ぼこうぐらし!   作:真夜中

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2話 これから

「とりあえず……軽く自己紹介しようか。俺はOBの斎条 要。元陸上部で胡桃の先輩だ。よろしく」

 

初対面の2人に対して本当に軽めの自己紹介を終える。本当ならもう少しちゃんとした自己紹介が好ましいのだが、今はそんな悠長な時間はない。

 

「次は私ね……名前は若狹 悠里。3年生で園芸部員。よろしくお願いします」

 

そう言って軽くお辞儀をする若狹。園芸部なのにジャージではなく制服のままで活動していたので、制服が汚れないか結構気になった。

 

今のような時に気にすることではないが……案外気になるものである。

 

「丈槍 由紀です! 巡ヶ丘学院高等学校3年生です!」

 

ビシッ! と敬礼しながら言うのは胡桃や若狹と違い青色の制服と黒い帽子を被った愉快そうな子である。

 

クラスにいたら若干浮いてそうな子だ。

 

「名前は恵飛須沢 胡桃。3年生で陸上部員。よろしく」

 

佐倉先生は全員知っているので挨拶は省略。本人はえっ!? と疎外感を受けたようにショックを受けて哀愁を漂わせていた。

 

だが、すぐに立ち直ると注目を引くためにパンパン! と2回手を叩く。

 

「とりあえず、日も暮れて暗くなっちゃうから設備機器ゾーンの方に行きましょう。彼処なら電気も通ってるし、屋根もあるからね」

 

佐倉先生の言葉に全員がうなずく。

 

設備機器ゾーンに向かって歩く間、何でこうなってしまったのか考えていた。答えなど見つかる分けないのにだ。

 

「先輩? どうしました?」

 

「ん? ああ、食べ物どうするかなってな。後、もっと砕けた感じで話していいぞ? こう、フレンドリーな感じで」

 

「えーと……分かった。先輩は食べ物に当てはあるんで……って、ゴホン! あるのか?」

 

早速、間違えて言い直す胡桃の姿に 笑いが込み上げてくる。

 

「プッ……くっくっ……!」

 

「う、うぅぅぅ……っ!」

 

俺に笑われたのが恥ずかしいのか胡桃が唸る。でも、お陰で分かったことがある。

 

「……ありがとな。俺はまだ笑えるみたいだ」

 

「あ~……なんだろう。礼を言われたのに嬉しくない」

 

不貞腐れたような感じの声だ。だけど、今だけは日常に戻れた気がする。もう、帰ってくることのない日常に……。

 

「ははは、悪い悪い。話は戻すが、食料は持って無いな。あるのはおやつにと買っていた小分けになったチョコレートの詰め合わせだ」

 

後は未開封のペットボトル茶500㎎が1つぐらいか。

 

それ以外は懐中電灯とスマートフォンの充電機。すぐに役立ちそうなのは懐中電灯ぐらいしかないな。

 

 

 

 

「……繋がんないか」

 

設備機器ゾーンに着くと先ず最初にすることになったのが外に助けを呼ぶことだ。

 

それは屋上にいる人の中で唯一スマートフォンを持っている俺がやっているのだが、全く繋がらない。

 

警察、消防は繋がらず、実家にかけてみるも誰もでないのだ。

 

「……一応、繋がるかは不明だが家に連絡しとけ」

 

俺はスマートフォンを胡桃に渡して設備機器ゾーンから出てフェンスに両手を置いて、町の方を見る。

 

いつものように街頭が灯るもほとんどの家から光が消えていた。

 

「先輩……全員繋がんなかった」

 

「そうか」

 

スマートフォンを胡桃から受けとる。もちろん……新着情報は無し。

 

町を見るのをやめて、設備機器ゾーンに戻ってからスマートフォンを操作してネットを開く。

 

そして、今日起こった出来事について検索をかける。

 

「………………」

 

分かったことは……噛まれたら助からない。名称は【かれら】であり、力が強く音に敏感。

 

これが現段階でネットに上がっていることだ。

 

そして、何よりも信じがたいのが……荒しが無いことだ。それはつまり、この件が全国規模で発生していることを示している。

 

……知らなければ良かった。これはもう、()()()()()()()()()()()ということ。いや、もしかしたら助けがないかもしれない。

 

「先輩? 顔色が悪いけど大丈夫か?」

 

「っ!? あ、ああ……単に疲れただけだよ」

 

急ぎさっきまで開いてた画面を消して、スマートフォンをポケットにしまう。

 

「……そうね。今日はもう休みましょう。皆、精神的にも疲れてるだろうし、朝早く起きてこれからのことを考えましょ」

 

佐倉先生がそう言いながら全員の顔を見渡す。

 

確かに若狹も丈槍も胡桃もみんな……憔悴しているはずだ。

 

クッションになるような物はバックぐらいで掛け布団の代わりになるような物はジャージぐらいか。

 

設備機器ゾーンの壁を背にして座る。横になろうとはどうしても思えなかったのだ。

 

「……」

 

目を閉じる。

 

明日の段階で食料を見つけなければ、待っているのは死だ。

 

……トイレとかも重要だ。恥を捨てるなら問題ないが無理だろう。特に女子勢。

 

思わず頭を抱えた。

 

「どうしたの? 頭ぶつけた?」

 

「ん? いや、そうじゃない……丈槍はどうてここに?」

 

話しかけてきたのは丈槍だった。ちょこんと隣に座ると両手で膝を抱える。

 

「えっと……くるみちゃんから先輩さんがチョコ持ってるって聞いたからくれないかなって思って」

 

「ああ、いいぞ。ちゃんと分けて食べろよ?」

 

「ありがとう! 先輩さん! いや~、お腹が空いて寝られなくて」

 

ああ……それは何となく分かる。

 

「明日はきっと早いからちゃんと休むんだぞ」

 

「はーい」

 

設備機器ゾーンに戻っていく丈槍……だが、チョコが入っているのは俺のバックの中だと伝えてないが、ちゃんとバックから取り出すのだろうか?

 

まあ、任せよう。普段であればそんなことしなかったのにな。その作業さえ億劫になるくらい精神的に疲れてるんだろうな。

 

「はぁ……」

 

溜め息を吐いてから片手で額を押さえる。

 

疲れてはいるがちゃんと寝られるか不安だ。目を閉じれば……思い出す。あの凄惨な光景を……。そして、あいつに噛まれたらかれらの仲間入りしてしまうこと。

 

胡桃がシャベルで殺ったかれらの仲間入りをした男子生徒が動き出して襲ってくるのではないかという不安がある。

 

流石にあり得ないはすだが、どうしても頭から離れない。あり得ないと思っていた事が現実に起きた。だからこそ何が起こらないのか分からずに怖い。

 

夢なら今にでも覚めて欲しい……こんな夢なんて見たく無かった。

 

空を見上げれば満天の星空……今日のような事がなければより綺麗に見えたんだろうな。

 

 

 

 

「っ……朝か。んん~……あ~、体が痛い」

 

どうやら、ちゃんと寝れていたらしい。立ち上がり伸びをしながらその事を理解する。

 

天気は晴れ、日はまだまだ上っている途中だ。スマートフォンのスイッチを押して、時間を確認するとまだ5時である。

 

誰も起きてきていないのをいいことに俺は屋上にある花壇へと向かう。何か食べられそうな物があれば勝手に収穫させてもらおうと思ったからだ。

 

「…………素人目じゃ分からん」

 

プチトマトはまだ実が青く食べ頃でないのはすぐに分かるが……それ以外は不明だ。葉だけのやつもあるにはあるが、食用なのか分からない。

 

……役に立たねぇ。自分の役に立たなさ具合に呆れる。

 

仕方がないので設備機器ゾーンに戻ることにした。寝たことで体力はある程度回復し精神的にも幾ばくか良くなったが、今日これから次第で俺たちの運命が大きく変わるのは言うまでもない。

 

食料問題を解決しない日を追う毎に動けなくなってしまう。

 

「おーい……朝だぞ、起きてくれないか」

 

設備機器ゾーンまで戻ってくるとそう言葉をかけて起こす。

 

声をかけるだけにする理由は保身的なものが大きい。つまりは下手なことして彼女らから信用されなくならないようにするためただ。

 

1度失った信用を取り戻すのは難しく、そうなってしまえば男の俺は完全に孤立無援の針のむしろ状態になってしまう。

 

とりあえず、1回は起こしたのであんまりにも遅いようであればもう1度声をかけよう。その間にスマートフォンを起動してインターネットを開く。

 

もちろん調べるのはかれらについてだ。

 

もしかしたら新しい情報があるもしれない。

 

「……夜は活動が鈍くなり、光にも反応すると。体は生きていた頃よりも脆いか」

 

かれらは最低限動ければ問題ないのか? 謎だ。だが、お陰で食料を手に入れるための作戦を練ることが出来そうだ。

 

インターネットを閉じて、メモ帳を開く。そこにかれらの特徴を分かる限り書いて、作戦を練る。

 

最低でも2階にある購買部まで行って食料となるものを獲てこなければならない。

 

かれらは音に反応する。そうなると音を鳴らさないようにしつつ、迅速な行動が求められる。

 

上手く2階の購買部まで辿り着けたとしても、その帰りにかれらに遭遇してしまえば終わりだ。

 

数こそ不明だが、仮に階段の所で挟まれてしまえばそれこそ助かる確率は0になるだろう。

 

そうならないようにするためには予め3階にいるあいつらをある程度減らしておかなければならない。

 

問題は……どうやって数を減らすかだ。

 

購買部に行くのは俺と胡桃の陸上部組がいいだろう。屋上にいる面子の中では1位2位の足の早さだろうし。

 

佐倉先生や若狹はあまり運動が得意そうではないし、丈槍は分からん。

 

それにネットもいつまで機能しているか不明だ。電気の供給が無くなれば当然止まる。

 

そうなってしまえばかれらに噛まれるかもしれないというリスクを背負いつつ、かれらに関しての情報を自分で集めなくてはならない。

 

「……いや、今はなるべく安全に2階の購買部で食料となるものを獲ってくるか考えないと」

 

はぁ……やっぱり運が絡むよな。

 

仮に3階はどうにか出来ても購買部にあいつらが複数いたらそれこそ終わりだ。

 

全員で行けたら心強いが、下手したら全滅。

 

そしたら……朝昼を抜きにして夕方に賭けるか? 朝昼の間に3階の1部を安全圏にして2階の購買部に行くための足掛かりにする。

 

だが、それで体力が持つか? 昨日の夜は食べてないに等しく、夕方まで待つと丸1日食べていないことになる。そんな状態でどうにか出来るとは思えない。

 

となると……ハイリスクハイリターンでやるしかないか。

 

 

 

 

しばらくして全員が起床してきた。ただし、空腹によって元気が無いような状況であるが……。

 

「……お腹空いたよ」

 

「そうね。私もよ、ゆきちゃん」

 

全員で量の少ないチョコを分けて食べている。水に関しては屋上まで水道が通っているので大丈夫だ。

 

「……どうしたものかな」

 

安全策を取るかハイリスクハイリターンを狙うか。

 

でも、先ず最初にやらないと行けないのは屋上の入口の前にあいつらがいないか確認することだろう。

 

もし、扉の前にかれらがたくさんいたらそれこそ、この屋上から動けない。

 

「なぁ……めぐねえ。食料獲りに行くべきじゃないのかな」

 

胡桃がシャベルを片手に佐倉先生にそう言った。佐倉先生も食料について悩んでいるらしく難しい表情をしている。

 

「そうよね。このままじゃ餓死しちゃうし……でも、校内が安全かどうか。後、恵飛須沢さん。めぐねえじゃなくて佐倉先生です!」

 

こんな時でもそこは気にするのね。

 

「先輩は何か案は無いの?」

 

「あるにはあるが……まあ、聞いてくれ。ネットでの呼称でかれら……つまり、噛まれた人の末路のことだが、かれらは音と光に反応している上に夜だと活動が鈍るらしい。なので上手くあいつらの注意を引ければ2階に購買部に食料を獲りに行けると思う」

 

ここで、1拍置いてから話を再開する。

 

「ただし、3階にもかれらはいる。仮に購買部から食料を持ち出すことに成功しても帰りにあいつらと鉢合わせしたら終わりだ。だから、俺が考えてた案は2つだ。1つは3階の1部を先ずは安全圏として確保すること、その後に2階の購買部だ。もう1つは見つからないことを前提に俺と胡桃の足の速いであろう2人で武器も持たずに食料を入れるバックのみを持って購買部へと行くかだ」

 

空腹に耐えながら堅実に行くか、俺と胡桃の2人で速攻を仕掛けるか……。個人的には前者が良いのだが、状況次第では後者にしなければならないだろうな。

 

「……ここは安全にいきましょ。皆で協力すればきっとなんとかなるわ」

 

「……そうよね。安全第一で行きましょ。無理をして失敗したら目も当てられないし」

 

佐倉先生の言葉に若狹が続いた。そして、視線を丈槍に向ける。

 

「私も、りーさんと同じかな。皆で一緒に行動したいな」

 

りーさん? 多分、若狹のことなんだろう。俺が寝てる間に親睦を深めてたんだろうな。そんなことを思いつつ次に胡桃へと視線を移す。

 

「……先輩は3階の1部を安全圏にするって言ってたけど具体的にどこまでを安全圏にするつもりなんだ?」

 

「先ずはトイレまでだな。現状足りないものは幾つもある。そして今、優先すべきは安全、食料、清潔だな。安全は屋上で確保出来てる。だが、食料と清潔は別だ……この歳になってトイレ以外で排出行為が出来るか?」

 

少なくとも俺はしたくない。全員、俺と同じだろう。

 

その後、安全圏(トイレ)の確保が決まった。

 

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