読者の皆さん。このようなヒャッハー系の小説を読んで下さり本当にありがとうございます。
基本感想の返信はしない方針ですが、書いてくれたコメントはちゃんと目を通しております。
応援の言葉、凄くうれしいです。
本当にありがとうございました。
ドルマゲスがユリマ(幼女)に恋愛対象外だと宣言されて2日。
一日をストレス解消と言う名の戦闘訓練に費やしたドルマゲスは、この日、師匠であるライラスからスラぼうの防具を渡され、ようやくパーティーでの戦闘ができると喜んでいた。
……フハハハハ! 俺達の戦いはこれからだ……!
打ち切り漫画も書くやという心の声。しかし待ちに待ったソロ卒業なので、あながち間違いではない。自ら進んで微妙なライン、キワキワへと攻め込んでいくドルマゲスは、スラぼうと組んでトラペッタの外、東の森へと繰り出していた。
木々の影が濃い森の中を立ち回る一人と一匹は、モンスターに奇襲をかけ、とまどう相手に攻撃を当てていく。
『くしざしツインズ』。
それが今ドルマゲス達の戦っているモンスターの名前だった。
赤と緑。二個揃いのピーマンが脳天横を串に貫かれ、ひとまとめにされたそのモンスターは、『もうトドメ刺さってんじゃねえか!』とか『脳天を串刺しならおとなしく死んどけ!』などと言いたくなる外見がデフォ。
しかしその見た目だけで言えば凄く生命力の強そうな相手を、ドルマゲス達は寄せ付けない。
「……これでトドメだ!」
初撃がキレイに決まった事もあり、結局は終始圧倒した戦闘だった。
結局反撃らしい反撃も出来ないまま、敵のくしざしツインズはドルマゲスの素手攻撃に沈んでいく。
「……お? 銅の剣を落としたか」
まさか刺さっていたとでもいうのだろうか。
不思議な現象に首をかしげたドルマゲスは『今のメンツに装備できるヤツはおらんのだがなあ……』と不満をこぼしながらも、敵が落としたアイテムを拾いふくろに入れる。
序盤の街、トラペッタ周辺で手に入る武器としては十分な性能を誇る銅の剣だが、このメンツにかかれば袋のこやし。
使われる機会は無さそうだった。
そんな銅の剣を袋にしまい込んだドルマゲスは、思いついたようにスラぼうに確認の声をかける。
「それで、初の戦闘だったわけだが……。どうだったかなスラぼうよ」
ドルマゲスの視線の先にはライラスによってモシャスを封印調整された『かわのぼうし』を被るスラぼうの姿。
「うーん。まだ最初だからはっきりとは言えないけど……これはひどい。だよ」
呆れる声でそう答えたスラぼうは、肩をすくめたドルマゲスに苦笑する。
スラぼうが思い出していたのは、先程のくしざしツインズが受けた最初の一撃についてだった。
●
時は戻り。くしざしツインズとの戦闘に入る少し前。
たまたま見つけたくしざしツインズに気付かれないよう草陰に隠れていたスラぼうは、『レミーラで注意を引く。気を取られているうちに不意打ちするぞ』とドルマゲスに耳打ちされて、身構えていた。
宣言したとおりレミーラを発動するドルマゲス。
その呪文の行使が無詠唱な事に気付き、スラぼうは今更ながら感心する。
しかし、問題はそこからだった。
くしざしツインズの近く。木々の影が重なった、周りより少し暗い場所。
レミーラの光が目立ちやすいソコに、ドルマゲスはゆらりとした光を出現させていた。
ギリギリくしざしツインズの視界に入る。そんな位置に放たれた光は、さながら釣りに使う疑似餌のように、獲物がかかるのを待っている。
位置が良かったのだろう。
光に気付いたくしざしツインズは、そのよく分からない光に警戒しながら。しかし興味を惹かれて近づいていった。
それにあわせてゆっくりと形を変えていくレミーラの光。
やがて色が付き、しっかりと見えるようになったソレは、敵と同じモンスター、くしざしツインズの形を取っていた。
……いったい何がおきるんだろう。
レミーラの映像、技術そのものは流石のドルマゲスクオリティーだった。
色は薄く、輪郭もボヤけているが、確かにくしざしツインズだ。そうハッキリと分かる映像をドルマゲスは生み出していた。
しかしタネが分からなければ幽霊が現れたと見て取れる光景だ。
本物のくしざしツインズは明らかにビビっている。
……どうなるかは分からないけど。ロクな事は起きないだろうなあ。
そう達観したスラぼうは、レミーラで作られたくしざしツインズが本物を指さし、次に虚像である自分の事を指さす様子を冷めた目線でながめていた。
気分はさながらお化け屋敷の仕掛け人。それも無理やり巻き込まれたバイト君である。
そんなスラぼうをよそに、特に危害を加えられたわけではない本物は、偽物(多分幽霊か何かだと思っている)が一体何を伝えようとしているのか。そして次に何が来るのかと身構えて……。
ドルマゲスが仕掛けた背後からの不意打ちをもろに喰らっていた。
戸惑うドルマゲスに仕方なくスラぼうも続く。
後はご存知の通りの展開が続くのだった。
●
「……うん。ゲスの極みだよね」
先程の洗練された手口を思い、スラぼうは呆れの声を上げた。
ドルマゲスと言う名前を真ゲスと改名してもいいくらいの清々しい外道っぷりである。
絶対にろくな死にかたしないだろう。
その言葉を聞いたドルマゲスは、
「クックック、心理フェイズは基本なのだよ……」
などと悦に浸っている。
まさに外道。
楽して敵を倒すために最大限の工夫をするこの男の横で、スラぼうは状況を理解しきれないまま倒されたくしざしツインズに同情した。
……というかさっきの幽霊のアクション、もしかしなくてもアレだよね。『お前もこうなるんだぜ!』的なアクションだよね……?
ナナメにぶっ飛んだ方向へ手が込んでいる。
しかしこの手の込み方は何かが間違っている。
今更ながら『キチガイのパーティーに入っちゃったなあ……』とため息をついたスライムはやれやれと体を震わせた。
しかし一息つくには早いらしい。
見ればこちらに気付いたスライムの一団が、戦意を隠そうともせずに近づいてくる。
……今の見られたのかなあ。
だとしたら自分もドルマゲスの一味扱いかもしれない。
パーティーを組んでいるから間違いではないがどうにも納得しきれない事実である。
しかし、そんなスラぼうの気持ちをよそに、本格的な連戦が始まろうとしていた。
●
とびかかって来た3匹のスライム。
そのスライム達を相手に素手スキルの『いしつぶて』を繰り出したドルマゲスは、スラぼうとそれ以外のスライムとの見分けがついている事に驚きの感情を覚えていた。
どうやらパーティーメンバー同士ならお互いの位置や存在がなんとなく理解できるらしい。
「わざわざ皮の帽子を用意してもらう必要は無かったかもしれんな……」
スライムを殴りつけたドルマゲスは、スラぼうが野生のスライムを一匹沈めた横でそんな感想を漏らす。
残りは一匹。片付くのに時間はかからない。
決着までの時間はいつもよりもずっと早かった。
その後、相手を倒し終えたドルマゲスは自分がレベルアップした事に気付き、嬉々としてスキルポイントを割り振っていた。
「ふむ。素手スキルはあと2ポイントで『かまいたち』が習得できるようだな」
これにはドルマゲスもにっこり。
周囲を警戒しながら、上機嫌で脳内メニューを操作する。
「……そういえばスラぼう。モンスターにもスキルポイントはあるのか?」
ドルマゲスがそう聞くと、スラぼうは不思議そうに体を傾げる。
「スキルポイントってなに?」
まずはそこかららしかった。
しかし説明しようにも上手い言葉が出なかったドルマゲスは、少しの間考え込んでポンっと手を叩き結論を出した。
「後で師匠にでも相談するか」
困った時の大師匠ライえもん。彼ならきっと何とかしてくれるはずだとドルマゲスは一人納得する。
ドラクエ10やモンスターズではスライムにもスキルがあったはずだ。
もしスキルが合ったらお得だとドルマゲスは一人頷いていた。
しかしそんなドルマゲスとは打って変わり、スラぼうは非常に不安そうな様子だった。
「ねえドルマゲス……アレって……もしかしなくてもヤバイ相手じゃない?」
そう言ってある一点を見つめるスラぼうは、声音からして明らかに尻込みをしている。
スラぼうに言われて同じ方向を見たドルマゲスも、その先にあったモノに表情をひきつらせた。
一人と一匹が見たのは、森から少し離れた丘の上。
デカいプリンが跳ねていた。
スライムプティング。
それがドルマゲス達の見つけたモンスターの名称だ。
2メートルはあるだろう黄色い巨体。そしてその上に乗っているカラメルソースとクリームとサクランボ。
あくまでそう見える外見、というだけだが、正直どう見てもデザートである。
簡潔に言えば巨大プリンだった。
しかし見た目だけなら微笑ましくなるようなモンスターだが、それが跳ねて動いているとなれば威圧感は一押しである。
つまり何が言いたいかというと……。
「近寄りがたい……」
スライムプティングを見たドルマゲスは、眉をしかめて言いきった。
ドルマゲスはあくまで13歳。身長も年相応の大きさだ。スライムであるスラぼうの大きさは当然、それよりもさらに小さい。
サイズ的に言えば、小学生がプレハブ小屋に挑むようなもの。
あんな巨体に挑むのは心理的にかなりの抵抗があった。
……記憶が確かならあのモンスターは3DS版のぽっと出モンスターでありながら、見た目にそぐわぬ初見殺しだったはず。
スライムを30体倒すと出て来る。という緩い出現条件にそぐわない、序盤の敵としては異様な強さを誇る相手だったはずだ。
今現在のドルマゲスのレベルは8。スラぼうのレベルは3。
正直スライムプティングの相手をするには心もとない実力である。
素手で戦うドルマゲスの攻撃力は高いわけではないし、スラぼうのレベルを考えたら無茶をするべき時期ではない。
「……倒せたら一気にレベルを上げれそうなものだがな」
しかし今は我慢。
自分にそう言い聞かせたドルマゲスは、切り替えようと息を吐き……。
……スライムプティングと目が合った。
「……あ、気付かれた」
以外を感じて思わず口から言葉が漏れる。
「……って、なにふつうにしてるのさ! ドルマゲス、逃げようよ!」
スラぼうに急かされて正気に戻ったドルマゲスは、つい他人事のように感じた一因。見た目だけは脅威度の低いスライムプティングが、こちらに向けて飛び跳ねている事に気付き、顔色を変えた。
こちらに気付いたスライムプティングは結構なスピードで近づいてくる。
重量を感じさせる地面の音。
スラぼうと同じスライムだとは思えない、規則正しいバウンド音が絶望感をかき立てる。
トラペッタの門はすぐそこだ。……だが。
……ちいっ! 思ったより早い……!
ドルマゲス達も必死に走っているが、体格差はそのまま速度の差につながっていた。
「これは……、ギリギリ追いつかれるか」
舌打ちをしたドルマゲスはレミーラを使い、目くらましを試みた。
連続して突き出したドルマゲスの手から無数の光の玉が現れ、がスライムプティングの周りを取り囲む。
「……魔空包囲弾」
ピッコロさんをリスペクトし、訓練を重ねた無数の光弾。
実質は凄くよくコントロールされたレミーラ。
ドルマゲスの手によって完璧にコントロールされたソレは、スライムプティングの目前へと殺到し破裂した。
「よしっ!」
弾けたレミーラが、『まぶしい光』となってスライムプティングの眼を潰し、動きを止める。
その光景を確認したドルマゲスは走りながらガッツポーズを決めて大声で叫んだ。
「ここだー! 喰らうがいい……! 我が奥義をな!」
その言葉を聞いたスライムプティングは咄嗟に身構え、攻撃を受ける事を覚悟した。
しかしドルマゲスは逃げ続けている。
……スライム系のモンスターは頭が良い。おそらくは言葉を理解しているだろうと思ったが。どうやらアタリだったようだな。
「だが……やはり大きいというのは、それだけで脅威として成立するらしいな」
目くらましの影響が残っているせいで攻撃が来なくても警戒は解けないのだろう。
周囲を振り払うようにその場で暴れはじめたスライムプティング。
その巨体が跳ねた衝撃でえぐれた地面を見てドルマゲスはスライムプティングに対する警戒レベルを引き上げた。
……まともに喰らえば即、会心の一撃になるな。
子供の身体はそこまで頑丈と言うわけでもない。もし戦っていたら敗色濃厚だっただろう。
「だがこのままでは終わらん……!」
新たに現れた超えるべき壁。
ドルマゲスは混乱して暴れるスライムプティングを、倒すべき敵として認識した。
「イメージするのは常に最強の自分……! 覚悟しておくがいいこのスイーツ(笑)よ……!」
スラぼうを鍛え上げた暁には、堂々と正面から挑み。そして必ず倒す。
ハッキリとした目標を前に、ドルマゲスの闘志は燃え上がっていた。
●
しかし気合を入れたドルマゲスとは裏腹に。スラぼうは『怯える自分』が心を占めている事に気が付いていた。
最弱の種族、スライム。
その事を自覚し、コンプレックスを持っているスラぼうには、同じ種族の圧倒的格上。
スライムプティングと戦って勝つイメージが持てていない。
「……どうしてスライムに生まれちゃったかなあ」
トラペッタに逃げ戻り、ドルマゲスとのパーティーを一時解散したスラぼうは、自分の寝床があるルイーダの酒場へと項垂れながら戻っていた。
跳ねて進む足取りは重く、スラぼうの気は晴れない。
下を向いていて気付かなかったのだろう。そんなスラぼうの頭上から不意を撃つような形で、意外そうな声がかけられた。
「なんだ。気が重そうだな」
「……え?」
驚いたスラぼうが顔を上げると、以前冒険者ギルドで見た男が。
ポーカー勝負の時にディーラーだった、あの盗賊が立っていた。
●
一方、驚きを隠せないスラぼうと同じように、声をかけた側である盗賊の方も、スラぼうに話しかけた自分に驚いていた。
……なにやってんだかな。俺は。
目の前のスライムは、自信は無いが多分ルイーダの酒場にいたスライムだろう。
あの『決闘者』とかいう子供のパーティーに入ったらしいと、冒険者の間で噂になっていた、ルイーダの酒場のマスコットだ。
……この様子じゃ上手い事いってないみたいだがな。
肩に背負った鞄をかけなおした盗賊は、いかにも『凹んでます』と言った空気のスラぼうを見て、そう結論を出していた。
落ち込んでいる事を隠そうとしていないところが良くも悪くもスライムらしい。
事情を知る者が見れば上手くいかなかったとアピールしているようなものだった。
……しかし。ここからどう話すべきか。
声をかけたはいいものの、特に考えた行動ではない。
そんな二の句が継げないでいる盗賊の葛藤に気付かないスラぼうは、顔見知りである盗賊にポツリ、ポツリと弱音をこぼし始めたのだった。
●
「なるほど。……弱い種族で自信が無い、と」
話しかけた手前、下手に切り上げる事も出来なかった盗賊は、盗賊はトラペッタの広場にあるベンチに腰掛け、スラぼうの話を簡単にまとめて確認した。
……このスライムの精神が不安定な事に、あの子供は気づいてはいないのだろうな。
先程と遠目に見たドルマゲスを思い出した盗賊は、傍目に見て分かりやすいくらいに戦意を高ぶらせていたドルマゲスの姿を思い出し、頭をかいた。
「……アレはアレで隠そうとしないよな。内面」
小さな声でドルマゲスの事をそう評価した盗賊は、『え?』と聞いたスラぼうに、こっちの話だと首を振る。
……俺がなんとかするべきなのかねぇ。
柄じゃないんだがな。と唸りつつ、盗賊はスラぼうに何を言おうかと考えていた。
何匹も見てきたわけではないが盗賊にとってのスライムというのは純粋で子供っぽい。感情の揺れ動きがダイレクトに現れる種族だ。
そして純粋だからこそ、物事をありのままに見る傾向が強いし、人の話に突っ込んで聞く事にためらいが無い。
それはつまり下手な嘘や誤魔化しを驚くほどアッサリ見破る事が多いという事だ。
盗賊は以前このスライムに『人生は甘くない』とこれ見よがしに語った冒険者が、『どう甘くないの?』と聞かれ言葉に詰まった様子を見た事がある。
下手な慰めを言えば逆効果どころか、こちらに飛び火しかねないだろう。
……下手な慰めの言葉を言う必要も無いか。
そこで盗賊はただ淡々と事実を告げる事にした。
「レベルアップしていけば体のスペックは向上する。経験を積めば、対応力が上がっていくも。世の中には特殊な種もあるし、種族的な弱さいくらでもフォローが効くだろう」
「でも、……ぼくはドルマゲスみたいに、強くなれる気がしないよ」
「あー……なら自分がどうなりたいか。ちゃんとイメージする事だ」
「……イメージ?」
「ああ、自分がどうなれるのか。そしてどうなりたいのか考えるといい。自然と覚悟ができていく。そこに向かって進めば今よりはましになるしな」
その言葉にスラぼうは、ドルマゲスが『イメージするのは常に最強の自分……!』とテンションを上げていた事を思い出した。
「盗賊さんにもなりたいイメージがあるの?」
口を突いて出たスラぼうの言葉に盗賊は苦笑した。
「伝説の盗賊を超える。それがオレの夢だ。……ここでは回り道をしたがな」
そう言って苦笑する盗賊は、イカサマをしていた自分を思い返している様だった。
スラぼうは盗賊の言葉の最後の部分に引っ掛かりを覚えて、身体を傾げてみせる。
「ここでは?」
それはまるでこの街からいなくなるとでも言うような単語だ。
答えるかどうか迷った盗賊は、観念したように手に持った荷物を掲げて見せた。
「……実は、今からその街を出ようと思ってな」
「え、じゃあどこにいくの?」
「風の噂でメダル王の城という場所に『異世界につながる扉がある』という噂を聞いた。とりあえずはそこに忍び込むだろうな」
「そっかー」
残念そうなスラぼうは、『じゃあこれだけ教えてよ』と盗賊の名前を質問する。
その言葉に驚いた盗賊は、ベンチを立ちあがって簡潔に答えを述べた。
「バコタ……盗賊バコタだ」
そう言ってスラぼうを一瞥したバコタは門の方へと歩き出す。
「ありがとう! またね!」
無邪気な声で礼を言い『
「……縁があったらな」
そう言ってトラペッタの街を出たバコタの口元には、わずかに笑みが浮かんでいた。
そんなバコタがキレ気味に飛び跳ねるスライムプティングに気付き、浮かべた笑みをへの字に引き下げるまであと3秒。
『カッコつけて別れたのにこのまますごすご帰れるか』と言う理由で引き返すことを諦め、『しのびばしり』を全力で使うハメになるまで、あと十数秒ということを……この時のバコタは
●
そんなバコタの危険を知らず、幾分か気を取り直したスラぼうは、ルイーダの酒場へと向かっていた。
……なりたいじぶんかぁ。
思い浮かばないソレに頭を悩ませたスラぼうは、一日中やっているルイーダの酒場の扉をくぐり、店の中へと入り込む。
するとそんなスラぼうを迎えたのは聞き覚えのある声だった。
「おお、遅かったの。待っておったぞい」
「……え?」
今日は良く声をかけられる日だなあ。と驚いたスラぼうを待っていたのは、ドルマゲスの師匠であるライラスのものだった。
ビールを飲み、ツマミをほおばるライラスは、片手を上げてスラぼうに笑いかける。
弟子に対する態度より数倍は甘かった。
そんな意外な人物の登場に、思わずスラぼうは疑問の声を上げる。
「えーっと。なにかあったのライラスさん。……はっ!? もしかして冒険者に?」
「いやいや、違うわい。実はあのバカ弟子に頼まれて、お前さんの事を調べに来たんじゃよ」
そう言って笑うライラスは、肩をすくめて追加のつまみを注文した。
……意味が分からないよ?
疑問に?を浮かべながら、ライラスから席にあった味噌マヨキャベツをもらったスラぼう。そんな状況を分かっていないスラぼうに『食いながらでいいぞい』と笑ったライラスは、呪文を唱えてスラぼうのステータスを確認する。
「おお、やはり魔物にもスキルはあるんじゃな」
そう言って満足そうに頷いたライラスに、キャベツを飲み込んだスラぼうは聞いた。
「それドルマゲスも言ってたけど、スキルってなに?」
「ああ、あのバカ説明しとらんのか。なに、ようは精霊の加護の一種じゃよ……と言ってもそれだけでは分からんかの?」
スラぼうがよく分かっていないと気が付いたライラスは、『レベルアップをキッカケに、ある手順を踏むと使えるようになる能力や呪文の事じゃよ』と説明を付け加えた。
「精霊の加護と言うのはこの世界に生きる生き物全てに適応されておる。とある古文書にはかつてはモンスターの神官がおったという記述もあるしのう。そう考えるとモンスターがスキルを使わないのは、スキルの存在を確認する機会が無いのが原因なんじゃろうが。ワシが思うには……」
「……?」
しかしスラぼうは会話に付いて行けていない。
だがビールを煽るライラスはその事に気が付いていなかった。
「……つまり冒険者として登録する、と言うのは一種の魔法儀式でのう。我々人間はコレによってスキルの存在を自覚し、スキルポイントの操作ができるようになるんじゃ。つまり台帳の正体が儀式書の束というわけじゃな。各地の城なんかでも自分の所の兵士に似たような事はしとるじゃろうが……コレどっから流れて来るんじゃろうなぁ。作るのがアホほど面倒じゃから、金を出せば買える。という類の品ではないはずじゃが……。もちろん今ワシがやったような、別のやり方も無くはないがの」
ライラスオンステージ……!
話の内容をかろうじて『この店にある冒険者の台帳がすごい。作るのがたいへん』と理解したスラぼうは、冷や汗をかきながら相槌を打った。
「……つくれるの?」
適当にいってみた言葉だが、対処としては正解だったらしい。
「まあそりゃあ、作れんことは無いぞ? ワシにもな。ただし契約関係の魔法を仕込むとなれば、一月仕事になるじゃろうな。手順も面倒じゃし、正直やりたい仕事ではないわい」
と言って、いい気分でビールを煽ったライラスは、『アレ? 何の話じゃったっけ?』と不思議そうに首をかしげていた。
完全に酔っ払いである。
「えーっと、それでぼくのスキルってなに?」
「おお! そうじゃったそうじゃった。スキルの話じゃったな」
スラぼうに言われて本題を思い出したライラスは、紙とペンを取り出してスラぼうのスキルを書き出してみせる。
「補助回復の【スラフォース】、物理攻撃の【スラップラー】、そして何でこんなもんがあるんじゃか分からんが……【ブーメラン】。この三つがお前さんのスキルじゃな。今のお前さんのスキルポイントは3。どうやら技を一つ習得できるようじゃが……まあ自分で考えてみるんじゃな」
そう言って酒に戻ったライラスは、運ばれてきた野菜のガーリック炒めに手を付け、ビールの追加を注文する。
完全に飲みの体勢に入っていた。
●
酒を浴びるように飲みはじめたライラス。それを横目に『この人、明日ぜったいに二日酔いになるよ』と呆れたスラぼうは、ライラスの言ったスキルについて頭を悩まていた。
……よくわからなかった。
どうやらスキルポイントとやらを使う事で使える技が増えるようだが、『どうやってスキルポイントを使うのか』の説明はナシ。ライラスは長い口上を全て、スキルの成り立ちと考察に使っていた。
「まあ。技がふえるのは良いことだと思うけどね」
だが自分い自信を取り戻せていないスラぼうは『新技が増えるよ!』という思わぬ急展開に混乱する。
「いきなりすぎるよね」
と言って、目を閉じ。ひとしきり悩んだスラぼうは『よし!』と言って、ある事を決める。
「とにかく今日はもう寝て、のこりは明日かんがえよう!」
……ドルマゲスに相談したらなにかいい答えが出るかもしれないしね!
しかし、そう考えて寝床へ向かったスラぼうは『でも……』と続けて動きを止めた。
……どうなりたいかは、自分で考えないとダメかなぁ。
補助か攻撃か、ブーメラン。どれを選ぶのか、という答えはなかなか出そうにない。
結局その日のスラぼうは遅くまで寝付けないのだった。
●
翌日の朝。
「スラぼうくーん。あーそーぼー!」
という子供らしい台詞を、オカルト染みた声音で告げたドルマゲスがルイーダの酒場にと訪れていた。
その声に目を覚ましたスラぼうは、あくびをしながら毛布を敷き詰めた籠から出る。
そんなスラぼうをよそにドルマゲスに気付いた酒場の冒険者たちが『ゲェッ! 決闘者っ!? 決闘者ナンデ!?』、『ヒエッ! アレが闇のガチ勢……!』、さらには『おい見ろよ。必然ヤロウだぜ……』などと各自粗様々な反応を見せる。
ドルマゲスの言った『あーそーぼー!』の内容が重たいナニカを賭けた遊びの範疇外のシロモノと察したのだろう。
修羅道の住人としか思えないそのキチガイ染みた発言に、ドルマゲスに近い位置にいた冒険者たちがその場から一歩後さずり。またトランプでポーカーに興じていた者達は、決闘を挑まれないようあわててカードをしまい、素知らぬ顔で口笛を吹く。
そんな周りを気に留めないドルマゲスは、しかし酒場のテーブルに突っ伏して呻く一人の老人に気付き、首をかしげて質問した。
「おや師匠。ずいぶんとスタイリッシュ朝を迎えている様ですが。……ははあ、もしかしてオールナイトですか?」
斜め上へとカットビング発言だが、オールナイトなのは間違ってはいない。
ドルマゲスが見つけたのは昨日、あれからずうっと飲み続けていたライラスの姿だった。
どう見ても二日酔いダウナーなライラスは、力のない声でドルマゲスに苦言をていする。
「ど、ドルマゲス。貴様、師に向かってなんちゅう言い方を……」
だが、その声にはまるで力が無い。
賢者の末裔ライラス。トラペッタの顔役でもある彼は、今、頭が痛くて無気力だった。
その後、フラフラと立ち上がったライラスは酒場のトイレへと吸い込まれるように消えていく。
そんな師弟のやりとりに気付いたスラぼうは、眠気に欠伸を噛み殺し、ドルマゲスに挨拶して一応聞いた。
「昨日はずうっと一人で飲んでたけど……ライラスさんって飲み友達少ないの?」
ライラスと付き合いのないスラぼうは、普段ライラスが他の酒場でルイネロたちと飲んでいる事を知らないのだろう。
それを悟ったドルマゲスは、ライラスの事をよく知る者として、一応のフォローを話し出す。
「いやいや。ちゃんと師匠にも友達はいるぞ?」
「へー、どんな人?」
スラぼうのその質問に、ドルマゲスはフッと笑って端的に述べた。
「胃薬だ」
「……んぇ?」
『お友達は?』と聞いて『胃薬』と返ってくる不思議。その意外な展開に、スラぼうの思考は停止する。
「ああ、酷いと思うのは分かるよ。私も胃薬というチョイスはどうかと思う。日々友達を食い物にしているわけだからな……。だが安心すると良い。師匠は人間の大人達にも友人はいる」
そこまで聞いてからかわれたと気が付いたスラぼうは、朝から深々とため息をついた。
「酷いのはドルマゲスの師匠に対するあつかいだとおもう……」
朝からとんでもないネタをぶっこんできたドルマゲスに対しスラぼうは、そしてさり気なく会話を聞いていた周りの冒険者たちは同じことを思い浮かべた。
……きっと、ライラスは胃薬が常備薬なんだろう。
魔物と人間が心を一つにする奇跡。
しかし、『こういうのは時と場合が大切』という教訓を得たものは、この場には誰一人として存在しなかった……。
【盗賊バコタ】
ドラクエ4に出て来た盗賊の男。中ボス。
トルネコやライアンがゲスト出演するなら、こっちから送っても良いだろ。と言う理由で登場。スラぼうのメンターとして、助言をするポジションに。
4ではなにげにHPが1000越えしてるので、一種の天才だろうと思います。
ヤムチャにクリリンを足した様な顔ですが……。
というわけでファンタジーの王道。人と魔物の心が一つにエンドでした。
今回スラぼうのスキルに話が及びましたが、内容・詳細の設定に関しては、作中で詳しく述べるのではなく、設定と言う形で1話使って投稿しようと考えています。
次回でトラペッタでの話が一区切りつきそうなので、次々回にドルマゲスとスラぼうの習得可能特技、スキル構成などを載せる予定です。
気になる方は次々回までお待ちください。
※追伸
活動報告に手を出し始めました。
といってもどこの誰とも知れない作者の日常に興味のある方は相違ないと思われます。
そこで内容としては、この作品を書くまでに悩んだ連載候補などの設定・あらすじをメインとする予定です。
「I Can Fly」する赤帽子や、バグった森崎、内容がカオスすぎて、もしくはまじめすぎて投稿を断念した作品・考察などを載せていきます。
興味のある方は覗いてみて下さい。