チャチな光の道化師   作:ぱち太郎

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第八幕 観光客となる一行

酒場のトイレへと消えたライラスをネタにすることで師弟の絆、その強さを見せつけたドルマゲス。

そんなドルマゲスに先日聞いたスキルの話をしたスラぼうは『どのスキルを取るのかはちょっと考えさせてほしいんだ』と申し訳なく思いながら頼み込んだ。

それを聞いて、『ソレはかまわないが……』とアッサリ承諾したドルマゲスは、スラぼうの事を見ながら首を傾げてみせる。

「ブーメラン……持てるのか?」

スライムという種族には手が存在しない。

 

ドルマゲスの言葉は誰もが思う当然の疑問だった。

 

その言葉に興味が湧いたのだろう。こっそり聞き耳を立てていた冒険者の一人がものは試しとスラぼうにブーメランを手渡した。

慣れない得物であるブーメランを体でヘディングしたスラぼうは、しばらく悩んでからピトッと身体にくっつける。

『おお、くっついた……!』『くっつくもんなのか……!』

と周りが騒ぐ中、キッっと前を見据えたスラぼうは、背中にくっつけたブーメランを身体ごと回転させ勢いをつけて投げ放つ。

撃ち出されたブーメランは、空中に綺麗な弧を描いてスラぼうの元へと戻っていった。

 

「おお!」

「すげえ!」

「投げれるもんなんだな……!」

この世界では非常に珍しい光景に、拍手と一緒に賛辞の言葉が飛びかった。

その中の何人かは『でもこれって芸を仕込まれた魔物みたいだよね』と、着実に芸人パーティーとしての進化が進むドルマゲスの一行に謎の期待感を膨らませる。

ドルマゲスのパーティーがドルマゲス一座と化すのは、きっとそう遠くない未来だろう。

彼らはそんな事を考えていた。

 

とはいえブーメランは人間の武器。酒場の中には魔物が自分達の武器を使う事を良しと考えない者もいる。

酒場の中に拍手をしないでしかめっ面をした冒険者の姿を見つけたドルマゲスとスラぼうは、二人そろって『ブーメランを極めていくのはいらぬ軋轢を生むかもしれない』と考えていた。

もっともドルマゲスの方はその後に『まあバレなければ罪ではないだろう。クックック、せいぜいモンスター相手に有効活用させてもらおうか』などと考えていたが……少なくともスラぼうの方は『ブーメラン使いとして腕を上げる自分』という未来は、そういった軋轢を生んでまで『なりたい』とは思えないようだった。

「これはちょっとちがうのかな……」

スラぼうはそう呟いて、元の持ち主へとブーメランを返す。

ブーメランがダメならば、残る選択肢は補助回復の【スラフォース】と物理攻撃の【スラップラー】だ。

おそらくスラぼうの気質を考えれば補助回復が性に合っているだろう。

しかし『なりたい自分』という考え方をしていたスラぼうは、『それで本当にいいのだろうか』と迷っていた。

 

 

一方、スラぼうがブーメランを貸してくれた冒険者に礼を言う横で、ドルマゲスは酒場の店主である女主人に話しかけていた。

その内容を聞いた女店主は頭が痛そうに苦笑する。

「スライムプティング? ああ、また出たのね……」

顔をしかめた所を見ると、厄介には思っているらしい。

 

……もしかしたら、先を越されて倒されるかもしれんな。

そう懸念したドルマゲスはダメもとで女店主に切り出した。

「できれば自分達で倒したいので、なるべく手を出さないで欲しいのですが……やはり無理でしょうか?」

警護に慣れていないようにも見える光景だ。

言いにくそうにそう頼むドルマゲスの言葉に女店主は苦笑した。

「まあ大丈夫なんじゃない? 討伐依頼を出す物好きもいないし。ほとんどの人は放置するでしょう。わざわざ頼まなくてもね」

「放置する? 門の近くにいるのに?」

「だってこの街にはもう一つ門があるじゃない。わざわざあのモンスターの相手をしようなんて物好き、そうはいないわよ」

「……そういうことか」

確かにこの街には西門がある。

この近辺に出るのは比較的弱いモンスターばかりだ。わざわざ南門を出てスライムプティングと戦うより、西門から行った方が安全なのだろう。

「その上、スライムプティングは一度討伐してもまた出て来るのよね。あなたのお師匠さんいわく、この世界には魔力の淀みが集まりやすいポイント? があるらしくてね。そのポイントの一つであるあの辺りは、ああいう特殊なのが生まれやすいらしいのよ」

「生まれる?」

「ええ。モンスターにはあたしたちと同じように両親がいる個体と、自然に溜まった魔力から生まれて来るヤツとの二種類がいるって話よ。で、スライムプティングは後者ってわけ……」

「……なるほど」

 

もしかしたら突然変異なのかもしれんな。

『スライム=全てのモンスターの原点』という話を思い出したドルマゲスは、そういった突然変異に通常の進化合わさって多様なモンスターが生まれるのかもしれないと考察を巡らせる。

 

……モンスターは倒したら光……というか魔力と生命力の欠片になって世界に溶ける。

以前気になってライラスに聞いたドルマゲスは、その欠片の一部、人が取り込んでも問題ない純粋な部分が経験値となって器を満たすと教えられていた。

「それが本当かどうかは知らんが、吸収されなかった経験値……倒したスライムの残滓がその魔力だまりに集り、同種のスライムプティングを出現させるのかもしれんな」

少なくともスライムを30匹倒したらスライムプティングが出現するというゲームのルールはこの世界においても適用されている可能性が高い。

雑魚敵を倒していたらある日突然スライムプティングに喧嘩を売られる世界ともなれば、交易商はさぞ大変なことだろう。

倒しても湧いて出るならなおさらだ。

 

「……そう考えると確かに、スライムプティングの討伐依頼を出す物好きなど、いるはずもないか」

わざわざ討伐依頼に金を出すくらいなら西門から行く方が良い。

……スライムプティングと戦うのは、見た目に騙された被害者か、経験値目当ての冒険者。それか打倒スライムプティングを掲げた自分のような者くらいか。

しかしドルマゲスの同類は少数派だろう。

獲物を取られる可能性は低い。そしてもし取られたとしても、時がたてばまた出現する。

その事に気が付いたドルマゲスは、『ならば良し』と満足そうに頷いた。

 

自分はともかく、スラぼうについては命を賭ける覚悟ができているか分からない。

無理に博打に巻き込むくらいなら、地力をつけてタイマンを張り、正面からスライムプティングに打ち勝とう。というのがドルマゲスの考えだった。

目指すはタイマン勝利。

そしてそのための下準備である。

 

……ならば小遣い稼ぎでもするとしよう。

どうせレベルアップを目指すのだ。道草で稼げるならそれも良いと、ドルマゲスはカウンター横、備え付けのボードに張られた依頼書の紙を覗いていく。

普通は家の手伝いやおつかいなどで小遣いをもらう年齢なのだが、ドルマゲスの頭の中では小遣い稼ぎ=おつかい=戦闘の方程式が成り立っていた。

「商人による依頼が意外と少ないのだな」

護衛の依頼が多いのだろうと予測していたドルマゲスは、むしろ商人がやりそうな荷運びの依頼が多い事に驚きの声を上げる。

外で取れるアレを取ってこいだの、あの町に売ってるコレを買って来てくれだの、どう見てもおつかいとしか思えない依頼がほとんどなのだ。

「まあ交易するのも命がけだからねえ。皆が皆ルーラを使えたらいいんだけど、ああいう呪文は繊細な魔力のコントロールが必要だからねえ。よほどの才能か、努力がいる。結局世界を回れるヤツってのは少ないもんなのさ」

女店主の言葉から察するに、物流とモンスターの関係は悪い意味で根深いらしかった。

 

……いや、それも当然か。

特定条件を満たすと出て来るスライムプティングのようなイレギュラーはもちろん、そも原作にあったスカウトモンスターがヤバイ。

ゲーム時代はただの特殊な敵キャラで済んだが、ようはその種族生え抜きの使い手である。

それが群れを離れて各地に、それも場合によっては道の真ん中に陣取り、一匹で独自に修行を続けているのだ。

もちろん人が通ったら襲うだろう。

これはもう物流の邪魔でしかない。

 

通常の雑魚モンスターですら街の一般人にとっては恐怖の対象になり得るのだ。

トラペッタの住人の中には一度も街の外に出た事がないものもいるだろう。

そういう奴に限って「西にトロデーンという城があるらしい」とか物知り顔で言うんだよな。と、ドルマゲスは苦笑した。

 

「……そういえばトロデーン。まだ茨に覆われていないのだったか?」

正史ではあの白と城下町を破壊しつくすのはドルマゲス。つまり自分のはずだ。

それが無いとなると今はマトモなトロデーンのはず。

 

「行くべきだな」

ドルマゲスは即決した。

一応あそこには大図書館的なモノもあったはず。面白そうな本があるのなら探して見るのも良い。

……無事なトロデーンと言うのも見てみたいしな。

と、ミーハー根性を全開にしたドルマゲスは、トイレから崩れ落ちるように現れたライラスに目を付けた。

 

……タイミングが良い。コレが年長者のたしなみか。

都合の良い事は全部年の功にする勢いでドルマゲスは詰め寄った。

「師匠! トロデーンに行きましょう! あそこには大図書館があったはず! これはもう観光に行くしかありません!」

「……でかい声を出すな」

ドルマゲスの声が頭に響くライラスは、弱々しい声で釘を刺しす。

なお二日酔いに大声でしゃべった場合、会話が成り立つ可能性は非常に低い。

「……で、なにがなんじゃって?」

どうやら今回のライラスもその例に漏れないようだった。

 

その後ライラスに、『あー、今日は二日酔いで無理じゃから、明日……いや明後日くらいなら行ってもええぞ。ただし移動が面倒じゃからルーラで行くぞい。……だからでかい声出すな』との許可を頂いたドルマゲスは、勝利の雄たけびを上げてブチ切れたライラスにバシルーラで飛ばされた。

 

二日酔いという最悪のコンディションにもかかわらず、一瞬でバシルーラを発動。

精密な魔力操作が必要なバシルーラを即座に成立させ、ドルマゲスを酒場の外に怪我無く放りだすその手腕に、事態を見守っていた冒険者たちが小さく驚きの声を上げる。

二日酔いでも賢者。実力者には変わりない。

スラぼうは、倒れるように椅子に座り、テーブルに突っ伏したライラスが『マスター、何か酔い覚ましになる物を』と、力なく注文する姿を見て『……コレで二日酔いじゃなければかっこいいんだけど』と、何とも言えない感想を抱くのだった。

 

 

その頃、ライラスのバシルーラによって酒場の外へと飛ばされたドルマゲスは、『バシルーラと言えば敵を戦線離脱させる呪文。弟子を敵扱いとはなんという師だ……参考にしよう!』と、ぶっ飛んだ発言をかましていた。

その言葉に近くにいた同年代くらいの子供が信じられない物を見るような目で見て来たが、ドルマゲスは気にしない。

情けはあっても容赦はしない。

それがドルマゲスが好き勝手やらかす中で自然と確立された、彼らの師弟関係のルールだった。

 

「まああの師匠の事だ。今日は二日酔いでダウン。本人が言うように明日に準備、明後日に出発。という線が濃厚だろう。……フハハ、この二日のマージンでレベルを上げなければな」

そして力を付けた暁にはスライムプティングを討つ。

無論二日ぽっちでそれができる域に達するとは思えないが、レベリングは積み重ねが大事なのだ。

そのうち勝つ。

それがドルマゲスのグダグダな、しかし確実性のある計画だった。

 

そんなドルマゲスに律儀にこちらを追いかけてきたスラぼうが合流する。

「で、きょうはなにをするの?」

「フッ、愚問だな。もちろん戦闘だ。レベル上げなきゃあならんからな。……ただし南門は昨日のスイーツ野郎がいるかもしれん。西門から出るぞ」

スラぼうの質問にドルマゲスは笑って返事をする。

「……そのあくらつな笑顔。やめたほうがいいんじゃない……?」

「……悪辣?」

おかしい。親しみの持てる笑顔を繰り出したはずが、どうしてそうなった。

ドルマゲスの頭に疑問符が浮かぶ。

 

きっとキャラの差なのだろう。

これが主人公(※)ならばカッコイイ扱いだった事は、ドルマゲスにも容易に想像がつく。

その後うっぷんを晴らすようにレベル上げに走ったドルマゲスは二日かけてレベルを8から9に上げ、格闘スキルにポイントを割り振る事で『かまいたち』を習得。

スラぼうもレベルを3から5へと成長させる。

 

しかし未だに成長の方向性が決めきれないスラぼうは、スキルポイントを割り振れない。

そんなスラぼうの悩みをそのままに、トロデーンへ旅立つ日はやってくるのだった。

 

 

 

 

そして出立日。

ドルマゲスとライラス。そして若干気後れ気味なスラぼうの、二人と一匹のパーティーは、ライラスの『ルーラ』でトロデーン城に飛ぼうとしていた。

「ほんとにボクもいっていいの?」

「大丈夫だ。問題ない」

申し訳なさそうなスラぼうにドルマゲスは自信をもって断言する。

そんなコンビを横目にライラスは確認の声を上げた。

「二人とも準備はええな。今からルーラを使うぞい」

その言葉にドルマゲスとスラぼうは揃って打頷きを作る。

その様子を見たライラスは、さらりとルーラを発動し、メンバーを空へと飛翔させるのだった。

 

……おお、コレがルーラか。

ライラスいわく指定位置に向けオートで高速飛翔する呪文らしいが、こうして実際に飛ぶと非常に速い。そして怖い。

おそらく高所恐怖症の人は使えない呪文だろう。

横を見ればスラぼうの表情が分かりやすく引きつっている。

風圧や横G、遠心力はある程度呪文の効果によって抑えられているが、それが逆に下の景色を見る余裕を生んでいた。

同じ大陸内、比較的短い移動距離とはいえ普通に怖い。高度が高すぎる事がよく分かる。

かなりの速度が出ているのだろう。あっという間にトロデーンの城が近づいてくる。

すぐにでも到着しそうだった。

 

……というか急激に地面が近づいてくるこの光景は、どう考えてもタマヒュン案件……!

本能がヤバイと叫ぶ中、急激な減速によって制動がかけられる。

そして次の瞬間、ドルマゲス達はトロデーンの門前へふわりと降り立ち……そしてライラスに抗議した。

 

「やってくれましたな師匠! ルーラが即席ジェットコースターだと何故先に教えてくれなかったのですか! この仕打ち……非常に遺憾であると言わざるを得ないっ!」

「そうだよ! さいしょに教えてくれたっていいじゃないか!」

ドルマゲスとスラぼうが喚く中、ライラスは勝ち誇った笑みを浮かべている。

「何を言う。ワシは『余計な戦闘を避け、移動時間を短縮するためにルーラを使う』と事前に言っておき、お主らの賛同を得たたはずじゃ。納得した事に文句を言われてもの~」

そういけしゃあしゃあと喋るライラスと、『おのれ、外道だぞ師匠!』と、抗議の声を上げるドルマゲスは当然の様にトロデーンの中へと、煽りあいながら歩き出す。

その様子を見るスラぼうは『師弟って似るもんだなあ……性格の悪い所が』と、諦め交じりにタメ息を吐き、二人の後をついていくのだった。

 

 

 

 

トロデーン。

城塞都市とでも言うべき、城と都市が一体化した街。

ドラクエ8本編では呪われた状態がデフォという大変な場所は、しかし本編と無関係の今、結構な賑わいを見せていた。

 

「ほう、交易商が来ておる様じゃな」

ライラスの言う通りトロデーンの噴水前では即席の店が複数作られており、即興の市場が出来上がっている。

一部ではオークションが開かれており、貴重な品や一品しか持ち込めなかった商品が競売にかけられていた。

他所の大陸から来た商隊なのだろう。

競りにかけられている武器防具は、共にこの辺りでは見ない品ばかりだった。

主に防具類を中心に売っているようだが、中には『バトルアックス』や『ホーリーランス』など強力な物も売っていた。

 

ドルマゲスはその中でもとある剣に目を止め、驚きの声を上げる。

「……あれは!」

氷をかたどった片刃の曲刀。

それはドラクエ8における店売り最強装備。『吹雪の剣』だった。

 

……まさかこんなものにお目にかかるとは。

主人公補正によるチート武器収集が無いドルマゲスにとって、氷の剣がここにあるという事は非常に驚くべき事だ。

なにせ主人公の最強武器候補に名乗りを上げるような性能の武器なのだ。

序盤の舞台、つまりあまり強いモンスターのいないこの地方に不釣り合いと言っても良い剣がまさか交易品としてオークションに出されるという展開は、流石のドルマゲスも予想できない事だった。

 

とはいえドルマゲスに剣の才能は無い。

完全素手ゴロ仕様の魔法使い志望に剣は不必要だった。

……どちらかと言うと今競り落とされた『ルーンスタッフ』の方が気になるな。

そんな事を考えていたドルマゲスに、ライラスが振り返り声をかける。

「何じゃドルマゲス。気になるなら見ていくか?」

「いえ、私は素手に生きる男なので。……まあ杖は気になりますが」

「ふむ……まあ、オークションに出ておる杖は今競り落とされた一本だけじゃからなあ。交易商の店にもそれらしい物は無い、か」

「ついでに言うと防具類も気になると言えば、気になりますね。とはいえそういった品は兵士や冒険者の方々が買い求めているようですが……」

見た所かなり混んでいる。

「あの列とも言えない集団に混ざっても、体格差で弾かれかねないでしょう」

そもそも、それほど規模の大きな商隊ではない。

押しかけているものの中には野次馬も多いみようではあるが、売れ残るかどうかは微妙な線だった。

「まあ落ち着いた時に見に来ればええじゃろう。もし売れ残りに良い物があれば買うとええ」

「……師よ。そこは普通『買ってもええぞ』と言う流れでは?」

「ドルマゲスよ。お主最近、ルイーダの酒場で大人から大金を巻き上げたそうじゃな」

「チィッ、耳の早い師匠だ」

「金のあるやつは自腹を切れという事じゃ」

言いあう二人はそのまま城の中へと進んでいく。

師弟は観光中も平常運転だった。

 

 

一方、後ろをついて跳ねるスラぼうは広間の一角に漂う異様な雰囲気に気を取られていた。

オークションでは『吹雪の剣』の競売が始まっており、最初の提示額を置き去りにして矢継ぎ早に剣の値段が上がっていく様子が見て取れた。

真剣な顔で値段を叫ぶ競売の参加者。そして黙したまま何かを見定めようとするガラの悪い男達。

それらは吹雪の剣の価値を知らないスラボウにとって、何が何だかわからない光景だった。

 

……そんなに凄い剣なのかな?

キレイな刀身だとは思うけど。と、ぼんやりした感想を抱いたスラぼうに、先を行くドルマゲスが声をかける。

「おい、行くぞスラぼう」

「あ、うん。ごめんごめん!」

……そんな事より今は観光が大事だ。

見ればドルマゲスが屋台で買った『くんせいにく』を手にこちらを呼んでいる。

ライラスが一つ。ドルマゲスが二つ持ったくんせいにく。

ドルマゲスが持つうちの一つはおそらくはスラぼうの分だろう。

『二個とも食っていいか?』と、良い笑顔で聞いてきたドルマゲスの方へ、スラぼうは慌てて跳ねていくのだった。

 

 

そしてドルマゲス達が去った十数分後。

とうとう『吹雪の剣』の競売が終了する。

競り落としたのはこの街の小金持ち。戦闘とは縁のない、しかし武器を集めるのが趣味の男だった。

「ふふふ、こんかいのオークション。一目見た時からこの剣だけは欲しかったのだ! これで私の武器防具コレクションがふえる……」

その発言からはコレクターであることが容易に窺い知れる。

男は競り落とせなかった周囲の嫉妬と羨望の入り混じった視線を鼻高々で受け、競売の成果を手に取った。

戦闘と縁のない男が『吹雪の剣』を手に入れた事で、憤慨する剣士達の視線が男に集中する。

 

実用品を求める者とコレクターとの確執。これもまた競売でよく見られる光景と言えた。

 

しかしそんな剣士達の一人。

年若い、しかしどことなく裏の気配を漂わせた青年は、殺気に近い感情をこめて男を睨みつけていた。

 

……ふざけるなよ。

青年は口に出さず罵声を繰り返す。

剣士が使うというのならば納得もしよう。例え弱くても将来に期待すれば納得は出来る。

しかし、よりにもよってコレクター。

それも明らかに戦闘から縁遠い一般人に、自分の求めていた武器が持っていかれる。

それはその青年剣士にとって何よりも我慢できない事だった。

 

……譲ってもらえるように頼むべきだろうか?

しかし忌々し気にその男を睨む剣士の前で、そのコレクターは嬉しそうに小躍りをしている。

よほど欲しかったのだろう。

いくら頼んでも譲ってはもらえないことは容易に想像がついた。

 

そしてコレクターの男が勝ち誇った声を上げる。

 

「ねんがん の『吹雪の剣(アイスソード)』をてにいれたぞ!」

 

ソレを聞いた青年剣士は速やかに今後の方針を決断した。

選ぶべき選択肢は一つ。

 

……殺してでもうばいとる。

 

周りを見れば、青年と似たような結論に至ったあらくれや商人の姿が見えた。

彼らは静かに。しかし確認するように頷き合う。

 

 

トロデーンの街に、カオスの気配が忍び寄っていた。

 

 

 




もうすぐ一章が終わると思ったらナチュラルに三章の内容を書いていた。
何を言ってるか分からないと思うがオレにもよく分からない……。

今回でプティング倒して「次からは二章でリーザス村だよ!」の予定だったのにどうしてこうなったし……。

プロット自体は何とか整えたので、これからも少しづつ書いていく予定です。
キャラ設定の公開は大分先になりそう……期待してたらごめんなさい。





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