ぼこうぐらし!   作:真夜中

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3話 はじめて

屋上入口の扉の前にバリケードとして置いておいた土袋を退かす。

 

胡桃がシャベルをいつでも振りかぶれるように構え、佐倉先生や若狹が鉢植えを投げれるように準備している。そその後ろでは丈槍が3階でバリケードを作るために必要な備品……主に有刺鉄線とペンチの入ったバックを持っている。

 

「……開けるぞ」

 

ドアノブをゆっくりと回して扉を開く。

 

すると、胡桃が首を左右に振る。佐倉先生と若狹の方に視線を向けると胡桃と同じく首を左右に振った。

 

どうやら、扉付近には見当たらないらしい。

 

ゆっくりと音を立てないようにしながらドアノブから手を離して校舎の中に入る。

 

あらゆる場所に血が飛び散り、異臭するが今はその事に意識を割いている余裕がない。

 

足元に注意しながら、階段を見ると……かれらの姿は見えなかった。

 

なので、こっちに来るようにジェスチャーで伝える。その後、足音を立てないように階段を降りて、手すり越しに下を覗く。

 

「…………っ!?」

 

かれらの姿が2つあった。どれも俯いているのでこちらの姿は確認出来ていないと予想できるが、音を立てたらすぐに反応するだろう。

 

すぐに首を引っ込めて、今いる位置から正面を見据える。正面にはかれらの姿を確認できない。

 

死角になっている部分にいるかもしれないが、ここは……階段を降りきって3階の廊下の左右を確認するべきだろうか?

 

下手すれば襲われて俺は死に、あいつらの仲間入りだ。

 

……どうする?

 

分かりきってることだ……誰かが見てこなければならない。

 

恐怖で手が震え、心臓の鼓動が速くなる。

 

……落ち着け。大丈夫だ……俺ならやれるはずだ。

 

「……先輩?」

 

心配そうな様子で話しかけてくる胡桃に心配するなと、なるべく自然な笑みを形作る。

 

「……行ってくる」

 

声は震えてなかっただろうか? 作った笑みはぎこちないものではなかっただろうか?

 

階段から降りると壁伝いに移動する。

 

ここは左側なので右側の方がある程度奥まで見える。右側にはかれらの姿が3つほど見えた。距離はそれなりに離れているから大丈夫だろう。

 

そして、問題は左側だ……。

 

2、3回ほど深呼吸してからゆっくりと顔を出して見る。

 

「…………」

 

左側にはあれらの姿が見当たらない。なので、もう1度右側を見てから左を確認する。

 

それから階段で待機していた全員に来るようにジェスチャーしておく。

 

周りを警戒しながらぞろぞろと降りてくる。

 

声量を落として、集まった全員に言う。

 

「今、トイレ側にはかれらの姿が見えない。だから今のうちに2年A組から机を運んでバリケードを作る。一応、教室の中にもかれらがいるかもしれないから、数次第では諦める」

 

対処できる数は多くない。いくら動きが遅いと言っても攻撃するときは必ず足が止まる。となれば当然距離を縮められて追い込まれる。

 

「それで、佐倉先生か若狹のどっちかに下からかれらが上がって来ないかを見ていて欲しい。丈槍は運んだ机と椅子を有刺鉄線で固定してくれ。胡桃は俺に付いてきてくれ。何か意見があればすぐに頼む」

 

胡桃を指名するのは同じ陸上部だったからだ。この中では1番付き合いが長い。

 

「そうね……下は私が見ておくから。悠里さん、ゆきさんのことを手伝ってあげて」

 

「はい。わかりました」

 

佐倉先生が下からかれらが上がって来ないかを見てくれる上に若狹が丈槍の方を手伝ってくれるなら安心か?

 

「胡桃……俺が先に教室内を確認する。何もなければ向こう側にいるかれらがこっちを見てないか確認を頼む。教室内にいたら数次第ではシャベルを借りる」

 

「分かった」

 

コクリと胡桃がうなずくのを確認してからゆっくりと右側に移動して教室内を見る。

 

すると……1体だけポツリと立っていた。

 

他にはいないのを確かめると振り向いて、胡桃からシャベルを借りる。

 

「……行ってくる」

 

それだけ言うと音を立てないように足元に注意しながら、教室内へと入る。

 

ちょうど後ろを向いており、今が絶好のチャンスだ。

 

ゆっくりとシャベルを構えて、背後から近づいていく。

 

そして、シャベルを上段に振り上げて相手の頭目掛けて一気に降り下ろした。

 

「…………っ!?」

 

ネットにあった情報通り脆くシャベルが半場頭にめり込んでいる。

 

そして、手には形容しがたい感触が……これが、かれらを……元人間を……いや、今はそれについて考える時じゃない。

 

机と椅子を運ばないと! すでに、胡桃が机を運び始めている。廊下右側の奥に見えるかれらはまだこちらに気がついてないのかその場からほとんど動いてない。

 

シャベルを廊下に倒れないように立て掛けてから、机をぶつけて大きな音を出さないように気をつけ、トイレの側に運ぶ。

 

机、椅子、机、椅子の順に運び出す。

 

運び出された机と椅子を丈槍と若狹が有刺鉄線を使って机の脚同士を結び付ける。

 

椅子は大掃除の時と同じように机の上に乗せて、それをまた有刺鉄線で動かないように結ぶ。

 

「どれくらいまで積み上げるの?」

 

と、机を運んで来たときに丈槍に聞かれた。

 

「2段だな。あくまでも一時的なバリケードだし、安全圏を増やして行く途中途中に本腰を入れたバリケードがあったらこっちが移動するときに不便だしな」

 

俺の回答にそれもそっか、と丈槍はうなずくと有刺鉄線を使って机の脚同士を結ぶ作業に戻っていった。

 

そして、バリケードの1段目が完成した頃を見計らい俺は廊下に立て掛けていたシャベルを持って、女子トイレの前に立つ。

 

「……確かめとく必要はあるよな」

 

中にかれらがいる可能性がある。中にいた場合排除しておかなくてはならない。今後の安全のためにだ。

 

「どうかしました?」

 

いざ扉を開けようとしたら若狹に話しかけられる。

 

「中の安全確認をしようと思ってな」

 

答えると静かにうなずく。

 

「気をつけて」

 

「ああ」

 

若狹の声を背に受けつつ俺は女子トイレの扉を開けた。

 

 

 

 

女子トイレ、男子トイレ共にかれらはいなかった。

 

職員室方面に対するバリケードは完成し、後は教室側……2年A組に残してある机と椅子を使ってA組とB組の間にバリケードを作るだけだ。

 

ここを作り終えたら下の階に続く階段に注意すれば安全圏を確保出来る。

 

かれらがいるのはD組の辺り……なら、ギリギリ見つからずにバリケードを作れるかもしれない。

 

今のところは順調であるが……順調であるが故に心配になる。

 

何かとてつもないどんでん返しがあるのではと。

 

我ながら精神的に弱ってると自覚しながら、A組から机を運んでさっきと同じ要領でバリケードを作っていく。

 

慣れてきたのか丈槍と若狹の作業スピードが上がっている。

 

「順調だな」

 

「そうね」

 

小さく呟いたつもりなのだが、どうやら聞こえていたらしい。しかもこの声は佐倉先生だ。

 

「下から上がってくるかもしれないかれらの監視は?」

 

「それは恵飛須沢さんに変わってもらったの。少し話をしたくてね」

 

話? 今後についてだろうか?

 

「はあ? ……それで話とは」

 

予想が当たってるかもしれないし、外れているかも、聞いてみないと分からないからだ。

 

「……ここのバリケードを作り終えたら休憩しましょ。こんな時だからこそ休むことが必要よ。体は大丈夫でも精神は別だからね」

 

……確かに俺も体力的にはまだまだ動ける。だが、精神的に万全かと言われれば素直にうなずけない。

 

今日、初めてかれらを殺し……いや、かれらを排除した。その時の感覚が手に残っている。

 

昨日の胡桃も俺と同じように手にかれらを排除した時に感じたあの気持ち悪くなるような感触を感じていたのだろうか?

 

必死だったから気がつかなかったのか……それは分からない。だけれど、このかれらを排除した時のあの感覚だけは生きている間に感じたいものではなかった。

 

やらなければならないことだけど、これは……出来るのであれば知ることなく生きていたかった……。

 

「……ですよね。焦って失敗したらそれこそ皆が危険な目に遇うことになりますしね」

 

精神的に乱れてると体が精神に引っ張られる。

 

「ええ……皆で協力して一緒に頑張って乗り切りましょう」

 

やっぱり、佐倉先生が俺たちの心の支えになってると感じた。こんな非常識過ぎる事態になってる時でも皆のことを考えて行動している。

 

「……焦っても何にもならないですよね」

 

「ええ。こんな非常事態だからこそ皆の歩調を合わせて助け合って行くのが正解だと私は思うの」

 

分からないからこそ突っ走るのではなく、周りと歩調を合わせて確実に進んでいくか……。

 

「じゃあ……ここのバリケードを作り終えたら屋上に戻って休憩しますか」

 

もうひと踏ん張りとバリケードを作る作業に戻ろうとすると、こちらに向かってくるかれらの姿があった。

 

その数は1。

 

距離はまだ、2クラス分ある。

 

「……先生。丈槍と若狹を胡桃のいる階段の所まで連れて離れてください。あんまり人に見せたいようなものじゃないですし」

 

「……そうね。由紀さん、悠里さん。一旦、階段の所まで下がりますよ」

 

佐倉先生が黙々と作業をしていた丈槍と若狹に声をかけて、バリケード作りを中断させて階段の方に下がっていく。

 

シャベルは胡桃に渡してあるので手元にはない。だが、教室内の掃除用具ロッカーの中には長箒の1本ぐらいは入っているだろう。

 

教室内に入って掃除用具ロッカーを開ける。

 

中にはちゃんと長箒が入っていた。

 

それを1本取り出して、廊下に出る。

 

長箒は軽く、シャベルのように一撃でかれらを排除することは出来ないだろう。

 

だから、脚を狙って転ばせる。

 

すでに、近くまで来ている。バリケードから2メートルぐらいの距離だ。

 

「……っ」

 

1歩、2歩と近寄り、長箒の届く距離になった瞬間に足払いをする。

 

上手く足払いが決まり、前のめりに倒れさせることが出来た。

 

そして……俺は倒れたかれらの頭を踏み潰した。

 

「……気持ち悪い感覚だ」

 

 

 

 

俺がかれらを1体排除した後、バリケード作りが再開された。

 

それを作り上げると屋上に引き返し、休憩となったので俺は反り血の付いたズボンをジャージへと着替えて、靴も洗い干しているので今は何故かあった健康サンダルを履いている。

 

食べ物がろくに無いので水を飲み、渇きを癒して精神を休ませる時間となっていた。

 

予想よりもかれらの数が少なかったのでバリケードを早く作ることが出来た。そのお陰でまだ昼にもなってない。これなら。昼御飯の時間帯に食べ物を食べることが出来るかもしれない。

 

「………先輩、大丈夫か?」

 

「胸糞悪いが……出来ることがあるだけマシだとも思ってる。役割とかそういうのがないと精神的に駄目になるしな」

 

「……そっか」

 

「……ああ」

 

やれることが明確に分かってるだけ、まだマシだ。

 

それが今の自分を支えてる。

 

何とも……自己中心的な考えだ。

 

ああ……そんな自分が嫌になるが、止められない。止めたらこの現実に押し潰される。

 

「……胡桃は今後どうなると思う?」

 

「そのうち救助がくるんじゃないかな? 私たちが生き残れてるんだし、きっと何処か無事な所があるだろうし」

 

「そうか」

 

「そうかって……先輩は救助が来ないと思ってるのか?」

 

俺は正直に言って来ないと思っている。だが、その事を正直に言ってはいけない。

 

それを鵜呑みにされると希望が失われる。そうなってしまえば動けなくなる。

 

「どうだろうな? ただ、全国規模だったら……きっと時間がかかるだろうな」

 

来ないとは言わずに時間がかかると言って誤魔化す。

 

「……やっぱり、今日明日中に救助が来るとかはないか」

 

「無いだろうな。噛まれたら、かれらの仲間入りだ。……きっと外から来た人を受け入れるのに反対する人もいるだろうし」

 

外から人を入れるということは、かれらを中に入れてしまう可能性があるということだ。

 

「……だから、今は生き延びることを考えようか。生きてなきゃ助けてもらえないしな」

 

購買部にある食糧品を入れるためのバックは用意してある。

 

後は実際に購買部に行って、食糧を入れて屋上まで戻ってくることだけだ。

 

そうだろ? と口角を上げながら言えば胡桃はうなずいた後、もちろん! と俺の真似をしたのか口角を上げて言った。

 

我ながら浮き沈みが激しい。

 

この状況に慣れればそれも解消されるのだろか?

 

その答えは分からない。だが、少なくとも今はまだ大丈夫なはずだ。

 

夢見は絶対に悪いだろうが……。

 

むしろ、夢見が悪い程度で済むことを喜んだ方が良いかもしれないと思う。

 

理由は簡単……どんな悪夢だろうが眠っている間しか見れないからだ。

 

現状に少しでも余裕がプラス方向に物事を考えられるかもしれないな。

 

スマートフォンを見るに時間はまだ、9時にもなってない。

 

これなら、昼はちゃんとした物が食べられるかもしれないな。

 

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