IS 不死鳥の鳥瞰   作:koth3

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仙人の訓戒

 藤原紅輝が入学し数日が経った。

 僅か数日間で学園内での藤原の評価はぼんやりと定まってきた。初日のSHRでの一幕や事業で見せたISの操舵技術が女子たちの噂で広まったらしく、曰く取っ付き辛い孤高気取りやら曰くストイックな人等々、そんな話があちらこちらで飛言している。

 そんな評価を下された藤原はといえば、IS学園のアリーナの内周部の壁に背を預け、クラスリーグマッチと呼ばれるクラス代表同士の戦いを一人で観戦していた。

 アリーナの観客席は試合開始間近ということも有り、すでに色とりどりの人の波が途切れることなく続いている。今か今かと待ちわびている生徒たちは友人同士で姦しくお喋りを楽しんでいた。

 フィールド脇のピットから二つの影が飛び出す。その影は白と赤紫だ。

 一つは白式。藤原も見慣れた白い装甲に巨大なウィング、そして機械仕掛けの太刀を佩いている。もう片方の機体はウィングの代わりに浮遊した巨大な球状の物体が特徴的で、方天画戟らしき戟を携えていた。

 両者がにらみ合う中、アリーナのスクリーンに無機質な文字で組み合わせが表示された。

『織斑一夏 対 凰鈴音』

 凰が駆る甲龍は、中華人民共和国の作成した第三世代ISだ。パワータイプであるが機体性能のバランスに優れかつ燃費も良い機体で、現存する第三世代ISの中では最も実用的と謳われるISだ。近くの生徒たちが語る機体情報に藤原は耳を傾け甲龍を打ち見る。

 距離があって完全に分かるわけではないが、なにやら操縦者が織斑と口論になっているのが藤原には見えた。

 結局決裂したのか、お互い闘志を溢れさせている。

 両者の気迫が通じたのか、いつの間にかアリーナ中が静かになり、唾を嚥下する音が響く。

 そして試合が始まった。

 試合開始の合図と同時に、甲龍が駆け出し戟で白式へ斬りかかる。甲高い衝突音が響く。アリーナの中央では太刀と戟が火花を散らす鍔迫り合いが行われている。

 序盤からの迫力ある激突に観客が沸き上がる。その声に後押しされるように、両者の鍔迫り合いは益々激しくなる。

 だがスピードタイプの白式に鋭い切れ味で敵を斬る太刀では、パワータイプの甲龍が振るう肉厚の段平をとどめられる道理はなく、甲龍がさらに力を込めると白式はあっさりと吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされつつもここ最近の練習の甲斐あってか、空中ですぐさま体勢を整えた白式は、直ちに距離を縮めようとするが、突如後方に吹き飛ぶ。スクリーンに表示されているISのエネルギーが、白式だけ減少している。

 白式は見えない何かに攻撃されていた。

 白式はフィールド内を逃げ惑うが、的確に攻撃を受けシールドエネルギーはみるみる減少していく。

 近距離では戟による重たい一撃。中距離からは視認不能な攻撃が飛び続ける。全ての距離が白式にとってキルゾーンだ。勝つにはよほどうまく意をついて甲龍へ近づき、太刀の一撃を与える必要がある。

 空を飛び逃げ惑っていた織斑一夏は、ふと地面へ急降下を繰り出す。逃げではないのだろう。藤原が見える織斑一夏の瞳には、活力があふれていた。

 あと数センチメートルで地面に激突する。その瞬間見事なターンで蜻蛉返りを果たす。次いで衝突音が響き、アリーナの戦場に砂煙が立ち籠める。ISにはハイパーセンサーがある。現存するセンサーの中で最も優れたこのセンサーの前では、砂煙などないに等しいだろう。織斑の狙いがわからず誰もが小首をかしげる中、甲龍が再び見えない攻撃を繰り出して、誰もが驚愕した。

 舞い上がった砂塵が見えない攻撃に巻き込まれ、その軌跡を露わにす。甲龍のパイロットもそのことに気づいたのか、戟を構えて少しでも砂煙の薄い場所を求め翔る。

 だがそれこそが織斑一夏の狙いだったのだろう。白式は今までで一番速く甲龍へと迫る。瞬時加速と呼ばれる技法だ。一瞬でトップスピードの弾丸となった白式が、太刀を大上段に振りかぶる。甲龍は体勢が悪く、戟での防御は間に合いそうにない。

 勝負が決まる。誰もがそう思った。

 しかしその勝負はつかなかった。突如アリーナのシールドを破り、侵入した奇妙な機体のせいで。二人の間を通り抜けるように現れた正体不明の機体に、白式と甲龍は離れざるを得なかった。

 痛いくらいの静寂が広まる。一拍間を置き悲鳴が響く。アリーナに観戦していた生徒たちは逃げようとパニックを起こしている。アリーナからとにかく出ようと出口へ殺到するが、出口は固く閉ざされ開く様子はない。

 藤原は逃げ惑う生徒たちの様子を一瞥すると、身体をのそりと起こし、アリーナのフィールドに近づく。

 目を離していた間に、白式と甲龍が正体不明のISに斬りかかっていた。教師陣は、ピットに集まり歯がみしている。どうやらアリーナのバリアに異常が起きているらしく、誰もフィールドに近寄ることが出来ないようだ。

 人っ子一人いなくなった客席へ静かに座った藤原は白式たちの戦いをただじっと眺めていた。

 流れ弾がバリアを破り、藤原の近くに着弾する。生徒たちの悲鳴が強まる。誰かの泣き声が聞こえる。

 だが白式たちはそんな声を無視し、戦っている。

 それどころか戦いはより激しくなり、周りへの被害も増えている。感情の見えない瞳で見ていた藤原は再び立ちあがると、混乱を起こしている人混みの中へ紛れ消えていった。

 

 

 

 アリーナに乱入し暴れ回った正体不明ISの件で調書作成に協力した一夏が取り調べから解放されたとき、窓から見える光景は夕闇に染まっていった。いやな予感がして汗を一筋垂らしながら時計を見ればすでに寮の門限はぎりぎりとなっていた。一夏の脳裏にやばいという単語が踊り狂う。

 事情が事情だから寮長でもある千冬はある程度の猶予はくれるだろう。だが、それでもその猶予は短いはずだ。姉弟だからこそ千冬の考えを一夏はよく理解できる。猶予を過ぎれば、情け容赦なく門限破りの罰が下されるだろう。

 寮の廊下を一夏は足早に歩く。競歩選手顔負けの速度で歩く一夏は、藤原が廊下の壁に背を預けているのが目に入った。角を曲がればあと少しで自室へたどり着くような場所にだ。藤原の部屋は一夏の部屋と真反対の位置にあるというのに。

 

「藤原さん、どうされたんです。もう、門限ぎりぎりですよ」

「なに、少しな。お前さんと話がしたくてここで待っていたのサ」

 

 そういう藤原は、なぜかどこか悲しげに目を伏せていた。

 

「えっと、でも時間が」

「そう長くはとらない。それに誰にも聞かれたくないんだ」

 

 猶予は少ないといえ立ち話する程度ならば問題はないだろうと一夏は判断した。

 

「わかりました。でも本当にちょっとですよ」

「ん、……お前は今回どうして戦ったんだ。逃げたり、隠れたりできただろうに」

「そんなの、襲われたからですよ。それに俺と鈴なら対処できたからです」

 

 なぜそんなわかりきったことを訊くのだろうかと、一夏は小首をかしげながらもその胸を張り答えた。

 しかし藤原はため息を一つ吐くと、髪をぐしゃぐしゃと掻き乱す。

 

「そうか。なら、これは俺が言っておいた方が良いんだろうな」

「なにをですか」

 

 藤原はじっと一夏の目を見詰める。紅い瞳に一夏は捉えられ、視線をそらすことはできなかった。

 

「良かったな。……誰も死ななくて」

「なっ」

 

 息が詰まる。反論しようと口を開いた一夏だが、うまい言葉が見つからず、二の句が継げなかった。

 顔が熱くなり、一夏の内側で様々な言葉が次々に溢れ出す。そのどれもが藤原を責める言葉ばかりだ。それでもなお、怒りは冷めやらず、一夏は声を張り上げた。

 

「なにもしなければ良かったっていうんですかッ」

 

 詰め寄る一夏に対し、藤原は首を横に振った。

 

「いいや。勘違いしてほしくないが、お前のしたことは正しいことだろうよ。誰もが賞賛するだろう。勇敢な行為だと、勇気ある若人だと」

「じゃあ、何が気に入らないんです」

 

 自然と口調が荒々しくなる一夏だが、自分を抑えようという気は一切なかった。むしろ自分の怒りを藤原にぶつけたいとすら思っていた。

 

「そういった次元じゃない。俺が言いたいのは、お前たちが戦っていたとき、お前は周りの人間の命を背負っていたか」

「背負うですって」

「そうだ。あのとき戦っていたお前は知らないだろう。観戦していたやつらは恐怖で逃げ惑っていたよ。大勢の人間があの場にいたんだ。パニックを起こせばそれだけで誰かが負傷することもあるだろう。それでいてあのISはアリーナのシールドをも壊す力を持っていた。流れ弾が当たった可能性も十分あっただろう」

「で、でも、でも当たらなかったじゃないですか」

「そうだ。当たらなかった。だから良かったで話がすむんだ。でももし当たったら。お前は誰かが死ぬ原因になるんだよ。お前はそのことを覚悟したうえで戦ったのか」

「そ、それは……」

「酷なことをいっているのはわかっているさ。あんな状況でいきなり戦わされてそんな覚悟できる奴なんざいない。でもな、それでもしなきゃいけないことなんだよ、それは。敵と戦うのは勇気ある行為だ。だがそれで誰かが死ぬかもしれないのにそんなことを気にもとめず戦うのならば、それはただの蛮勇で有り猪武者、だれかを傷つけることしかできないような奴だ。俺はお前がその程度の人間になってほしくない。だからこうしてお説教染みた話をしているのサ」

 

 先程まで感じていた怒りはすっかり消え去り、今になって一夏は寒気を感じていた。もしかしたら誰かが死んだかもしれない。そう考えるだけで自分がしたことが空恐ろしくなり、歯の根が合わなくなる。

 

「お、俺は、俺は間違っていたのか」

 

 ぽつりと言葉が漏れる。

 

「いや、間違っちゃいないさ。それに言っただろう。お前は正しいって」

「で、でも」

「ただ、戦うにしてもお前の感情が命令するままに戦うのはいけないというだけだ。それはお前が感情に振り回されるだけの餓鬼という証拠だ。正しいからって何をしても良いというわけじゃないんだ。戦うことを選ぶならば、考えろ。本当にすべきことは何かということを。それができれば、お前は立派な一角の人間だよ」

 

 ひらひらと手を振って藤原はどこかへ行った。その後ろ姿を眺めていた一夏はしばらく立ち尽くしていたが、とぼとぼと部屋へ帰った。

 

「お、お帰り、一夏」

 

 部屋では箒が待っていた。アリーナで無茶をしたことで絞られていたらしく、いつもならばすでに私服に着替えている時間だというのに、いまだ制服を着ていた。

 

「あ、ああ。ただいま。箒」

「う、うむ。その、だな一夏」

 

 歯切れ悪い箒は何か言葉を探しているようだった。

 そして顔を真っ赤にして口を開いた。

 

「きょ、今日のお前は立派だったぞ」

「……うん」

「ど、どうした一夏。顔色が悪いぞ」

「ちょっと、な。疲れてて。悪い、箒。もう休むな」

「わ、わかった。あれだけの戦いの後だ、英気を養え」

 

 返答することなく、一夏は自分のベッドに倒れ込む。着替える気力もなく、そのまま目を瞑った。

 その夜、一夏は眠ることができなかった。




原作の一夏が評判がけして良いといえない理由がたぶんこれだと私は思うんです。暴力的。いや、マジで。
たとえば同じような鈍感系ハーレム主人公の上条さんだと、彼は男女平等パンチこそかましますが基本暴力に訴えません。ナンパされている少女を助けるために、知人のふりをしてごまかそうとします。しかし原作一夏さんは違います。ナンパされているという理由だけで、あるいはシャルロットが技をかけている。それだけの理由でいきなり横合いから殴ってますからね。一応一般人の上条さんと違い、軍事教練を受けている身で。あの警察官が一夏もしょっ引かなかったのが本当になぞです。
というわけで今作ではそれはちょっとまずいだろうということで一夏君には暴力は悪だと理解してもらいます。いや、考え抜いた上での暴力ならまだしも、感情的な暴力ほどろくなものはありませんからね。
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