少女が生きていると実感した時には、何処かの洋館のベッド上で目を覚ましていた。
赤色を中心とした木製の部屋。ソファやベッドは少女のあまり見たこと無い和風と対する洋風、少し幻想郷では浮く存在だ。
窓は一つだけだが、暗さを感じさせない明るさと温かさをどこかに持つ。
魔方陣のような赤と黒のカーペットが敷かれている床に素足をつければくすぐったいが気持ちが良い。
そんな、感賞に浸っていると部屋のドアが二回ほどノックされ、昨日会った瀟洒なメイド、咲夜がティーカップなどを載せたワゴンを押して入ってくる。
「目が覚めたのですね。お気分のほどはいかかですか?」
「私は助かってしまったのですね……」
少女は少し顔を下に向けた。咲夜の目が見られなかったのではない。寝ている時に生きたいと言っていた少女はレミリアに首を掴まれ死にそうな時に笑っていた。死にたかったのだと今更ながら思いだした。
あれほど、生きたいと思っていたのに本心では死にたいと思っていた。
「はい、お嬢様の行いに感謝をしてもいいと思います」
「……」
少女は何も言わなかった。命を助けてくれたのがレミリアなのだが、命を消そうとしていたのもレミリアだったからだ。
「……沈黙も返事なりです。それとお嬢様が貴方に御話があるようなので呼んできますので、しばしお待ちを」
「はい」と言い終える前にはすでにレミリアは先程までなかったノッキングチェアに座ってティーカップ片手にくつろいでいた。
昨日の様な退屈そうな目ではなく、興味を持った目で少女を見ている。
「お嬢様、私は後ろで控えていますので何かあればなんなりとお申し付けください」
「えぇ、ありがと咲夜」
ティーカップを机に置き、レミリアは大きく息を吸って心を落ち着かしてから話始めた。
「貴方、この紅魔館でメイドとして働かない? もちろん、身の保障に自由、それに三食寝床付きで」
少女は呆気に取られた。全く予期していなかったできごとだったのだろう。
レミリアが嘘を言っているような目つきではない。本当に少女に働かないかと進めている。
少女に取ってこれは思ってもみない転機だった。
「は、働きます! 働かせて頂きたいです!」
「交渉成立ね。これからよろしく。えっと――名前はなんて言うの?」
「そ、それは……」
少女は言葉を濁した。答えられなかった。答えたいが答えられない理由が少女には有った。少女が少女たる由縁がそこにある。
名前とは存在の意義。名が無いことは存在が無いに等しいことだ。
「無いんですよ。私には呼ばれる名前も、人。者としての価値も……」
「無いならつければいいんじゃない」
ことは単純にして明快だった。
無いのならつけたらいい。だが、そんな単純なことが少女に取っては怖かった。本当の自分の名前を忘れてしまいそうで。
「例えば、そうね。待宵照とかどうかしら、貴方は月に照らされなかったと言っていたものね」
少女は言葉を失った。感謝をしたいが言葉が出なかった。言葉を語ろうとすればするほど現れなかった言葉が涙となって流れ出る。
レミリアはその流れ落ちる涙を手で拭う。
「どうやら、この名前でいいらしいわね。では、明日から咲夜と一緒に働いて頂戴」
レミリアはそう言い残し、咲夜と共に扉の向こうへと行ってしまった。
「……はい、ありがとう……ございます……」
少女が待宵照になった瞬間だった。
「先代様、私はどうやら居場所を見つけたようです。貴方を殺したこの幻想郷にまだ、私は居場所が有ったようです。先代様、今の私は寂しくなんかありませんよ」
生かされて気付く感情がある。自分は今、幸せなんだと。
……ぶ、文章力が欲しい……
追記
誤字を修正いたしました。