大妖精に付いて行くとすぐに美鈴と出会った。
大妖精はアレが美鈴だと指差して教えると「用事があるので」と言ってどこかへと飛んで行ってしまった。
羽を使って飛ぶ妖精を照は幾度と目にしてきたがやはり羽をバタバタと動かすのは可愛いものねと大妖精の後姿を消えていくまで見つめていた。
大妖精の背が見えなくなる頃我に帰り咲夜の言いつけ忘れていたかのように思い出した。
慌てて、食器を持ち美鈴がいる紅魔館の唯一の門へと走った。
「貴方が美鈴さんでよろしかったでしょうか?」
壁にもたれかかっている赤毛の女性にそう尋ねた。間違いはないのだがなんとなく不安だったのだ。
「そうだけど? あぁ、昨日レミリア様と咲夜が連れてきた子でしたか?」
「はい。名を待宵照と申します。以後お見知りおき下さい」
照は頭を下げて自己紹介をすると美鈴は困ったように「敬語なんて使わなくていい」と言った。
彼女は緑を基調とした中華服と腰まで伸びている赤毛、武術家として鍛え上げられた無駄のない体。出る所は出ている照とは相対的な体格だ。
「いえ、これは私の先代様の教えです。どんな経緯だろうと命を拾われた身である以上紅魔館の人にはそれ相応の態度を取ります」
「教えですか、わかりました。お好きに」
柔軟な人。そんな印象を照は持った。
「で、その新人さんはどうしたの?」
「そうでした。はい。これ咲夜さんからです」
持ってきた朝食と手紙を渡すと美鈴は疑問符を頭に浮かべた。
「んん? 朝ご飯なら私、食べましたよ?」
「え? そ、そうなんですか?」
またからかわれたのだろうか。
ふと、朝食と一緒に渡された手紙が気になり、「開けてみてはいかがですか?」と美鈴に手紙を開けてもらうよう催促をした。
手紙を開けて書かれている文字の意味を知った美鈴の顔が苦虫を噛潰した或いは苦汁を呑まされた顔をした。
「してやられましたね。照さん。この手紙を読んでください」
「えっと、『美鈴、貴方にこの子の教育などをお願いします。色々と必要なら言って下さい。前払いでそれを送ります。私を育てた貴方だからお願いします』」
美鈴の顔を見たが美鈴は目が合いそうになる瞬間、視線を明後日の方向に向け反らす。
「『追伸、あの方にいずれ出会う可能性が高いのである程度鍛えて上げて下さい』 あのこれって……」
「みなまで言わなくていいですよ。なるほど、そうきますか、きちゃいましたか」
美鈴は体を左右に揺らし少し考えると自分なりの答えを導き出した。
だが、はたして自分の考えはよいのだろうかと美鈴は照の体つきを見た。
鍛え上げられてはいないが底知れぬ恐ろしさを感じる気。背は低く人の大人と子供の境目に位置するぐらいの肉体。
飢え続けていたとは思えない四肢。先程聞いた『先代様』、誰かに何かを教えてもらっていたのか或いはなんらかの巫子。いや。邪険か。
「照さんでしたっけ? 今日から貴方は私の元で紅魔館の一因としてメイド修業します」
「美鈴さん」
「美鈴さんではない! 『師匠』と呼びなさい! そして照は私の『弟子』です! それともう一つ、私の命令には絶対聞く事です。よろしいですか!」
「り、了解で有ります。め――師匠」
態度が激変した美鈴もといい師匠の頼もしさは異常なほど照にこれからの楽しみをくれた。
「鍛えるからには最低でも脇巫子位の強さを目指ますよ!」
照は流れに身を任せて美鈴と同調するが後悔することになるのは割とすぐだった。
「ですが、まずは紅魔館のメイドが使えるべき人の紹介を軽くすることにしましょう」
指折り数えながら美鈴は紅魔館の人達をし始める。
「まず、紅魔館の主レミリア・スカーレット様。見た目は子供っぽいけど実は中身も子供です」
「……(見た目も中身も子供だったら子供じゃないですか、師匠)」
「続いて、紅魔館の中にある図書館に永住する。動かない図書館ことパチュリー・ノーレッジ様。あの人は基本、小悪魔のコアが付いているので何かを頼まれることは少ないでしょう。多分」
「……(師匠。動かない図書館ってなんなのですか)」
真に受けてはいけない説明はまだまだ続く。
「最後にもう一人、フ――、いえ、この二人だけですので覚えておいてください」
最後にもう一人と言って置きながら次にはこの二人だけと言った美鈴の顔は憂鬱だった。
照はそれをどうしようもできない。
明るく振舞おう。そうしよう。
「覚えました師匠。完璧です」
「うむ、よろし。次は修業です。私は拳法を中心に教えますが貴方はなにか習っていましたよね? 気からしてそのようにみえますが」
武道を歩む者にとって『気』とは分かりやすい物で例えならば筋肉の付き方であり、その人が纏っている雰囲気のことだ。
美鈴はその雰囲気を読み取るのは彼女の一部の力である。彼女の力の本質は気を操る程度の能力だが、武人とし高みに立つ美鈴にとっては意味のない能力かもしれない。
「先代様の我流を習っていました。ってなんか言葉がおかしいかもしれませんけど」
「その、先程から先代様とは一体どんな御方だったのです?」
「そ、そうですね。先代様は気さくな人間でした。人にも妖怪にもどちらも愛していたと思います」
「へぇ。私も一度会ってみたいものですよ」
美鈴が言った一言に照の顔が曇ったのを美鈴は見逃すはずが無なく、曇った理由についてすぐさま悟った。
「す、すいません。失言でしたね」
「いいえ、お気になさらずに、先代様は私の育ての母であり、美鈴さんと同じでいい師匠です」
「ほ、誉めてもなにもでませんよぉ」
「弟子が師匠を敬うのは当たり前ですよ。でも、美鈴さんは恐らく私の師匠に会っていると思いますよ――多分ですけどね」
「気さくな人間。はてさて記憶には有りませんけどねぇ」
やっぱり。そうなのか。そうなのだ。
いつか、私もそうなってしまうのか。
曇っている表情を押し込めて照は笑った。
「そ、そうですよね。へんなこといってすいません」
「貴方はへんなことは一つも言ってないと思いますよ。うん。言っていませんそれより、修行を開始しましょう。紅魔館を門から入ろうとする者などあまりいませんからね。時間はたっぷりありますよ」
その言葉をいうと美鈴は後ろに下がり構える。
それに答えるように照も構える。
「どれほどの力か試させてもらいますよ」
「お手柔らかにお願いします。私はスペルカードとかはあんまり持っていませんので」
「安心して下さい。一回目はスペルカードは使いませんよ。純粋に行きましょう!」
合図はなく。言葉が開始の合図だった。
「では、遠慮なく」
ジリジリと間合いを詰め。自身の攻撃有効圏内に相手の体が入った石火。
照は美鈴の顔に目がけ左の拳を放つ。
拳は美鈴の顔に届く手前で受け止められるとすぐさま美鈴は照の前足と顎先に蹴りと掌手を繰り出す。脳を揺らし行動不能にさせることと足にダメージを与え機動力を削ぐのが目的。
照は顎を狙う掌手の肩に右掌手を繰り出し完全に威力と勢いを殺す。
前足に来る蹴りは下がるのではなく。前に出て、当たる場所を足の甲ではなく太股に変えた。
当然の如く、痛みはない。完璧に威力を殺した最善手だ。
「む、これは舐めていました。先代様と言う人は面白い受け方を教えるのですね」
「人間が妖怪相手に勝つことができるのは不可能に近いと言っていましたが、巫子などに倒せて私達人間が倒せない筈はないと言っていました」
「我流の極地ですか?」
「そうだと思います」
「実に面白い人です」
次に仕掛けたのは美鈴。 首を傾けて避けられた手を引き戻しながら首裏に引っ掻ける。
この攻撃にガードはできない。対処法はガードしないことなのだから。
そのまま、引っかけた手を使って、照を体を前のめりにしていく。一定の高さまで顔が来るとその顔に膝蹴りを入れる。
その攻撃に照は冷静に対処する。両手で向かってくる膝を抑え力を加えていく。一気に力を入れるのではなく。倍々に入れていく。
結果、美鈴の膝蹴りは照の顔に当たる前に止る。
「なんと無茶な止め方をするものですね」
「そうでもありません」
美鈴だから出来たことだと補足入れ。反撃に移った。
止められた膝が地面に落ちる前に逆の足に抱き思いっきりひっくり返す。
美鈴の体は宙返りをした時と同じようになる。
「ぬわぁっ、これまた面倒な技をしますね」
不意を突いたとはいえ。美鈴は武人。ひっくり返ることを逆に利用し、抱きつかれた逆の足で蹴る。
蹴りは半円を描き正確無比に照の顎先に当たる。
「ぐっ」
数歩後ろにたじろぐとプツンと糸が切れたかのように地面に照はへたりこんだ。
勝負は着いた。
「まさか、あそこで蹴りが来るとは思いませんでした。さすが師匠ですね」
「いやいや、危なかったですよ結構。弟子とは呼べないくらいですよ」
「ハハ、私は師匠のことは師匠と言いますからね」
「これは私も修行しないといけませんかね」
照は座るのをやめ、地面に背を向け倒れた。脳を揺らされどうせ動かない足を休めさせる為にも
酸素を過大に要求してくる体を休める為にも。
目にはいっぱいの青色とバラバラな白色が見える。
「あぁ、本当に幻想郷が好きです。私、どうしようもない位この紅魔館が好きです」
今はただ何も考えずこの大好きな紅魔館で暮らせる日々を楽しもう。
難が来ればその時考えればいい。
そうして、時が流れて行けばいいんだ。
照は右手からスペルカードを出し発動させないのだがカード名を告げる。
「源符『弾幕』」
†
照達がちょうど手合わせが終わった頃。
少女は紅魔館の三階廊下の窓から日光に当たらないように美鈴達を見ている。
「新しい人。いいな、美鈴達は楽しそうで。私も混ざりたいな……」
(でも、アイツが許さないだろうな……)
どうして、私はこんな所で閉じ込められているのだろうか。
――悪いのは誰?
全部アイツのせい。
昔はやさしかったのにどうして急に私を閉じ込めたの?
――もう、どうでもいいや。アイツなんて知らない。
「そうだ。今度会ってみよう。部屋は分からないけど探せばいるよね。そうだ。そうしよう」
少女は笑い自分の部屋に戻っていく。笑みを絶やさず。疼きを絶やさず。
「ハハッ、ハハハハハハハハ。ハハハハハハハハハ」
拝読ありがとうございます。
投稿期間をもっと短くしたいですね。
しかし、アクション描写をもっと上手にしないといけませんね。
追記 前書きの誤字を訂正しました。
ご迷惑をおかけします