次元の狭間のとある歪みに留まっていたジャッジ・ガブラスの前に次元のゆらぎと言う次元の穴が開いた。
彼は己を許せる僅かな野望を胸にゆらぎに足を踏み入れたのだった。
ゆらぎから出るとそこは秩序の聖域だった。ガブラスは聖域を見渡すと、懐かしい人影があった。
秩序の聖域の遥か向こう側に一際小さな人影がガブラスの目に入った。
ガブラスはすぐにその人影の正体に気付いた。ガブラスは静かに彼女へと足を向けた。
「魔導士……ならば何と言う天の計らいだ。かつて死力を振り絞り闘ったな……」
ガブラスは小さな人影の近くにまで来ると、兜の中で小さく嘲笑した。
「いや、覚えて無いか」
そう言うと、小さな人影─シャントットは堂々とした態度でガブラスを見上げた。
「何かしらこのデカブツは? ここはコスモスの聖域、貴方の様な入る事さえ許されませんのよ?」
そう言ってシャントットも嘲笑する。
しかし、ガブラスはシャントットの言葉を無視し言葉を続ける。
「このような会話が再び出来るとはな……たが、感傷に浸ってはいられんな」
「そろそろ出て行って下さるかしら? 貴方のセイで聖域が汚れ始めているので」
そう言うとガブラスは長槍を二本の剣─ハイウェイスターと、カオスブレイドに分裂させ構えた。
「いいだろう! さあ武器を取れ! 魔導士の力を再び私にぶつけろ!」
シャントットは高笑いをし、背中に背負っていた杖を取った。
「オーッホッホッホ! 私に喧嘩を売ったこと、後悔させてあげますわ!」
ガブラスとシャントットはほぼ同時に地を蹴った。ガブラスは二本の剣でシャントットへと斬りかかるが、シャントットは剣撃を避けポイズンを放った。
ガブラスはポイズンを弾き返し、シャントットとの距離をとり、剣を地面に振り下ろした。
「地を這ぇええ!」
ガブラスの叫びと共に剣の先から火柱が真っ直ぐにシャントット目掛けて伸びていった。
「効きませんことよ! 喰らいなさい!」
シャントットは火柱をドッジロールしで避けると、すぐに体制を立て直し雷の魔法サンダーを放った。するとガブラスの頭上から小さな雷が落ちてきた。
「ぐッ……」
ガブラスはサンダーを受けてしまい、歯を食いしばる。
「まだまだですわよ!」
シャントットはサンダーで動けずにいるガブラスへ氷の魔法ブリザトを立て続けに放った。シャントットの杖から放たれた小さな氷の塊はガブラスへと真っ直ぐに飛んで行き鎧にぶつかる。
「ぐあッ!」
ガブラスはシャントットの二段攻撃を喰らい体制を整える為に距離を再び取った。
「貴様は我が剣にて命絶つ
そう言いながら、ガブラスは二本の剣の柄頭を合わせ、再び二本の剣へと分離させる。
「イ″エ″ア″ア″!」
そして雄叫びと共に剣を振り下ろした。すると、剣圧がシャントットへと向かって飛んでいく。
シャントットは空気の刃を幾つか避けようとするが、避けきれずに当たってしまう。
「きゃあああ!!」
ガブラスはシャントットが剣圧にぶつかり吹き飛ばされた瞬間、駆け出した。そしてシャントットが体制を立て直すと同時に剣を振り下ろした。シャントットはもちろん避ける事は出来ずに攻撃を喰らってしまう。
「どうした魔導士よ! 貴様の力はこの程度なのか!? この私に全てをぶつけろ!」
ガブラスは今まで胸に秘めてきた悲しみ、虚しさ、憎悪を込め剣を振るい続けた。
「復讐の刃よ! 我が剣にて、切り裂け!!」
ガブラスの二本の剣による薙ぎ払いに身体の小さいシャントットは遠くへと吹き飛ばされる。ガブラスは跳躍し、身体を小さく丸めた。すると、辺りの空気がガブラスへと向かっていく。まるであらゆる物が彼を中心に吸い寄せられるようだった。
「くっ!」
体制を立て直したシャントットだったが、その吸引力に圧倒され距離を取ることが出来なかった。
「トドメだ!」
ガブラスが叫ぶと同時に丸めていた身体を広げた。すると、ガブラスの周りに大きな衝撃波が放たれた。
「きゃああああああ!!」
その衝撃波に当たったシャントットは宙に舞った。
ガブラスは宙に舞ったシャントットのスキを見逃さなかった。
ガブラスは剣を放り捨て、両手に力を込めた。すると両手に漆黒の波動が現れる。ガブラスはゆっくりと漆黒の波動を纏う両手をシャントットへと向け重ね合わせ、シャントット目掛けて闇の波動が放たれた。
「俺と同じ苦しみを味わえええ!!」
そして、ガブラスは腰を落とし拳を構えた。そしてシャントット目掛けて拳を打つ。すると空間に罅が入る程の拳圧を飛ばし、シャントットを更に上空へと弾く。
「終息の時だ……!」
ガブラスの背後に現れた一二本の豪火の刃が様々な角度からシャントットを突き刺す。
その瞬間、辺りは闇色に染まった。そしてシャントットの上空には深紫色の魔法陣が浮かび上がった。
「失意の荒野を彷徨うがいいッ!」
彼はの言葉と共に魔法陣に巨大な闇の穴が現れた。そして闇色の渦が全てを飲み込んだ。
「これで、終わった……」
ガブラスはシャントットの消えた聖域に立ち尽くしていた。
今、自分は何を感じているのだろうか。きっと、虚しさを感じているのだろう。
だが、自分の味わった虚しさはこんなモノではなかった。
彼が一人、聖域で自問自答している時もう一人の戦士が近付いていることに、彼はまだ気付かなかった。