チャチな光の道化師   作:ぱち太郎

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第一幕 道化となる少年

前世の記憶。

創作物によくあるソレは生まれた時、もしくはその数年後に思い出し、その後の主人公の助けとなる物だ。

少なくとも、とある少年が知る限りではそういう作品が多かった。

だからこそ、ボロボロになって地面に倒れている少年は言いたい。

 

……走馬灯で思い出しても、意味ないって。

 

 

……さて、死に行く時に何だが、これまでの人生を思い返してみよう。

脳内で流れる走馬灯に内心で苦笑した少年は、死にかけている自身の身の上を振り返ることにする。

前世はなんて事のないゲーム好きの学生。今世は魔法使いの両親を持つファンタジー世界生まれの平凡な子供だった。

両親が魔法を教えてくれない事にしびれを切らし、独学で試行錯誤している魔法にあこがれを持った子供と言っても良い。

 

そんな少年が死にかけているのは、ある理由からだった。

 

事の始まりは両親がモンスターに襲われて命を落としたという知らせを聞いた事だ。

優秀な魔法使いだった少年の両親が商隊を護衛中モンスターの大群に襲われ、命と引き換えに商隊を逃がしたのだという。

それを聞いた少年は門番の静止も振り切って外に出ると、近くにいたモンスターに八つ当たりのように殴りかかった。

相手は何の変哲もないスライム。対して強くも無い、というか最弱と言って良い一匹の魔物。

けれど体の出来上がっていない、それまでロクに訓練もしたことのない少年の攻撃が当たるわけもない。そして身体が出来上がって無いからこそ、相手の攻撃は致命的だった。

流体のプルルンとしたボディーで地面を弾いたスライムの体当たり。それを何発か受けた少年の身体はあっという間に追い込まれ、瀕死の状態へと陥ったのだ。

 

実際トドメは刺さっていた。

この流れる走馬灯がその証明のはずだと、少年は薄れる意識の中で思う。

 

 ……しかしソレにしては妙に長い。もう思い出すことも無いのに、いまだ死んでいないとはどういうわけだろうか。

 まるでまだ死んでいないみたいだ。と、少年が考えていると、目の前にいたスライムが何かしらの魔法を受けて吹き飛んでいくのが見えた。

 続いて聞こえてくる、走っているらしき足音。

「おい! 生きておるか? 生きておるな!?」

 おそらくは老人だろう。聞こえて来た声からそう判断した少年は自分に呼び掛けた老人が、自分を担ぎ上げる事を感じ取る。

 

 ……助かった?

 多分正解だろうという疑問。しかし、少年が知覚できたのはそこまでだった。

 緊張の糸が切れた事で精神を支えていたモノが消え、少年の意識が暗転する。

 

 気絶した少年の眼からは一筋の涙が流れていた。

 

 

 その後、街に連れられた少年は自分を助けた老人。マスターライラスから事の顛末をベッドの上で聞かされた。

何でも子供が街の外に出たと聞いて連れ戻しに行ったら、ちょうどトドメを刺される場面に遭遇したらしい。

 咄嗟に回復魔法を放ってトドメが入る前に治療しようとしたらしいが、本当にギリギリのタイミングだったという。

 

 ……あの走馬灯はそういう事だったのか。

 ライラスに散々叱られ、街の大人達にも叱られた少年は、前世の記憶に混乱しつつも自分が生きていることに安堵し、同時にもう帰ってこない親の死を実感した。

 

 ……頭の中がゴチャゴチャしてる。気持ちがまるで落ち着かない。

 家族仲の良かった少年は、親の死に泣いた。

 だがいつまでも泣いているわけにはいかない。しかし自分の他に誰もいない家にいる気にもなれなかった少年は、町の広場に出かけベンチに腰を下ろしていた。

 

 見慣れた街の景色。だがその光景を見ていた少年は、ある小さな疑問がチラつく事に気が付いた。

 ……自分は、この街の事を知っている?

 そう、少年が生きているこの街は。いや、この街だけではなく、この世界そのものが前世で言う所の『ドラゴンクエスト8』の世界に酷似していたのだ。

 全てが同じというわけではない。この街もゲームよりずっと大きい街だ。が、大まかな街の作りはほぼそのまま。

 自分が死にかけた時、相手にしていたスライムも前世で見覚えのあるあのデザインのスライムだ。

 本当にゲームの世界に生きている可能性が高い。

「……なんということだ」

 自分がゲームの舞台となった世界に生きている事に驚いた少年は、思わず自分の名前を口の中で『もごもご』と呟いた。

 

 ドルマゲス。

 

 それが少年の名前である。

 そして自身の名を確認した少年、ドルマゲスはその綴りを確認して考え込む。

 

……この名前、エグくない?

 ドルマゲス。かっこわるくはない。けれど自分の名前にするには何かが間違っている気がする。

 ……死んだ親が付けてくれたに文句を言いたくはないが、もう少し何かなかったのだろうか? もっとかっこいい名前があるだろう……ディオとかゼクスとか。

 それにこの名前は何かが引っかかる。

「そう、どこかで聞いた覚えが……ハッ! そうか、ドラクエ8の『悲しいなあ』が口癖の男か!」

 見た目もポジションもピエロな割に、驚くほど悪役が堂に入っていたあのドルマゲスである。

 

 ……まさか同姓同名とは。怖いな。

 ドルマゲスは思わず窓ガラスに映る自分の顔を見た。

 自分の顔立ちは子供ながらに厳つめ。将来悪人顔になるであろう兆候が見て取れなくもない。

 少なくとも将来イケメンになることはないだろう。

 ドルマゲスは泣いた。

 

 そしてドルマゲスは自分の住んでいる街の名前がトラペッタであることを思い、結論を出す。

「つまりはドルマゲスじゃないか……」

 未来の中ボス。一言でいえば砂になって死ぬ男である。声といいオチといい、まるでDIOの様だ……! などと悦に浸る余裕はない。バッドエンド確定キャラなのだ。

 ドルマゲスは再び泣いた。

 地面に縋りつくように、悔しさにむせび泣いたのだった。

 

 

 一方、トラペッタの広場の一角でドルマゲスを見つけたライラスは、両親の葬儀を終えた子供。地面に膝をついて涙するドルマゲス姿を見て重いため息をついていた。

 ……痛々しくて見てられんな。

 先日両親を亡くした事があの子の心に深い傷を残したのだろう。

 ライラスは苦々しい感情を抑えきれず、苛立たしげにこぶしを握り締める。

 長く生きてきたがこういう光景は何度見ても慣れる事が無い。

 ライラスはドルマゲスの両親の知人であり、彼らの事をよく知っていた。それもあって、嘆き悲しむ少年の姿に死んだ二人の事を連想してしまっていた。

「あの子はこれから一人暮らしになるんじゃろうなぁ」

 以前彼の父親と飲みに出かけた時『ウチの息子はどうにも魔法が向いていないみたいで……』と寂しそうに愚痴っていた。そんな故人の言葉を思い出し、ライラスは『あの子にとって尊敬できる両親が、だからこそあの子の重しになるのでは?』と懸念する。

「世知辛いのお」

 賢者の血を引き、ずば抜けた魔法の腕を持っていても、こういう時にできることは無い。

 自分の無力を痛感したライラスは口惜しい気持ちで空を見る。

 

 子供があんなにも泣いているというのに、トラペッタの空は憎らしいほど青かった。

 

 

 それから数日後。ドルマゲスは自分の持つ原作知識に恐々としながらトラペッタの街を散策し、一つの事に気が付いた。

 この世界のすべてがゲームと同じではないという事だ。

 

 最初に気が付いた通り街の規模と人口はゲームのそれよりもずっと多いし、先日のスライムとの戦いから言ってターン性バトルなんてものは存在しない。

「……そのくせ見た目はゲームのまま、か」

 前世の三次元なビジュアルはこの世界では奇異に映るだろう。

 今のドルマゲスはとてもきれいな鳥山デザインだった。

 

「それにしても。これからどうするべきか……」

 両親の蓄えたお金はまだいくらか残っている。が、どれだけ節約しても二年と持たない金額だ。

 現在ドルマゲスは12歳。特技と言えばチャチな光の魔法をちょろっと出すくらいのもの。

 ……大人の手伝いをしていけば生きていけるだろうか?

 そう考えるドルマゲスの胸中は不安に満ちていた。

「けどなあ……私は魔法使いになりたいんだよなあ」

 今までも薄々勘づいていた。そして前世の知識、ドラクエ8の知識がある今はハッキリと分かる。

 自分には魔法の才能が無い。

 

 両親に憧れ独学で覚えた唯一使える光の魔法。おそらくは明かり呪文である『レミーラ』がやっとの才能だ。レミーラそのものは無詠唱で使う事は出来る。が、出来てそれだけ。

 同年代の他の子どもにはメラやバギを使える者もいる。が、ドルマゲスにはそれらの魔法に対する適正が決定的に欠けていた。

「くそぉっ……!」

 憧れた両親の背を追う事は不可能と言っても良い。

 その事実を理解したドルマゲスは悔しさに唇をかみしめた。

 

 ……だが、望みが無いわけではない。

 賢者の子孫であるマスターライラスに弟子入りすれば才能が無くても魔法を使えるようになる可能性はある。実際原作のドルマゲスもそういう風にしていた。

 原作では最終的に家出し、ヤバ過ぎる杖を盗んで洗脳されて帰った挙句、師匠殺しをやらかしていたが……そうならないよう気を付けていれば原作のような悲劇も起こらないだろう。

「そうと決まれば、話は早い」

 決意を新たにしたドルマゲスはライラスの元へと弟子入りする事を決意する。

 

 しかしライラスと言えば頑固ジジイで有名な男。普通に頼んでも断られる可能性が高い。

「ならば策を弄してでも、この望みを貫いて見せる……!」

 なんとなくテンションを上げたドルマゲスはトラペッタの街を走りだす。

 

 

 そして土下座を敢行した。

 

 

 一方ドルマゲスに土下座をされたライラスは困惑とストレスに頭痛を覚えていた。

 家の扉をノックされたので出て見たら、そこに土下座があったのだ。

 加えて言うと『こんな子供に土下座させるなんて、なんて老人なの!?』とでも言いたげな世間からの白い眼がライラスに突き刺さる。

 

 ……わしが一体何をしたというんじゃ。

 扉を開けたらそこは完全アウェイだった。などと意味不明な文句が頭をよぎるが、とりあえずは目の前の土下座を片付けなくてはいけない。

 と、そこでライラスは目の前にいる土下座が先日に見たドルマゲスであることに気が付いた。

 この前命助けたんじゃが? と恨み言を言いたくなるが、同時にドルマゲスが何故自分の元に来たのかをライラスは理解する。

 

「私を、弟子にしてください」

 ドルマゲスの告げた言葉を聞いてライラスは『やはりか……』と眉をひそめた。

……同情はするし気持ちも分かる。だが。

「わしは弟子は取らん」

 それがライラスの主義だった。しかしそう返してもドルマゲスは微動だにしない。

「そこを何とかお願いします!」

 とただ淡々と言い続けていた。

 12歳の子供に家の前で土下座をさせている状況に居心地の悪さを感じたライラスは、

「とりあえず頭を上げんか」

 と告げてみるがドルマゲスは土下座を崩そうとしない。

 それどころか土下座を聞きつけた街の人ばかりが集まって来る。

 

 視線が痛い。

「と、とにかく話は中で聞く。さあ入るがいい」

 若干焦ったライラスがドルマゲスを促す。が、それでも土下座は動こうとしなかった。

 街の人のひそひそ声がライラスの耳に聞こえてくる。

 ……聞こえる声でヒソヒソするんじゃぁないわいっ。

 何故こんな事に。そう内心で嘆いたが、土下座に翻弄されている現実は変えようが無い。

 

 やがて深い、それはもう深いため息をついたライラスは渋々といった体で頷きを作った。

「……弟子入りを認める」

 小声で告げたその言葉にドルマゲスがガバッっと反応する。

「本当ですか!」

「ああ、本当じゃ。弟子にしてやろう。だからとりあえずその土下座をやめい」

 そう言ったライラスは心なしか疲れた雰囲気を醸し出していた。

 

 するとそれを聞いたドルマゲスは元気良く立ち上がり、集まった街の人に見える様こぶしを突き上げる。

「言質を取ったぞー!」

 内心で『コレがポッターを取ったグリフィンドールの気持ちか!』とテンションを上げたドルマゲスは、集まった街の人々に向けて笑顔を振りまいた。

 それを受けた街の人々も深くうなずいたり『頑張れよ』と応援したり、『よかったねえ。頑張んなよ』や『オレも聞いたぜあの爺さんが弟子入りを許可したの!』とドルマゲスの背中を押すような発言をする。

 

 そして誰が始めたのかあたりに拍手が響き渡り、照れくさそうなドルマゲスが『皆さん!ご協力、本当にありがとう!』と言った所でライラスは気が付いた。

 

 ……このガキャア、ワシを嵌めおったな!?

 この瞬間、ライラスはドルマゲスの修業内容をベリーハードにする事を決意する。

 

 とりあえずは町内ダッシュで良いだろう。

 

 ドルマゲスのカオスな弟子入り生活が今、始まろうとしていた。

 

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