東方慟哭観   作:えのころぐさ

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熾撃「大鵬墜撃拳」

照が紅魔館に入って一週間が立とうとしていた。

幻想郷では今、『スペルカード』があるらしい。このスペルカードと言う遊びは昔見たく血で血を洗うような無秩序な戦いではなく遊び兼決闘の意味を含んでいる。揉め事など有れば解決の一手段として画期的な一面を見せる。妖怪が人間を恐れる上でも妖怪が人を恐れる均一な関係を保持させている上でも革新を持ったものであった。

 死合いが試合に変わるまでには歴史がある。一人の人間が奔走した忘れられた歴史。それが照と呼ばれるようになった少女の育ての親である『先代様』だ。

 『先代様』は幻想郷の守護者である八雲紫にも守り人たる博麗神社の巫子にも古くから面識がある。紫にとっては紫自身の過去を知る存在の一人である。幻想郷の誕生にも関わっているとまで言われた不死不飢の人柱。彼女を知るものはほぼいない。他の者に『先代様』の名を問うと決まって答えは「知らない」の一つだけである。

 そんな存在せぬ人物『先代様』の役目をあることを境に力と存在を受け継いだ者こと、待宵照は妖怪以上に化け物で人以上に嫌われている認知されない存在である。 

 だが、今の彼女は役目を持ちながらも紅魔館のメイドとして暮らし居ている。平穏すぎるぐらいに暮らしている。

 照は考える。本当を知ればみんな私を突き放すだろうにと。

 考えに濁りが加われば濁流となり照の全てを呑む。この場合の濁りとは不安である。本来の自分は一生ひっそりと誰にも目を付けられず付けずに生きていく運命だったのだが、ただ一つの飢えによって変えられた。運命は貧困や飢えを司る照に対する皮肉か嫌味か、或いは両方か。下を向いた所で後が無くなるだけである。深く考えず感じず流さず受け止めずが今までの照の生き方だったが生き方を変え時なのかもしれない。

なれば、まず、変えるのは受け止める所からだと思考を停止させると美鈴の瞑想の修業は終りを告げた。

「はい、瞑想を止めて目を開けて下さい」

 先程まで目蓋を介していたうっすらとした明るさが目蓋を開けると直接的なものに変わった。刺激が強く手を日差し避けに使い。ある程度慣れてから美鈴の方へと目を向ける。

 美鈴は眠気に襲われている。そのせいか船を漕いでいた。特徴的な帽子が首からの振動に耐えてきれずに位置がずれていく 。 

 ついさっき聞いた声は反射てきなものだったのかと疑いを掛けたいほどである。照は右の人差し指で自分の頭をかく。注意しても意味が無いことは師弟関係を結んですぐに気付いた。一週間も時間が経てばいやでも解ってしまう。

「あの、師匠起きていますか? あの~、咲夜さんが来ますよ。来ちゃいますよ」

「そんな気配はありませんよ」

注意を促すも虚しく正論で返される。しかし、ココで諦めては弟子としていけないことだと使命感が起こせと照の耳元で囁いた。

「起きて下さい。師匠。誰も来ないからって寝てはいけませんよぉ。もしかすれば誰かが来ますよ」

「ん? あぁ、弟子ですか、眠気をふっ飛ばすもんなんてこの世には毒しかないですよ」

「いや、意味がわかりませんからね。あぁ、ほら、誰か来ましたよ。黒のトンガリ帽子に竹箒を持った人がニヤ付きながら来ていますよ! いいのですか!」

「あぁ~、その人は恐らく――」

 ゆっくりとその魔女は歩いて照の方へと向かってくる。服の何処からか六角の何かを取りだすと歩みを止め、六角のモノ――ミニ八卦炉を見せつけるように前に出し構える。

 そして唱える言葉。

「撃つ時は精神を集中させ、優しくミニ八卦炉に呪文をかける。にっくきターゲットを狙い、放つは恋の魔砲……だぜ!」

《恋符「マスタースパーク」》

 ミニ八卦炉から放たれるは一本の極太レーザー。雷光と似て非なる光と音を発しながら照達に目がけて純粋無垢な程に真っ直ぐに向う。

「なッ! ちょっと、師匠いきなり撃ってきましたよ。なんか極太なレーザーを撃ってきましたよ!」

「手間がかかる御人です。ここのところ来ないと思っていましたけど。疲れるんですよね。対応するの」

 スッと美鈴は立ちあがり向かってくるレーザーに拳を突き立て、深く息を吸い。深く吐く。心を落ち着かせ目を閉じる。

 美鈴の背が照には大きく映り息を呑んだ。

「弟子。この人は霧雨魔理沙さんですよ。よく図書館から本を盗んでいく人です。見つけ次第撃退するか撤退させて下さいね」

 チラリと照を見る美鈴は言う。

「いつもワザと負けていますが、今回は弟子が居るんですよね。つまり、負けられません」

 いつもの構えを取り、気を拳に集め――撃つ。一撃。

『ハッッ!』

 拳の先にレーザーが触れるか触れないかの所で美鈴は技を放つ。

 《紅寸頸》

「――ッ!」

 石火、極太レーザーが美鈴を避けるように四散すると後から轟音と衝撃派が照を襲った。

 その光景に驚くのは照だけであった。美鈴はしっかりと敵を見つめ魔理沙は衝撃で落ちた自身の帽子を拾う。

「今回はやるきか?」

「そうですよ。まぁ、いつもワザと負けていましたからね。そろそろ働かないと私の立場がなくなるんですよね」

「じゃ、今回も呼び鈴程度に働いてくれだぜ」

 独特な語尾。霧雨魔理沙と言えば博麗霊夢と中が良い者の代表格であり、盗賊で有名な人物である。性格に難があることを除けば誰とでも親しく慣れる不思議な魔女だ。

「呼び鈴程度では役不足ですよ。せめて堅牢な門ぐらいは欲しいモノです」

「そんな、美鈴には私から休暇を取らせて上げるぜ。とびっきりの休暇だ。感謝するんだぜ?」

 魔理沙は竹箒を何処からともなく自身の目の前に出現させ箒に立ったまま乗り、加速しながら美鈴に突っ込んでいく。

 美鈴は構えると先程の技を牽制目的でだした。

 《紅寸頸》

 恋符と比べれば比べる間もなく細いレーザーが魔理沙に真っ直ぐ向かう。それを潜るように魔理沙は避け更にスピードを上げた。

 ここまで美鈴は読めている。この次の手も今回ばかりは真剣に読む。

「さぁ、どうするんだぜ!」

「あんまり考えたくないので一発で仕留めさせていただきますよ」

 目を瞑り視覚的に敵を捉えるのではなく五感を使い敵の動きを捕捉する。風が引き千切られる音。筋肉の動き、服が靡く音。

 負けるといつもならココで思っていたのだろうと内心自分をあざ笑った。

 決めるのは一瞬、決まるのも一瞬。多分この攻撃が外れればいつもの負け慣れた自分に戻っていくのだろう。

「なら、これはどうするんだぜ?」

 《魔符「スターダストレヴァリエ」》

 瞬間、魔理沙が照の視覚から消え失せ、一本の矢と魔理沙は化した。

 美鈴は目をゆっくりと開け、音の把握している情報と目の見える情報を会わせる。一撃を放つ準備をする。息を吸い全身へと巡らせ、熱と力を吐きだす。踏み込みは一歩だけ、気の伝導率、筋肉の連動率は高く。

 《熾撃「大鵬墜撃拳」》

 一発目は掌打で魔理沙の腹部を綺麗に捉え、二発目で顎を撃ち抜き、トドメは打たない。打つ必要がなくなったからである。二発目を入れた所で魔理沙の体は、くの字に曲がり、苦痛に顔が歪んだ。

「今日は私の勝ちですね」

「……あぁ、そうなんだぜ」

 と魔理沙は言い残し気を失った。負けたのに笑っていた顔を照は不思議そうに見ていた。

「では、弟子。魔理沙さんを屋敷に運んでおいて下さい。部屋は適当にでいいですよ。そこらへんは咲夜が手をまわしてくれるでしょう」

「了解しました。師匠」

「少しは私を見なおしました?」

 魔理沙を背負いながら照は言う。

「……いいえ、もとからすごい人だと知っていますので見直しませんでしたよ」

「良い弟子を持ったようですね」

「ありがとうございます」

 照は軽くお辞儀をすると歩みを進めた。

 自分はいい師匠と巡り合えたと幸運に陶酔しながら。

「いつか大物になりそうな気がします。いいや、なりますね。絶対私の手に負えなくなりますよ」

 美鈴はさみしそうに照の背中を見て言う。言葉は寂しく、いつかくる別れを予見しているようだった。

 




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