異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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浮かべてはならない感情

 

 ライフルグレネード1発とロケット弾2発の爆発が火炎放射器の燃料タンクを飲み込んだことで生まれた巨大な爆炎が、段々と黒煙へと変わっていった。あの巨大な爆炎が飲み込んだのは、俺よりもレベルが上の転生者。もちろん、ステータスも上だ。

 

 燃料の残っている燃料タンクを利用した大爆発に巻き込まれたとしても――――おそらく、あのオタクは生きている。さっきまで散々こっちの攻撃に耐えていたのだからあり得るだろう。

 

 俺はペレット・ダガーから空の薬莢を取り出し、再び小型のドラゴンブレス弾を装填しながら、黒煙へと変貌していく爆炎を睨み続けていた。

 

「!」

 

 その時、2人分の火炎放射器の燃料タンクを注ぎ込んで生み出した爆炎の中から、冷気を引き連れて蒼白い氷の槍が突き出たのが見えた。氷の槍が生み出す冷気が周囲を舞う火の粉を飲み込み、次々に消滅させていく。

 

 やっぱり、あのオタクは生きていた。ギュンターが「くそ、まだ生きてんのかよ!?」と言うのを聞きながら、俺は刀とダガーを構えなおした。

 

 氷が突き出て来たということは―――オタクは、ポリアフの力を使ったんだ。端末で生産可能な、氷を自由自在に操る氷の精霊。ギュンターに重傷を負わせた能力だ。

 

 でも、そのポリアフはフィオナと戦ってる筈じゃないのか? 彼女と戦っている最中ならば、オタクはポリアフの力を使えない筈だ。

 

「・・・・・・ふ、ふざけるなよ・・・・・・カスどもがぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 激昂したオタクの叫び声が聞こえ、次々に爆炎の中から氷の槍が突き出てくる。館の庭で燃え上がっていた巨大な爆炎はその氷の槍の群れに完全にかき消されてしまった。

 

 氷の槍が連なる氷山の前に、蒼い大剣を担いだオタクが立っているのが見える。そして彼の背後には、蒼いマントを纏った無表情の少女が、フィオナと同じように浮かんでいるのが見えた。

 

 まさか、ポリアフを呼び戻したのか!?

 

「しまった、ポリアフは・・・・・・!」

 

 フィオナにポリアフと戦ってもらい、オタクがポリアフの氷の力を使えない状態のうちに俺たちがあいつを倒す作戦だったんだけど、フィオナと戦っている筈のポリアフは、オタクの背後に浮いている。

 

 おそらく、俺のナパーム・モルフォたちと同じだ。俺のナパーム・モルフォは命令すれば仲間たちに追従し、炎の弾丸のフルオート射撃で援護したり、俺が指示した敵に空爆をお見舞いする事が出来る。王都でカレンを護衛した時にも、エミリアたちを援護するために1匹だけ彼女たちについて行かせていた。

 

 そして、そのナパーム・モルフォたちは、俺が命令すれば傍らに瞬時に呼び戻すことも可能なんだ。

 

 ポリアフもそれと同じように、オタクが命令したからあいつの傍らに呼び戻されたんだろう。ポリアフと戦っていたフィオナはナパーム・モルフォの力を借りた状態だったんだけど、彼女自身は俺が端末で生産した能力ではなく、あのネイリンゲンの屋敷に住んでいた幽霊だ。ナパーム・モルフォたちはすぐに呼び戻せるけど、力を借りた状態の彼女は呼び戻せない。

 

 拙いぞ。またあの氷の猛攻が襲いかかってくる!

 

「絶対に許さんッ! 氷漬けにしてやる! ―――ポリアフッ!」

 

「拙いッ!」

 

 オタクが蒼い大剣を静かに振り上げる。奴の大剣は、背後に鎮座している氷の槍のように冷気を纏っていた。

 

 さっきまでは冷気を纏っていなかった筈だ。おそらくあの冷気は、ポリアフの能力だろう。次にあいつがぶっ放す一撃は、ギュンターに重傷を負わせたような大技になるに違いない。

 

「このッ!」

 

「止せ、カレン! 回避するんだッ!」

 

 大技を繰り出されるのを阻止しようと、カレンがM14EMRで続けざまにオタクの顔面を狙撃し始める。でも、彼女の放つ弾丸は太ったあいつの頬や下顎にめり込むだけだった。

 

 俺はカレンに向かって叫んだけど、彼女はトリガーを何度も引き続けた。

 

「くたばれ、カスどもめッ!」

 

「!」

 

 オタクが叫びながら、振り上げた蒼い大剣を周囲の冷気ごと俺らに向かって振り下ろしてきた。当然、あのまま振り下ろしても大剣の刃は俺たちには届かない。でも、ポリアフが近くにいて彼女の氷の能力が使えるのならば、あいつが繰り出すのは遠距離攻撃に違いなかった。

 

 振り下ろされた大剣の刃はそのまま火炎放射器の燃料タンクの残骸が転がる石畳の上に叩き付けられ、石畳を簡単に粉砕する。俺たちに向かって牙を剥いてきたのは、その振り下ろされた際に大剣の刀身から剥離した何かだった。

 

 剥離された何かは一瞬だけ停滞すると、すぐにポリアフの力によって凍結させられ、氷の斬撃となって俺たちの方に飛来してくる!

 

 おそらく、大剣から剥離したのは水だろう。思い切り大剣を振り下ろして表面に生み出した水を剥離させ、それを一瞬でポリアフに凍結させてから放つ斬撃。さっきまで俺らと戦っていた時に出して来なかったのは、放つためにポリアフの力が必要だったからだろう。

 

 ポリアフがフィオナと戦っている間にオタクを倒す俺の作戦は、失敗だった。

 

「避けろぉッ!!」

 

「!」

 

 俺は刀とダガーを構えるのをやめ、すぐに右へと向かってジャンプした。サーベルを構えていたエミリアも左側へと飛び、カレンも射撃を止めて回避している。ギュンターは両腕のPKPをすぐに背中に背負うと、後ろにいたミラの手を引いてすぐに俺と同じく右にジャンプした。

 

 オタクの放った氷の斬撃は、左右に回避した俺とエミリアに冷気と恐怖を叩き付けてから後方にあった防壁に激突し、その防壁を簡単に切り裂くと、外に建っていた建物を次々に両断しながら消えて行った。

 

 でも、あいつの大技を回避することは出来た。今度はフィオナと合流して、ポリアフではなくオタクだけを集中攻撃してみるか。

 

 起き上がりながらオタクの方を睨みつけ、俺は次の作戦を立てる。フィオナとまたポリアフを戦わせても、あいつはすぐにポリアフを傍らに呼び戻すだろう。だったらオタクを集中攻撃するべきだ。

 

 武器のグリップを握りながら立ち上がった瞬間、オタクが振り下ろした剣を石畳から持ち上げ、今度は左から右へと振り払おうとしているのが見えた。

 

「なっ・・・・・・!」

 

 まさか、今の氷の斬撃をもう一発放つつもりか!?

 

 俺はオタクの大剣を睨みつけながらぞっとした。今、俺は振り下ろされた大剣から放たれた氷の斬撃を右へとジャンプして回避し、立ち上がったばかりだ。今すぐに放たれたら、回避できないだろう。

 

 こんなに続けて放てたのか!

 

 オタクがぞっとしている俺の顔を見ながら、ニヤニヤ笑っているのが見えた。おそらく、あいつは俺を狙っているだろう。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇッ! クズめぇぇぇぇぇぇぇッ!」

 

「クズは・・・・・・てめえだろうがッ!」

 

 オタクが大剣を横に振り払い、俺に向けて氷の斬撃を放った。

 

 さっきと同じように大剣の刀身から水が剥離し、一瞬でポリアフによって凍結させられ、斬撃として俺に向かって突っ込んでくる。まだ俺に命中していない筈なのに、冷気が既に俺の頬に襲い掛かっていた。

 

 さっき回避してから立ち上がったばかりだ。間違いなく、この一撃は回避できない。

 

「力也ぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

「力也、避けてぇぇぇぇぇッ!」

 

 無理だ。もう、刀でガードするしかない。

 

 あの斬撃はさっき、防壁と外に建っていた建物を簡単に両断していた。この93式対物刀はゴーレムを外殻ごと簡単に両断するほどの切れ味を持つ刀だけど、あの斬撃をこの刀でガードできるんだろうか?

 

 俺は賭け事はやらない主義だけど、これしか選択肢は残っていなかった。一か八か、刀であの強烈な斬撃をガードするしかない!

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

「93式対物刀か・・・・・・。ひひっ。確か、攻撃力800未満の転生者が使うと危険だって書いてあった刀だよなぁ?」

 

 刀で斬撃をガードしようとしている俺の目の前で、ニヤニヤと笑いながらオタクが喋りだした。

 

「そんな弱すぎる刀で、この僕の攻撃をガードできるわけないだろぉッ! レベルが低い雑魚が! そのまま両断されて死ね! ひひひぃっ!!」

 

「くそ・・・・・・!」

 

 トリガーを引いて12.7mm弾を利用した一撃で、あの氷の斬撃を両断してみるか? でも、タイミングが合わなければ俺は両断されてしまうし、刃が氷の斬撃に叩き付けられた瞬間にこっちの刀身がへし折られてしまうかもしれない。

 

 更に賭けるべきなのか? それとも、このままガードするべきなのか?

 

「!」

 

 もう、このままガードするしかないようだった。今すぐに刀を振り上げ、トリガーを引いて12.7mm弾を刀の内部で爆発させても、もう間に合わない。

 

 俺はオタクを睨みつけながら、歯を食いしばって刀でガードする準備をする。

 

 俺が装備している刀は攻撃力のステータスが800未満の転生者が使うと危険だと説明文に表示されていた刀だ。レベル45のオタクにとっては、弱い刀なんだろう。

 

 確かに、そんな刀でレベル45の転生者の攻撃をガードできるのか? 

 

 氷の斬撃と共に、強烈な冷気と恐怖が近づいて来る。ガードできなかったら俺はあの斬撃に刀ごと真っ二つに両断され、死んでしまう。

 

 その時、俺の目の前に漆黒のオーバーコートに身を包んだ小さな人影が見えた。

 

「え・・・・・・?」

 

 今回の依頼では迷彩模様のオーバーコートを着ているけど、いつもの依頼で俺が身に着けるのはフードの付いた漆黒のオーバーコートだ。俺がいつも着ている制服と同じデザインのオーバーコートに身を包んだ小さな人影は、俺の前に立つと、鎌の刃が搭載されているアンチマテリアルライフルから手を放し、両腕を広げた。

 

 冷気の中で、毛先だけが紅い黒髪が揺れる。

 

『力也さん』

 

 優しい声だった。初めて、あの屋敷で俺の前に現れた時と同じだ。

 

 金縛りになって怖がる俺に、あの時も彼女は優しく言ったんだ。

 

『―――死なないでください』

 

 いつの間にか、近づいて来る恐怖は消し飛んでいた。漆黒のオーバーコートに身を包んだ黒髪の幼い少女が、ゆっくり俺の方を振り向きながら微笑む。

 

 恐怖が消滅したのはきっと彼女のおかげだ。そして彼女は、俺に向かって突っ込んでくる氷の斬撃の前に立ち、自分と引き換えに俺を守ろうとしているんだ。

 

「だ、ダメだ―――」

 

 その時、冷気の進軍が突然止まり、俺の方を見ながら微笑んでいた彼女の小さな体が揺れた。

 

 鮮血の代わりに、彼女の体から火の粉が吹き上がる。彼女の頭に髪飾りのように止まっていた炎の蝶が、まるで落ちていく線香花火のように弱々しく火の粉を残しながら、彼女の頭から石畳の上に落下して砕け散る。

 

 俺を守るために、小さな体で防壁を簡単に両断した斬撃を受け止めた幼い少女は―――俺に向かって微笑みながら、ゆっくりと仰向けに崩れ落ちた。

 

「フィオナ・・・・・・・・・?」

 

 身に纏っていた漆黒のオーバーコートが消えていき、彼女の黒髪もいつもの真っ白な髪に戻っていく。

 

 俺は氷の斬撃が突き刺さっている傷口から真っ白な光を出しながら段々と消えていく彼女を見下ろしながら、刀とダガーから手を放した。

 

『力也さん・・・・・・』

 

「フィオナ・・・・・・おい! フィオナッ!」

 

 彼女の小さな体を揺すりながら、俺は叫んだ。

 

 真っ白な光を発し、彼女の体が消えていく。もう下半身は消滅してしまっていて、段々上半身も消え始めていた。

 

 このままでは、ネイリンゲンの屋敷で出会った幽霊の少女が消滅してしまう。俺たちのギルドの大切な仲間が、消えてしまう。

 

『死んだら・・・・・・エミリアさんたちが・・・泣いちゃいますよ・・・・・・・・・』

 

「馬鹿・・・・・・! お前が死んでも・・・エミリアたちは泣いちまうだろうが・・・・・・・・・!」

 

『えへへ・・・・・・。私は幽霊ですよ・・・・・・? 100年前に・・・・・・病気で死んでるんですよ・・・・・・?』

 

 段々消えていく彼女の体を抱えながら、俺は片手で涙が流れる前に拭い去る。

 

「エミリア! カレン! だ、誰か、魔術で彼女を・・・・・・!」

 

『無理ですよ・・・・・・。私は幽霊です。肉体は・・・・・・もうないから・・・・・・魔術じゃ、治らないんです・・・・・・』

 

「そんな・・・・・・! 何でだよ・・・・・・フィオナ・・・・・・!」

 

 もう、彼女の体は胸まで消えていた。光を発しながらフィオナの小さな左腕が崩れ落ち、落下しながら消えていく。

 

 フィオナは『泣いちゃダメです・・・・・・』と言いながら、消えかけている右手で俺の涙を拭ってくれた。

 

『力也さん・・・・・・優しくしてくれて・・・・・・ありがとうございました・・・・・・・・・。さようなら・・・・・・・・・』

 

「フィオナ―――」

 

 彼女の右腕が消滅し、ついに残っていた胸と頭も真っ白な光を発しながら消えていく。俺は彼女を抱きしめようとしたけど、俺が触れる事が出来たのは、可愛らしい彼女の体ではなく、彼女が消滅しながら発していた真っ白な光だった。

 

 その光は、きっと彼女の残骸なんだ。

 

 その残骸も、消えてしまった。

 

「嘘だ・・・・・・・・・」

 

 彼女を抱きしめようとした俺の右手には、涙が落ちた跡が残っていた。きっと、この涙は俺の涙ではない。俺を助けてくれたフィオナが、消滅する前に笑顔を浮かべながら流した涙だ。

 

 残ったのは、この涙の跡と、石畳の上に落ちている彼女が使っていたアンチマテリアルライフルだけだった。

 

 俺は恐る恐る端末を取り出すと、震えながら電源をつけた。

 

 彼女がナパーム・モルフォから力を借りている間ならばエラーと表示されいる筈の端末の画面には、いつも通りに3つのメニューが表示されているだけだった。まるでこの端末まで、フィオナは消えたと言っているように思えた。

 

 本当に、フィオナは消えてしまったんだ。

 

「フィオナ・・・・・・・・・!」

 

 俺は端末を震えながらポケットに戻すと、ゆっくりと彼女が使っていたゲパードM1を拾い上げた。ホルダーにある弾丸は、まだ1発も使われていない。

 

「―――あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

「うるさいんだよ、クズが。・・・・・・ああ、せっかく彼女も僕の奴隷にしようと思ってたんだけどな。消えちゃったか」

 

「ッ!」

 

 オタクがニヤニヤ笑いながら言ったのを聞いた瞬間、俺はポリアフを引き連れて立っているブタ野郎を睨みつけていた。

 

 俺の中に浮き上がっていた怒りが、段々と別の感情に組み替えられていく。

 

 俺を殺した車上荒らしに俺はキレたことがあったけど、あの時の怒りとは全く違う。きっとこれは絶対に浮かべてはならない感情だ。

 

「・・・・・・止めは、ギュンターに刺させるつもりだった」

 

「はあ?」

 

 ギュンターはこのブタ野郎のせいで仲間を失い、妹も二度と声を出せなくされたんだ。だから俺は、こいつを倒したら止めはギュンターに刺させるつもりだった。

 

「だが・・・・・・俺にもお前をぶっ殺す理由が出来たッ!」

 

 俺は涙を流しながら、フィオナが使っていたゲパードM1の銃口をブタ野郎に向けていた。

 

 俺が浮かべた感情は――――殺意だった。

 

 

 

 

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