チャチな光の道化師   作:ぱち太郎

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第三幕 決闘者となる少年①

ドルマゲスが火ふき芸を習得して数カ月。

特技を覚えたその日こそ機嫌の良かったドルマゲスだがその翌日街にいた子供がメラを使う所に居合わせた事でそのテンションをすっかりどん底にまで落としていた。

 

「クッ、なんということだ……!」

火ふき芸とメラの間にある大きな差を前にドルマゲスは歯噛みする。

ドルマゲスの感じた差は数にすればたった二つ。だがその二つの差は彼にとって非常に大きなものだった。

 

まず一つ目。それはちゃんとした魔法かどうかという点だ。

これは魔法使いを目指すドルマゲスにとって『魔法か否か』という点はとても大切な事だ。

スキルポイントで覚えた火ふき芸が所詮は特技であることを思えば、本物の魔法を見てしまったドルマゲスがショックを受けるのも無理の無いことだと言えた。

 

そして二つ目の差。それは習得した『火ふき芸』がメラと違い威力が上がらないという点だった。

人間というのはその性質上、息を吐ききれば隙ができる生き物だ。戦闘中ならば息切れしてしまう事だってある。

そんな人間に対し、火ふき芸という技は相性が悪かった。

息を吐いた後、隙を作らないようにするため、使用時に思いっきり息を吐けないと言う欠点を抱えていたのだ。

そのためどうしてもブレスの勢いが下がり。威力が小さくなってしまう。

それは火ふき芸の威力が上がらない最大の理由だった。

 

無警戒な状態で思いっきり息を吸い込み、ドンと吹ければ威力も上がるのだろうが……。

「戦闘中にそれを行えるのかと言えば……論外だろう」

ソロでレベリングを行っているドルマゲスにとって周囲の警戒を怠る事は即、死につながる行為だ。

無警戒にブレスを吐こうとして不意打ちを受ければ、それこそ致命的な隙ができるだろう。

それは周りに頼れないソロの戦闘において、絶対にやってはいけない事だった。

 

だがそこまで考えてドルマゲスは気づく。

確かに警戒をわざと怠るというのはソロの戦闘ではタブーだ。だがそういった問題点は、仲間がいれば解決するのではないだろうか。

……これは、意外といい考えなんじゃあないか?

そう直感したドルマゲスは口元に笑みを作り、しかし引きつらせる。

「待てよ。誰を連れて行けばいいのだ……?」

 

 

転生者ドルマゲス、十三歳。

 

彼には……友達がいなかった。

 

 

「……」

鈍い汗が止まらない。ドルマゲスは最近の自分を顧みて内心かなり焦っていた。

……よくよく考えれば最近ちゃんと喋った相手はあの爺さん(師匠)くらいではないか?

我がことながら『コイツ大丈夫か?』と心配になるレベルである。

 

そしてそれ以上にドルマゲスがヤバイと感じたのは、ドラクエ名物『数の暴力』に会ってしまった時、今のドルマゲスでは太刀打ちできない事だった。

……前世の記憶は忘れた部分も多いが、それでもハッキリと覚えているぞ。

序盤、低レベルの状態でレベリングをしている時に起きる、自分パーティーの倍以上の敵が出現する絶望感。まるでいびる様に細かいダメージを刻まれ、なすすべもなく全滅するあの無力感。

それは真昼のスライム、それも多くて三匹の相手ばかりしていたドルマゲスをゾッとさせるには十分すぎる記憶だった。

なにせ今のドルマゲスにとってはスライム三匹の相手をするだけでも結構キツイのだ。

距離感と位置取り、そして流動する攻防への対処。それに必要とされる気力、体力の消耗は例えスライムが相手でもバカにできるものではない。

レベルの低い今はなおの事だ。

スライム以上に強い敵。例えばドラキーが八匹以上現れたら余裕で死ねる自信がある。

 

自身の死の予感に身を震わせたドルマゲスはよりいっそうのチキンプレイを心に誓った。

基本方針はタイマン。多対一はなるべく避ける。

そう心に決めていた。

そんな事を思うくらいなら戦わなければいいだけなのだが、彼にとっての戦闘は既に日常の一部。生活習慣の一つとして組み込まれている。

後戻りという概念はドルマゲスの思考に一欠片も無い。

だがチキンプレイを決めたドルマゲスはそこである事に気が付いた。

「……いや、待て。ここは仲間を探す理由がまた一つ増えたらしいな。という結論にたどり着くべきところではないのか……?」

 

思考の盲点。

ドルマゲスは、ボッチの習性が染みついていた。

しかしボッチの罠。ソロ思考の盲点に気が付いたドルマゲスの切り替えは早い。

「……まあ的確な答えは出たのだ。良しとしよう」

そう言い切ったドルマゲスは、仲間を増やすという難題をクリアするため街にいる人々を観察する事から始めていく。

 

……そうだな。仲間にするならばモンスターとの殺し合いがOKな同年代の子供が望ましいところか。

だがそんなキチガイじみた都合の良い人間はいない。

この街にはドルマゲスと同い年の子供で戦い方を学んでいる者もいる。だがわざわざモンスターと戦うような訓練(本番)をしようという子供はいない様だった。

 

そもそも大人が止める。

 

同年代の子供をスライム狩りに誘うのは不可能だろう。

そう考え諦めたドルマゲスは『年上で。なおかつ戦えそうな町の人』を探して、行きかう人の波に再度視線を向けたのだった。

 

 

そうしてどれくらいの時間がたっただろう。

行きかう人々を見続けていたドルマゲスは、前世との齟齬を思いしみじみと息を吐いた。

「……それにしても、こうして見ると感慨深いものがあるな」

ゲームでしか知らない世界。画面越しにしか知らなかった場所だが、こうして見るとここはゲームよりもずっと大きな街だった。

そして何より人が多い。もちろんグラフィックの使い回しなど存在しない、顔や体格に個人差のある鳥山デザインの人々がだ。

 

……まさかこんなドラクエ世界を拝めるとは。

非常にメタな感想だが、それはドルマゲスの偽らざる本心だった。

 

しかしドルマゲスが考えたのはそれだけではない。これでも仲間候補となる人物についても考えている。

ドルマゲスが目を付けたのは街を歩いているどこかで見たような格好の戦士や魔法使い、その他の様々な職業。それも戦闘職の人々だった。

この世界に『転職システム』があるかどうかは謎だが、少なくともお馴染みの職業は存在するらしい。

街の大人に聞いてみた所、そういう武装した面々は商隊の護衛や町の人々からの依頼、近隣に現れるモンスターの討伐で生計を立てているのだという。

専用の酒場などで雇う事も出来る彼等は、ひっくるめて『冒険者』と呼ばれていた。

 

……まさかドラクエ8の世界で冒険者なんて単語を聞くことになるとは思わなかったがな。

思わず顔をひきつらせたドルマゲスだったが、よくよく考えればこの『冒険者』という単語はドルマゲスにも聞き覚えがある言葉だった。

ドルマゲスが生まれて13年、この世界での人生で幾度となく聞いてきた覚えがある。

 

死んだ両親がその冒険者だったからだ。

 

その事に苦みを感じながらも、ドルマゲスは冒険者について理解した。

「つまり戦士や僧侶といったドラクエ職業にプラスして『冒険者』という職業が付くということか……」

よくよく考えればⅨやⅩがそうだった気もする。

この世界における『職業』というものに思い込みがあった事をドルマゲスは自覚した。

 

……しかし、妙にややこしいな。

もう少し何とかならなかったのか。と顔をしかめたドルマゲスだった。

 

だが道筋は見えた。

「まあいい。とにかく『冒険者』だ。今の私が行くべきは冒険者を雇う事の出来る場所。『酒場』というやつだろうな」

おそらくはドラクエで言う所の『ルイーダの酒場』に近い存在だろう。

聞くところによると大きな街には大抵あるらしい。

原作のドラクエ8には見られなかった施設だが、よくよく考えるとあの作品は王様が魔物に。姫様が馬になる話だ。

自分の様に魔物によって身内の不幸が訪れた者もこの世界には多い。王様が魔物というのはこの世界ではかなりデリケートな問題だ。

金で雇った仲間を魔物との旅につき合わせるというのは無理があるため、主人公は『冒険者』を雇う酒場に寄り付かなかった。というより寄りつけなかったのだろう

「そういえば原作ではトラペッタに入ったトロデ王が魔物と思われて追い出されていたな……」

つまりはこの街である。

この街で冒険者を雇うなど最初から無理な話だった。

 

とは言えそれらは全てドルマゲスがトロデーンの城から杖を盗み出そうとした結果引き起こされた事態だ。

そのルートでは砂になってしまうと知っているドルマゲスには杖を盗み出そうという気はこれっぽっちも無い。

全てはありえたかもしれない未来の話だ。

「……フッ、行くとするか」

原作知識を振り払うように、ドルマゲスは酒場へと歩きだす。

この世界にルイーダがいるとは考えづらい。冒険者を雇える酒場、と言っても『ルイーダの酒場』ではないだろう。

「この場合、この手の酒場は何て呼べばいいんだろうな」

そんな事をポツリとつぶやいたドルマゲスは、街の人から聞いた『酒場』を目指して人ごみの中へと消えていく。

 

今も明かり魔法、レミーラの修業はかかしていない。

……現に簡単な着色も可能なくらいレベルは上がっている。サポート専用としてならある程度の働きは出来るという自信がある。

 

決して寄生する気はない。自分をメンバーに入れるパーティーがあるならば、必ず役に立って見せる。

そんな思いで酒場へ向かうドルマゲス。

目的地に着いたのはそれから数分後の事だった

 

 

ドルマゲスがたどり着いた『酒場』の場所は街の外れ、裏門とでもいうべき南門の近くだった。ドルマゲスの師匠であるライラスの家からほど近い位置である。

「まさかこんな所にあったとはな。意外と近いじゃぁないか」

表通りに面していない事。そして依頼をする機会が無かったことからこれまで来る機会の無かったドルマゲスは、思いのほか近くにあった事に驚きの声を漏らす。

 

見た目は地味な宿屋風。しかし人の気配が活気として伝わってくる。

おそらくは所属している冒険者が宿泊、飲食をするのだろう。

扉越しでも賑わっているのが理解できる。

そんな酒場の扉をくぐったドルマゲスは、周囲を観察しながらゆっくりとカウンターへ進んで行く。

カウンターにいるのはマスコットの様に鎮座する一匹のスライムと数人の店員だ。

取りしきっているのはどうやら若い女性のようで、その女性の指示で周りの店員たちが動いている。

 

そしてカウンターへと手をかけたドルマゲスは、女主人と思われる女性に話しかけた。

「すみません。頼みたいことがあるのですが」

それは優しく、人の心にスルリと入り、安心させるような声音だった。

話しかけられた女主人が意外そうな顔でドルマゲスを見て。そして気を取り直したように微笑みを見せる。

「ようこそ坊や。ここはルイーダの酒場、トラペッタ支店。旅人たちが仲間を求めて集まる出会いと別れの酒場よ」

予想もしなかった女主人の発言に、ドルマゲスはポーカーフェイスを装ったまま絶句した。

 

……まさかルイーダの酒場(支店)とは。

支店があるという事は本店もあるはず。おそらくはそこにこの世界の『ルイーダ』がいるのだろう。

ドルマゲスは前世の知識にあるルイーダの姿。つまりドラクエ9に出ていたルイーダを思い出す。

 

……流石にあのビジュアルがそのままこの世界にいるとは考えづらいが……だが、いたとしてもおかしくは無いのだろうか。

ドランゴやゲレゲレ、ピエールなどと同じカテゴリの、ナンバリングという釘りの枠を超えた存在だと考えれば分からなくはない。同姓同名、同じ見た目の同種族というパターンだ。

それを人間でやられるのは怖い。という点を無視すれば納得できなくもない。

 

この世界のルイーダを実際に見て、その見た目がイメージと違った時は、世襲制とでも思う事にすればいいのだ。

 

……違う見た目の方が安心できるだろうがな。

そう考えたドルマゲスはそこでルイーダについて考えるのをやめた。

自身の目的を果たすため、本題に入るのだ。

「トラペッタの周囲で魔物を狩るための仲間を探しているのだが……誰か適当な人物はいないだろうか?」

そう告げたドルマゲスの瞳には、何があっても目的を達してみせるという強い意志が宿っていた。

 

 

一方カウンターに詰め寄ったドルマゲスに対し、周囲の冒険者たちの反応は淡白なモノだった。

せいぜいが『また依頼人が来たのか』程度のもの。ドルマゲスが仲間を求めてここに来たなどとは欠片も考えていない者ばかりで、中には子供の経済力を考え『大した仕事にはならないだろう』と露骨に無視する連中さえいた。

だが少年の、ドルマゲスの要求は彼らの予想を違えていく。

 

仲間を探している。

 

そう言ったドルマゲスの声は騒がしい酒場の中で不思議とよく通り、一瞬の沈黙を呼び起こしていた。

何人かの物は『改めて』と言った感でドルマゲスに再び、しかし今度は品定めをするような視線を送る。

そして周囲の冒険者は一人、また一人とドルマゲスへの興味を失っていった。

 

当然だ。

命がけのやり取りの中で、自分の背中を子供に任せようと考える者はいない。

声が通っていたのでつい見てしまった。それが冒険者たちにとっての現実だ。

中にはドルマゲスを見下し、嘲笑う者もいた。

 

そんな中、髪を後ろに結んだある男の武闘家はドルマゲスの姿に懐古の情を覚えていた。

テーブル席に座り酒を片手に持つ男は、少し前に亡くなったある一組の夫婦を思い出す。

それは優秀な魔法使いとして冒険者をやっていたドルマゲスの両親だった。

 

……こうして見ると所々に面影がある。二人を思い出すな。

男の脳裏には攻撃呪文で敵を撃ち、時には牽制することで仲間を守り、戦い続けていた二人の姿があった。

今にして思えば何度となく助けられた恩人とも呼べる二人だ。

「噂では賢者、マスターライラスに弟子入りしたと言うが……」

同時に魔法の成長は明かり魔法、レミーラの扱いが上手くなった事以外皆無だとも聞いていた。

「明かりの扱いが上手くなってもどうしようもないだろうに……」

だからだろうか。自棄になったのか、ドルマゲスが最近スライム狩りに手を出していると男は小耳にはさんでいた。

ドルマゲスの歳を考えれば無謀とも言える大博打だ。普通なら早死にする生き方だろう。

だからこそ、男は思う。

 

あの二人の恩に報いるためにも、ココは自分が止めるべきだろう。と。

 

……噂じゃライラスの爺さんではスライム狩りを止められないという話だしな。

聞くところによるとつい先日、ご近所の面々に言われたライラスがドルマゲスのスライム狩りを止めようとしたらしい。が、その時のドルマゲスはレミーラで裸の女性を空中に投影。鼻血を出した師匠を尻目に、『これが「お色気の術」ドルマゲススペシャルだ……。ククク、悲しいなあ師匠……!こんな所で鼻血を流すとはァ!』と凄く良い笑顔で言い放って逃げだし、スライム狩りの後でキツイ折檻を食らったのだという。

 

無論どこまでが本当か分からないし、そもそもレミーラで裸の女性を出した、などという意味不明な情報は冗談としか思えない。しかし最近トラペッタの街では弟子の皮を被った問題児にライラスが手を焼かされている光景が頻繁にみられるようになっているのも確かだった。

ライラスがドルマゲスを扱いきれていないというのは間違いないだろう。

 

そう考えた男は『子供のおいたを叱るのが大人の役目か』と考え、席を立とうとテーブルに手を着き、そして思いとどまった。

ドルマゲスの要望を聞いた酒場の女主人が『無理だ』と突っぱね、その理由を説明し始めたからだ。

 

君のような子供に背中を預けて命を懸ける人間はいない。

 

そう説明する女主人の言葉に酒場にいた者達の多くが内心で深く頷いた。

……俺の出る幕ではないか。

そう考えた男は、後で二人の墓参りにでも行くか。と哀悼の念に浸りながら酒の入ったグラスを傾ける。

 

だが、問題はそこからだった。

 

「何……!?」

男は自分の見た光景に思わず手に持ったグラスをテーブルに置く。

男の目に映る現実が、それほど予想を超え、そして常識を超えていたからだ。

 

酒場にいた一匹のスライム。

周囲の人間が誘えないと理解したドルマゲスは、あろうことかスライム狩りにそのスライムを誘っていたのだ。

誘われたスライムは『ピキー!?』と驚愕の表情を浮かべている。

……バカな!? 一体何を考えているのだ!?

武闘家の男を含め、酒場の冒険者たちは驚きで言葉を失ってしまう。

 

そして不幸にもその場で真っ先に我に返ったのは、先ほどドルマゲスを見下し、嘲笑っていた者達だった。

二十歳そこそこの戦士とその取り巻きの盗賊。

どちらも男、特に戦士は態度の悪さから女にモテないと評判の男だった。

戦士はわざわざドルマゲスの隣まで行くと、ドンッと勢いよくテーブルを叩きつけ指をさす。

「おおい、ガキィ。もう少し考えて物を喋った方が良いぜぇ~。スライムって種族はザコ中のザコ。クズの代名詞なんだからよぉ。ククク、なんだったら俺様がボディーガードでもしてやろうか? ボディーガード料として三十万ゴールド払ってもらうがなぁ! ギャハハハハハハハ!」

 

しかし笑われたドルマゲスは何でもないように首を振る。

「悪いが仲間を探しているんです。寄生する気はこれっぽっちも無いのでボディーガードは要りません。私は……自分自身を鍛えたいのですよ」

そう感慨深げに言ったドルマゲスだったが、連中の反応は不機嫌そのものだった。

「オイオイオイ。テメエ、どうやら自分がこの街で才能の無いバカだと思われてるのを知らねえらしいなぁ~。ククク、仲間だぁ? 無能と知れ渡っているお前に背中預けようなんてバカはいねーんだよ! ……ハッ、ま、どうせそれでスライムを仲間にって腹だろうがなぁ……使えるわけねーだろそんなクズ! クソガキィ、もう少し物を考えてから発言しな!」

大人げない暴言の連続。周囲が眉をひそめるようなその発言を聞いたドルマゲスは、しかしあくまで冷静だった。

「それは分かりませんよ。そのスライムがどうなるかなんてことは誰にも、そう、誰にもわかる事ではない」

その言葉を聞いたスライムは驚いたようにドルマゲスを見る。

 

だがその冷静な態度が、スライムを庇うような言い方が戦士の苛立ちを加速させた。

「ハッ、クズはクズどうし庇いあいか? 笑わせてくれるぜ。……ああ、そういやテメエ、ちっと前に死んだ魔法使い共のガキだったか。そうかい、俺様に突っかかってマナーの悪さを注意して来る、あのうざい夫婦のガキかぁ。いい機会だから言っとくぜ、テメエの両親はなあ、死んで当然のカス共だったってよぉ!!」

 

余りにも心無い言葉。そのセリフに酒場の空気が凍り付く。

話を聞いていた周囲の冒険者の中には殺気立つものまで現れていた。

それは酒を片手に二人の死を悼んでいた武闘家の男も同じである。

しかし誰より速く動いたのは、両親をバカにされ、自身と仲間として誘ったスライムをクズ呼ばわりされたドルマゲスだった。

 

ドルマゲスは懐から未開封のトランプを。

誰も開封していない証であるセキュリティーシールの付いた箱を取り出すと、聞いた誰もが凍り付くような声で言い切った。

 

「おい、決闘《ヂュエル》しろよ」

 

そう言ってトランプを突きつけたドルマゲスの姿には、誰もが息をのむような凄みとも言えるオーラがある。

息をのむ周囲の冒険者たち。そして無意識に冷や汗を流すガラの悪い戦士。

 

 

 

今、トラペッタの街で奇妙な決闘が……始まろうとしていた!

 

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