ぼこうぐらし!   作:真夜中

4 / 5
4話 ちょうたつ

休憩を終え、再び屋上から校舎内へと入っていく。

 

背後からかれらが来ることはないので全員で購買部まで行くことになった。

 

全員で行くことの利点は1度にたくさんの物を運べるということだろう。欠点としてはかれらに見つかる可能性が高くなるぐらいだ。

 

階段に見えるかれらの数は2。バリケードを作っていた時と変わらない。

 

だが、2体の距離が近いので片方を相手している間にもう片方が距離を詰めてくるのは容易に想像できる。

 

そして、武器になるものは胡桃の持っているシャベルと俺の持つ長箒しかない。

 

「……胡桃、手伝ってもらえるか?」

 

「もちろん!」

 

「助かる。俺は右をやるから胡桃は左を」

 

かれらから目を離さず、礼を言った後に狙う相手を伝える。

 

「……斎条君、恵飛須沢さん。気をつけてね」

 

「大丈夫だって、めぐねえ。先輩もいるしさ」

 

心配そうな佐倉先生に胡桃が大丈夫だと笑みを見せる。

 

「危なくなりそうだったらすぐに逃げるので安心してください」

 

ここは安全第一で行く。でなければ3階に安全圏を作った意味がない。

 

「……それじゃ、やるか」

 

シャベルのように一撃必殺を狙えず、一撃の威力に欠ける長箒。ならば、やるのはその長さを生かした足払い。

 

それから、踏みつけだ。

 

今回は園芸部が所持している長靴の中に履けるのがあったので、今はそれを履いている。

 

これなら、多少の反り血も問題ない。

 

嫌な気分になるのは百も承知だが、生きるか死ぬかの選択に迫られているなかで嫌な気分になるが嫌だからと言って死ぬつもりはない。例え、後悔することでもだ。

 

胡桃と一緒に階段を降りる。

 

当然、かれらはこちらに気がつく。だが、動きが遅い。

 

シャベルを長靴を振るう時間は十分にある。

 

振るわれたシャベルが左側にいたかれらの頭をはね飛ばし、長箒が右側にいたかれらの足を払う。

 

そして、俺は転んだかれらの頭を一息に踏み潰した。

 

グシャリとした感触が足に広がる。

 

この気持ち悪い感覚を無視して、そのまま3階と2階の間に降りる。

 

そして……2階の状況が目にはいる。

 

階段の付近にかれらの姿が5体。しかも、唸り声のようなものも数多く聞こえているのだ。

 

これでは購買部まで行けない。

 

……いや、無理をすれば行けるだろう。だが、帰ることが出来ずにかれらの仲間入りを果たすことになるだろう。

 

「……先輩、どうする?」

 

「戻るしかないな。さすがにこれは無理だ」

 

この階段の付近だけで5体もいるのだ。それこそ廊下にはどれだけの数のかれらがいるか……。

 

少しずつかれらの数を削っていかないことには安全に購買部に行けない。

 

3階にいたかれらの数が少なかったから2階も少ないものだと思っていたが、そうではなかった。

 

早速頓挫した購買部行き。

 

更には……。

 

「……気づかれてるか」

 

5体いるかれら全てが階段を上ろうとしている。

 

「どうする?」

 

胡桃が指示を仰いでくる。

 

相手が1体、2体なら位置の関係もあって簡単に対処出来る。それも5体が少しずつ間隔を開けている状況ならほんの少しの時間なら2人で1体を相手に出来るが、どうするべきか……。

 

安全を考えるなら逃げるべきだ。だが、ここで逃げればかれらが屋上にまで上がってくる可能性が高い。

 

なら、ここで排除するのがベスト。

 

「……前言撤回だ。ここでかれらの数を減らす」

 

上では食糧詰め込むためのバックを持った先生たちが待機している。

 

本当なら退くべきだろうが、かれらの数を減らさないことにはいつまでも経っても安全とは言えない。

 

「了解!」

 

気合い十分な返信が返ってくる。本当に頼もしい後輩だ。

 

「……やるか」

 

今日を、そして明日以降を生きていくための戦いを……。

 

 

 

 

「はぁはぁ……疲れたぁ……」

 

シャベルを床に置いてその場に座り込む胡桃。

 

「お疲れ……俺も疲れたよ」

 

俺も長箒を床に置いてその場に座り込んだ。

 

最初は5体だけだったのだが、途中から次々と現れて行き、最終的には20以上のかれらを排除するに至った。

 

故に階段や階段付近には排除したかれらが無惨にも転がっている。

 

「お腹が空いて力がでない」

 

「同じく……空腹時にこんな重労働はするもんじゃないな」

 

だけど……その甲斐あって近場にいたかれらは粗方排除出来たと思う。

 

ただ、この光景は人には見せたくないものだ。

 

かれらの死体……それが、無惨に横たわり、飛び散った血が床を壁を天井を濡らしている光景を……。

 

かれらを排除するために必死で動いていた時は全く気にならなかったが、こうして他のことを考える余裕が出てくると気になる。

 

「とりあえず……先生たちを呼んだ方がいいか」

 

かれらの死体で足の踏み場が狭くなった階段と階段付近。

 

「……じゃあ、呼んでくる」

 

床に置いていたシャベルを持つと胡桃は立ち上がり、先生たちを呼びに行った。

 

……後でこの死体の片付けもしなくちゃな。

 

いつまでもここに放置しておくわけにはいかない。

 

胡桃が先生たちを呼んでくる間に階段付近に新たなかれらの姿がないか見とくか。

 

長箒を片手に立ち上がり、足の踏み場の少なくなった階段を降りる。

 

そして、音を立てないようにしつつ、ゆっくりと左壁際から顔を出して廊下にかれらがいないか見渡す。

 

見える範囲だけなら、左側……つまり、購買部方面に3、右側には6。

 

購買部にギリギリ行けるか行けないかの数だ。

 

購買部や今いる場所から見えないだけでかれらが何体もいる可能性が高い。

 

幸いなことに1階から2階に上がってくるかれらの姿がないのが救いか。

 

すぐ近くにかれらの姿がないので廊下に出て、胡桃が先生たちと一緒に降りてくるのを待つのだった。

 

 

 

 

胡桃が先生たちを連れて降りてくる。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

だが、丈槍も若狭も先生も顔色が悪い。

 

こればかりはしょうがない。この光景を作り出した俺も気分の良いものではないのだ。

 

やがて、この光景にも慣れてくるのだと思うと複雑な気分になる。

 

購買部方面にいたかれらは3体のまま増えてはおらず、さらに奥の方へと移動していったので、そのまま家庭科室兼学生食堂の中へと消えていった。

 

そう、購買部方面に関しては見える範囲にかれらの姿がなくなったのだ。

 

このチャンスを逃すことは出来ない。

 

「……あ~、購買部に向かっても平気か?」

 

さすがに顔色が悪く、具合も悪そうなので大丈夫かどうか声をかけておく。

 

駄目だったら俺1人でも行くつもりだ。

 

「……ええ、大丈夫よ」

 

購買部に行くまでに通るのは、女子トイレ、男子トイレ、美術準備室、美術室、被服準備室。

 

道中気をつけるべきは美術準備室、美術室、被服準備室だ。

 

もちろん……購買部の中にかれらがいるかもしれないので油断は出来ない。

 

俺を先頭に少し離れた位置から先生、丈槍、若狹、胡桃の順で購買部へ向けて歩く。

 

美術準備室、美術室、被服準備室付近では1回立ち止まり、中にかれらがいないかを確かめながら移動する。

 

「……着いた」

 

購買部の入口付近にかれらの姿はない。だが、商品棚の影になって見えないだけの可能性もあるので、足音を立てないようにしながら、かれらの姿を探す。

 

ぞろぞろと入ってくる先生たちが食糧を入れるためにバックの口を開けるのが見えた。

 

今のところ……かれらの姿は発見出来ていない。

 

独特の唸り声のようなものも聞こえないのでいないのだろうか?

 

いや、決めつけるのは早計だ。いないと決めつけて足元を掬われたんじゃどうにもならない。

 

頭を左右に振って考え直す。

 

購買部の中をぐるっと1周して確認しないと駄目だ。

 

少しの油断が死を招く。

 

慎重にされど素早く購買部の中でかれらの姿がないか探す。

 

一通り回るもかれらの姿はなかった。

 

「……一先ずは安全か」

 

そう判断すると気が抜けたのか一気に疲れが出てくる。

 

空腹も重なり、余計に疲れたように感じた。

 

まだ、帰りもあるのだから疲れていられない。

 

俺も食糧となるものを棚から持てるだけ取ってバックを持っているはずの丈槍、若狹、先生を探す。

 

取ったものは賞味期限の短い菓子パン類。保存食は他の誰かがバックに入れるだろうから持ってない。

 

そして、探し始めたらすぐに見つかった。

 

「これはまだ入るか?」

 

見つけたのは若狹だった。まだ、バックに物が入るのか聞いてみると中身を開いて確認していた。

 

「ええと……入りますよ」

 

バックの口を開き、中を見せてくる若狹。

 

中にはレトルト食品が多数入っていた。カレーやナポリタンがほとんどをしめていたが。

 

「そうか。なら、入れるな」

 

俺はバックの中に菓子パン類を詰める。

 

それでも、まだ物は入りそうだ。

 

「…………」

 

「…………」

 

特に話せるようなことがないので黙々と食糧となるものをバックに詰めていく。

 

気まずい訳ではないのが救いか。

 

こればかりは時間がかかりそうだ解決してくれると思う。お互いについてよく知らず、どんな人なのか測りかねているからだと……思いたい。

 

そんなことを考えていると……。

 

「りーさん、そっちは終わった?」

 

菓子パン類だけではなく、お菓子や飲み物でパンパンとなったレジ袋を2つ手にした胡桃が来た。

 

「ええ、さっき終わったわ」

 

「なら、屋上に戻ろうぜ。めぐねえとゆきはもう廊下に出てるしな」

 

……大丈夫なのかそれは?

 

一応、購買部に来るまでの安全は確認してあるが……それはあくまでも購買部に来るまでのであり、来た後のことではないのだ。

 

特に食糧を入れたバックを抱えている今、襲われたら逃げられない可能性の方が高い。

 

バックを捨てれば逃げられるだろうが。

 

「それじゃあ行くか」

 

こんなことを思っては失礼だと思うが……佐倉先生と丈槍の組み合わせは何故だか不安を煽る。

 

2人とも反応が鈍そうに見えるのだ。

 

まあ、でも……付近にかれらの姿はなかったし大丈夫だろう。……大丈夫だよな?

 

 

 

 

屋上には無事に戻ってくることが出来た。

 

ただ、俺と胡桃は反り血で汚れた服からジャージに着替えたが。

 

さすがに反り血で汚れた服のまま昼食をとりたいとは思わない。

 

「…………」

 

丈槍が一心不乱に焼きそばパンを食べている。

 

それを眺めていた俺の視線に気がつくと……。

 

「……はい、焼きそばパン」

 

俺も焼きそばパンを食べたいのだと思われたらしく、未開封の焼きそばパンを渡された。

 

「ん……ありがとな」

 

焼きそばパンを受け取り、礼を言いながら袋を開ける。

 

「ん~ん、どういたしまして」

 

焼きそばパンを口に加えたまま返事が返ってきた。

 

とりあえず、食べながら喋るのは止めような?聞き取り辛い上に食べかすがこぼれるから。

 

「ほら、ゆきちゃん。口回りが汚れてるわよ」

 

若狹が紙ナプキンを手に持ち、丈槍の口回りを拭う。

 

「ん~……ありがと、りーさん」

 

「ふふ、どういたしまして」

 

何て言うか……若狹が丈槍の母親のようだ。

 

いや……単に丈槍の行動が子どもっぽく見えたのが原因か? でも、まあ深く考える必要はないか。

 

これからも共同で生活していくのだから仲が良いことに越したことはない。

 

なので問題ないか。これで不仲だったら本当にどうしような状態だった。

 

佐倉先生と胡桃は2人で何やらこそこそと話している。

 

内緒にしたい話でもあるのだろう。

 

でなければ、こそこそと話すこともないだろうし。

 

「……はぁ」

 

食べ終わった焼きそばパンの袋をゴミ袋に入れて、缶コーヒーのプルを開く。

 

味は無糖。コーヒーは無糖派なのだ。

 

家で飲む時も外で飲む時も無糖オンリー。

 

別に甘いものが嫌いなわけではない。ただ、他に甘いものを食べる時はいつもブラックで飲んでいたのでそれがデフォルトになっただけなのだ。

 

食糧もある程度手に入ったから、後は安全圏を広げて行くだけか。

 

屋上に寝泊まりし続けるわけにもいかないし、現状2ーAから男子トイレまではかれらか階段を上がって来ない限り安全圏を確保している。

 

扉が1つしかなく、横開きではない部屋が寝る場所にふさわしいのだが、となると放送室辺りじゃないと駄目だな。

 

確か、生徒会室も教室と同じ横開きの扉だったし……寝袋とかは職員休憩室から取って来ればいい。

 

彼処に幾つか置いてあったはずだ。

 

となると……次に目指すのは職員室方面を安全圏にすることだな。

 

屋外ではなく屋内にちゃんと休める場所を確保する。

 

それだけでも、精神的に少しは安らげるはずだ。

 

少しでも元の生活に近い環境に出来れば……。

 

校舎という檻に閉じ込められている状況でも安らぎは得られるはず。

 

「……安らぎは遠く、姿もなく。あるのは絶望のみか」

 

ふと、スマートフォンでネットを開き、得た情報の中に……希望を持てるようなものは何1つ存在していなかった。

 

むしろ、助けを求めるものやよく分からない宗教的なもので溢れかえっていた。それに……1部の地域ではすでに電気も水道もガスも止まっているらしい。

 

ここがどれだけ恵まれているのかよく分かる。水と電気の心配をする必要がないのだから。

 

そして、このことは俺の心の内に留めておこう。

 

学校という電気も水もある恵まれた環境にいることを。知れば外がどれだけ悲惨なのか明確に想像出来てしまう。

 

「…………」

 

俺はスマートフォンの電源を切った。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。