第一回仲間外れは誰だ会議!   作:添牙いろは

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第一回 仲間外れは誰だ会議!

 司令室の私のもとに一通の電文が届いた。送り主はキス島の守備隊で、敵に包囲されているため救援を請うものだった。

 この救助作戦を成功させるためには火力だけでなく、機動力にも優れた駆逐艦隊を結成する必要がある。ただちに私は選び抜いた六隻の駆逐艦に対し、練度を向上させるための訓練を施した。

 三ヶ月間の猛特訓を経て、先日ようやく出撃の準備が整った。あれ以降キス島からの電文は途絶えているが、無いものを気にしても仕方がなかろう。

 

 見違えるように成長した艦娘たちの姿に、我が艦隊の勝利を確信していた。ところが、作戦決行を翌日に控えた今日になって、思わぬところから問題が出没した。

 今回、作戦の成否を握る鍵となるのは隊としての連携力にあると考えていた。そこで、意思の疎通が速やかに行き渡るよう、私はいわゆる『似た者同士』の艦を選んだつもりだった。

 しかし、それが仇となった。

 彼女らにはそれぞれ個性があり、厳密には『似て非なる者』である。なまじ似ているだけに、些細な違いが目に付いてしまうようだ。

 最終確認のつもりで各艦 一隻(ひとり) 一隻(ひとり)に明日の作戦に懸念はないか尋ねてみたところ、彼女らは口々に『この隊にそぐわない(もの) 一隻(ひとり)いる。彼女は外した方が良い』と言うのだ。

 だが、そんなことをこの土壇場で言い出されても、今更編成を変えることもできない。

 日頃抱えてきたわだかまりを戦場まで持って行かれても困る。苦肉の策として、私は彼女らを円卓の会議室に緊急召集した。今のうちに徹底的に議論することで、後腐れを無くしてもらいたいと考えたのだ。

 

 

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 さて、一堂に会した彼女らを改めて眺めてみると、やはり雰囲気がとてもよく似通っている。彼女ら自身、それを感じているのだろう。だからこそ、そこに生じる()()()が気になってしまうらしい。

 真っ先に口火を切ったのは、姉御肌の長月だった。

「艦隊戦は単独行動ではない。集団で動く際に最も重要なのは協調性だ。そうだな?」

 皆一様に頷く。私もそれを意図して編成したつもりなので、その和を乱す(もの)がいるのであれば看過できない。

 これまで不信感を募らせていた長月は、違和感の矛先を 一隻(ひとり)の艦に突きつける。

「だが、 一隻(ひとり)だけ『ボク』などと自称してこれ見よがしに個性をアピールしようとしている(もの)がいるよな!?」

「ボク!?」

 まさか、そのようなことを気にしているとは思わなかった。皐月 本艦(ほんにん)にも全く自覚が無かったようだ。驚いて二房の長い金髪を振り回しながらキョロキョロと仲間たちを見回して、誤解を払拭しようとしている。

 しかし、長月の主張はメンバーに()()()の疑惑を植えつけた。これに激しく動揺した暁は真っ赤になって悲鳴のような金切り声を上げる。

「もしかして、男の娘なの!? チンコ生えてるの!?」

 今まで同性だと思って接してきた相手が異性だった可能性に冷静さを失っている。レディーを自称して憚らない彼女だが、思わず言葉選びに品がなくなっている。

「生えてるワケないだろ!!」

 皐月 本艦(ほんにん)は当然のように否定するが、長月の隣で考え込んでいた菊月には暁の指摘に思い当たる節があるようだ。

「そういえば、損傷を負った時……『見るな』と言っていたな。命をやり取りする 軍場(いくさば)で肌の露出如きを気に掛けるなどおかしいと思っていたのだ」

「キミたち、乙女としての恥じらいはないの!?」

 皐月への男子疑惑は晴れる気配がなく、彼女 一隻(ひとり)への集中口撃が続く。だが、そんな中で 一隻(ひとり)だけ意見を挟むこと無く小さくなっている(もの)がいた。皐月の丁度正面に座する文月である。何か後ろめたいことがあるようで、気配を消してじっとしていたが、皐月は容赦なく疑惑の炎を飛び火させる。

「第一、見られるのを嫌がってるのはボクだけじゃないだろ! 文月だって『見ないで』って言ってたじゃないか!」

 疑念の目を二箇所に分散させることで事態の沈静化を図ろうとしたようだが、それは不審の芽を大きく成長させただけだった。

「あの 二隻(ふたり)……どうも日頃から仲が良すぎると思っていたのだが……」

「うむ……どうやら()()()()()ようだな……」

 長月、菊月の両名の意見は一致した。間違った方向で。腐っているのはオマエラだ。

「これは脱がして確認するしかあるまい!」

「三日月と暁も手伝え!」

 突如席から飛び上がり、机を踏み台にして高々と跳躍した二隻の駆逐艦は容疑者二名に敢然と襲い掛かる!

「ふざけんなコラァ!!」

「いやぁぁぁぁ!! やめてぇぇぇぇぇ!!」

「お 二隻(ふたり)とも! 全年齢対象で陵辱沙汰はマズイですよ!!」

「暁、生チンコなんてモミモミしたくないよぉ……」

 血気盛んな駆逐艦だけに、口頭での議論だけでは収まらないか。しかし、この悶着の目的が装甲を剥がして裸体を確認することとなると、男の私がこの場で傍観し続けるのは好ましくない。

 少し落ち着くまで外で待つべきか、とドアノブに手を掛けようとしたところ、金メッキの取っ手は私から独りでに逃げてゆく。音もなくスっと開いた扉の向こうに、見慣れぬ 艦影(ひとかげ)が……?

「提督、明らかに 一隻(ひとり)だけ――」

 バタン。私は黙って扉を閉ざす。赤みを帯びたライトブラウンのボブカットが何か言っていたような気もするが、おそらく幻聴、及び幻覚だろう。

 私が部屋を出るまでもなく物騒な物音は静まっていた。振り向けば、総員何事もなかったかのように元の配置に収まっている。但し、泣きべその文月は中破。皐月は軽く着衣が乱れたのみ。残りの四名の頭には見事なコブが四つ並んでいた。……会議後は即入渠だな、これは。

「ボクっ娘に秘められた力がこれほどとは……。拳に宿る萌えの魂、確かに受け取ったよ」

 疑惑の火付け役だった長月は、腕力によって彼女の身の潔白を飲まされたようだ。彼女らは殴り合うことでしか解り合えないのだろうか。こんなことでは修復資材がいくらあっても足りない。勘弁して欲しい。

「今度はボクから言わせてもらうからね!」

 粗相の反撃、とばかりに皐月は面々を睨みつける。

「みんな、ボクたちのステータスは覚えてる? それを思い出してくれれば、 一隻(ひとり)だけ変なコがいるのは明らかだよ!」

 誰が頼むことなく三日月が率先して席を立ち、用意していた資料を参加者たちに配布し始めた。良くデキたコだ。

 程なくしてレジュメが行き渡ると……

「なっ……!?」

「これは……!!」

 各々驚愕の声を上げる。細かい分析など必要ないほど、その違いは一目瞭然だったらしい。

 

 カチャリ。

 

 今度は扉に手を触れようとすらしていないのに勝手に開いてゆき、その隙間からジットリとした視線を感じる。

「だから、提督……あのコだけ私の妹じゃ――」

 バタン。

 すぐに扉を閉め直したので、この怪奇現象には誰も気に留めていなかった。それどころではなかった。異分子として認定された 一隻(ひとり)が他の五隻から一斉放火を浴びていたからだ。

「これはどういうコトだい!? この“Lv100”って!」

「レベルが三桁だと!?」

 発起艦の皐月に続いて、姉である長月も妹のレベル値に驚愕している。

「チートはマズイですよ! 垢BANされては鎮守府の存続自体が危ぶまれます!!」

 おいコラ、三日月。うちの嫁に変な言いがかりつけんじゃねぇ。

「ま……待て! 慌てるな! これはきちんと正規の手続きを踏んだ……ケ……ケ……」

 菊月は可愛らしいことに、照れて言葉を詰まらせている。

「あぁ~? 何だって~? 聞こえんなぁ~?」

「正規にケがどうしたの? 生えてないの?」

 私の嫁は、長月・暁からのセクハラに真っ赤になって狼狽えている。可愛い。

 しかし、そこは私が見込んだ菊月だ。いつまでも攻め立てられるばかりではない。能力表を見直すことで即座に反撃の狼煙を上げた。

「三桁が不自然、ということなら、暁! 貴様の『雷撃109』とは如何なる了見だ!?」

「なっ、何よ!? 雷撃が三桁なんて珍しくも……」

「だが、この隊に於いては貴様だけだ。不自然極まりないその数値に得心のゆく弁明はできるのだろうな!?」

 暁 本艦(ほんにん)が言うように、レベルと違って雷撃値が三桁になる艦は少なくない。それ故に見逃していたが、 一隻(ひとり)だけ突出しているのは確かに不思議ではある。やはり、私の嫁は良いところに気がつく。

 これには今後の艦隊運用に有益な情報を得られるかもしれない。私自身も固唾を呑んで暁の言葉を待ったが、その理由は驚くほど単純なものだった。

「だっ……だって、暁……一番艦だもの!」

 

 カチャリ。

「いっちばーんっ!!」

 ノックもなく無許可に開かれた扉の隙間から、ドヤ顔の白露が人差し指をニョッキと差し込んできた。

 私はその指先を恭しく手を取ると、関節を反らせるように指四の字固めをキメる!

「あたたたっ! 折れるっ! 折れちゃうっ!!」

 白露が痛みに手を引っ込めた隙に――

 バタン。

 私は元通りに扉を閉める。六隻もいると、ただでさえ出番のないキャラが出てくるのだから、これ以上登場艦を増やさないでくれ。文月なんて、最初にひん剥かれてから一言も台詞がないんだぞ。

 

 カチャリ。

 立て付け悪いのか、閉めた端から扉は再び開かれる。

「いやいや、睦月型一番艦は――」

 頭の後ろに聳え立つマストを両手で掴むと、下方向に力を込める! フンっ!!

「ギニャアアア!? アンテナがっ! レーダーがぁぁぁ!!」

 バタン。

 どこの誰だか知らんが、これ以上キャラを増やすなと言っている!

 

 私の奮闘により外部からの侵入を防ぎきることに成功した。その甲斐あって、六隻の間での議論は滞り無く進んでいるようだ。

「確かに、一番艦ならパラメタが一番優れているのも頷ける……」

「そーよっ、一人前の一番艦なんだから!」

 一番ということでメンバーからの厚い信頼を獲得することに成功した暁だったが、その理屈だと、圧倒的に不利な立場に追いやられる(もの)がいる。

「一番艦として言わせてもらうんだけど……三日月さん!」

「はい」

 話の流れから、一〇番艦である三日月は自分が矢面に立たされることは予想していたようだ。彼女に動揺する素振りは見られない。

「お察しの通り、私はこの中では最も歳若い一〇番艦です。ですが、それを理由に遅れを取るつもりはありません!」

 力強く断言する三日月だが、暁はそれを粉砕する理由を持っていた。

「ううん、絶対遅れるよ! だって、あなた…… 一隻(ひとり)だけ『改』じゃないもん!」

「改ですよ!」

 改だ。

「じゃあ、そのネームプレートは何なのよ!?」

 暁に煽られるように皆揃って下を向く。その目線の先には今しがた三日月自身が配った資料が。

 そこには『三日月』とだけ記されているが……それは表示スペースが三文字までしか無いだけで、彼女には間違いなく強化改造を施してあるはずだ。

「で……でしたら、こちらを御覧下さい!」

 

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 三日月が取り出した二枚目の資料は、彼女 一隻(ひとり)だけをピックアップした個別情報。そこにはきちんと『三日月改』と明記されている。これもまた公式に発行された資料であり、これには暁も反論の余地はない。

 周到に用意された資料を手に、返す刀でトドメを刺すべく三日月は夜戦に突入する。言論の戦いでも容赦ないのな、このコ。

「第一、名前のことを言い出したら暁さん、貴女、 一隻(ひとり)だけ『月』って入ってないじゃないですか!」

 ふむ、言われてみれば……。音読していると気づかなかったが、こうして文面化されるとその違いは明らかだ。

「暁だなんて男の塾みたいな名前の艦はこの場に相応しくありません! 暁さんは『 漢耐故零苦翔(かんたいこれくしょん)』にでも参戦していればいいんです!」

「『漢耐故零苦翔』だと……!?」

「知っているのか、雷電!?」

 何だ、その民明書房の本にしか載ってなさそうな作戦名は。というか、彼女は雷電ではなく長月だぞ、菊月。

 

 カチャリ。

「はーい、司令官、呼びました?」

「なのです」

 右手にVサイン! 左手にVサイン! 喰らえ! 神技・ダブル・テートク・フィンガー!!

 

 ツプリ☆

 ツプリ☆

 

 約束された勝利の四本指が 二隻(ふたり)の顔面に突き刺さる!

「目がッ! 目がァーーー!!」

「なのですーーー!?」

 バタン。

 (メガ)だか(ナノ)だか知らないが、本当にこれ以上キャラを増やさないでくれ! ただでさえ、もう……収拾つかなくなっているのだから!

「改とか月とか関係ないもん! 黒髪ロングって時点で暁とキャラかぶってるんだから! そのアホ毛もろともバッサリ切り落として三日月から『つるピカ満月』に改名しなさい!」

「そんなセコい改名はお断りします! このアホ毛は私のアイデンティティなんです! セットするのに毎朝どれだけ苦労してると思ってるんですか!」

 そのアホ毛、寝癖じゃなかったのか。

 暁の難癖に便乗するように、我が嫁・菊月もここぞとばかりに声を上げる。

「キャラかぶり問題といえば、私と長月姉も共に九月でかぶっているぞ」

「ほほう? つまり、九月キャラは 一隻(ひとり)でいい……そう言いたいのだな?」

「そのとおりだ。公式ツイッターさえも九月になった途端、私ではなく長月姉のアイコンに変えやがって……!」

 こらこら、公式に喧嘩を売るんじゃない。例え『艦これ 九月 長月』の検索数(約361,000件※)に対して『艦これ 九月 菊月』の検索数が半分以下(約141,000件※)だったとしても、私はお前を愛し続けるから何も心配するな。

「ふ……姉たるこの長月に牙を剥くか……。面白い! この左手をエフェクトが重なっているだけと侮るなよ? 本当に光って唸って輝き叫ぶからな?」

「独女風情がレベル100に勝てるつもりか? 私の左腕のサイコガンが火を噴くぞ?」

「ちょっとお茶にしてまぁ~す❤」

 やめろ、長月。お前の左手からは何も出ない。菊月も待て。それはサイコガンではなく、ただの単装砲だ。あと文月、出番がないからといって無関係な台詞を捩じ込むな。

 

【挿絵表示】

 

 大体、キャラかぶり問題って何だ。最初から()()()()()()を集めたのだ。かぶるに決まってる。お前たちだって最初は誰かに()()()を覚えて、その原因について議論していたはずだ。それがいつの間にか()()()()()()()ことが火種になっては本末転倒だ。こんなことなら、最初から異なる性格の艦娘で構成すれば良かった!

 この三ヶ月間は一体何だったのだ……。頭を抱える思いだったが――

 

 ガチャン!

「あーもー、貴女たち! いい加減にしなさーいっ!」

 今度の入室はカチャリ、などという大人しいものではなかった。全力でかっぴらかれた扉からズカズカと入り込んできたのは、ブサイクにひん曲がったマストを掲げた……誰?

 会議参加者たちも身に覚えがないようで、甲高い一喝にキョトンとしていたが、次の瞬間、彼女らの気持ちは一つに繋がった。

「司令官が我々を集めた理由が解った気がするよ……」

「うむ。あの(もの)と比べれば、今の面子の方が上手くやっていけそうだ」

「ボクたちとは絶対に合わないよね、絵的に」

「ねぇ、こいつヤっちゃっていい?」

「レディーはレディーなんだけど……どこか方向性が違くない?」

「はい、大変申し上げ難いのですが……ちょっと……」

 彼女たちが本能的に感じていることは、私にも共有されている。何と表現すべきか……纏っている雰囲気が完全に異なっている。もし、艦娘たちの肖像画を依頼するとしたら、彼女ら六隻とは別の画家に頼まなくてはならないような、そんな違いだ。

 我々から見れば闖入者の方が圧倒的な存在感で浮いているのは明らかなのだが、当の 本艦(ほんにん)にその自覚は無かったらしい。円卓のメンバーからの視線にただただ怖気づくばかりだ。

「にゃ……にゃによぅ……。約一名除いてみんな私の妹じゃないの……!」

 いやいや、こんなに似てない姉妹がいるはずがないだろう。

 無言の圧力の前に、部外者は少しずつ部屋の外へと押し出されていく。

「ぅ、ぅぅ……アンタたちがその気なら、いーもんいーもん! 私は私で勝手に草太艦隊作って突撃してやるんだからーーー!!! クソして寝てろっ! チンカス野郎ーーーーー!!!」

 泣きながら退場していく謎の駆逐艦を尻目に、彼女らの絆はしっかりと繋がり合う形で会議の幕は下ろされた。

「みんな、苦しい戦いになるかもしれないが、絶対に勝利を掴み取るぞ!」

「うむ! 一丸となって立ち向かえば、必ずや乗り越えられるだろう!」

「ボクたちならできるよ、ウン!」

「これならあたしも活躍できそう!」

「みんな一人前のレディーだものね!」

「はい、皆さん頑張りましょう!」

 ラグビー部ばりのスクラムを組む彼女らは全員作戦の成功のために同じ心の水平線を臨んでいる。これならば、きっと彼女らは良い報せを運んできてくれるだろう。これでようやく何の不安もなくなった。あとは、明日の出港を待つだけだ。

 

 ……………………。

 

 翌朝、早速彼女らに出撃指示を下すために、私は北方海域の海図を開いた。

 すると……おや……? おかしいな……あるはずのないところに攻略済みを示す勲章が……?

 

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※作中で引用した検索結果件数は二〇一四年一二月二〇日 午前五時半時点のGoogle検索によるものです。

 

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