Fate/stay night-Unlimited World   作:轟th

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 今回は「宝具」について説明します。
 基本的に人間の幻想を骨子に作り上げられた武装であり、またの名を『貴い幻想(ノウブル・ファンタズム)』。
 宝具は剣・槍・弓といった武器が多いが、そもそもは英霊が生前に鍛え築き上げた伝説が形となったものなので盾や指輪、果ては王冠といった他の物も確かに存在している。基本的にその英霊の伝説に登場する有名なアイテムが宝具となるが、その英霊が有する伝説上の逸話もまた宝具として見做される場合がある。
 宝具は原則的に一人の英霊に付き一つとされるが、前述のように宝具は英霊が生前に所持していた武装・特徴・逸話などが形になった物。なのでそれらが複数個ある場合などは二つ三つと宝具を揃えた破格の英霊となる。
 また宝具にも幾つかの大別があって一騎打ちで力を発揮する「対人宝具」、軍勢に特化した「大軍宝具」、一撃で勝敗を決する「対城宝具」の三つに分けられる。他にも幾つ種類があって、宝具によって何に秀でているかは異なっている。
 言うまでもなく、宝具の発動には膨大な魔力を消費する。


先ずは更新が遅れたことを謝罪します。
GW期間中は録に執筆する事が出来ず、結局この一週間で仕上げました。
やっぱりFateは難しい……なんでこの二次創作書いてるんだろう、私。

では、本編をどうぞ。


第五夜:共に戦いし者

 それは古い古い記憶。

 数百年を経ても尚埋没することはなく、決して色褪せずにまるで昨日のことのように思い出すことのできる黄金の記憶。それは正しく、カグヤにとって輝ける青春の一ページであった。だからこそ目の前の光景を前にしたカグヤは、胸にこみ上げる感情に嘆息した。

 

「はぁ、はぁ……追い込まれたな」

 

 息を荒げる若き騎士は前髪を掻き上げる。

 美しかったであろう甲冑は返り血と泥で薄汚れていて傷だらけ、頭を護っていた兜もいつの間にか何処かに失くしてしまった。手にする剣も度重なる連戦に次ぐ連戦により刃もまた酷く毀れてしまっており、剣身にはべっとりと血と脂が張り付いている。おそらく後何度か振るえば折れてしまうだろう。

 

「ギャラハッド様、これからどうしますか?」

 

 振り返れば、疲弊した様子の騎士がいる。

 他にも似たり寄ったりの状態の部下が他にも後三人確認でき、全員が同じように疲弊しきっているのが見て取れる。如何に日頃から訓練を積んでいるとは云え、人間である以上は休息なしに戦い続ければこうなるのは必然だ。

 そもそも、こんな兵力で戦闘する気はなかったのだ。

 ギャラハッドが王より賜った命は、進行しつつある蛮族の軍勢の偵察だった。戦闘が目的ではなかったので新入りを含めた、十名による少数編成で任務に臨んだ。だが彼らが辺境へと辿り着いて目にしたのは、蛮族により壊滅した村だった。

 男は殺され、女は犯され、子供は喰われ、老人は燃やされていた。

 目の前の悲惨な惨状に自分たちが出遅れてしまったことを歯痒く思いながらも、戦闘は避けて任務を優先すべきだった。だが連れてきた新入りがその光景に耐え切れず、激情のままに飛び出してしまったのだ。彼を見捨てるわけにも行かず、ギャラハッドは部下を率いて村を占拠していた蛮族どもを殲滅した。

 大した被害もなく先遣隊を殲滅できたが、タイミング悪く本隊が到着してしまった。最初は苦もなく相手にしていたが、倒しても倒しても後から湧いて出てくる蛮族に徐々に押され始め、遂には撤退を余儀なくされた。執拗に追ってくる敵により二人が命を落としてしまうも、何とかこの洞穴に避難できたのだ。

 

「ギャラハッド卿、ご判断を」

「むぅ……」

 

 再度の問いに、ギャラハッドは唸る。

 蛮族の数が百体程度ならば自分一人でも何とか生き延びる自信はあるが、流石にその五倍が相手では分が悪い。部下たちも騎士である以上は死を覚悟しているが、だからとて見捨てていい命ではないので何とか生きて帰らせたいと思っている。

 

「アイツ等は……戻るまでまだ時間が掛かるか」

「はい。早くとも夜明け頃になるかと……」

「……………」

 

 部下の返答に、ギャラハッドは黙り込む。

 実は蛮族の本隊が現れた段階で、自分たちが時間を稼ぐ間に部下三名に救助した村人を安全な場所まで避難させるよう伝えた。更に彼らには避難が完了した時点でキャメロットへと戻り、事の顛末を伝えて救援を求めるように指示しておいた。彼らが無事に役目を果たしたとして、応援が到着するのは早くても夜明けごろになる。

 それまでここに隠れておくのも手の一つだが、それはあまり得策とは云えないだろう。先ほど遠くから狼の遠吠えらしき声が響き渡った。それも一つや二つではなく、かなりの数がいることが嫌でも解った。蛮族が狼を使役しているのは確認されており、その獣ならではの機動力によりこちらの騎兵隊にも相当の被害が生じてしている。おまけに鼻が良いので、ここを探り当てられるのも時間の問題だろう。

 この洞穴には出口が一つしかなく、おまけに全員が剣を振るうには狭かった。こんな場所で物量により追い込まれてしまえば全滅は必然であり、おそらくそう遠からずここも探り当てられてしまうだろう。

 ならば―――。

 

「―――打って出る」

 

 例え死ぬとしても、こんな場所で果てるよりも。

 最後まで騎士として誇り高く、命尽きるまで戦い続ける。

 

「だが、お前たちに強要はしない。ここに隠れ潜むのは無理だが、お前たちが逃げるだけの時間を稼ぐぐらいのことはできる。例えここで逃げ出したとしても、それぞれに帰るべき場所があるのだから責めることはしない。だから――」

 

 ギャラハッドが言葉を切ったのは、部下たちの顔を見たからだ。

 

「いえ、私たちは逃げません」

「ギャラハッド卿、我らとして騎士の端くれ」

「例え命落とすことになっても、貴方と共に戦います」

「誉れも高き騎士王に捧げたこの命、最後まで燃やし尽くすまで」

 

 ギャラハッドがそうであるように、彼らもまた騎士なのだ。

 例え仲間の屍を乗り越えて前に進むことはあっても、仲間を囮に逃げることはしない。

 

「そうだったな。ならば往こう、この剣にかけて」

「御意!」

 

 剣を手に、ギャラハッドたちは洞窟から飛び出した。

 

 

 

「―――――あ?」

 

 気が付くと、そこは戦場ではなかった。

 顔を上げてみれば場所は図書室の一角であり、カグヤは自分が調べ物をしている間に眠っていたことに気が付いた。あまりに懐かしい情景にしばしボーッとしていたが、やがて引っ張り出した本を棚に戻して図書室を後にした。

 あの後、洞窟から出たギャラハッドたちは狼に気付かれぬように風下から奇襲を仕掛けて敵に大打撃を与えると、応援が駆けつけてくれることを信じて時間を稼いだ。危なくなりはしたが、無事に救援が間に合ってくれたので五人とも無事に生き延びることができた。

 

「あの時、駆けつけてくれたのは……アイツだったな」

 

 脳裏に、かつての戦友の姿がよぎる。

 本当に騎士なのかと疑いたく成る程に粗雑として、自信過剰な好戦的な奴だった。普段の態度や性格はアレであったが、その根幹にあったのは紛れもなく騎士の魂。ギャラハッドとは歳も近い同期であったのもあり、正反対な性格ながらも互いに背中を預けられる戦友であった。立場が似ていたのも理由の一つだが。

 

「―――!?」

 

 下駄箱で上履きから履き替えた直後、何処からか女性の悲鳴が届いた。

 声は非情口の方から響いてきたので、靴のまま廊下を駆け抜けて向かえば一人の女子生徒が倒れているのが見えた。駆け寄って状態を確認してみれば、目立った外傷はなく呼吸も安定しているので気絶しているようだ。

 

「だが、どうして―――!」

 

 ゾクッと背筋を悪寒が走り、手にしたカバンを顔の前に持ち上げた。

 三度の軽い衝撃の後、カバンを確認してみれば数本のナイフが突き刺さっていた。反射的な行動ではあったが、そうしていなければ確実に顔面に命中していたことだろう。直ぐに扉の影に身を潜めて様子を伺えば、立ち去る背中があった。

 

「逃すか!」

 

 外へと飛び出し、後を追う。

 犯人と思しき人影を追い掛けていけば、相手は弓道場の裏手――垣根を飛び越えて雑木林の方へと入っていく。カグヤもまた同じように突入し、腐葉土の地面を走って奥へと進んでいく。暫らく続いた追いかけっこは、唐突に終了する。

 

「―――消えた?」

 

 足を止め、注意深く周囲を伺う。

 最初は乱立する木の陰に飛び込んで隠れたのかと思ったが、どちらかと云えば“最初から存在していなかった”ように忽然と消えたように感じられた。落とし穴に落ちたでもない限り、下手人は人間でないことになる。

 おそらくはサーヴァント。

 ただ、そうすると何故こんなことをするのか解らない。

 あの襲われた女子生徒も他のマスターをおびき出す罠だったのだろうが、アレでは本命を釣り上げる前に別の人間が引っ掛かってしまう。現にカグヤがここまで誘導されてしまい、折角の罠が意味を成さなくなってしまった。

 

“だが、なら攻撃を仕掛けた理由は?”

 

 あの時のナイフ、明らかに殺す気で放たれたものだ。

 もしかしたら他のマスターではなく、最初から自分自身を狙ったものなのか?

 

「やはり追ってきたな」

 

 何処からかともなく、声が響いてくる。

 近くの木陰に隠れながらあたりに警戒しつつ、声の主に向けて叫ぶ。

 

「貴様は何故俺の命を狙う? それはマスターの命か!?」

「否。全てはあの方の悲願の為――そして貴様の存在は目障りだ!!」

 

 どうやら、敵の狙いは最初からカグヤだったようだ。

 あの方というのはマスターのことだろうが、自分を狙うのは命令ではないと云う。だが敵の言葉を信じるのならば、カグヤを殺そうとしているのはあのサーヴァントということになる。アレと自分は面識があると云うのか?

 

「見ず知らずの奴に恨まれる謂れはない!」

「ほう? 貴様は覚えていないのか」

「なに……?」

「俺は忘れたことはない。ランスロットの子、ギャラハッド」

「―――――」

 

 その言葉に、カグヤは息を呑んだ。

 何故、このサーヴァントは自分の真名がギャラハッドだと知っているのか。後にも先にも前世の話をしたのは、セイバーただ一人だったからだ。

 まさかあの時の会話を聞いていたのか?

 だが、それは限りなく不可能に近い。カグヤは知らないことだが、衛宮家は腐っても魔術師の家系だけあって衛宮邸には結界が施されている。これは攻撃的な特性は全く持たない代わりに非常に索敵能力に長けており、敵意持つ侵入者が潜れば即座に判るようになっている。もし結界を素通りすることの出来るサーヴァントがいるとすれば……。

 

「貴様――何者だ?」

「ここで死ぬ貴様が知る必要はない!」

 

 言うが早いか、またナイフが飛んでくる。

 それを間一髪のところで避け、攻撃が来た方向へと先ほど回収したナイフを放つ。しかし闇雲に投げたところで当たる訳もなく、放たれたナイフは虚しく空を切る。近接戦であればサーヴァントに引けを取らない実力を持つカグヤであっても、距離を取られては打つ手はない。加えて愛刀も今日は持って来ておらず、せめて相手が自分の拳が当たる距離まで近付いてくれれば少しは現状を打破できるのだが。

 

「そうだ」

 

 レティシアから受け取ったお守りを取り出す。

 それを祈るように両手で握り込み、事前に教えられていた起動コードを口にする。

 

術式、起動(ウエイク・アップ)―――!」

 

 ロザリオに込められた術式が発動する。

 すると目に見えない膜のような物が全身を包み込んでいくのを感じ、何処からか様子を伺っていた敵はカグヤの変化に気が付いた。再びナイフが放たれるが、カグヤは今度はよけなかった。しかしナイフが彼の皮膚を傷付けることはなく、壁にぶつかったように弾かれる。

 正に鎧を着込んだような状態だが、この強化はカグヤの魔力を燃料としている。レティシアの見立てではカグヤの魔力量だと、術式を維持できるのは精々十分から十五分程度。だが、相手にナイフでは仕留められないと思わせるには十分だ。

 

「……………」

「ようやく会えたな」

 

 少し離れた木の陰より、一人の人影が姿を現した。

 全身をフード付きの黒いコートで覆い、目深く被ったフードにより表情は解らない。ただ隠しきれない程の敵意だけは剥き出しの状態となっている。どうやらカグヤはこのサーヴァントに相当恨まれているようだ。その手には騎士剣としては一般的な細身の直剣が握られており、そこから真名を判断するのは難しい。

 

「アンタ……もしかしてアサシンのサーヴァントか」

 

 聖杯戦争に参戦する英霊の枠は、全てで七騎存在する。

 「騎士」のサーヴァント、セイバー。

 「弓兵」のサーヴァント、アーチャー。

 「槍兵」のサーヴァント、ランサー。

 「騎兵」のサーヴァント、ライダー。

 「魔術師」のサーヴァント、キャスター。

 「狂戦士」のサーヴァント、バーサーカー。

 「暗殺者」のサーヴァント、アサシン。

 

 この内、カグヤが既に会っているのはセイバー、ランサー、バーサーカーの三騎。また遠坂凛のサーヴァントがアーチャーであることは聞いている為、選択肢として残されたのはライダー、キャスター、アサシンのいずれかになる。しかし相手は真正面から戦おうとしているので魔術を得意とする後方型のキャスターではない。

 となればライダーかアサシンとなる。

 それでも後者を選んだのは、姿を現すまで全く気配が感じられなかったからだ。

 

「……………」

「折角会えたのに、黙りかよ」

 

 アサシンのサーヴァント。

 「マスターの天敵」とされる暗殺者の英霊。個体能力に拠らないクラス基本能力はライダーと大差なく、真正面から戦おうとすれば圧倒的なハンデを背負うことになる。そもそも「英霊に成る程に高名な暗殺者」という矛盾を孕んでおり、「気配遮断」を保有していればこのクラスの適性があると判断される。

 

「………死ね」

 

 そうして男は斬りかかってきた。

 カグヤは逆手に持ったナイフで斬撃を受け止め、自分と大差ない筋力にやはり敵がアサシンのサーヴァントであることを確信する。

 鍔迫り合いの状態のまま、カグヤはサーヴァントの正体を探ろうとしていた。確実にこの男はギャラハッドだった自分と知己の人間だ。最初にかつての仲間たちを思い浮かべたが、彼らが自分に敵意を抱いていた様子は一度もなかった。ならば敵国の人間ならばどうだろうか。蛮族以外にも国を滅ぼさんとする敵国の侵略を幾度となく防いだことがあるが、ハッキリ言って候補が多すぎて特定するのは難しい。

 

「死ね、死ね、―――死んでしまえッ!」

「――ッ!」

 

 激昂と共に剣が振るわれる。

 アサシンの持つ得物はレイピアと大剣の中間に位置する刺突用の長剣(エストック)と呼ばれ、鎧の隙間を貫く為に考案された武器だ。なので本来なら斬るより突くことに秀でているのだが、それを敵は力任せに振るっていた。そんな剣技と呼ぶのも烏滸がましい稚拙な攻撃がカグヤに届く訳もなく、その尽くをナイフの表面を滑らせて凌いでいた。しかしこのままでは埒が明かないので、タイミングを合わせてアサシンの剣を大きく弾く。

 

「疾――ッ!」

 

 前へと半歩踏み込み、親指側が上の縦拳を突き出す。

 拳はサーヴァントの腹部へと突き刺さり、ズガンッという音を立てて後方へと吹き飛ばし木の幹にぶち当たる。今のは中国武術が一つ、形意五行拳の突きの技――崩拳だ。加減なしに放った一撃は生身の肉体であれば骨が確実に折れているが、カグヤは手に残った感触と衝撃音から相手がコートの下に鎧を着込んでいることを理解した。更に魔力で強化されているのか、何事もなかったかのようにアサシンは立ち上がる。

 

「……不味いな」

 

 今の一撃で決着を付けられなかったのは痛い。

 手負いにさせてしまったことで、アサシンは本気にさせてしまったのだ。先程までは絶対的な余裕からくる慢心故に一撃を叩き込む隙があったが、今はもう慢心は微塵もなく気迫が全身に漲っているのが分かる。

 

「―――ぐっ!」

 

 次の一撃を避けられたのは偶々だ。

 500年にも及ぶ戦闘経験により回避することが出来たが、そうでなければ殆ど起こりのない刺突は確実にカグヤの眉間を貫いていただろう。おそらくこのサーヴァントは生前、突きの名手だったに違いない。そう思える程に、今の一突きは鋭く疾かった。おまけに魔力を込められた武器は容易くカグヤの守りを突破して、頬や二の腕などに浅い傷がどんどん出来ていく。

 バキンッ――と甲高い音が響く。

 敵の猛攻に耐えきれず、遂にナイフが砕けてしまった。こうなってしまえばカグヤには攻撃を防ぐ術はなく、これでは反撃の機会を伺う場合ではない。何とか距離を取ろうとするが、アサシンはそれを許さない。

 そして遂に追い詰められてしまう。

 

「しま―――っ!」

 

 いつの間にか誘導されていたらしく、背中が木の幹にぶつかる。

 退路を絶たれたカグヤに向けて放たれた次の一撃は、これまでで最大最速の攻撃だった。それを避けることはおろか、防ぐ手立てはなかった。本来なら彼の心臓を貫いていた一撃を防いだのは突如と落ちた“赤い雷”だった。

 

「な―――っ!?」

「――っ!」

 

 突然の落雷にアサシンは急停止し、後方に大きく飛んで回避した。

 カグヤは見覚えのある赤雷に驚き上を見れば、正に誰かが落ちてくるところだった。直ぐ側へと降り立った“少女”は、朗らかな笑みを浮かべながらカグヤの方を振り返った。

 

「腕が落ちたな、ギャラハッド!」

 

 カグヤは、その少女を知っていた。

 頭の上で結われた柔らかな金色の長い髪に、強い意志を感じさせる碧色の眼。セイバーと同じ顔立ちをしながらも、彼女とは違い男らしい雰囲気を持っている。その身は普段の白銀の鎧は纏ってはおらず、現代人のように青いジーンズに真っ赤なレザージャケットを着ている。ただ、彼女としては珍しく露出度が高い気がする。

 

「お前、なんで……?」

「おいおい、オレのことも忘れちまったのか?」

「―――叛逆の騎士、モードレッド」

 

 答えたのは、アサシンだった。

 モードレッドは肩に担いでいた呪われた聖剣を下ろすと、切っ先を敵に向ける。

 

「失せろ。これ以上、彼を殺そうとするってんならオレが相手になってやる」

「……………」

 

 互いに動かないまま硬直が続いたが、アサシンは撤退を選択した。

 完全に気配がなくなりモードレッドが剣を下ろすと、カグヤはホッとして背後にあった木にもたれ掛かって大きく息を吐いた。ハッキリ言って危なかった。彼女が来てくれなければ確実に殺されていただろう。

 

「……助かった」

「気にすんなよ。オレたち、戦友だろう?」

 

 変わらない彼女に、思わず頬が緩む。

 だが1500年前と同じ姿のままの戦友がここにいる理由を、カグヤは気付いていた。

 

「お前も、サーヴァントなんだな?」

「ああ。オレはイリヤスフィールと契約を交わしたバーサーカーのサーヴァントだ」

 

 予想通りの答えに、ため息が漏れる。

 

「ギャラハッド、お前も参加しているのか?」

「違う。俺はマスターでもサーヴァントでもない。後、今の名はカグヤだ」

「なら良かった。敵だとしても、お前とは戦いたくないからな」

「俺もだよ。それより、どうしてここにいるんだ?」

 

 助けてもらったことには感謝している。

 だが、どうして都合よく彼女がここに現れたのか気掛かりだった。

 

「そんなの、お前を付けていたからに決まってるだろう」

「は?」

「あの墓地で剣を交えた時に、お前のことが気になったんだ。それでマスターに許可を貰ってギャラハッド……カグヤのことを探したんだ。ようやく見つけてずっと観察してた。駆けつけるのが遅れたのはお前が寝ている間に飯を食いに行ってからで……どうした?」

「………いや、何でもない」

 

 戦友がストーカー紛いのことをしていた事実に頭を痛める。

 そうこうしていると、二人はこちらに向かってくる気配に気がついた。おそらく騒ぎを聞きつけたマスターがやってくることを察し、下手にバーサーカーと鉢合えば面倒になることを予想してカグヤはモードレッドの方を見た。

 

「モードレッド、その姿を見られるのは拙い。あの鎧を着るか、マスターのところに戻れ」

「……理解った。また今度ゆっくり話そうぜ!」

「ああ。今夜にでもマスターのところにお邪魔させてもらう」

「マスターにもそう伝えておく。オレが今居るのは、郊外にある屋敷だ」

 

 そう言って、モードレッドは実体を解いた。

 思わぬ再開にため息をこぼしていると、近付いていた気配が姿を現した。そこに立っていたのはカグヤの予想通りマスターの一人である遠坂凛だった。士郎は来ていないのかと思いつつ彼女と向き合う。

 

「藤堂くん。さっきまで、この辺りでサーヴァントの気配がしていたのだけれど」

「ああ。アサシンのサーヴァントと戦ってたよ」

「なんですって!?」

「ついでに言えば、バーサーカーもいた。もう帰ったけど」

「バーサーカーですって!? なんでサーヴァントが二体もここにいるのよ!」

「アサシンはなんでか俺の命を狙ってたんだ。バーサーカーは……アサシンを追っていたらしい」

 

 嘘は言っていない。

 タイミング的にも、消えたアサシンをバーサーカーが追跡したようにも見える。

 

「頭が痛くなってきたわ……」

「遠坂凛、士郎はどうしたんだ?」

「衛宮くんならルーラーが来てたから迎えに行かわせたわ」

 

 どうやらカグヤの異変を察知したようだ。

 少しするとレティシアを連れた士郎がやってきて、改めて経緯を説明した。二人はカグヤがアサシンに襲われた事実にも驚いたが、そこにバーサーカーが乱入してきたことを聞くと更に驚いて目を見開いていた。幸いなことにアサシンは撤退したことで、残ったもう一体も居なくなったと知るとホッとしていた。

 

「しかし、なんでアサシンがカグヤを襲うんだ?」

「さてな? それは俺にもわからん。それより裏口に倒れていた女の子は?」

「彼女なら大丈夫よ。ただ気を失っていただけだから、保健室に運んでおいたわ」

「なら良かった。ならそろそろ帰えるとするか」

「そうだな。セイバーも家で待っているし」

 

 ちょっと待って、と凛が士郎を呼び止めた。

 何かと思えば彼女は士郎に共闘しないかと提案してきたのだ。

 本来なら一流の魔術師である凛が半端者の士郎と手を組む必要性はないのだが。ただ完全に味方という訳ではなく、最後の二人になるまで休戦協定を結ぼうという。士郎としては願ったり叶ったりなので二人は手を組んだ。

 

 

 

「先輩………」

 

 校門に向かう四つの人影を、見つめる哀しげな瞳があった。

 校舎の三階、既に人気のない茜色に染まった教室で少女は一人窓辺に立つ。

 

「どうかしたのか、マスター」

 

 気が付けば、彼女の背後に立つ影があった。

 禍々しく重厚な漆黒に染まった甲冑に身に纏っているが、凹凸から女性であることが分かる。

 

「ライダー……何でもないの」

 

 首を横に振るが、表情はそうは言っていなかった。

 主のこの控えめで優しい性格を好ましく思いながら、自分の気持ちを心の内に仕舞いこんでしまうことに歯痒く思ってしまう。まるで昔の自分を見ているように感じられ、何とかしてあげたいと柄にもなく考える。

 

「おいっ、こんなところにいやがったのかよ!」

 

 静寂を破るように、一人の男子生徒が入ってくる。

 彼はマスターの兄であり、そして今現在自分を従えている仮のマスターだ。

 ライダーはこの男が嫌いだった。マスターの命令なので仕方なくこの男に従っているが、本来ならこの男には自分を従える資格など最初からないのだ。いや、それだけでなくこの男は気に入らないという理由だけで日常的にマスターに暴力を振るう人間のクズだった。「あれでも昔は優しかったのよ」とマスターは甘んじて受け入れているが、主を愚弄されて平然としていられる部下が果たしているだろうか。

 否、断じて否である。

 マスターの許しがあれば、即座に殺してやるのにと鎧の下で思う。

 

「兄さん……」

「ちっ、なんでお前も一緒なんだよ」

「私は……」

「オドオドしやがって、目障りなんだよ」

 

 男は彼女に歩み寄ると、頬を叩かんと腕を振り上げた。

 しかし―――ズガンッと大きな音を立てて二人の間に振り下ろされたライダーの持つ巨大な槍により未遂となった。小心者の男は情けない悲鳴を上げ、少女は目を見開いて驚いていた。このサーヴァントが自ら行動したのは始めてだったからだ。

 

「そこまでにしてもらおうか」

「なっ、何のつもりだライダー! 後少しで僕に当たってたぞ!?」

「わざと当てなかったのだ」

「それがマスターに対する態度か!?」

「貴様如きが私のマスターだと? 笑わせてくれる」

「お前ぇ! 僕に逆らうっていうのか! だったら――」

 

 男子生徒は制服の内から赤い本を取り出した。

 それは『偽臣の書』と呼ばれる魔道書の一種だ。基本的に他人――それも魔術師でもない人間がサーヴァントを従えることは不可能であるが、『令呪』を用いた場合には唯一の例外としてそれが可能となる。聖杯戦争では戦略的な理由や、そもそも参加を拒むなどの理由からマスターであることを自ら放棄することが許されている。その為に令呪はマスターの意思で譲渡が出来、これには難しい手続きもペナルティも存在しない。

 彼女もその権利を用い、自らマスターの資格を兄に譲渡しようとした。

 だが、問題だったのは兄が魔術回路を持たない人間だったことだ。これによりマスターの権利を兄が有しながらも、本来の令呪は妹の方に残ってしまったのだ。最初から才能がなくとも魔術回路さえ持っていてくれれば、ライダーは心を砕かずに済んだが……それは今更だ。

 これによりライダーはこの男をマスター代理として見做さなければならず、男が本を握りながら命令した内容に従わなくてはならない。しかし、実際には偽物の命令である為に性能は本物の令呪には及ばず、抗おうと思えば逆らうことはできる。これまで従ってきたのは単にマスターの気持ちを慮ってのことだった。

 だが、それも我慢の限界だった。

 元より好戦的なライダーはそれらが苦手であった。

 

「ライダー、令呪を持って命ず―――」

「遅い!」

 

 男が令呪を発動させるより、ランサーの方が疾い。

 伸ばされた手は男の首を無造作に鷲掴みにし、軽々と持ち上げると徐々に力を込めていく。

 サーヴァントを従える上で令呪は必要不可欠な存在だ。それを介して命令された内容は幾つかの悪条件が揃わない限りはサーヴァントは従うしかなく、例えそれが自害を強要されるものだとしても抗うことは出来ない。ただしそれらを回避する術は存在する。

 方法といっても特別なことではなく、単に“命令される前にマスターを殺してしまえばいい”だけのことだが。別に殺さずともマスターの下顎を切り落とす、令呪の宿った腕をぶった斬るなどの手段で兎に角、マスターの命令を阻止すればいいのだ。

 今回、ランサーがそうした流血沙汰を避けたのは、マスターが居たからだ。

 

「ぎっ、はな……ぜ!」

「ふんっ!」

 

 言われるがまま放してやれば、床に落ちた男は咽る。

 そんな男を鎧越しに冷めた目で見下ろしながら、その眼前に槍を突きつける。

 

「これ以上、その薄汚い面を私たちの前に見せるな。失せろ!」

「ひっ! お、覚えてろよ!」

 

 三下のような捨て台詞を残し、男をは去っていく。

 ライダーはマスターの方へと振り返ると、片膝をついて頭を垂れた。

 

「マスター、どうかその胸に秘めた想いを言葉にしてくれ。貴方が望まれるのなら、私は如何なる悪行であろうと成し遂げてみせよう。貴方が欲するのならば、私は如何なる手段を用いても聖杯を手に入れて見せよう」

「ライダー……」

「さあ、貴方の答えを聞かせて欲しい」

「………ライダー、お願いできるかしら?」

 

 少女の口から発せられた内容に、ライダーは鎧の下で薄らと笑みを浮かべる。

 

仰せのままに、我が主(イエス・マイロード)

 

 




はい、という訳でバーサーカーの正体はモードレッドでした。
おそらくgrand orderやApocryphaを知っている人は予想していたと思います。
そしてアサシンとライダーも姿を現し、残すはキャスターのみ。
ライダーの正体は次回あたりに明らかになる予定です。

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