交響詩編エウレカセブン 第5番ハ単調   作:定泰麒

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ウィンドフォーワールド

 平凡に生きたかった。普通に恋をして、普通に結婚して、普通に子供を育てる。

 仕事は、うーんそうだなぁ。なるべく楽しくできる奴がいい。

 

 でもそれは淡い夢だったんだ。だってこの世界は絶望にまみれていて、みんなその日の事で精一杯だったんだから。

 

 恋なんて、愛なんて、俺には近くて遠い世界の事だった。

 

 

 

 

 

 「おーい、ミッド。リフ行くだろ!」

 

 「何度目かわからないけどね。サムナ・スタージョン君、そのミッドっていうのはなんなんだよ」

 

 「えっ、ミシット・ドルフスタンだから略してミッド。いい感じじゃないかな」

 

 「はぁ~、もういいや。にしてもまさかお前とタメだったとはな。フラグが立ちすぎなんだよ」

 

 ミッドは学校の窓側の席で、空を見上げながら呟いた。その声はサムナに届くことはなく、首を傾げていた。

 

 11982年11月25日生まれの14歳。父、母。それに兄二人の五人家族。ミッドことミシット・ドルフスタンはなんの因果かあのエウレカセブンの世界に生まれ落ちてしまった。転生者だった。

 

 にしても、サムナ。なぜ俺の名前は覚えられるんだろう、なんかクラスメイトの名前も覚えられんみたいな設定だった気がするんだが。

 仕方ないか、スタージョンは名家。俺んちの方も軍関連の名家だし、学校入る前から知ってたもんな。

 まずいんだよな~。エウレカセブンとかまじで生き残る方法が分からん。

 

 民間人はいつも死亡フラグ立ってるようなもんだし、軍人も政治家もアウトだろ。LFOライダーも当然却下。月光号にやられてまうし、コーラリアンに食われたくねぇ。

 

 取りあえず学校は行っておいたほうがいいという判断。でもってクラスメイトにサムナ・スタージョンがいる。

 しかも、割かし幼なじみというフラグを立てられてはしまっている。

 はぁ、どうしたらいいのかさっぱりわからん。なるようになれか……。

 

 うん? いや、ちょっと待てよ。ゲッコーステイトって死亡フラグめちゃくちゃ立てておきながら死者0人だったよな。

 つーことは、ゲッコーステイトの一員になれば俺生き残れるんじゃね。

 ミスってもフォローしてくれる奴らいっぱいだし、それぞれの分野のエリートだからなみんな。

 ありだな。うん、ありだ。逆転の発想とはまさにこれ。フラグを立てまくれば逆に生存フラグになるって聞いたことあるし。

 

 「サムナ! 俺決めたぞ!」

 

 「えっ、なにを?」

 

 「俺、LFOライダーになるわ。よし、リフ行くぞ!」

 

 「あ、ああ」

 

 サムナ・スタージョン。ゲーム版エウレカセブンの主人公、俺の生存フラグはしばらくお前にかけることにした。

 物語が順当に進めば、ゲッコーステイトに極めて近づけるタイミングがかなりある。

 サムナの威を借りて、ゲッコーステイトに潜り込む。すなわち金魚のフン作戦。これはきたぞ。俺って天才だわ。

 

 その日は、いつもよりリフの調子がよかった。久しぶりに空が楽しかった。

 

 

 

 僕にとって、ミッドは最初の友達だった。家も近くだし、お互い名家の息子。それに長男という立場でもない。全てが似ていた、でも一つ違うのは彼のリフは最高に綺麗だったんだ。まるで彼が風のようになるんだ、空の上では。

 

 リフをやり始めたきっかけは、一緒だった。BBという少年に会ったこと。その日から俺達はリフに憧れた。

 

 その日から、毎日こうしてリフをしている。悔しいけど、ミッドはリフに関して天才だった。すぐにリフを安定してできるようになって、人を魅了するような波乗り、技もこなせるようになるのにもそんなに時間はかからなかった。

 僕はそんな彼に追いつこうと必死だった。

 

 彼も俺に何度も付き合ってくれた。ミッド曰わく、俺よりもお前のほうが才能もあるし、人を魅了できる羨ましいって。だから俺が教えられるのも今だけだって。

 わからないけど、それを信じたい自分もいる。ただ空を飛んでいる瞬間だけは全てを忘れていた。

 

 

 

 

 

 俺がゲッコーステイトのメンバーになるって決めてから四年が経った。長くて短いそんな時間だった。我がドルフスタン家にもいろいろありまして、兄二人はエリート軍人としてがっつり活動している。

 無論俺はエリート軍人のコースには乗らずLFOライダー目指してNWに入ることが出来た。ふん、少し経ってこっちにサムナが編入してくることは分かってる。

 

 全ては順調。ただ個人的にありえねぇと思ったのは二年前のアマチュアリフ世界大会で優勝してしまったこと。

 16歳で優勝したせいでホランドの再来なんて呼ばれだした。有名人になんてなるつもりはなかったんや。

 しばらくは大変だった。プロにならないかなんて誘いもかなりの数。スポンサーをやらせてくれなんていう話もめちゃくちゃあった。

 生憎、俺もゲッコーステイトに乗らなきゃっていうのがあったし、親も当然許さない。

 よってプロになるという道はなかった。

 

 言っとくけど、まじで優勝とか自分でも小便ちびるくらいだった。

 あの決勝戦の日は、事故があった。決勝開場の割と近くでトラパー汗腺の爆発があったらしく決勝のピンポイントでその特大のトラパーの波が来た。

 

 決勝まで駒を進めていた強者達も耐えるのに精一杯で俺もなんとか耐えていたんだけれどいままで出したことのないが出てしまい流れに流されたどり着いたのはゴールの目前。

 圧倒的にぶっちぎりの一位になってしまった。

 

 俺のリフを見ていてくれた、サムナ曰わく、まるでトラパーが見えているようなリフで、決勝戦の数分間トラパーそのものだったらしい。

 自分で言ってても訳分からんし、聞いてても訳分からんかったからとりあえずありがとなって言っといた。

 

 他に語ることは何もない。LFO反対派の親父と喧嘩した事はつい最近のことでまだ右頬が膨れてい るのは別に語るまでもない。

 

 

 

 さあ今日から割と本番だぞ。なんせここにはゲーム版の中心人物達がいるからな。早速チームの割り当てが張られている掲示板の前にたった無論ゲームの中心人物は要チェックや。まずゲームのメインヒロインのルリ。次に良き同僚のフッキとスティーブンと名前でてこねぇけど女がもう一人。

 

 「私の名前はジリアンよ!」

 

 そうそう、ジリアンっていう女だったはず。

 

 うん……

 

 何か嫌な予感がしたんだ。後ろから殺気のようなものを感じるし。

 

 「あなた同級生の名前も覚えてないなんて! 減点よ、減点!」

 

 どうやら少し声に出てしまっていたらしい。掲示板の前にいたからチームの確認してるとでも思ったんだろう。

 

 「すまんな。でもこんな短い間で人の名前を覚えられる訳ないだろ」

 

 「えっ! 何行ってるの、学校一緒だったんですけど! 更に減点ね」

 

 「す、すまん。許してくれ、ジリアンちゃん」

 

 「ちゃんてなによ、ちゃんて……はぁ、まあいいわ。あなた有名人だし、あの相棒としか一緒にいなかったものね。今回は許してあげる」

 

 すっかり忘れてた。俺ゲーム版の漫画読んでないんだよ。全然手には入んなかったからあらすじ知ってるくらいだし。まさかジリアンが同じ学校だったとは……。それとジリアンが同じ学校ってことは、スティーブンも同じだったのか?

 まずい、情報を制する者は最強だって古今東西のことわざみたいなもんもある。とりあえず情報収集から始めんとな。

 

 

 

 ミッドは私達の憧れの的だった。みんなが彼のリフに魅せられ恋をした。

 私もその一人だった。そんな彼の相棒、サムナ・スタージョンのこともよく覚えてる。

 

 私はサムナ・スタージョンのリフを見たのがきっかけでリフを始めた。

 まるで宝石の原石みたいに、そんな感じのリフ。実直でテクニックなんてまだまだなんだけど、ずっと見ていたいって思わせられた。

 

 それから、その横でリフをするミッドを見た。いや、見てしまった。

 彼のはもうなんていうか、すでに磨かれ終わった宝石でレベルが違っていた。

 サムナが真っ赤なルビーなら、ミッドは淡く光るエメラルド。

 こんな人達が、私の同級生なんだと思うと胸が高鳴った。

 

 そして、二年前。

 

 その片割れのミッドが、あのアマチュアリフ世界大会で優勝した。なるべくしてなった優勝としか言う他なかったと思うの。

 だって、あんな波プロでも乗りこなせる人は少ない筈。それだけのトラパーの大波。

 只一人、あの場で乗りこなせていたのはミッドだけ。しかも彼、あのカットバックドロップターンを決勝で決めた。

 リフ界での最高難度の技をたかが16歳の少年が、プロでも難しい波のなか決めたのだ。

 これには私だけじゃない。それを見た全ての人が彼に惚れただろう。そしてこう思ったに違いない、この少年は伝説を作るって。

 

 スティーブンという許婚と、サムナという淡い恋心を抱かせられた男と、ミッドという完全な憧れ。まだ私は恋い多き少女だった。

 私がLFOライダーになりたいって思ったのも仕方のないことだった。

 




 箸休めで書いた。後悔はしてる……

 尚、設定はゲーム版エウレカセブンとアニメ版エウレカセブンに準拠してます。
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