五対一でやっと一進一退の攻防を繰り広げていた。る~こととは戦いには参加せずに地べたに座っている勇儀の隣でにこやかに観戦をしていた。
「靈夢、貴方は前よりずっと凶暴性がなくなったわね」
幽香は傘の先を靈夢に向け、魔理沙のマスタースパークに似る光線を放つ。だが、魔理沙とは明らかに違い大きく太い。なによりも威圧が違っていた。
「幽香、貴方は相も変わらず花しか興味がないのね」
陰陽玉にレーザーを衝突させ四散させる。
「ハッ、これが今の幽香の力なら笑わせるわね。腕が鈍ったんじゃない?」
四散したレーザーは指向性を失い彼岸花にあたる寸前で存在はなくなる。
「ご指摘ありがとう。昔からの性よ。花は花を、花の妖怪も花。だけどね、人も花なのだけれどもなにを咲かすかわかりはしない。綺麗ではないかもしれない。大きくはないのかもしれない。踏みつぶされるかもしれないし切り取られるかもしれない。それでも、それは花なのよ。もっとも、人も妖怪も喧嘩の華が好きな人が多すぎるけれどもね」
自分に向けられたのを知った勇儀は悪態をついた。
と、靈夢が瞬きで目を一瞬とじると小町は距離を能力を使い間合いを詰め大鎌を振るった。
「御話し中に失礼っと」
会話を断ち切りながら小町の鎌が靈夢の右頬をかすめ鮮烈な体液がしたたり落ちる。追い込まれている顔もせずに靈夢は間をおかずに傷口に札をはり止血する。
止血といっても簡易的なものだ。張り付けた札は墨とにじみ出る血とが混じりあう。
戦闘の開始からすでに何時間経過しただろうかあれほどまでに明るく照らしていた太陽もなく次が出始めていた。
太陽沈んだせいでまわりがうす暗く夜の帳が降り切ろうとしていた。視界は見難く狭まり、放たれる弾幕だけが唯一の明かりにとなるほどだ。暗さは戦いの混沌を助長させる。血と咽びが入り混じる。多勢に無勢なのだが靈夢は嬉々としていた。
嬉々とする靈夢を見るに堪えなくなったのか映姫が肩を怒りで震わせていた。
「異を正す博霊の巫女がどうしてこんなことをするのですか!」
小町に続き、映姫が追撃を行う。悔悟棒を振りかざし数多の光弾を靈夢に向け放たれる。
閻魔だけあって光弾は幽香達が放つものとは一線を画し物量で言えば幕ではなく押し寄せる波。
「どうしてって? 貴方ならわかるでしょ。予期すべきだった。いつかこうなってしまうことを予期すべきだったのよ。禍根もなく死ねるはずないでしょ」
一枚の護符を靈夢は使用し、押し寄せる波の弾幕を消し飛ばした。
映姫は苦虫を強く噛んだ。鬼の形相とはたから見ていた小町は思う。ここまで激怒する理由は映姫にはなかったはずだが、こうして前にいる上司はどこか悔しそうだ。子供が大人と戦って負けたような悔しさ。自分では勝てないとささやく誰かを一身に払拭する子供だった。
「システムを正常にするために必要だった。博霊の血はそうして流されていたのは知っていたはずよ」
感情論を抜きでは語れない。映姫はすべてを知っているからこそどうして靈夢がことを起こしたのか手に取るようにわかってしまった。
靈夢が今の赤い雨に無縁なのもわかるが隠す理由がわからない。
「だからって、私の母さんをあんな風に殺していい理由はなかったはずよ」
生前の靈夢ならこんなことは言わなかった。なにが彼女を変えたのか。
やるせない思いが映姫の言葉を詰まられた。
「そ、それは――」
映姫は口を悔悟棒で隠し閉ざした。これ以上の発言はなにかしらの影響があると踏んだのか熱が入らないようにと自制したのか。
どちらにも取れるが知らない蚊帳の外だった者達からすれば疑わしきことこの上ない。
「――いいですか靈夢さん。これ以上の幻想(禁忌)についての発言は命の保証をしかねます。最後です。口を閉じるか死ぬかどちらかにしなさい」
こんなことをいっても無駄だ。知っている。
知らないで済まされたものを知ってどうするとここにいる者に問うつもりだ。心理戦を挑んでくるとは考えていなかった映姫は攻撃を続けるしかない。
「あんたはここの閻魔でしょ、わかるはずよ。わかっていたはずよ。押さえていてもどこかで禁忌は破られ口語られる。ここは妖怪を生かすための子宮であり、生命維持装置の中なのだと」
靈夢は幻想卿を語る。誰に悟られず、教えもせず、打ち明けもしなかった心底にたまった塊。
「結界を張ったのは妖怪を維持するために隙間がそうさせた。人を殺させないのはシステムの正常を安定させるため、だって、結界の人柱となり結界を維持するため融合したのは初代博霊の巫子その人だから! 最初はシステムは正常だったけれども時がたつにつれ意思を持ち始めた」
「いい加減にしなさい! ことはひとりの少女を殺すだけで事が足りるのですよ!」
しまったと後悔をした映姫は利用されたことに気づく。感情的になりすぎた。いらぬことまで行ってしまった。
まるでこれでは禁忌は大衆向けではないような。印象が悪い。
大義名分を奪うとともに相手に自分が正しいと大義を与えてしまう。
「えぇ、そうよ。結界の設定をリセットするため博霊以外の異物。冴月麟を殺すだけで事が足りる。だった。それでよかったはず。隙間が霊夢までほしいというまでね」
冴月麟は幻想卿にとってワクチンだった。しかし、ワクチンだけでは物足りないと誰かが言った。
それが靈夢は許せなかった。
「いたしかたがない結果なのです。幻想卿のシステムは麻薬などの薬物と類似するものが根底にある。妖怪に幻想卿の依存度を高め幻想に縛りつけることが妖怪の保持と存続に必需。幻想卿の周りを見たことはなんどかあるでしょう。あんな悲惨な現実世界では妖怪は胎児と同じ」
現実世界とは結界の外のことだ。人の栄華がありふれる場所。
「わ、私たちは家畜かなんかなのか? 博霊と姓がついただけで家畜なのか? 博霊の血をそんなことに使うなんて、お前達ための家畜じゃないんだぞ! 初代の気持ちがわかるのか! お前たちに私の子供の四肢が引き裂かれる痛み辛さがわかるのか? 霊夢に私がなにも教えなかったのは普通の女の子として暮らしてほしかっただけよ。村に行けば目を背けられる存在になんてもうさせちゃだめなのよ!」
もっと、違う言葉がかけられればよかった。違う言葉をしていれば今にこんなことは言わなくて済んだだろう。
映姫は心冷たく。感情を殺し。
告げる一言。
「一人を助け多くを捨てる。そんな幻想はないのですよ。靈夢さん」