Fate/stay night-Unlimited World 作:轟th
この段階でネタ切れとか、もはや見切り発進もいいところですね。
ですの今回は説明を省かせていただきます。
では、本編をどうぞ。
翌日、カグヤはいつも通りに目を覚ました。
身体を起こして辺りを見回し、そこが自分の部屋でないことに気が付く。暫らくぼんやりとしながら何処にいるのか考えていたが、やがて自分がいるのが衛宮邸であることを思い出す。一先ず洗面所を借りて水道の蛇口から溢れる冷水にて顔を洗い意識がハッキリした頃には、昨晩体験した夢物語のような出来事が現実だったことを理解する。
「さてと、道場に行くか……」
リビングに戻り、愛刀を手に敷地の裏手側にある道場に向かう。
普段なら新都のマンションからランニングコースとして走ってくるのだが、そうすると衛宮邸に着く頃には程よく身体が温まっているのだ。しかし今回はここに泊まってしまったので走り込みはなく、軽く腕を回しながら道場の戸を開けて中に入った。
そこは余分なものが一切ない板張りの空間。
生活する為ではなく、己を鍛える為だけに作られた神聖な場所。
柔らかな朝の日差しが差し込む静謐な道場に、彼女は静かにそこにいた。
「―――」
その光景に、思わず言葉を失った。
道場の片隅にて正座する少女は、間違いなく幼馴染の剣である少女だ。
「――いつまでそうしているのですか?」
入口の所で突っ立っていると、セイバーの方から声が掛けられた。
カグヤも道場の中には入り、彼女の側へと歩み寄った。改めて彼女を見れば昨夜のような勇ましい鎧姿ではなく、よく似合っている白のブラウスに青のロングスカートという現代人らしい格好をしていた。レティシアもそうだが、どうやらあの鎧は魔力で編まれているらしい。おそらくは未熟なマスターである士郎に負担を与えないよう、普段は出来るだけ魔力の消費を抑える為に普通の少女らしい装いをしてているのだろう。
「士郎の傍にいなくていいのか?」
「敷地内なら異変があれば直ぐに駆けつけます。ここは、気持ちが落ち着きます」
「騎士らしいお言葉で」
「貴方こそ、こんなに早くから随分と早起きですね」
「まぁ、俺は鍛錬とかしているからな」
それが意外だったのか、セイバーはカグヤの方をマジマジと見た。
「貴方でも鍛錬をするのですか?」
「確かに俺の中には500年分の戦闘経験や技術があるが、今の俺がそれを扱えるだけの技量がなければ意味がないんだ。サーヴァントは不変だが、今を生きる人間は一日でも鍛錬をサボると喪失分を取り戻すのに三日はかかるからな」
手にした愛刀を壁際に置き、確りと柔軟をする。
準備体操が終われば今度は壁際にある竹刀立てから一本取り、基本の型から上から下へと振り下ろす動作を繰り返す。セイバーは片隅にて動くことなく、ジッと竹刀を黙々と振るうカグヤの様子を見続けた。
「997、998、999、1000っと! ……セイバー、暇なら相手をしてくれないか?」
「私とですか?」
「ああ。もちろん、真剣じゃなく竹刀でな」
「……判りました。ただ見ているだけのも味気ない」
「そうこなくちゃな」
新たに手にした竹刀を放り、それを受け取ったセイバーはカグヤと相対するよう移動する。
「一応、ルールを決めておこうか。寸止めはなし、お互いに相手を殺すつもりで打ち合う」
「ええ、こちらとしても助かります」
暗黙の了解として、互いに魔力は用いずに純然たる剣術のみで勝負だ。
普通なら騎士であるセイバーに分があるが、カグヤにはそれを補うだけの経験がある。
「では――」
「応!」
そうして始まった勝負は、一時間にも及んだ。
カグヤは息を荒げながら床に仰向けに倒れ、傍に立つセイバーは額に汗こそ浮かべながらもちゃんと立っている。これだけでどちらが勝者と敗者であるかは一目瞭然だ。無論、一時間も延々と決着が付かないまま打ち合っていた訳ではなく、相手が一本を取ると直ぐに元の位置に戻って次の勝負を繰り返していたのだ。勝敗は六対四とセイバーが勝ち越す結果となった。
「あーっ、くそ……負けた!」
「いえ、貴方も十分強かったですよ」
褒められているのに、上から目線に感じられる。
確かに人間がサーヴァントから四本も勝利を勝ち取ったのは快挙だが、カグヤは納得しない。
「はぁ……流石は騎士王ですね」
「―――」
「どうかしたのか、セイバー?」
気が付いてないのか、カグヤは首を傾げた。
おそらくは無意識からの言葉だったのだろうが、セイバーにはそれが気がかりだった。
「カグヤ、貴方は……」
「あ? どうかしたのか?」
気のせいかも知れない。
自分の勘違いかもしれなかったが、彼女には尋ねずにはいられなかった。
「貴方は、私のことを知っているのですか?」
「……何のことだ?」
「昨夜、貴方は1500年前に生きていたと言いました」
それはつまり、
更に今の、「騎士王」という発言からも彼女の出自を知っていることが伺える。それだけが理由ではなく、セイバーは初めてカグヤに会った時から懐かしさと怖さの二つが入り混じったような気持ちを感じていた。昨夜の話を聞かされた時も、もしかしたら彼は自分と旧知の仲なのではないかと思ったのだ。
「転生しているのなら、何処かで会ったことがあるのでは?」
「―――……はぁ、手合わせは失敗だったな。記憶が気持ちに引っ張られた」
「では、やはり!?」
「ご名答、俺の最初の記憶は貴女と同じ時代だ」
カグヤは身体を起こすと、セイバーの前で片膝を付いた。
それは彼女が幾度となく目にした、騎士たちが取る臣従礼であった。
「お久しぶりに御座います、騎士王。先ずは気が付いていながら挨拶をしなかったことへの非礼をお詫びいたします。私は忠臣たる騎士ランスロットが不肖の子にして、誉れも高き偉大なる騎士王より円卓に名を連ねることを許された者。今世での名は藤堂カグヤに御座いますが、かつての名はギャラハッドと申します」
「ギャラハッド!? 貴方だったのか!」
まさかの名前に、セイバーは目を見開いた。
ギャラハッド――彼は『最も穢れ無き者』と呼ばれた円卓の騎士の一人だ。ランスロット卿とペレス王の娘エレインの間に生まれた子供であり、後に様々な試練を乗り越えた末に父と同じ騎士となった英傑だ。彼の騎士こそがカグヤの前世、まだ転生した経験のない一番最初の記憶であり人生であった。
「……王、それは何の真似ですか?」
数百年ぶりに再会した配下に、セイバーは頭を下げた。
例え二人が主と従者という立場でないとしても、王たる者が下々に頭を下げるなど前代未聞だ。
「すまなかった」
「何を謝ると言うのですか?」
「私の采配のせいで、貴方を死なせてしまった」
「これは異な事を。騎士が主君の命に従うのは当然のこと。私にとって不名誉だったのは与えられた任務を果たせなかったこと。それに謝らねばならぬは私の方。私が死んでしまったことでアイツは暴走してしまった」
ギャラハッドの最期は史実とは異なっている。
歴史上や物語では彼は王より聖杯の捜索を任命されて長い旅路の果てに遂に聖杯を手にしたとされているが、実際の結末は異なっている。彼は聖杯を手にすることなく、任務の最中にある妨害を受けたことで道半ばで命を落とした。
「アレのことは貴方の責ではない。私が向き合っていれば良かったのだ」
「ですが……」
「私が王に相応しくなかったから、アレは叛旗を翻したのだ。ランスロットも――」
「違っ――!」
違うと、それは間違いだと否定したかった。
確かに彼女は人の上に立つにはあまりに優しく、高潔な意志の持ち主だった。だが、ギャラハッドとしての記憶を持つカグヤは知っている。彼女以上に、王として自分たちを導くに相応しい人間はいなかったと。けれどそれを言葉にしなかったのは、それを伝えたところで彼の王は納得しないと判っていたからだ。
「だから私は聖杯を求めるのだ。あの日の選択をやり直すために――」
「王……」
「おーい、カグヤ。セイバーを知らないか……って、ここにいたのか」
そこへ士郎がやってきたので、話はそこまでとなった。
あの後、四人で朝食を取るとカグヤはレティシアを連れて衛宮邸を早々に後にした。ルーラーはどの勢力にも与することはしないと主張する以上、必要以上に一組のテリトリーに長居するのは得策ではないと判断したからだ。
「それで? これからどうするんだ?」
「そうですね。基本的には傍観に徹します。ルーラーはあくまで管理人なので」
「解った。なら街まで買い出しにいかないか? 色々と買い揃えたいし」
結局、レティシアはカグヤの家で面倒を観ることとなった。
流石に聖杯戦争がどれだけの日数を要するのか解らない以上、ここで別れたところでまた何処かの道端で行き倒れているのがオチだからだ。それを身を持って知っているレティシアは、カグヤの提案を受け入れた。
そこで必要となってくるのが、彼女の日用品関連だ。歯ブラシやタオル、お布団などは予備があるので問題ないが、衣類に関しては別問題だ。着のみ着たままという訳にはいかず、かと云って男物の服を着るにも限度がある。少なくとも下着類は本人が直接店に行って買ってきて貰わねばカグヤが外を歩けなくなってしまう。
「さて、先ずは何から買いに行くべきか……レティシアは希望ある?」
「そうですね。でしたら――」
それから二人は商店街「マウント深山」にある店を見て回った。
休日だけあって人通りが多かったが、その殆どの人が擦れ違う度に振り返ってはレティシアへと向けられていた。異性であれば見蕩れて隣を歩く恋人や奥さんに睨まれ、同性であれば羨望の眼差しとなっていた。因みにカグヤは一部の同性から嫉妬と羨望の眼差しで睨まれている。
「てえもねえ美人を連れた奴が歩いておると聞いたが、まさか藤堂の坊主やったとはなぁ!」
カグヤの馴染みのある魚屋に顔を出すと、店主は嬉しそうに笑っていた。
レティシアは捩り鉢巻きに青いハッピを羽織っている不思議な服装に首を傾げていた。
「こんにちは、おじさん。今日は何かおすすめはない?」
「そうさなぁ……今日は港から新鮮な鯖が入ってるぜ。一匹丸ごとなら料理の幅が広がるだろう」
「ふむ……なら後で買いに来るよ」
「まいど! しっかし、お前も隅に置けないな。いつの間に、そんな別嬪を彼女にしたんだ?」
「かっ、彼女!?」
店主の冗談に、レティシアは顔を真っ赤にする。
ただカグヤは店主がどういう人間なのか知っていたので反応しなかった。
「彼女は文通で知り合った友人でね、日本には旅行で着ているんだ」
「何だ、彼女じゃないのか? つまらん」
「はいはい。レティシア、いつまでも固まってないで次に行こう」
「え? あっ、はい。失礼します」
その後も、幾つもの店を見て回った。
先々でカグヤの顔見知りの人に会うとからかわれ、その度にレティシアは顔を赤らめていた。
「おや? 誰かと思えば、藤堂じゃないか」
「……慎二か」
昼食を済ませ、午後からは新都のショッピングモールに赴いた二人。
ブティックにてレティシアの衣類を買おうとした矢先、間桐慎二と鉢合わせた。相変わらず背後には後輩と思しき女子生徒を何人も侍らせており、学校を卒業しても変わらないんだろうなとカグヤはしみじみと思った。
「慎二、お前はまた女の子とデートか?」
「そういう君はようやくお洒落にでも目覚め………」
「カグヤ、そちらの男性は誰ですか?」
そこへショーウィンドーを眺めていたレティシアが振り返った。
女子生徒からの人気がありながらも女っ気がなく実は男色家なのではと学園にて専ら噂されているカグヤが、まさかこんな美少女を連れて歩いているとは思わず、慎二を初めとして後ろにいる女子生徒たちでさえ固まった。
「ああ、レティシア。コイツは同級生の……」
そこで何を思ったのか急に黙り込むと、ニヤリと笑った。
「“彼の名前は間桐慎二。人は彼を、親しみを込めて『
突然、フランス語に切り替えてレティシアに説明する。
どうして母国語になったのか判らず首を傾げるレティシアと、カグヤが何を言っているのかさっぱり理解できない慎二たちもまた同じように首を傾げた。理由は兎も角、紹介を受けたレティシアは慎二の方を向いた。
「こんにちは、ミスター・アルグ。私はレティシアと言います」
「あ? ああ、こちらこそ宜しく」
アルグが何を意味するのか解らないが、慎二は頷いて返した。
まさか誰も髪のことを指しているとは誰も思わず、カグヤは一人笑いを堪えていた。
「驚いたよ。お前みたいな剣術バカにこんな可愛い知り合いがいたなんて」
「確かにそうだな」
「キミもさ、そんな冴えないヤツなんか放っておいて僕と一緒にお茶でもしようぜ」
「誘って頂いてありがとうございます。ですが、一つ訂正してください」
「あ? 何をだ」
「彼を、冴えないヤツと言ったことをです。彼は掛け値なしに素敵な男性です」
まさか褒められるとは思わず、カグヤは目を見開いた。
慎二もまた同じだったが、直ぐに顔を険しくしてレティシアを睨んだ。
「はぁ? そいつが素敵だって? おいおい冗談きついぜ。僕とお茶するよりもソイツと一緒にいるほうが楽しいっていうのかい?」
「はい。少なくとも、他人を卑下する貴方よりは」
「っ………覚えておけよ!」
捨て台詞を残し、慎二は去っていく。
流石に騒いで人目を集めてしまったので、服を買うのはまた今度になった。そのまま商店街に戻るには時間があったので、二人は冬木大橋を渡った向こうにある海浜公園を訪れていた。と言ってもバッティングセンターや水族館に入る訳でもなく、公園のベンチに腰掛けただけだが。
「レティシアは日本は初めてなんだろう? どうだ、街を見た感想は」
「そうですね……活気に溢れている。誰もが明るく、平和な時間を過ごしている」
いつか彼女が夢見た光景があった。
レティシア……いや、ジャンヌ・ダルクは元々は農村に生まれた普通の少女だ。それが何の因果からか「神の声」を聞いたことで、フランス軍に従軍してイングランドの百年戦争に参戦していくことになる。幾多の戦いで自軍を勝利に導いたことから『オルレアンの乙女』と呼ばれ、後のフランス王シャルル七世の戴冠にも貢献した。だが、その最期は悲惨なもので、異端審問により魔女と貶められた果てに火刑に処され十九歳という若さでこの世を去った。ただ彼女は純粋に祖国の救済を祈っていただけなのに――。
「まだ冬木市に来て日が浅いですが、私はこの街を護りたいと思いました」
「ああ、彼らには何も知らず平穏を過ごして欲しい」
戦争はいつだって理不尽で、不条理に無関係な人間の命を奪う。それを肯定する人間は、いつだって自分は安全な場所で椅子にふんぞり返っている。だからこそ、自分たちのような人間が力なき者たちを守らなければならないのだ。
「……なぁ、レティシア。もし出来るのなら過去をやり直したいと思うか?」
「――いいえ、思いません」
カグヤの問いに、レティシアは目を見てハッキリと答えた。
「確かに、後悔はあります。ですが、自分のしてきた行いを否定して都合の良い結果を求めるのは人間のエゴなのです。それにもしやり直せたとしても、その行動により本来生きるべき人が命を落とす可能性だってあります。私の行いによって死んだ人たちに償う為にも、この罪を永遠に背負っていくつもりです」
彼女の言葉はまさに正論であった。
過去をやり直したいとは、詰まるところ自らが行いにより生じた結果という罪悪感から逃れる為の自己満足でしかない。
それにカグヤとて、過去をやり直したいとは思っていなかった。確かにあの日、自分が死ななければブリテンは滅びの運命を回避できたかもしれない。だが、それは「IF」でしかなく、もっと凄惨な結末だって有り得たのだ。何よりギャラハッドとして生き抜いたあの日々を、戦友と共に駆け抜けた戦場は決して嘘ではなかった。自分が信じた路を駆け抜けたのだから、それを否定することなどカグヤには出来ない。
「そうだな………そろそろ帰るか」
「はい」
ベンチから立ち上がり、二人は帰路に着く。
だが、その帰りにカグヤは尤も危険視していた事態に直面してしまった。
「……あっ」
「げ…………」
商店街で約束の魚を購入し、マンションまで戻った時のことだった。
エレベーターが目的の階に到着して扉が開くと、目の前には見知った女性が立っていた。銀縁眼鏡がよく似合う知的な少女、カグヤと同じ穂群原学園に通う同級生の氷室鐘だ。彼女はカグヤと同様にこのマンションに暮らしており、学校外でもよく顔を合わせていた。
氷室の視線は、明らかにカグヤの後ろにいるレティシアへと向けられていた。しばしジーッとこちらのことを観察していたが、やがて合点がいったのか手をぽんと打つと、スススと横へ動いて道を開けてくれる。カグヤたちもいつまでも乗っている訳にはいかず、エレベーターから降りると入れ替わりに氷室が入る。扉が閉まって、エレベーターが下がっていく間も二人は何も言わなかったが最後に――。
「――ニヤリ」
と不敵な笑みを氷室は浮かべた。
彼女は言い触らすような人間ではないが、何かの拍子にポロリと口を滑らせれば終わりだ。
カグヤの噂は瞬く間に学校中に広まってしまうだろう。
「――終わった」
「カグヤ? どうかしましたか?」
「………いや、何でもない」
消沈したカグヤは何とか部屋へと戻っていった。
翌朝、レティシアを部屋に残してカグヤは学校へと向かう。
マスターであるなら行くべきではないのだろうが、一般人(?)であるカグヤは別に学校に行っても問題はない。ただ何かあったら心配とのことで、ルーラーの保有スキル「聖人」により作成された
本来、聖骸布とは概念武装――自然干渉的な破壊力等の効果ではなく「意味・概念への干渉」を起こす強力な武装――に数えられる代物だが、儀式や積み重ねた歴史により付与された概念に依って能力を発揮する。なのでレティシアが作った物は由緒正しきものではなく、所有者にある程度の加護を与えるものでしかない。今回の物は発動させることで所有者の肉体を強化するシンプルなものとなっている。
「しっかし、ロザリオとはまた……」
聖女らしいチョイスだが。
折角のお手製なのでカグヤは首から下げると、制服の内側へとしまい込んだ。
「………あ?」
学校に到着して正門を通り抜けた瞬間――妙な気配を感じ取る。
まるで誰かに見られているような感覚に、思わず足を止めて辺りを見渡してみるも登校している生徒は居れどもカグヤを凝視している生徒はいない。いや、立ち止まったカグヤを不審そうに見ている生徒はいるが、“敵意の篭った視線”を向けている者はいない。それに何より違和感を覚えたのは。
「この視線の主を、俺は知っている?」
以前にも、同じような視線を向けられた記憶がある。
ただし今世でのことではなく、おそらくは生前のことだろう。しかし如何せん数百年分の記憶から感覚だけを頼りに思い出すなど容易なことではなく、顎に手を当てて何時の事だったか思いを馳せてみる。
「んー?」
「おはよう、カグヤ。何してるんだ?」
考え込んでいると、後ろから士郎に声をかけられた。
事情を説明しようかと思ったが、首を横に振って何でもないことを示す。
「何でもない。行こう、遅刻する」
「ああ……?」
士郎も不思議に思いながら、二人は歩き出す。
二人が校舎の中に入っていくのを、屋上から見下ろす影があった。
朝早い時間だけあって屋上には他に人影はなく、フェンスに頭を押し付けるようにして影はジッと耐えていた。歯を食いしばり、フェンスを握り締めながら衝動を必死に抑える。そうしなければこの身は今すぐにでも屋上から飛び降り、あの男を殺そうとするだろう。目撃者など全て殺してしまえば関係なく、ぬるま湯に浸かった時代の人間など自分の足元にも及ばない。だが激情に身を任せることは許されない。
「ギャラハッドォ……」
怨嗟に満ちた声で、影は吐き捨てる。
「やはりお前は、この時代においても―――」
再び邪魔立てするのならば、今度こそ。
「おーい、誰か居るのかー?」
ガチャ、と音を立てて屋上へと続く扉が開かれた。
姿を現したのは一人の男性教諭であり、彼は登校して来た生徒から屋上に誰かいると言われて確認しに来たのだ。もしや素行の悪い生徒が隠れて喫煙でもしているのかと確認してみたが、屋上には自分を除いて誰もいない。報告してきたのは真面目な生徒だったので、悪戯ということはないと思うので見間違いだったのだろうと屋上を後にした。
「………あの方の邪魔はさせない」
姿なき声だけが空気に溶けた。
ご都合かと思いますが、カグヤくんの前世はギャラハッドです。
当初からセイバーと同郷にする予定でしたが、予定を変更して元から名のある騎士へと立場を変えました。ギャラハッドの逸話も、この物語に一応関係してくる予定です。
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