ゲームがいつ終わるのかは分からないけど、通知で「数週間」と言われてから一週間経過したからざっくり二週間強ってところじゃないだろうか。
それにしてもよく続けてきたもんだ。明確な終わりがないゲームとはいえポケモンもモンハンもスマブラも半年くらいで放置していたのに、艦これは二年以上もやっている。そりゃあ最も熱を持っていた時と比べたら惰性でやっている感じがあるけど未だに楽しんでいる。
パズドラと違ってログインだけってこともない。まあログインボーナスの有無とデイリーっていう違いがあるから比べるのは少し無理があるかもしれないけど。
ともあれこれだけの期間やってきたゲーム、終わると分かってしばらく経つと「仕方ないよな」という思いがある。
参加できるイベントには全部参加して、15夏は初めて全甲を目指して、EOクリアで手に入る勲章溶かして、補給すらできなくなったから寄せ集めで艦隊を組んで出撃して、結局ボス前撤退したりとか。
次からのイベントは15夏ほどの苦戦とは程遠くて拍子抜けしていた、札があったから色んな艦娘を使うことが出来たなあ。
でもそれももう終わりか、なんだかあっけないな。
『……は大丈夫です』
何かが聞こえる。聞き覚えのある声とセリフだ。
『今度は衝突しないって』『ハラショー』
冗談交じりの言葉や口癖だ、何回聞いたか分からないセリフだ。
『俺に勝負を挑むバカはどいつだ?』『艦載機の整備を手伝って』『勝利が私を呼んでいるわ!』『魚雷、撃ちますよ』『司令官、ご命令を!』『僕に興味があるのかい?』『伊号潜水艦の力、見ててよね』『いっちばーん!』『データ以上の方ですね』『ヒャッハー!』『なんだ・・・提督か』『歴戦の空母なんよ』
右も左も分からなかった時期から世話になって、今もなお世話にならないと何もできないくらい頼りにしている艦娘たちの声が聞こえる。
どいつもこいつも思い出と思い入れとこだわりと、自分の艦これを語るうえで外せないやつらばっかりだ。
そんな奴らとの別れがこんな形で、これで終ってしまって本当にいいのか?
ゲームが終わるんだからそこに出ている人物とお別れなのは仕方ない、でも本当にどうしようもないのか?
『さては私と夜戦したいんだなあ?』
唯一指輪を渡した艦の声が聞こえた。
『『『『『艦これ、始まります』』』』』
同じセリフ、違う声がたくさん聞こえる。
『――――――――――』
彼女の声が、言葉が聞こえた。声の主が近くにいる気がしてそっちに手を伸ばす。
「――――――」
何かを言って彼女に触れた気がした。
「…………」
自分の部屋の天井が目に写った。右を見ても左を見ても起き上がっても自分の部屋でしかない。
「なんつーか、ずいぶんな夢を見たなあ」
伸ばした手を見ても変なところはない。握って、開いて、また握って、また開いた。
夢で触れた感触を思い出して感じるように繰り返すけど何も感じない。
自分の手を静かに見ていると今の自分について考えてしまう。時計の針が動く音と雨の音が部屋で反響している気がする。
あと二年もしたら就職しなければいけないのにどんな企業に就きたいのかも決まっていない。なりたい編集者は出身大学的に無謀で、卒業してからのイメージが全く湧かない。
「何してんだろ俺……」
唐突に現実を見つめなおして凹んでしまった。
「就活とか嫌だぁ・・・生活できるならバイトだけでいいよぉ・・・」
さっきまで艦これのことを考えていたのに就活についてよぎっただけでテンションがダダ下がりになった。
現実問題として就職したら当然家賃やら光熱費やらガス代・水道代などは自分で払うことになる。
というか大学卒業したら就職するしない関係なくしないといけない。食費だって例外じゃない。
そうなると就職しないのは無謀だ。
「久々に散歩するか」
雨もドシャ降りってわけでもないし気分転換にはなると思う。
都会と呼ぶには程遠い町を目的もなく歩いた。音楽を聞く気にもならず、雨が傘に弾かれる音をBGMにして歩きつづける。
(どうしたもんかな)
中学受験以降は幼馴染との遭遇が全然なくなってすれ違っても忘れられていることがあった。
前に学校帰りのバスで小学校の時の同級生2人に「よお」って声かけたら一緒になって「あいつ誰?」とか聞こえる声量で相談していたな。
(俺も名前は憶えてねえけど顔くらいは何となく覚えてるのに・・・)
おかげで外出して遭遇しても声をかけるのが怖い。
指先が冷えてきた気がして、パーカーのポケットに傘を持っていない左手を突っ込む。
「…………ん」
向かいから一組の親子が歩いてきた。20代半ばくらいの母親と思われる女性と・・・たぶん10歳くらいの娘さんと思われる少女だ。
親子はとても似ていて「かわいい」というよりも「美人」というほうが適切な気がする。すらりとした体つきで華奢、ガラス細工のような儚さを感じる。
肩の辺りでそろえられた黒髪は相合傘している白い傘が際立たせている。
二人ともビニール袋を持っているからたぶんスーパーとかで買い物した帰りなんだろうか。
(朝潮と加賀さんがリアルにいたらあんな感じの雰囲気なのかな)
リアルと二次元を当てはめて「何を考えてるんだおれはー」とか心の中でぼやく。
あんまりガン見して通報されたら嫌だから視線を真正面に移す。
水たまりをわざわざ踏んだりしないでだらだらと目的もなく歩く。
年度末の夕方、天候は雨、人とはほとんどすれ違わない。
たまにおっさんとか運動部のランニングとすれ違ったけどそれくらいだった。
気分転換に散歩してみたけどやっぱり何も変わらないし何も決まらない。
気まぐれに手を傘の外に出して小雨だなと色んなものから逃避した思考ばかり頭をめぐる。
「……帰るか」
思った以上に何にもならなくて失望すらなかった。
家に帰って課題があるのを確認したけど提出が最初の授業だから見なかったことにした。部屋の本棚に入っている小説をざっと見てみたけどぶっちゃけどれも見る気にならない。結局いつものようにパソコンを開いてしまう。
「ただいま」
『おかえりなさい』
そしてやっぱり艦これを開いてしまう。しょっちゅうログインして外出してなんてのを繰り返してるから明石も慣れた感じで返す。
デイリーをこなすべく出撃希望者一覧を見てどこの海域に行くか考える。
『結局どうするか決まったんですか?』
「へ?」
頬杖をついていた手がずれて顎を打ちかける。
「き、決まったって何が?」
びっくりして声が若干上ずった。昔遊んでて顎を切ったことがあるから少し怖い。
『艦娘を一人選ぶかどうかって話ですよ。提督の台所事情は知らないですけど、決めるのは簡単じゃないでしょう?』
「あー」
そっち方面のことは何とかならなくはない。でもずっと養えるかというと、ずっと一緒にいられるかというと、どうにも踏ん切りがつかない。
「選ぶことは決めたんだ、でも誰を選ぶかまでは決まってない」
『さいですか』
聞いておいて気の抜けた返事だ。気まぐれに振っただけの話題らしい。
(おーぷんとデイリー済ませながらSSの続きでも書こうかな)
別タブを開いて渋や笛を開こうとする。
『選ぶならちゃんと腹をくくってくださいね』
真摯な目と顔で明石が言った。
『あなたの選択次第で人間一人がどうなるか確定してしまうんです。選ぶことで人として生きることになるんです、あなたの選択肢は人間を生かすことに直結しているんです。一人の人生を背負う覚悟、半端なままでは許されませんよ』
話す内容はめちゃくちゃ重かった。「艦娘の一人と一緒にいられる」くらいの気持ちでいたヘタレには大学の単位よりも重い現実を突きつけられた感じだった。生計くらいは真剣に考えていたけど「人の人生を背負う」なんて大それた考えは少しも頭をかすめなかった。
「……肝に銘じておくよ」
SSを書く気が失せて開いた別タブを閉じる。いつものようにおーぷんを開きながら艦これのデイリー任務をこなして思う。
(俺は……舐めているんだな、人間一人の人生を決める重さを。現実離れしているとしても軽くとらえていい問題じゃない)
前に作成した生活費についてまとめてあるエクセルを一瞥して考える。
(俺は考えないといけない問題を間違えてるのかもしれないな)