とある殺戮の天使が巨人の世界に迷い込んだそうです 作:二野瀬諷
──────地下ビルでの出来事。それに至るまでのザックや私の過去。全てをハンジさんに話した。途中から記憶がフラッシュバックして来るのを感じた。1日2日の話だったが人生の中でこれ以上のことはないような経験をした。記憶が消えていたこと。あらゆる殺人鬼に殺されかけたこと。魔女と呼ばれ異端とされたこと。自分自身の心が狂っていたことを思い出してしまったこと。
そしてそれでも変わらず私を信頼し、守り続けてくれた大切なパートナーが出来たこと。これら全部、全部全部が濃すぎる記憶としてこれからも鮮明にずっと覚えているのだろう。
…大切なパートナー、か。まだまだ短い時間の中でしか生きていないけれど。私は…私は───────。
「…レイチェル?泣いているの…?」
「……え?」
ハンジさんに言われて私はやっと気づいて驚いた。冷静でいるのに自然と涙が流れ出てきているのだ。
「…ったく、てめえは結局泣いたりばっかじゃねえか」
「あっ…あっ…ザックゥ…、んむっ!?」
「…あーあー。もう顔ぐしゃぐしゃじゃねえか、だらしねえ」
だんだんと涙が止まらなくなり、おもむろにザックの方を振り向いたら瞬間的に抱きしめられていた。ザックが人を抱きしめることがあるなんて…。あったかい。…あったかいよっ…!
「うううっ…!ザックッ…ザックッ…!うわあああん」
「ふはっ、まーた泣いてんだな」
「…すごいね。まだそんな年なのに本当に辛かったんだうね」
「おい…同情か?」
「…え?」
ハンジさんが言った言葉にザックが鋭い目線を送る。なんでだと言わんばかりにハンジさんは驚き、その眼の鋭さに固まっていた。
「…テメエらにはどう足掻いてもわからねえよ。こいつをわかってやれんのは俺だけ、俺を分かってくれんのもこいつだけだ。俺らは2人で1つなんだよ」
「…なるほど。2人でしか共有できないモノ…か」
「…おう、このちっちぇガキがどれだけ魔女やら殺人鬼やら言われて苦しんでたかはどんな世界でもお前らにはわからねえ。だから同情なんか余計な世話なんだよ」
「……。」
ザックははっきりとそう言い切りつつ、私をまだ抱きしめてくれている。少し前だったらなかったような、確かな温もりで。
「…君達を見ていると、前にハンネスさんが言っていたシガンシナ区出身のあの子達の話を思い出すなあ」
「あの子達?」
「うん。ちょうどレイチェルと同い年くらいの子たちが今年訓練兵団ってところに所属になったんだけれどその子たち、シガンシナ区に住んでいた時に巨人に襲われて親を亡くしてて助け合って生きてるんだって君たちのことを見てて同じようなことを思ったんだよ」
「…俺らはほかに頼る奴はいねえんだよ」
「そうだね…その子達もそうだったらしい。だからこそこの時代を生き抜いてほしいしそのためにも私達は巨人に勝たなくてはならない。勝つためだったらどんな残酷な手でも使わなくてはならないんだ。勝利の先にあるものを見るためにね。だからこそ君たちの手も借りる」
「巨人殺せんだったら俺はなんでもいい。殺人鬼に何を今更言ってやがんだ」
そうだったね、とハンジさんは軽く頷き自分の持ってきた紅茶を啜る。やっと涙が止まりかけてきた私とザックもそれからはお菓子を食べたり紅茶を一緒に飲んだりと他愛もない話やこの世界の話を聞いたりした。
一息ついたところでドアを3回ノックする音が聞こえた。ハンジさんがどうぞ、といい部屋に通す。エルヴィン団長だ。なにやら書類を抱えている。
「休憩しているところすまない。君たちの壁内での住民票などの登録が済んだことと上層部に話をつけてきた」
「やっと出来たかあ…。んでエルヴィン、この子達は議会に出向く必要はありそうかい?」
「その必要はない。とりあえず君たちの力を試したいとのことで特別に我々調査兵団に飛び級配属され、次回の壁外調査に同行せよ。との通告だ」
壁外遠征…?それって私達が団長さん達に見つけてもらえた時のあれのことかな?
「ひゃ〜〜大胆なこと言ったねえ。で、それを許可したのはいったい全体誰なんだい?」
「ダリス・ザックレー総統だ」
「あん?…ザック?」
「ザックレーだ。なにも君に関係はしていないから安心してくれ」
「俺の名前と被せてくるとかなんかイラつくな」
なにかと突っかかるのはやめてくださいザックさんこっちが止めるの大変なんだから。
「あは、ザックはこういうの気にするタイプなんだ?」
「自分とおんなじとか気持ちわりぃよ。俺は俺っていう唯一の存在でい続けてえんだよ。それによお…」
「「??」」
そう言ってザックが私の顔を見つめる。
「へっ、…お前には、俺だけにザックって言ってほしいからよお」
「ザック……。うん!」
(フン…なんだよこの空気は…)
「…リヴァイ?どうかした?というかいつの間に?」
「…なんでもねえよ、てかエルヴィンと一緒に入ってきただろ」
そう言うリヴァイさんは。なんだかちょっと不服そうな少しだけ羨ましそうな顔をしていた。
「そんなことよりもう一つ報告がある。お前らの扱いは一時的に訓練兵団の所に任せることになった。もう少し巨人との戦い方を知れ、ということだな」
「くんれん…へいだん…戦い方だァ?」
「そうだザック。お前の身体能力と戦いの発想力は下手な兵士より群を抜いている。だからこそもっと強くなれ。立体起動装置とブレードの扱いにも慣れないとだからな。」
「リヴァイ、今日はよく喋るじゃないか」
「馬鹿を言えエルヴィン。俺は元々よく喋る。じゃあな、せいぜい頑張れよ」
そう言い残すとリヴァイさんは部屋を出ていってしまった。ザックはもっと強くなければならない…か。
「すまないなザック、レイチェル。リヴァイは少し不器用なところがあってな、ああやって言うということはザックを評価している証なんだよ」
「…ほー?」
やっぱりこっちの世界でのザックの殺戮スキルは巨人をも圧倒するようで。人類最強の人から評価を貰うということはそういうことなのだろう。
「ああ、あとレイチェルのこともさり気なく評価していたようだ、あの馬鹿をよくコントロール出来るな、と。ザックが巨人と戦っていた時に指示を出していたのは君だろう?」
あの時…たしかにそうだ。私はザックに指示をだしていた、ような気がする。巨人に襲われるという唐突なことが起きていたからあまり覚えていなかったけれど。
「あんなに冷静な指示を出せる君のことも褒めているようだよ」
「…ありがとうございます」
「レイチェルとザックはいいパートナーだもんねえーいいねえお似合いだよう」
「俺らは約束してんだよ、最高でなきゃいけねえ。俺はレイを殺させねえしレイは俺が困った時に役に立つ。それが俺らの絆だ」
「なるほどねえ…うん。いいと思うよ!若いっていいねえ…」
この時ハンジさんが言った若いという言葉がなぜ出たのかは分からなかったが後押しはしてくれたみたいだ。やることをやるだけ。私達の約束を守るために。
「まあまあ、そんな感じで少しの間だが訓練兵を楽しんでくれ二人とも。話はつけてきてあるからまずは教官のところに明日は案内するよ」
「…だって、ザック。上の人の言うこと聞ける?」
「だーいじょぶだ、なんとかなるだろ」
本当かなあ…。
そんなこんなな訳で。私達は一定期間の訓練兵団配属が決まった。私はなぜか少し不安があった。的中しないといいのだけれどね。そんなことを思いながら今日を過ごし、そして明日を迎えた。
──────翌日。
「てめえなにしやがるんだ!!!」
「うっせーなてめえ、そんなに自信があるなら力づくでやってみろってんだよ、へっ!」
「この野郎ッ……!!!!ウラアアアアア!!!」
「やめろよザック!〇〇〇!!」
(…どうしてこうなったんだろう。)
つづく!!!
次回からはザック、レイ訓練兵団編です。すぐ出せるかなあ…また長くなりそうだなあ…。できるだけ早く出したいと思いますのでっ…!
次回もよろしくお願いします(小並感)