「痛い……」
「えっと……ごめんね?」
「すいません……」
「ごめんね?まだいたい?」
意識を取り戻した響希は違和感を感じる首を鳴らしながらポツリとつぶやくと穂乃果がバツの悪そうに苦笑しながら、海未は見ているこっちが悪く感じてしまうような表情で謝罪をしてきた。ことりは謝罪と同時に心配そうに響希の首元に優しく触れる。
「あぁ、大丈夫だよ」
どっちかと言うとあんなに簡単に意識奪われると思ってなかったけどね……
響希は笑ってそう答えながらも内面気を抜きすぎていたかと苦笑した。
再会を喜んだのは何も穂乃果達だけではない。響希自身も6年ぶりに再会した彼女達を見てつい気を緩めてしまうほど喜んでいたのだ。
「けど……僕的には穂乃果はともかく海未まで飛びついてくると思わなかったよ」
「いや、あれは……場の流れといいますか……空気を読んでといいますか……」
恥ずかしがり屋だった海未も6年経てば凛とした少女に変わっていた。しかし響希は恥ずかしそうに頬を……と言うより顔をリンゴのように真っ赤にし、うつむき恥ずかしがる彼女に昔と変わらないとこもあるなと考え、
「けどひーくんいつ帰ってきたの?」
「今日だよ?とりあえずよほどがない限りは多分ずっとこっちかな」
「本当に?!嬉しいな!」
いつも後を頑張って追いかけてきていたことりは母親であるひなたさんに似てきたと思う。しかし昔と変わらず優しい気持ちを抱かせるような微笑みを、甘く澄んだ声をしていた。
そして、
「ちょっと~!!穂乃果はともかくってどういう意味??!!」
「いや言ったまんまだろ?僕がいない間も多分二人にいろいろと迷惑かけたんだろうし」
「「あはは……」」
「二人共?!」
「ぶふっ!!」
いつも突っ走って活動的な少女だった穂乃果は今もそれは変わっていないようだ。
しかし、
「も~!!響希君、笑いすぎだよ!!」
至近距離まで近づき、見上げてくる彼女は年相応の、いや幼馴染視点から見ても美少女になっていた。
まぁ、これはことりや海未にも言えるが。
「ふふっ穂乃果近すぎるよ。ただね、6年近く離れてたのに……昔と変わらないなって」
響希は穂乃果をゆっくりと引き剥がしながら6年前と変わらないやりとりに微笑む。
穂乃果が突っ走り、海未は大体恥ずかしがってる所を引っ張られ、ことりはそれを追い掛ける。響希はそれの後始末屋や時として穂乃果達をたしなめ、時には穂乃果達と一緒に暴走していた。
「あっ」
「どうしたの?」
「どうかしましたか?」
「どうかしたの?響希君」
響希の声に3人は不思議そうに響希を見る。
大事なことを忘れていた。やはり3人に会って僕もはしゃいでたのかもしれない。
でも、これは大事なこと。3人にあったら一番に言おうと思ってたこと。
「まぁ、雪穂ちゃんはいないけど……みんな、
ただいま」
言い忘れていた言葉。それは必要な、彼女達に言わないといけない一言。
「「「おかえり(なさい)!!」」」
僕はこうして日常に戻ってきた。
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「って感じでさ。アメリカの父さんの友人って人もすごくてね」
あれからどれくらいたったのか、僕達は空いた6年を埋めるかのようにただひたすら話し続けた。
その話は一度も切れることなく、次々と湧く泉のように話題が出てくる。
「そんなことがあったんだ……」
「ひーくん英語で会話できるんだね。すごい!!」
「そうでもないよ。出来ることが出来るだけでさ」
「いえ、実際すごいと思いますよ。ただ……」
「どうかした?」
何やらジト目で見てくる海未に僕は少し肌寒さを感じる。
あれ?クーラー効いてたっけ?と言うより、海未に同調するように2名からも少し冷気が……
「いえ、随分とプレイボーイになったようで」
「待つんだ、そんな要素なかったでしょ」
「だってさ~響希君の話で出る人って女の人ばっかだし?」
「まずそこの言葉の前に親の知り合いってことをつけようか?」
「でも写真に写ってた人達すごく若かったよ?特にひーくんの隣の人とか」
「隣って義理母さんと珠紀じゃん。それ以前にさ、僕がモテるわけないでしょ?」
この顔が隠れるほどの大きな瓶底眼鏡。正直言って僕自身これはアカンと思っている。
「それを言ったら3人はどうなのさ?」
「どうとは?」
「三人とも幼馴染びいきを抜いても凄く可愛んだしさ、そういう浮ついた話とかなかったの?」
僕はストローからオレンジジュースを吸いながら呟く。まぁ実際3人とも可愛いし、彼女達の彼氏になるような人がいれば羨ましくも思う。
だがいくら幼馴染とはいえ彼女たちを縛るものではない。彼氏がいるなら祝ってみせよう。ただし穂乃果達を不幸にさせようものなら最大の不幸を準備できる自信もある。
……何やら返事がないがどうしたんだ?
僕は顔を上げると3人ともうつむいていた。あれ?
「か、可愛い……」
「い、いやしかし……でもそんなことは……」
「すごく可愛い……えへへ♪」
覗き見た3人の顔はにやけており、見なかったことにしておいた。まぁ女の子だし、可愛いと言われれば誰だって嬉しいか。
僕はちらりと腕時計を見ると結構な時間が経っていることに気がつく。
「あっそろそろ帰らないと」
「もう、帰っちゃうの?」
僕のつぶやきに即座に反応したのは穂乃果だった。
あっこれ先が見えたわ。
「えー、もっと喋ろうよー!」
駄々こねるようにジタバタし始める穂乃果。あぁ予想通りだった。
「こら、スカートでジタバタするんじゃない。見えるよ?」
「い~や~だ~!!!もっと喋りたい~!!!」
この娘は羞恥心というものはないのか?いくら幼馴染とは言え……いや、そりゃ目は逸らしてますよ?
「こら穂乃果!!わがまま言うんじゃありません!!」
「そうだよ?……まだお話したいのはわかるけど……」
「む~!!」
ジタバタの音が止んだのでそちらを見ると、穂乃果は台の上に顎を乗せ頬を膨らませながら上目遣いでこちらを見ていた。
……いかん、耐えろ!!一瞬心に刺さるものを感じたが耐えるんだ!!
「……はぁ、穂乃果……」
僕は仕方ないので穂乃果のそばにより、膨らませた頬を摘む。
「別にもう会えないってわけじゃないんだから。多分”ほぼ毎日”顔合わせるんだろうからね」
「……うん」
つまむように揉むとウニウニとまるで餅のような感触が返ってくる。
ずっと触ってたい気もするが、
「だから今はサヨナラだ。また明日会うためにね。
僕はもうここにいるんだから、会いたいって思ったら会えるんだから」
「…うん、そうだよね。分かった。今日は我慢する」
「よろしい」
僕は素直に返事した穂乃果の頭を撫でる。僕の手を引いて走り出した少女も、こうして見ると僕よりも幼いんだなと思う。
「「(いいな……)」」
何やら二人の視線が気になるがやめておこう。
「じゃあ、また明日ね」
「うん!!またね、響希君!!」
「また明日です、響希」
「また明日!!ひーくん!!」
僕は階段を下りていくと夏穂さんたちに挨拶をして外に出る。
「みんな、変わったようで変わってなかったな~」
それがとても嬉しく、そしてとても寂しかった。そう、だからこそこわく……
「っ!!」
マシンキバーにまたがった瞬間違和感が体を襲う。それは感じたことがあるもので、尚且つこれを感じるってことは起こりうることも理解できた。
「キバット!!」
「おう、いるぜ!!」
ヘルメットをかぶり、エンジンをふかせる。
そして導かれるままに走り出した。ただ、最悪の事態を防ぐために。