異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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7対2の戦争

 

 兵員室のハッチにある窓の外には、帝都の無数の夜景に照らし出された白い巨大な時計塔が見えている。この帝国がかつてレリエル・クロフォードに惨敗するよりも前からあそこに鎮座している、ホワイト・クロックという時計塔だった。

 

 このスーパーハインドのターレットに装備されたセンサーのおかげで、もうレリエルとアリアがどこにいるのかは分かっていた。あの2人がいるのは、宮殿の近くに鎮座するあのホワイト・クロックの中だった。

 

『そろそろです。ハッチを開きます』

 

 無線機から聞こえてきたのは、スーパーハインドを操縦しているミラちゃんの声だった。でも、まだこのヘリはホワイト・クロックまで到着していない。ここでヘリから下りれば、ホワイト・クロックまで銃をいくつも背負って歩く羽目になる。

 

 でも、これは信也君の作戦だった。ここでこのヘリから下りるのは、私とギュンターの2人だけになっている。

 

 私は開いた兵員室のハッチから誰もいなくなった帝都の大通りを見下ろす。下に見えるのは橙色の光で誰もいない大通りを照らし出している街灯たちの隊列と、スーパーハインドが機体の下に吊るしている巨大な金属製のコンテナだった。

 

『コンテナ、投下!』

 

 コンテナに繋がっていたワイヤーが千切れ、スーパーハインドが運搬していたコンテナはそのまま千切れたワイヤーの残骸と共に落下していくと、大通りの脇にあった大きな建物の庭に墜落し、芝生と花壇を滅茶苦茶にしながら土煙を上げた。

 

 そして、ホワイト・クロックに向かっていたスーパーハインドも速度を落とし、コンテナを投下した建物の庭の上でホバリングを始める。

 

「行くわよ、ギュンター」

 

「おう!」

 

 兵員室の椅子に腰を下ろしていたギュンターは、ニヤリと笑いながら立ち上がると、私の隣でスーパーハインドが高度を落とすのを待つ。

 

 私たちはここでスーパーハインドから下りて、あのコンテナの中に入っている装備を使ってアリアの相手をする。そして力也たちはホワイト・クロックに向かい、ミラちゃんと信也君が操るスーパーハインドに援護してもらいながらレリエルと戦い、彼を撃破するという作戦だった。

 

「血を吸われた借りを返してあげるわ」

 

「ああ」

 

 私の首筋にあった筈の傷はもうフィオナちゃんの治療のおかげで完治している。フィオナちゃんは力也たちと一緒にレリエルと戦う事になっているから、彼女に治療してもらう事が出来ない私たちのために、フィオナちゃんは私とギュンターにエリクサーを多めに持たせてくれている。

 

 アリアはかなり強力な再生能力を持っている吸血鬼だけど、信也君はちゃんと彼女を倒すための作戦も考えてくれている。私は高度を落としたヘリのハッチから建物の庭に飛び降りると、後ろを振り返ってヘリの兵員室を見上げた。

 

 兵員室に残っている力也たちは、これから伝説の吸血鬼と戦いに行く。私とギュンターが戦うアリアよりも遥かに強力な伝説のレリエル・クロフォードとの戦いに行くの。

 

 でも、きっと彼らは勝利して帰って来てくれる。私はヘリから飛び降りてきたギュンターと一緒に、再び高度を上げていくスーパーハインドに向かって手を振った。

 

「勝ちなさいよ! いいわね!?」

 

「当たり前だ!!」

 

 兵員室のハッチから私たちを見下ろしながら叫ぶ力也。彼の隣で、フィオナちゃんとエミリアも私たちに向かって手を振ってくれている。

 

「―――カレン」

 

「なに?」

 

「絶対に勝とうぜ」

 

「当たり前じゃないの」

 

 手を振るのを止めながらギュンターにそう言った私は、庭に投下されたコンテナの方に向かって歩き出す。

 

 ヘリから投下されたコンテナの中に、アリアを倒すための装備が全て入っている。私はコンテナの金具を外して蓋を開くと、ホワイト・クロックへと向かって飛んでいくヘリを見送るギュンターを呼んだわ。

 

「ほら、早く準備しなさいよ」

 

「はいはい」

 

 ギュンターは笑いながら私に返事をすると、コンテナの中から大型のライフルを取り出して私に手渡して来たわ。

 

 私が彼から受け取ったのは、力也が用意してくれたボルトアクション式アンチマテリアルライフルの『アキュラシーインターナショナルAW50』。力也がエミリアとオルトバルカ王国まで逃げてくる時に使っていたバレットM82A3と同じ12.7mm弾を使う、強力なアンチマテリアルライフルだった。いつもセミオートマチック式のマークスマンライフルばかり使っているんだけど、ボルトアクション式のライフルもたまに使って訓練しているから、全く使い方が分からないわけではない。

 

 ライフル本体の左側には力也のOSV-96に搭載されているものと同じ狙撃補助観測レーダーが装備されていて、このアンチマテリアルライフルの射程距離内の敵の位置が分かるようになっていた。

 

 私はAW50を背中に背負うと、コンテナの中に入っていたホロサイト付きのMP5Kを拾い上げ、制服の腰の右側に用意されたホルダーの中に納めておいた。

 

 もちろん、私が装備したアンチマテリアルライフルとSMG(サブマシンガン)に装填されている弾丸は銀で出来ているわ。

 

「カレン。これはどこに設置するんだっけ?」

 

 私の隣で巨大な銃と台座が合体したような外見の武器を次々に外に引っ張り出していたギュンターが、マガジンの点検をした私に質問して来る。彼がコンテナから引っ張り出していたのは、ブローニングM2重機関銃とセンサーを搭載したターレットたちだった。この重機関銃が使用する弾薬も、AW50と同じく12.7mm弾になっているわ。

 

 アンチマテリアルライフルに装備されている狙撃補助観測レーダーで攻撃する目標を指示できるようになっているみたいね。

 

「えっと、1階の北側にある窓の近くに1つ設置して。反対側にある部屋にも1つお願いね。私は2階に設置しておくわ」

 

「おう!」

 

 用意されたターレットは5つ。この5つのターレットたちと一緒に、私とギュンターはアリアと戦う事になるわ。

 

 血を吸われた借りを必ず返す。私はターレットを何とか持ち上げると、それを2階へと向かって運び始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『間もなく、ホワイト・クロック上空に到達します。降下準備を』

 

「了解だ」

 

 もう一度銃身の右側のカバーからナイフ形銃剣が展開するか確認すると、俺は制服のポケットの中のマガジンをちらりと見てから段々と開き始める兵員室のハッチを睨みつけた。レリエルがどのような攻撃をしてくるかは分からないが、もし接近戦を挑んでくるならばアサルトライフルからアンチマテリアルソードに持ち替えている時間はないだろう。だから、ナイフ形銃剣が正常に展開できるかどうかのチェックはかなり重要だった。アンチマテリアルソードの刀身よりもはるかに短いこの漆黒の銃剣が、吸血鬼を迎え撃つ事になるかもしれないからな。

 

 俺が持っている銃はこのSaritch308ARと、ホルスターの中のプファイファー・ツェリスカと、背中に背負っているOSV-96の3つだ。OSV-96は遠距離狙撃用の武器なんだが、ロケットランチャーを装備している上にキャニスター弾を装填することもできるため、装備しておくことにしたんだ。近距離武器はアンチマテリアルソードと小太刀とブーツナイフの3つだ。手榴弾も持ってきたんだが、俺が持ってきたのは普通の手榴弾ではなく、ソ連製対戦車手榴弾のRKG-3だった。中には爆薬と吸血鬼用の水銀が入っているため、カスタマイズする前よりも重くなっている。

 

 エミリアが持っている銃はSaritch308ARと、腰の後ろのホルスターに納まっている2丁のロシア製SMG(サブマシンガン)のPP-2000の2つだ。彼女のアサルトライフルの銃身の下には、小型化されたロシア製ショットガンのサイガ12が搭載されている。銃身の右側に搭載されているのは、俺と同じくナイフ形銃剣のカバーだった。彼女が持つ近距離武器は、バスタードソードと俺がプレゼントしたチンクエディアの2つだ。

 

 フィオナも俺たちと共にホワイト・クロックに突入してもらうことになっている。彼女の役割は魔術で俺たちを援護することだ。そのため、フィオナが装備している銃はSaritch308PDWだけで、それ以外の装備はC4爆弾と灯の杖だけになっている。

 

「武器にこれを付けておけ」

 

 俺は端末を取り出して特殊なライトを3人分生産すると、武器を点検していた2人に手渡した。

 

『ライトですか?』

 

「紫外線を放つ特殊なライトだ。これで照らしてやれば、吸血鬼は日光に照らされている時と同じ状態になる」

 

「なるほど。ありがたいな」

 

『兄さん。そろそろ上空だよ』

 

「おう」

 

 ハッチの外には、ホワイト・クロックの頂点が既に見えていた。スーパーハインドはゆっくりと速度を落とし始めると、ホワイト・クロックの頂点に少しずつ近づいていく。

 

 この時計塔の中に、伝説の吸血鬼がいる。

 

 かつてこの帝都を壊滅させ、世界を300年間も支配した最強の吸血鬼だ。

 

 間違いなく俺が今まで倒してきた転生者よりも手強いだろう。

 

 そいつを倒せるのか? 真っ白な時計塔をヘリの兵員室から見下ろしながら、俺はその塔に舞い降りようとしている自分に問い掛けていた。

 

 奴と一緒に行動しているアリアは、ギュンターたちに心臓を何回も吹き飛ばされても再生してすぐに襲い掛かってきたらしい。レリエル・クロフォードも間違いなく再生能力を持っている筈だ。しかも伝説の吸血鬼なのだから、彼女よりも再生能力は更に上だろう。

 

 でも、エミリアとフィオナも一緒に戦ってくれる。それに、信也が考えてくれた作戦もあるし、ミラが操縦するこのスーパーハインドが俺たちを援護してくれる。怖がってる場合じゃない。

 

「よし、降下する!」

 

『幸運を!』

 

 俺はアサルトライフルを腰の後ろに下げると、兵員室から時計塔に向かって飛び降りた。飛び降りながら素早く小太刀を鞘から引き抜くと、それを時計塔の屋根に突き刺し、柄を握りながらエミリアたちが降下してくるのを待つ。

 

 スーパーハインドから飛び降りたエミリアもバスタードソードを天井に突き刺して柄を握り、先に降下していた俺を見てニヤリと笑った。

 

 フィオナは自由に空を飛ぶ事が出来るため、俺たちのように剣を天井に突き刺す必要はない。スーパーハインドのハッチから飛んで俺たちの傍らへとゆっくり下りて来たのを確認した俺は、まだ上空でホバリングしているスーパーハインドのキャノピーに向かって手を振った。

 

 迷彩模様のスーパーハインドのキャノピーの中で、ミラと信也も俺たちに向かって手を振っている。

 

「フィオナ、C4爆弾を!」

 

『了解です!』

 

 持っていたC4爆弾を取り出したフィオナは、俺とエミリアから離れた場所に爆弾を1つ設置すると、起爆装置を準備しながら設置した場所から離れる。

 

 このホワイト・クロックは頑丈な建物のようだが、C4爆弾ならば簡単に大穴を開ける事が出来るだろう。

 

『起爆します!』

 

 爆弾から離れたフィオナは叫ぶと、右手に持っていたC4爆弾の起爆スイッチを押した。

 

 ホワイト・クロックの天井に設置されたC4爆弾が生み出した爆風が、時計塔の真っ白な天井を吹き飛ばす。爆発で砕け散った天井の破片が爆炎と共に舞い上がり、風でどこかに吹き飛ばされていく。

 

「突入!」

 

「いくぞ!」

 

『はい!』

 

 フィオナが起爆したC4爆弾は、やはりホワイト・クロックの天井に大穴を開けていた。俺はすぐに天井から小太刀を引き抜くと、爆炎で焦げた大穴の周囲に向かって放り投げ、そのまま穴の近くまでワイヤーを使って移動する。エミリアもバスタードソードを引き抜いてから屋根の上を突っ走り、穴の近くまでやって来ると、バスタードソードを鞘に戻してからアサルトライフルを取り出した。

 

 ライトのスイッチを入れてから、俺はC4爆弾で吹っ飛ばされた天井の大穴に飛び込んだ。大穴の真下にあった作業用の通路に着地した俺は、俺の後に上から飛び込んでくるエミリアに踏みつけられないようにすぐに穴の真下から移動すると、ナイフ形銃剣を展開し、時計塔の中をライトで照らしながら警戒する。

 

「・・・・・・上手く突入できたな」

 

「ああ」

 

 俺はフィオナと一緒に飛び降りてきたエミリアに言うと、再びライトで通路を照らしながら警戒を続けた。

 

 通路の左右にある手すりの向こうでは、巨大な時計を動かすための無数の金属の歯車たちが、ぶつかり合う音を立てながら回転を続けている。通路の後ろの方には下から上ってくるための階段があるようだ。前方にあるのは、帝都を見下ろすための大きな窓のようだった。

 

 その窓の前に、2人の人影が見えた。片方は真っ白な上着とミニスカートに身を包み、背中に白いマントを羽織った金髪の少女だ。路地で俺が戦った吸血鬼の少女だろう。

 

 彼女の隣に立っているのは、漆黒のコートに身を包んだ30代くらいの男性だった。彼は紫外線を放つ特殊なライトで照らされても俺たちの方を振り返らず、黙って窓から帝都を見下ろしている。

 

 あの男が、レリエル・クロフォードだろう。

 

 かつてこの帝都を壊滅させ、世界を支配した伝説の吸血鬼だ。

 

「――――招待状はありがたく受け取らせてもらった」

 

 レリエルは帝都を見下ろしたまま、銃口を向けている俺たちに向かってそう言った。俺は既にホロサイトを覗き込んで照準を心臓の辺りに向けているというのに、レリエルは俺たちの方を振り向かない。

 

「最高の決戦を始めようか。――――人間」

 

 黒いコートを身に纏ったレリエルは、腕を組むのを止めると、静かに後ろを振り向いた。時計を動かすための巨大な歯車が並ぶ部屋の中で、かつてこの帝都を滅ぼした吸血鬼の王が笑う。

 

 俺はホロサイトの向こうで笑うあいつの顔を見てぞっとしていた。

 

 間違いなく、こいつは転生者よりも強い。レベル300以上の転生者がこいつに挑んでも瞬殺されてしまうだろう。

 

 こいつは大昔に無数の眷族を引き連れて、人間たちと戦った。騎士団や勇者を次々に返り討ちにし、大地を鮮血と亡骸だらけにしてしまった最強の吸血鬼なんだ。

 

 この伝説の吸血鬼に、火薬の臭いと弾丸の破壊力を教えてやる。

 

 俺はアサルトライフルのグリップを握りしめると、ホロサイトの向こうのレリエルを睨みつけた。

 

 

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