異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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雪とキノコ雲

 

 猛烈な轟音の残響を聞きながら、キューポラから上半身を出して双眼鏡を覗き込む。重戦車の長い砲身の向こうで吹き上がる火柱と黒煙の根元には、爆風にズタズタにされた魔物たちの死体が転がっていた。

 

 爆炎が生み出した黒煙の柱を、まるで物騒な煙を追い出そうとするかのように暖かい風が少しずつ崩していく。砲撃の残響を聞きながら崩れ去っていく黒煙の柱を眺めていた俺は、自動装填装置が砲身に次の榴弾を装填した音を聞き、双眼鏡から目を離した。

 

 砲塔の中に戻ってからハッチを閉め、車長の座席に追加されたモニターをタッチする。遠距離からの砲撃で、既に接近していたゴブリンとゾンビの群れは壊滅状態だ。残っているのはアラクネとゴーレムで、今は遠距離から彼らを榴弾で狙い撃ちにしているところだった。

 

 砲手の座席に腰を下ろしているのは、俺の妻のエリス。前方にある操縦席に腰を下ろしているのは、同じく俺の妻のエミリアだ。

 

 俺たちが引き受けている依頼は、魔物の掃討だ。騎士団が定期的に行う魔物の掃討作戦に参加してほしいと騎士団から依頼されたため、引き受けた俺たちは端末で新たに生産したJS-7重戦車を持ち出して、掃討作戦に参加している。

 

 JS-7は、巨大な車体と丸い砲塔が特徴的なソ連の重戦車で、強烈な130mm戦車砲を搭載している。高い防御力と圧倒的な攻撃力を持つ優秀な戦車だ。気に入っている戦車なんだけど、1940年代に開発された旧式の戦車であるため、端末のカスタマイズで近代化改修を行っている。

 

 まず、主砲を130mm戦車砲から55口径130mm滑腔砲に変更し、装甲も殆ど複合装甲に変更している。更にアクティブ防御システムと対人用のSマインも装備しているため、敵のミサイルの迎撃や、接近してきた歩兵や小型の魔物の殲滅もできるようになっている。それと、自動装填装置を搭載しているため、乗組員は車長と砲手と操縦士の3名のみだ。

 

「撃つわよ!」

 

撃て(アゴーニ)ッ!」

 

 俺が号令を発した直後、JS-7の55口径130mm滑腔砲が火を噴いた。轟音を纏う砲弾が草原を駆け抜ける風を引き裂き、崩れていく黒煙の柱の根元で足掻くゴーレムの胴体を粉々に粉砕する。ゴーレムをバラバラにした130mm滑腔砲の榴弾は地面に突き刺さると、またしても新たな爆炎と黒煙の柱を生み出し、近くにいたアラクネを硬い外殻もろともバラバラにしてしまった。

 

 キューポラのハッチを開け、暖かい風を吸い込みながら双眼鏡を覗き込む。草原に出現した火柱と黒煙の柱の根元に残っていた筈の魔物たちは今の砲撃で全滅してしまったらしく、双眼鏡の向こうには死体しか見えない。

 

「任務完了だ。お疲れ、2人とも」

 

「さすが姉さんだ」

 

「ふふっ」

 

 砲手の座席に腰を下ろすエリスが、狭い車内で微笑みながら背伸びをする。でも彼女の両手は伸び切る前に砲塔の天井に当たってしまったため、エリスは微笑みを苦笑いに変えながら両手を戻した。

 

 そんなエリスを見て笑うエミリア。俺は妻たちが笑いあう光景を見守りながら微笑むと、蒼い大空を見上げてため息をついた。

 

 3年前に国王からの依頼を引き受けてから、騎士団からの依頼が増えた。最近は魔物退治や荷馬車の護衛がよく依頼されるんだが、どちらも騎士団からの依頼ばかりだ。

 

 よくモリガンのメンバーたちを騎士たちが騎士団に勧誘してくるんだが、俺たちは傭兵だ。騎士団になるつもりはない。

 

 ――――モリガンに、首輪は似合わない。

 

 俺たちに首輪は不要だ。必要なのは武器と殺意。クライアントから依頼されたのならば、クライアントの敵を蹂躙するだけだ。

 

 俺たちが騎士団に加われば、強力な戦力になるだけでなく、他国への抑止力になるだろう。だが、俺たちは騎士団の抑止力になるつもりはない。俺たちの力は俺たちのものだ。だからもちろん、その抑止力も俺たちのものだ。国王には悪いが、あんたにこの抑止力を使わせるわけにはいかない。力を使いたいのならば依頼してくれ。

 

 そんなことを考えながら空を見上げていると、操縦席に座るエミリアが俺を呼んでいるのが聞こえた。

 

「どうした?」

 

「そろそろ帰ろう。仕事は終わりだろう」

 

「まあな。・・・・・・それにしても、最近なんだかネイリンゲンの周りに魔物が増えてないか?」

 

「確かにね。なんだか仕事が魔物退治ばかり・・・・・・」

 

 俺とエミリアが3年前にネイリンゲンに辿り着く前から、あの田舎の街は平和な場所だった。周囲には草原が広がり、近くには森がある。しかもその草原には滅多に魔物が出没しないため、他の街と違って防壁を建設する必要もない。

 

 開放的で平和な街だった筈だ。だが、最近は魔物の数が増えている。おかげで仕事が増えているんだが、もしかしたらネイリンゲンも防壁を建設する羽目になるかもしれない。

 

 屋敷の中から、もうあの草原を見渡す事ができなくなるかもしれない。少し寂しいと思いながら、俺は開けっ放しにしてあるキューポラのハッチの外に広がる蒼空を見上げた。

 

 空は先ほどと何も変わらない筈なのに、少しだけ色が変わったような気がした。

 

「・・・・・・とりあえず、帰ろうぜ」

 

「ああ。では、出発する」

 

 エミリアがそう言った直後、せっかく砲撃の残響が消え去った草原が、今度はエンジンとキャタピラが発する轟音に蹂躙された。

 

 俺はまたしてもキューポラから上半身を出し、腰に下げていた杖を引き抜くと、砲塔の上を杖でコンコンと叩きながら「頑張れよ、同志」と言ってこの旧式の戦車を応援する。

 

 草原にエンジンの音を響かせながら、黒とグレーの迷彩模様で塗装された重戦車の巨躯が、ゆっくりとネイリンゲンに戻っていく。

 

 キューポラのハッチに寄りかかりながら、ミラがよく歌っている子守唄を口ずさむ。俺の小さな歌声はすぐにJS-7が響かせるエンジンの音に押し潰されてしまっているけど、俺はそのまま鼻歌を口ずさみ続けた。誰かに聞かせたいわけではない。この子守唄が気に入っているだけだ。

 

 すると、JS-7の狭い車内の中から、俺以外の歌声が聞こえてきた。砲手の座席に座るエリスと、この重戦車を操縦しているエミリアも歌ってくれているんだ。

 

 エンジンの大きな音の中でもなんとか聞こえるようになった俺たちの歌声を聴きながら、俺は草原の向こうに見える田舎の街を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――お断りします、ムッシュ」

 

「お願いです。金貨でしたらいくらでも――――」

 

「――――ですから、我々は傭兵です。武器商人ではありません」

 

 赤い絨毯が敷かれ、豪華なソファとテーブルが置かれた屋敷の応接室の中で、俺は少々威圧感を出して商人にそう言いながらうんざりしていた。

 

 商人たちに「銃を売ってほしい」と頼まれるのは、今月で53回目だ。まだ5月の上旬だというのに、53回も商人たちがこの屋敷を訪れ、俺たちが使っている銃を売ってほしいと言ってくる。

 

 俺たちは最強の傭兵ギルドと言われている。戦いを挑めば逆に自分たちが蹂躙されると知っているから、商人たちは強引に俺たちから武器を奪う事ができない。何人も傭兵を雇って俺たちを脅そうとしても、俺たちには銃がある。傭兵を何人も雇ったとしても簡単に一蹴できるんだ。

 

 だから俺たちに銃を売ってもらうしかない。だが、俺たちは銃を売るつもりはない。

 

 威圧感を出しながら断ったせいなのか、俺の向かいのソファに座る中年の商人はぶるぶると震えている。テーブルの上に置いてある彼のティーカップの中身は、全く減っていなかった。

 

 俺はため息をついてから、紅茶の中に角砂糖を1つ放り込む。どうやらこの商人は、紅茶を飲む余裕もないらしい。

 

 さっさと諦めて帰れ。俺はそう思いながら、ティーカップを口へと運んだ。

 

「で、では、これで失礼します・・・・・・」

 

 小声でそう言った中年の商人は、まだぶるぶると震えながらそっとソファから立ち上がった。ソファの脇に置いてあった書類をカバンの中にしまい、部屋の近くに立って見守っていたエミリアの隣を通り過ぎた彼は、ちらりと俺の顔を見てから階段の方へと歩いて行った。

 

 クライアントならば玄関まで送っていくが、彼のように銃を売ってくれと頼んで来る馬鹿は見送らない。俺はティーカップの中に角砂糖をもう1つ放り込むと、ため息をついてから紅茶を一気に飲み干した。

 

「あー、鬱陶しいなぁ・・・・・・」

 

「全くだ。昔のお前ならば撃ち殺していたのではないか?」

 

「おいおい、エミリア。俺はそんなに容赦がない奴じゃないぜ?」

 

 撃ち殺そうとは思ってたけどな。腰のホルスターにはシングルアクション・アーミーが入ってるし。

 

 肩をすくめながら俺がそう言うと、エミリアは笑いながら商人の分の紅茶を片付け始める。

 

「ふふっ。なんだか、結婚してから少しだけ甘くなったような気がしてな」

 

「何言ってんだよ。俺は優しい夫になるために頑張ってるだけさ」

 

 ティーカップを片付けてから戻ってきた彼女は、楽しそうに笑いながら俺の隣に腰を下ろした。そのまま両手を俺の右手に絡めて、身体を寄せてくる。

 

 2人きりになると甘え始める彼女の癖は、3年前から変わっていない。俺も彼女に身体を寄せながら、左手で妻の頭を優しく撫でた。

 

 サラマンダーの外殻に覆われてしまった左手だったけど、エミリアは嬉しそうに微笑んでくれている。

 

「それにしても、出会ってから3年経ったなぁ・・・・・・」

 

「ふふっ、そうだな。あの時はお前を怪しい奴だと思っていたのだが・・・・・・」

 

 初めて出会った時、エミリアは俺の事をかなり怪しんでいた。そしてもう一度で会った時、彼女は話を聞きたいと言って俺の事を喫茶店まで連れて行ったんだ。

 

「でも、怪しい奴じゃなかったろ?」

 

「ああ、とても良い奴だった。ふふっ」

 

 彼女はそう言いながら微笑むと、頭を撫でていた俺の頬にキスをしてきた。顔を赤くしてしまった俺は彼女の頭を撫でるのを止め、左手で頭を掻き始める。硬い外殻で覆われた左手の指に、彼女のキスのせいで少しだけ伸びてしまった角が当たった。

 

 すると、エミリアも恥ずかしそうに顔を赤くしながら、長くなった俺の赤い髪に触り始める。元々は黒髪だったんだが、変異の影響で俺の髪はすっかり真っ赤に変色してしまっていた。

 

 エミリアは俺の赤い髪を弄ると、今度は俺の頭の上に手を伸ばし、少しだけ伸びた角に触り始めた。いつもより少し伸びていることに気が付いた彼女は、俺の顔を見てにやりと笑ってから、もう一度俺の頬にキスをしてくる。

 

 エミリア、落ち着いて。そんなにキスされたら角が伸びちゃうでしょ。

 

 さらに伸びた角に触りながら俺の顔を覗き込むエミリア。俺は顔を赤くしながら、お返しに彼女の唇を奪った。いきなりキスをされた彼女は驚いていたけど、彼女はすぐに俺の角から手を離し、両手を俺の背中に回して抱き着いてきた。

 

 そろそろ唇を離そうと思ったんだけど、エミリアはまだ離してくれないらしい。無理矢理離れるわけにはいかなかったので、俺も彼女の背中に手を回してから、彼女の身体を思い切り抱き締める。

 

 キスをしている間に、俺の角はどんどん伸びていた。彼女の背中から左手を離して角の長さを確認してみると、まるで戦闘中にキレた時のように伸びている。

 

 左手を彼女の背中に戻そうとしていると、エミリアが柔らかい唇をそっと離した。

 

「―――ふふっ」

 

 背中に回している両手は離さずに、そのまま俺の胸に顔を押し付けてくるエミリア。俺は左手を彼女の背中に戻し、再び彼女を抱き締める。

 

 このまま彼女を抱き締めていたかったんだけど、階段の方から足音が聞こえた瞬間、俺は彼女から手を離す羽目になった。他のメンバーにエミリアを抱き締めているところを見られるのは恥ずかしいし、もしエリスだったらそのまま襲われてしまうかもしれない。エミリアも俺の背中から手を離すと、ソファから立ち上がって俺の目の前に置いてあったティーカップを片付け始めた。

 

 俺は慌てて角に触れてみる。エミリアとキスをしていたせいで、俺の角はまるでダガーのように長さになっていた。しかも角が縮むには少し時間がかかってしまう。

 

 慌ててフードをかぶろうとするけど、当然ながら角が邪魔でかぶれない。角を強引に押し戻そうとしてみたけど、角が硬い上に先端部は鋭くなっているし、押し込もうとすると頭蓋骨を直接押されているような感触がする。そういえば、この角は俺の頭蓋骨が変異して突き出ているんだったな。つまりこの角は、俺の頭蓋骨の一部というわけだ。

 

 不便な角だ・・・・・・。

 

「あら、ダーリン。ここにいたのね?」

 

「お、おう、エリス。どうした?」

 

 左手で角を押さえ、苦笑いしながらエリスを見上げる。

 

 拙い・・・・・・。こんなに角が伸びているのを見られたら、絶対襲われるぞ。

 

 エリスは俺の伸びた角を見て一瞬だけにやりと笑った彼女は、ティーカップを片付けるためにソファから立ち上がったエミリアの代わりに俺の隣に腰を下ろすと、翡翠色の瞳で俺の顔を見つめながら言った。

 

「さっき、大通りにいた商人から話を聞いたの」

 

 彼女の声は、真面目な声だった。

 

「どんな話だ?」

 

 いつも俺やエミリアを襲おうとするエッチなエリスではない。俺も彼女の顔を見つめながら、どんな話を聞いてきたのか聞いてみることにした。

 

 転生者の情報だろうか?

 

「雪山の方で、大爆発があったらしいの」

 

「大爆発?」

 

 雪山で大爆発が起きただって? 魔物の仕業か? それとも誰かが炎属性の魔術でも使ったのか? 

 

「誰かが魔術でも使ったんじゃないのか?」

 

「それが、明らかに魔術の爆発じゃないらしいの。魔力は全く感じなかったらしいし、巨大な火柱と黒煙が大きなキノコみたいな形になっていったって・・・・・・」

 

「キノコ雲・・・・・・?」

 

 大爆発の後にキノコ雲ができた・・・・・・?

 

 俺は思わず、核兵器が爆発した直後に発生するキノコ雲を連想してしまった。ぞっとしながら俺はその物騒な連想をかき消し、先ほどまでティーカップが置かれていた真っ白なテーブルクロスを見下ろす。

 

 明らかに魔術の爆発ではないということは、誰かが核兵器を爆発させた可能性がある。この世界には銃や機械が存在しないのだから、当然ながら核兵器など存在するわけがない。

 

 そんな危険な兵器を使う事ができるのは、転生者しかいない。

 

 くそったれ。雪山で核実験でもやってるのか?

 

「・・・・・・ダーリン。まさかその爆発って、ダーリンの世界の兵器・・・・・・?」

 

「――――おそらくな」

 

 転生者は殆どが人々を虐げるようなクソ野郎ばかりだ。そんな奴らが核兵器を使ったら、間違いなくこの世界は滅んでしまうぞ・・・・・・!?

 

 なんてこった。ついに核兵器を使う転生者が現れるとは・・・・・・!

 

 

 

 

 

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