Fate/stay night-Unlimited World   作:轟th

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今回は「サーヴァント」についての補足説明。
 聖杯戦争に際して召喚される特殊な使い魔、彼らの正体はあらゆる時代において神話や伝説といった物語の中で活躍した英雄たちの魂。本来ならば人間が使役するには位が高すぎるが、聖杯の補助を受けることで初めてマスターとなることが出来る。
 ただし聖杯の補助があっても英霊を完全な形で召喚するのは容易ではなく、そこで予め役割に即した英霊の一面を持つ筐を用意し限定することで負荷を抑えている。クラスには基本の能力値や保有スキルとは別に、後付けのスキルが与えられることが多い。ただし生前有していた武装や能力がクラスによって発動できなくなる可能性もある。
 基本的に聖杯はそのマスターと相性の良いサーヴァントを招くが、マスターはマスターは召喚の儀式の際に触媒を用いることで英霊を指定して召喚することが出来る。触媒が英霊と縁の深い品であれば、マスターとの相性が悪い場合でも召喚ができる。逆に触媒が英霊とゆ縁の浅いものである場合は、触媒とマスターとの相性、双方が考慮され決定される。

では、本編をどうぞ。


第三夜:転生者

「くっ……」

 

 戦場を坂道から墓地へと変え、セイバーは戦っていた。

 バーサーカーの攻撃で吹き飛ばされたように見せかけてまで移動したのは、マスターを敵の脅威から守るためだった。戦闘経験もなければ魔術師としても未熟な士郎では自衛すら出来ず、飛散する瓦礫に当たっただけで致命傷を負ってしまう。その為にも場所を変えたのだが、これは逆にマスターの身を危険に晒すリスクがあった。もしバーサーカーやそのマスターがセイバーではなく士郎の命を先に狙ったのなら、遠くに居る彼女はむざむざと主を死なせてしまうからだ。しかしそうはならないと、セイバーは直感的に理解していた。この敵たちはそのような詰まらない結末を受け入れたりはしないと。

 戦いの最中に敵を信じるなどどうかと思うが、結果的にそれは正しかった。

 

「ぜぁっ!」

「A――urrrrrrッ!!」

 

 乱立する墓石の間を抜けるように移動する。

 どちらも一歩も止まることなく動き続け、時々すれ違っては剣を交えていた。しかし墓地に移動したのは失敗だったかもしれない。これで相手が自分よりも大柄だったなら、障害物の多いこの場所はセイバーにとって有利となっただろう。だが自分と同じくらいの体躯しかないバーサーカーには意味がなく、時折り墓石を蹴り飛ばしてくるなど逆に利用されてしまう始末。

 セイバーの剣は正に王道、教科書通りの騎士が振るう剣術の基礎の型。弛まぬ練磨と積み上げられた技巧、加えて戦場の修羅場を乗り越えてきたことにより、その剣は殺人の技でありながら芸術の域にあった。

 対してバーサーカーの剣はセイバーのそれと似通っているが本質はその真逆、実践本位の効率的かつ最適化された人を殺す為の技。されど無様に落ず、型に囚われない柔軟にしてアクロバティックな戦い方だ。

 

 ――おかしい。

 戦いの最中に、セイバーは違和感を覚えた。命懸けの戦場にいながら、相手を殺す以外のことにうつつを抜かすなど言語道断であるが………いや、だからこそ考えてしまう。

 何故、この敵は私の剣の間合い(・・・・・・・)を知っているのかと。

 セイバーの剣が不可視なのは、彼女が持つ対人宝具『風王結界インビジブル・エア』が起こす風により出来た第二の鞘で包まれているからだ。本質は兎も角、幾重にも重なる空気の層が屈折率を変化させることで対象を透明化させる。白兵戦において相手の武器が視えないのは、間合いの把握ができないことを意味する。本来であれば間合いを計るまでの間、バーサーカーはこちらの攻撃を大げさに避ける必要があった。

 だが、まるで最初から知っているかのように(・・・・・・・・・・・・・・)、敵は攻撃を避けた。

 『直感』等のスキルにより把握しているのかとも考えたが、それともまた違う。

 明らかに、この剣の間合いを熟知している。

 

「――貴様、一体何者だ!」

 

 思わず、セイバーは問うていた。

 彼女の考えが間違いでなければ、バーサーカーは自分と知己の英雄だからだ。同じ時代を生き抜いた人間が召喚される可能性は低いが、決して零ではないのだ。同じ英霊が連続してサーヴァントとして召喚されることも、同じ激動の世界を味わった戦友が参戦することもある。

 サーヴァントは基本的に戦争が終わり英霊の座へと帰還すると感情や思い出といった、戦いの妨げとなるものは消去される。ただし、記録としては残されるので、座にいる本体が閲覧することは可能である。

 ただし、何事にも例外というのは付き物で、彼女は正にそれだった。

 つまり、セイバーは前回の記憶を完全といかないながらも所持している。彼女は前回の第四次聖杯戦争の折、今回と同じく『剣の騎士(セイバー)』として参戦していた。その渦中で、かつての戦友と敵として殺し合ったことがあった。なんという皮肉なのか、前回の戦争でも戦友は『狂戦士(バーサーカー)』として参戦していた。

 

「■■■■■■――」

 

 嘲笑うかのような音が甲冑越しに響く。

 理性を失っていながら、セイバーわたしに対する憎悪だけは明確だ。

 

「A――urrrrrrッ!!」

「―――ぐっ!」

 

 バーサーカーの斬撃を受け止めた瞬間、左胸に激痛が走る。

 そこは現界した直後に戦ったランサーの魔槍――ゲイ・ボルクにより貫かれた箇所。心臓を穿たんとした一撃を何とか逸したものの、受けた傷は未だに癒えてはいなかった。収まっていたのが今ので再び出血したのを感じる。召喚に不備があったのかマスターから魔力が供給されている様子はない上に、おまけに今日これで三戦目だ。ハッキリ云ってバーサーカーと戦える程に万全な状態とは言い難かったが、だからと云って騎士であるセイバーはそれを言い訳にするような真似は決してしたりしない。

 対してバーサーカーはマスターから余程潤沢に魔力供給を受けているのか、惜しげもなく『魔力放出』に費やして苛烈に攻めてくる。加えてその宝具の能力と思しき赤雷が、剣身に帯びていて破壊力を更に増している。

 長期戦になればこちらの敗北は必須。

 であれば真名が露見する危険を冒してでも、短期決戦を挑まなければならない。

 

「ここが貴様の死地だ――バーサーカー!」

 

 剣を立てて右手側に寄せて左足を前に出す、フォム・ダッハの構えを取り走る。こちらが次の一撃でケリを付けると読んだのか、バーサーカーは剣の柄を両手で持つと最上段に構え待った。明らかに向かってくるセイバーを迎撃する構えだったが、そんなことは関係ない。

 

「爆ぜよ、風王結界!」

 

 互いの剣が当たる絶対の間合いまで数歩となった時、セイバーは剣の封を解いた。剣身が見えなくなる程に幾重にも纏わせていた風が、破壊力を伴った暴風となって弾ける。それは本来なら敵へと向けられる攻撃だが、セイバーはそれを自分の後方へと向けた。解き放たれた風は推進力となって小柄な騎士の身体を押し出し、爆発的な加速力となってバーサーカーへと肉薄する。

 敵を迎撃する上で最も大事なのは見極めだ。カウンターは相手の攻撃に合わせて自分の攻撃を当てなければならないのだから、絶妙なタイミングで攻撃する必要がある。決して相手よりも速くても遅くてもならない。故に、今回のように速度を挙げられタイミングをずらされると、卓越した技量の持ち主でも反射的に動いてしまう。

 バーサーカーとて例外ではなく、剣を振り下ろしてしまった。セイバーは迫る白銀の剣を紙一重で躱すと“黄金に輝く聖剣”を、そのまま鎧の隙間――首の下に突き刺さんと繰り出した。

 

「■■■■■――ッ!!」

 

 直後、大きな爆発が起こった。

 爆心地から吹き飛ばされたセイバーは石畳の上をもみくちゃになりながら転がり、やがて何かにぶつかって止まる。顔を上げれば額が少し裂けたのか血が流れ、右の視界が真っ赤に染まり見えなくなってしまう。更に止まった際に足をぶつけたのか鈍い痛みがあり、これでは立てたとしても踏ん張れそうにない。

 いや、今はそんなことに構っている暇はない。状況を確認すべきだが、何が起こったのかセイバーは確かに見ていた。あの瞬間、セイバーの聖剣がバーサーカーの喉元を貫かんとした直前――狂戦士は瞬間的に動かせるありったけの魔力を剣へと注ぎ込んだ。剣の能力により増幅された魔力は切っ先が地面に叩きつけられると同時に、溜め込まれた爆弾として炸裂した。これにより攻撃が当たる前にセイバーは後方へと吹き飛ばされた。

 信じられないことだが、バーサーカーは自爆覚悟の行動に出たのだ。

 

「(だが、あれでは奴とて無傷では)―――ッ!」

 

 戦略的撤退を選ぶかと思ったが、狂戦士に逃走の二文字はなかった。

 土煙を突き破って突進してくるバーサーカーの美しかった甲冑は汚れて見る影もなく、左腕は折れているのか明後日の方向を向いている。だが、その闘志は微塵も揺らぐことなく、セイバーを殺さんと疾走する。

 それを迎撃せんと立ち上がり剣を構える。この痛む足では踏ん張ることも叶わないが、だからとて退く理由にはならなかった。騎士であるが故に、彼女もまた最後まで抗い続ける。例え敗北するとしても一矢は報いてみせる。

 

「え―――っ?」

 

 どん、と横から衝撃が走った。

 突然のこととは云え踏ん張ることが出来ず、押されたセイバーの身体は左側へと傾く。倒れこみながら振り返れば、自分を突き飛ばしたであろう下手人――士郎の姿があった。本来守るべきマスターに自分が突き飛ばされていることに困惑し、彼の接近に気が付けなかった己の不甲斐なさを悔やむ他なかった。

 

「A――urrrrrrッ!!」

 

 バーサーカーはもう止まれない。

 彼の騎士のマスターは士郎を殺すことを楽しみにしていたが、後数秒とせず心臓を貫かれて士郎は確実に死ぬ。この状況から迫る死を回避する術も、突き付けられた刃を防ぐ方法も彼は持っていなかった。故にあまりにも呆気なく、そして理不尽なまでに無抵抗に無意味に衛宮士郎の人生はここで幕を下ろす。

 死を目前にして彼が最期に思ったのは、セイバーの安否だった。マスターが身を呈してサーヴァントを助けるなど前代未聞のことだが、そもそもの大前提として士郎は彼女のことを使い魔(どうぐ)として見ていなかった。ただ剣を振るう美しい女の子としか捉えておらず、故に正義の味方を目指す士郎にとって見捨てて逃げるなど端から選択肢にはなかった。そんな愚直なまでの思いが、蛮勇とも呼べる行動へと士郎を突き動かした。

 故に考えなしの行動の代価が命なのは必然であった。

 

「え、人――?」

 

 無謀にも自分の駒を救った士郎を助けようと、丘の上にいた凛がバーサーカーに向けて攻撃をしかけようとした時だった。遠方にて狙撃体勢のまま状況を伺っていたアーチャーから、接近する人影があるとの報告があった。まさか騒ぎを聞きつけた他の陣営のサーヴァントが強襲しに来たのかと考えた直後、彼女の頭上を何かが凄い勢いで通り越した。

 乱入者は士郎のすぐ脇に轟音を響かせながら着地し、その反動を利用して飛び上がると士郎へと伸ばされた剣を斬り上げて弾いた。突然の介入者に驚いたバーサーカーは、警戒したのか大きく後方に飛んで距離をとった。

 

「バーサーカー?」

 

 サーヴァントの思わぬ行動に、イリヤスフィールは首を傾げた。

 「狂戦士」のクラス特性である「狂化」は、理性と引き換えにして驚異的な暴力を所持者に宿すスキルだ。ランクに応じて上昇するステータスの項目が増えるが、それに比例して生前の技術のみならうず思考能力や言語機能が失われる。彼女のサーヴァントのランクはEであったが、セイバーを前にした途端にCランクにまで上昇した。尤もイリヤスフィールからすれば、戦いに勝ってくれるのなら理性がぶっ飛んでいようと関係ないのだが。

 理性がないと云うことは闘争本能のみで動いていることなのだが、そんなバーサーカーがあの正体不明の乱入者を前にして後退することを選択した。おそらくはあの敵に対して何かを感じ取ったのだろうか。

 

「……いいわ、戻りなさいバーサーカー。好物は最後に取っておきましょう」

 

 狂戦士はバーサーカーと乱入者を一瞥してから、主の命に従って退いた。

 敵が完全に撤退したのを確認し、士郎の命を救った人物は刃を収めて振り返った。

 

「全く……どうしてお前は向こう見ずなんだ?」

「か、カグヤ――?」

 

 ため息をこぼし、やれやれと首を横に振る。

 どうして親友がこの魔術師の命を賭けた殺し合いという非常識の中に、当たり前のようにいるのか理解できず士郎が困惑していると、更に新たなに誰かが二人の傍に着地した。その人物は立ち上がるとカグヤに詰め寄った。

 

「カグヤさん! 無茶をしないで下さい!」

「仕方ないだろう? あの状況だと、ああするしかなかったんだ」

「危険すぎます!」

 

 金髪の美少女と当たり前のように話す友人に、士郎は益々理解できなかった。

 思わず頭を抱えていると、警戒した様子のセイバーが駆け寄ってきた。

 

「マスター、ご無事ですか!」

「ああ、セイバー……俺は大丈夫だ。そっちは?」

「問題ありません……そちらは?」

「あー、えっと、コイツは藤堂カグヤ。俺の親友。隣の女性は知らない」

「その前に移動しないか? 遠くからサイレンが聞こえる。多分、騒ぎを聞きつけて誰かが通報したんだろうな」

 

 確かに、耳を澄ませば遠くからパトカーの音が聞こえる。

 警察に見つかったら説明しようがないので、カグヤの提案に士郎は頷いた。

 

「そっちも構わないか?」

 

 カグヤは近付いてきた凛にも確認を取る。

 彼女も移動することに賛成なのか、頷くと髪をなびかせて墓地から坂道へと駆けていく。

 

 

 

 場所を移し、一行が向かったのは衛宮邸だった。

 あそこからならカグヤの家が一番近かったが、流石に人数が多いので敵襲でも受けたら動くこともままならなかった。ならば遠坂邸はどうかと云えば、士郎(てき)を招き入れたくないとのことで消去法から衛宮の屋敷が選ばれた。

 

「日本茶しかないが、全員構わないか?」

 

 リビングに入るなり、カグヤは勝手知ったる他人の家と云った様子でテキパキと慣れた様子で全員分のお茶の準備を始めた。

 

「藤堂くん、アーチャーの分はいいから。彼には外で警護をしてもらうわ」

「アーチャー? ああ、遠坂さんのサーヴァントか」

 

 カグヤがお茶を持ってくるまで、残りはテーブルを挟んで待った。

 士郎は訳が解らないと云った様子で静観を決め込み、セイバーはサーヴァントの気配がする金髪美少女を警戒し、凛はカグヤが何者かと考え、謎の美少女は興味津々といった様子で部屋の中を見回していた。

 

「シロウ」

 

 ぼんやりとしていると、セイバーが話しかけてきた。

 士郎は居住まいを正してから、彼女の方を確りと向いた。

 

「どうかしたのか、セイバー」

「話をする前に、先ほどの件について言っておきたいことがあります」

「いいけど――何のことだ?」

「先ほどの戦闘の件です。シロウは私のマスターでしょう。その貴方があのような行動を取られては困ります。戦闘は私の領分なのですから、マスターは後方支援に徹してください。あんな真似は二度とやらないでください」

 

 セイバーが何のことを言っているのか一瞬解らず、首を傾げる。少しして彼女が、自分がバーサーカーから助けた件について文句を言ってきていることを理解する。

 

「――むっ、あれは仕方ないだろう。相棒なんだから、手を出すのは当然だ」

「は……っ?」

「セイバー、衛宮くんはどうやらサーヴァントの何たるかを知らないみたいよ?」

「それなのに、私を信頼していると?」

 

 信じられない、という面持ちでセイバーが驚く。

 

「当たり前だろう? だって握手したし、セイバーは何度も俺の命を救ってくれたんだ。それで信頼できない奴こそどうかしている」

「―――――」

 

 セイバーは呆然と士郎を見た。

 その横で凛がこれ見よがしに疲れたため息をこぼした。

 

「衛宮くん……マスターが死んだらサーヴァントは消えるって言ったでしょう? だっていうのにサーヴァント庇うなんてどうかしているわ。本当にセイバーを助けたかったのなら、もっと安全な場所から出来る方法を考えなさい。サーヴァントを身を挺して守るなんて、無駄以外の何物でもないってこと理解しているの?」

「リンの言うとおりです。サーヴァントとして信頼して頂けるのは嬉しいことですが、死なれては私にとっても困ります」

「悪かったよ。俺だって二度も死ぬのは御免だ」

「二人共、その辺にしておいてやってくれ。士郎のそれは病気なんだ」

 

 そこへお茶を淹れたカグヤがやってきて、テーブルに湯呑を置く。

 彼が来た以上、士郎を非難する訳もいかないのでそこで話は一先ず終わった。

 

「さて、何から話したらいいんだ?」

「その前に藤堂くん、話す前に大事なことを確認してもいいかしら?」

「どうぞ?」

「貴方もマスターなの? いえ、それ以前に魔術師なのかしら?」

 

 それは士郎としても知りたいことだった。

 自分も魔術師なので人のことは言えないが、カグヤはそんな素振りもなかった。

 

「俺はマスターじゃないし、況してや魔術師でもない」

「そう……なら、そちらの女性は何者なの? 明らかにサーヴァントみたいだけど」

「申し遅れました。私はルーラー、聖杯戦争を管理する者です」

 

 ルーラーの言葉に、凛は眉を潜めた。

 監視役がいるのは知っていても、管理者の存在を知らないからだ。

 

「驚くのも無理はありません。通常の聖杯戦争であれば、私は召喚されませんから」

「待って。通常ってことは、今回は普通じゃないってこと?」

「はい。厳密に何が起こっているのか解りませんが、裁定者(わたし)が必要と聖杯が判断しました」

「貴方が召喚される条件は教えてもらえる?」

 

 ルーラーは頷いて答えた。

 一つ、「形式が非常に特殊であり、結果が未知数な為に裁定者が必要と判断された場合」。

 一つ、「聖杯戦争によって、世界に甚大な歪みが生じる場合」。

 以上の内の一つ、あるいは両方が満たされた場合に彼女たちは召喚される。

 

「なる程。あら? それなら貴方のマスターは何処にいるの?」

「私たち裁定者にマスターは必要ではありません。アーチャーのように単独行動が出来ます」

「カグヤ、どうやってこの人と知り合ったんだ?」

「あ? あー、道で行き倒れてたから食べ物を恵んでやった」

「はぁ?」

「私はマスターを必要としませんが、代わりに魔力の供給が大変なんです」

 

 顔を赤らめながら、ルーラーが答える。

 状況がよく判らなかったが、行き倒れるぐらい大変だったのだろうと解釈する。

 

「貴方のことは大体解ったわ。次に藤堂くん……あなた、何者?」

「何者とはえらく大雑把だな? そこにいる唐変木の幼馴染で、穂群原学園の生徒だよ」

「そうじゃないわ。はっきり言わせて貰うけど、貴方は異常よ」

 

 凛の言葉に、士郎も頷いて同意した。

 カグヤが強いのは知っていたが、サーヴァントの一撃を弾くなど普通な筈がない。

 

「異常ねぇ……なぁ、一つ聞いておきたいんだが良いか?」

「ええ、言いわよ。私に答えられる範囲でなら」

「魔術の領分には、転生はありえるのか?」

 

 親友の思わぬ問に士郎は眉を潜め、凛の方を見た。

 魔術に疎い自分とは違い、彼女なら知っているかもと思ったからだ。

 

「残念だけど判らないわ。延命する魔術や時間を制御する魔術があるとは聞いたことがあるけど」

「そうか………まぁ、ぶっちゃけるとだな。俺、転生者なんだ」

 

 一瞬、リビングの空気が止まった気がした。

 黙って話を聞いていたセイバーもルーラーも、同様に呆気に取られている。

 

「えっと、つまり藤堂くんはこれが一度の目の生じゃないってこと?」

「厳密に言うと、七回転生している」

 

 生まれ変わりというだけでも驚きなのに、それが複数回となれば尚更驚きだ。

 一度は冷静さを取り戻した凛も、カグヤの思わぬ返答に驚いて再び固まってしまった。

 

「俺の始祖、つまり一番最初の生は今から1500年程昔になる。普通に生きて死んで、気が付いたら二百年後の世界に生まれていた。人の魂は転生していると信じられていたから、前世の記憶があるのは偶然だろうと思った。だが、それが二度三度と続けば、馬鹿だって自分の置かれた状況の異常性に気が付く。しかし考えた所で歩いてきた道程に共通点はなく、最期の結末だって全てがバラバラで何一つ噛み合わない」

「記憶は、どうなんだ? 全部覚えているのか?」

「幸いなことに断片的だ。印象的なことだと覚えていたりするが……」

「例えば、どんなことなんだ?」

「どうやって自分が死んだか」

 

 ニヤリと、カグヤは笑ってみせた。

 考えてみれば当たり前のことだが、七回も生まれ変わっていると云うことは、七回死んでいる(・・・・・・・)ことを意味する。士郎はふと、以前この友人が銃を持った銀行強盗を退治した際に口にした言葉を思い出した。『銃など向けられても存外に怖くはない』と、アレはつまり当の昔に銃を突き付けられた経験があるという意味だったのか。

 

「なら貴方がサーヴァント並に強いのは?」

「俺の中には、少なくとも500年分の戦闘記憶と経験が蓄積されている。純粋な剣技のみで言えばサーヴァントにも引けを取らないと自負している。流石に身体能力は人の枠から外れてないが……」

「前世の自分を降霊・憑依させることでかつての技術を習得する魔術があるって聞いたことあるけど、まさか素でそんあことをする人間がいるなんて……」

 

 士郎と同様に、凛もまた唖然として困惑している様子だった。

 ふと黙ったままのセイバーに視線を向ければ、彼女は泣きそうに見えた。もしかしたら単純に士郎の勘違いだったのかもしれないが、何故そんな表情を浮かべているのか判らず、ただただ彼女の横顔を眺めているしかなかった。

 その後、微妙な空気のままお開きとなった。

 カグヤはそのままルーラーと一緒に衛宮邸に泊まることになったが、凛は自分の家に戻ることを選んだ。事情が事情なためにここまで付いて来たが、士郎と敵同士である以上は要件が済めば早々に別れるべきだとしてアーチャーと一緒に帰っていった。

 部屋割りは普通なら男女で分けるべきなのだが、頑なにセイバーが頷かなかったので士郎の部屋の隣を彼女が使うこととなった。本来その部屋を使う予定だったカグヤはリビングで眠ることで話が済んだ。

 

「シロウ、就寝の前に大切な話があります」

「どうかしたのか?」

 

 二人っきりになるなり、セイバーは深刻な表情で士郎を呼び止めた。

 士郎としてはもう時間も遅く、数時間で色々あって疲れていたので早めに寝たかったのだが。

 

「悪い話です。少なくとも、他のマスターには知られたくない程に」

「む……解った。真剣に聴くから言ってくれ」

「はい。ですが、これはもはや私たちでは解決出来そうにありません。サーヴァントがマスターの魔力により肉体を維持しており、それ故にマスターを必要としています。ですが――」

「俺が半端なマスターだから、お前を維持するだけの魔力が足りてないのか?」

「いえ、自体はそれ以上に深刻です。本来は少量でもマスターから魔力が供給されているなら問題ないのですが、シロウからは全く魔力が流れてこない。繋がっている霊脈が断線しているのです」

 

 つまり車を動かすエンジンにガソリンが流れていない状態だ。

 これでは如何にスーパーカーであったとしても、駐車場から出ることもできない。

 

「それは、俺に問題があるからなのか?」

「いえ、シロウ自身の欠点ではありません。おそらくは召喚に不備があったのでしょう」

「………ちょっと待て。魔力が回復できないなら、セイバーはどうなるんだ? 消えるのか?」

「今すぐに、という訳ではないですが私自身が持っている魔力を使い切れば。召喚されてから既に三回の戦闘を行いました。私の治癒能力も魔術ですから、傷を負えばそれだけで魔力の消費も激しくなる。そうですね、今晩だけで成熟した魔術師十人分の魔力は消費したでしょう」

 

 戦う度に魔力を消費するのに、彼女にはそれを回復する術がない。

 初日からランサー、アーチャー、バーサーカーと連戦を重ねたのだ。これ以上無茶な戦い方をすればセイバーはあっと言う間に残りの魔力を使いきり、肉体を維持できなくなり消滅(リタイア)することになってしまう。

 

「どうしたら良いんだ?」

「無駄な魔力の消費を抑える為、これから出来るだけの睡眠を許して欲しい。常にシロウを守ることが出来なくなりますが、これも勝利するのに必要なことだ」

「眠っている間は魔力は回復するのか?」

「睡眠中は魔力が消費されないことしか判りません」

「解った。少しでも存命出来るなら、そうしてくれ」

「ご理解、感謝します」

 

 そう言ってセイバーは襖の方へと歩いていく。

 

「もし何かあった場合は私を呼んでください。では――」

 

 すっと静かに障子が閉められた。

 残された士郎は制服のままドサっと腰を下ろし、そのまま仰向けに倒れる。

 

「疲れた……」

 

 この数時間だけで色々なことが起こり過ぎた。

 殺されたと思ったら蘇って、また命を狙われたら今度は剣士の美少女に助けられて。

 同級生の魔術師から聖杯戦争なんて物騒な話を聞かされ、教会で神父に参戦の意思を伝えて。

 その帰り道に他の参加者に襲われ、従者を助けようとして死にかけたのを幼馴染に助けられて。

 そしたら幼馴染が転生者なんて突拍子もない話を聞かされて。

 

「あー、頭の中がグチャグチャだ! もう寝よう!」

 

 考えるのを止め、襲ってくる眠気に身を任せた。

 




という訳で、カグヤくんは転生者でした。
元々は過去編から始めようと思ったのですが、諸事情により後回しにしました。
因みに彼の戦闘能力は、某武闘派魔術師と同等とお考え下さい。

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