右手を空に掲げてトラパーを感じる。
いつの頃からか、やってた。リフに乗る前には絶対にやる一つの癖みたいなもんなんだけど、それのおかげで上手く飛べてる気がするんだ。
調子がいいとか、悪いとかも全部そこで決まるような気がしてさ。
あの決勝の前は、何時もよりビンビンに感じてた気がしないこともない。ただ調子はいいなってのは感じた気がする。
空を飛ぶって、こんな世界にくる前だったら、飛行機とか気球とかあとそうだな……スカイダイビングとかか?
まだあった気がするけど、こんな風に波乗りみたいな感じで空を飛ぶってなかったのは間違いない。
案外とやっていて楽しいもんだって、最初に乗った時に思ったな。それまでは怖いとかさ、やる必要ないとか考えてたんだけど気がついたら暇な時間をリフに捧げてる俺がいてさ、そりゃもう嵌まってたんだなって。これを無くしたら幸せを一つ失うようなもんなんだって今では思ってる。
そうして、ニューウェーブに入って半年が経った。今日からサムナがここに編入してくるっていう話だ。
少し前から俺もニューウェーブに行くからっていう話は電話で話してたし。
ほふー、どう迎えてやるか、すげぇ迷ったけど……やっぱ、一つしかないなってそりゃもう結局幼なじみとして、昔から一緒にいるけど絆を深めるようになったのはリフなんだから、歓迎はあいつのお出迎えはリフするしかないやろってさ。あいつもリフが好きだからな。
つまり、俺はなんとかしてあいつの目をごまかし放課後にリフ場に来させるしかないっつー訳だ。
……うむ、全く案が思い浮かばん。確か原作だったら、編入してきてLFOの訓練して、ルリとしゃべってジリアンのいるチームに入って、リフスペースにきてとかそんな感じだったはず。
そうじゃん、何もしなくてもリフ場にはくるわけだから、訓練を今日一日体調不良で休ませてもらえばええんや。
深刻そうな顔してルリに助太刀を求め、今日一日訓練を休ませてもらえるように手続きをしよう。
そうと決まったら時は金なり。すべては俺の生存フラグのため、騙すようで悪いけどルリさん頼りにしてます。
親に引かれたレールの上を歩いていくことに正直僕は疲れはじめていたんだ。それにいろんな事があって、今この現状に疑問とか違和感とか感じてる。
その中で、ニューウェーブからこっちに編入してこないかと誘われたのは丁度よかった。僕に何か変わるかもしれないと思わせた。
しかも、ニューウェーブにはミッドもいる。彼の話は未だにちょくちょく耳に入ってきてる。その名前が割と有名だから仕方ない事なのかもしれない。
噂によれば、既にSOFにお呼ばれしているらしい。それも当然だ、あの才能は軍にとっても喉から手がでるほど欲しいに決まってる。個人的にはSOFにはホランド隊長がいるから、それにミッドがいれば誰も軍に逆らうことなんてしないんじゃないかって思う。
それにしても、ミッドに会うのも久しぶりだ。元気にやってるかな。
ちょくちょく連絡はとってたけど、やっぱり直接顔を見ないと安心は出来ないから。
さあ、今日から新生活だ。去年ミッドにもらったリフボードを担いでニューウェーブの門をくぐった。
「ふーん、ミッドの相棒なかなかやるじゃない」
「そっちこそ、かなり出来るね。今の僕には到底かなわないよ」
編入初日、早速LFOの訓練に誘われたサムナは教官にその実力を見せる中、ニューウェーブ内の女性で最も強いルリとその技量を争っていた。
それまで、教官さえも目を見開く活躍を見せるサムナだったが彼女には到底及ばない差があった。
訓練用のLFOで対峙する2人は、この時はまだ思いもしていなかったのだ。
今後彼らがとんでもない事件に出くわし、そしてその結末を。
サムナ・スタージョンの物語はここから始まった……。
流石にサムナも疲れきっていた。初日からLFOの訓練に白兵戦の訓練、その頭の中にはミッドの事を思い浮かべることさえできないでいた。
「サムナお疲れ様」
「あールリさん。お疲れ様です」
「初日から大変だね、もっと教官連中も手抜いてやればいいのに」
ルリの手には二つのドリンクが握られていて、そのうちの一つをサムナに手渡した。
会釈をしながらサムナはそれをうけとった。疲れている時に飲み物の差し入れはありがたかった。
「ありがとうございます。でも、みんな同じ事やってるんですよね?」
「うんまぁね。それでこのあとはなんかあるの?」
「いえ、今日はこれで終わりだそうです」
「そうか……よし、じゃあいこうか!」
「えっ、どこに?」
ルリはその反応に、微笑みながらついてくればわかるとだけ言って、サムナの手を握りリフスペースへと向かったのだった。
その様子を一人の青年が、少し悔しそうに見つめていた。彼の名はフッキ。
ルリに惚れている男の一人で、サムナのチームメイトの一人だ。
「くっ、あの野郎。初日からルリと親しくしやがって許せねぇ」
決して悪い人物ではないが、少々性格に難があったのも事実だった。
「あんたさぁ、ミッドの相棒なんだってね」
「えっ? まぁ確かに仲はいいですけど」
「違うの? なんかずっと昔から一緒にいて、頼りにしてるってミッドの奴が言ってたよ」
「ミッドがそんなことを?」
うん、ルリは頷いてサムナに向き直った。
「頼りにしてるか……頼りにしてるのはこっちの方なんだよな」
「わかるわ。彼凄いもん、私も白兵戦以外は負け越してる。それにその白兵戦も最近連敗中だし。散々なんだ」
「ミッドに勝った事あるっていうだけでも凄いんじゃないですかね」
「そんなことあるかも」
ルリは笑うと走りだした。
「ほら、ついてきて! はやく、はやく!」
「あっ! ちょっとルリさーん」
サムナはくたくただった筈の体を奮い立たせてルリについていくのだった。
おっせー。既に三時間空を飛んでる。この施設はトラパーの波のスポットでかなり飛びやすい。
暇すぎてカットバックドロップターンを既に連続三回こなすという事を仕出かしてしまってる。
ゲームだと何時とか出ないから、待つしかないってのはわかってたけどぶっ続けで三時間飛んでるって相当やばい。
周りの奴もひそひそ話してるのが聞こえた。何を話してるかは分かんないけど大体予想は着く。
どうせリフ狂いとか、カットバックドロップターン見せつけてキモイとかそういう類だろう。
そんなのを考えると泣きたくなる。悪いのはサムナだ! そう全部、サムナが悪い。
心の中でぶつくさ文句を言いながらまだまだリフを続ける俺であった。
「流石ドルフスタンだな。ずっと飛んでやがる」
「そうね、私達じゃあんな飛んでられないわ。アマチュアリフ選手権優勝は伊達じゃないようね」
「しかも、カットバックドロップターンを3連続間髪いれずにやるなんて人間辞めてるぞ」
リフ場に来たときには、既に野次馬が何人もいた。
みんなミッドを見ていた。聞けば三時間連続飛行にカットバックドロップターン三連続等々の話で盛り上がっている。
当の本人は何食わぬ顔で、リフを続けている。
「なにか考え込んでるな~」
サムナはミッドのその顔を見て、思わず呟いた。
「やっぱ相棒の事ならなんでもわかるか~。今日の朝からあんななのよ」
「それってどういう事ですか?」
「朝私のとこに来てね、今日気分悪いから訓練でないって言ってきたのね。どう考えても嘘っぱちだったけどなんか悩んでそうだったから協力してあげたの」
その話をルリから聞くとサムナはため息をついた。
「昔からそうなんですよ。ミッドは嘘が下手だし、悩みがあるとすぐ顔にでるんです」
「だと思ってた。こないだ白兵戦で私がボコボコにした時もあんな顔してたもん。あーなんか悩み事あるんだろうなって思ったんだけど、鬱憤が溜まってたからついやっちゃった」
「……ははは。ルリさんは豪快な人だな」
「それほどでも。よしじゃあ私達も飛ぼうか!」
「はい」
サムナとルリはボードに乗ると、ミッドの元へ向かった。
そのことにまだミッドは気がついてなかった。
「久しぶりに会ったと思ったら何を悩んでるんだ?」
「そうよ、せっかく私があなたの相棒をここまで連れてきてやったんだから感謝してよね」
完全に自分の世界に入ってた。主にサムナが悪いというの延々と脳内で力説していた。
そもそも何故俺が男の事で悩まなければならないのか。
どうせ悩むならやばい気づいたら四又してたからどうしようぐらいのもので悩みたい。
というか女性関係ならなんでもいい。どうも俺は女性から人気がないようで、話かけられない。
こっちから話しかけても、大抵あっちが相槌するぐらいだ。悲しいもんだよ。
所で何か話かけられた気がする。サムナの声だったか、ルリの声だったか。
まぁ空耳だろうと思いつつ、右と左を見てみた。
「ようやく気がついたのね!」
「久しぶり、ミッド」
おう、やっちまった。もう少し感動的な再開とか演出を考えてたのに完全にこれは失敗だ。
俺はフラグ管理を完璧にやりたいタイプなんだよ。
これじゃポイント足りなくて友人エンドは見れても恋人エンドに出来ないじゃないか!
いや、サムナは男だから友人エンドで十分やったな。
でも生存フラグもかかってるからポイント稼いで損はないし、一個ミスるともうダメというのも十分あり得る。
くっどうしたら……。とりあえず返事だけはしとくか。
「久しぶりだな。相棒」