紫がたかが幻想郷のなりそこない如き消せないはずはないでしょ」

 

 背後に隙間をいくつか開き中から一方通行の道路標識が顔を出す。

 

「そうこなくてはいけないわよね。紫は強いし意志も強い。弥久に幻想郷を管理してきたのも納得できる。だが意味はない。貴方にできるのは私が気まぐれ去っていくのを隙間に隠れて歯をガタガタ震わせて懇願するだけだよ。台風が去るように」

 

 と威勢を張るが臨戦態勢をとるわけでもなくお茶をすすっている二人はどこか間の抜けたものだ。口では喧嘩腰だが態度は全くの別物。本音を表に出してはいるも不釣り合いな環境だ。

 大言壮語を連ねて吐く文芸のようだ。

 

「台風はなにが狙いなのかしら」

 

「台風に狙いなんてある訳ないわよ。気温、風速風向、湿度の無機的有機的な環境が全てを示す。私の狙いのヒントと警鐘は何十個として出した。言わば私は貴方達が招いたことよ」

 全て貴方達にあるといった。子供の疑問攻めに嫌気が親のような目つきで。

 狙いはないのかもしれない。

 

「わかって貰いたかったらもっとわかりやすいことを言いなさい」

 

「最後よ。私達はある子を倒す為に生れて幻想郷をその子の生きにくい環境を作ってるの。名前は――冴月麟」

 

 その時、確かに幻想卿は揺れる。

――なにに?

 地震でも陽炎でもない。強風に揺れたのかも知れないが何かに揺れた。

 と、一陣の風が縁側の障子を通りちゃぶ台の真ん中に一輪の野花が舞い落ちる。

 

「珍しいこともあるものね。風がヒルガオの花を運んでくるなんてね」

 

 紫は開けた扇子で口元を隠して笑った。先ほど告げられたことに何一つとして聞いていなかった振る舞いだ。

 なりそこないは急に眉間に皺を寄せ顔が険しいものとなった。

 

「風、花、ヒルガオ。ことを急がねばならないわね。ここから一切の邪魔を入れるのは止めて八雲紫ついてきなさい。私見で判断するときがきたのよ」

 

「いきなり焦りだしてどうしたのよ。でも、見せてくれるなら着いていくわ」

 

「敵は大きくなりつつあるのよ。もう私だけでは止められないかもしれないのよ」

 

 駆り立てられた亡者のようになりそこないは計画を推し進めようとする。紫はただ視ることだけを主としたがはたして守りきれるだろうかと縁側から見える蒼穹を億劫な目に映した。

 なりそこないを信じるわけではないが今回の異常的な行動力の証明はできる。強さも理解しているつもりでいる。すくなくとも今現在の紫自身の戦闘ではなりそこないに手も足もでない。

 そんな彼女が恐れるもの。それはなんなのか。

 

「藍は返すわ。藍、ここまでよく見ていてくれたと思うわ。私を一瞬でも紫と思った点には驚いたけね。まだ舞台裏を撮りたいならそのままいてくれて構わないわ、できるならばいてほしいのが率直な意見だけど命の保証はないわよ。ここからは前時代的殺し合いよ」

 

「紫様がついていくと言ってる以上、ついて行きますよ。それと、わ、私は貴方を一度も紫様と思っていませんよ! せ、扇子で判断なんてできるわけないじゃないですか! なにを勘違いしているのですか!」

 

 

 




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