奉仕部ぐらし‼︎   作:秋乃樹涼悟

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当たり前は続かない。

日常とは凄いもので、今までそれは非日常に当たるものすら日常になる。

今こうして奉仕部でのどかに雪ノ下が淹れてくれた紅茶を飲んでいるが、窓の外は地獄絵なわけである。

まあ俺のいつもの席からでは窓の外は見えないし、雪ノ下は窓に背を向けて座っている。それは現実から目を向けているようにも今なら思う。

 

「せんぱい、なんか面白い話して下さい〜」

「一色、それは俺に一番求めてはいけないやつだ」

「そうね。比企谷君は存在自体が面白くなくて捻くれているからどうしようもないわね」

 

存在自体を否定されてしまった。いや流石にちょっと酷くないですかね?

ほらあれじゃん?今の状況としてはやっぱり生き残りって大切じゃん?生きてるって幸せなことなんだよ?

 

「やあ諸君、生きているかね?」

「やっはろー!見回り行ってきたよ〜」

 

こんな世界になった今、生きているかなんてことは笑い事ではない。

 

「ご苦労様です。平塚先生、由比ヶ浜さん。…私と一色さんは大丈夫なのだけれど、比企谷君はどうかしら?目が腐っているというか死んでいるようだから、『彼ら』のようになってしまっているのかもしれないわ」

「せんぱいいつの間に噛まれたんですか⁉︎」

「俺が噛まれるわけないだろ」

「そうね、比企谷君は引きこもりだものね。ごめんなさい」

 

こういう時だけ素直に謝るなよ。しかも謝るポイントはそこではないし、雪ノ下も一色も俺をからかうのやめてくれませんかね?まあ慣れてはいるけれど。

 

「由比ヶ浜、雪ノ下、今度とも比企谷の監視を頼む。最悪の場合は私は比企谷に…ファーストブリットを、いや、撃滅のーー」

「絶対嫌ですから。あれどんだけ痛いと思ってるんですか?」

 

今こうやって笑い合っているが近いうちにきっと、笑えなくなってしまそうなこの状況に、静かな絶望が広がる。

この広がってしまった絶望の中で俺たちはどうやって希望を見出していけばいいのか。いつ俺が本当に『彼ら』の様になってしまうかもしれないという恐怖も拭えない。

小町たちのことも心配で仕方がない。俺だけじゃない、ここにいるみんなも同じように不安で怖い。

 

「さてと君たち、奉仕活動の時間だ」

 

平塚先生がこうして部活として生活していることが、俺たちにとって救いだった。

 

 

 

 

【事故当日の朝】

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃん!ほら起きて学校でしょ?」

 

朝っぱらからマイエンジェル小町が俺を叩き起こす。小町はもう制服を着ていて、今が何時なのかはなんとなくわかった。

 

「…眠い」

 

毛布を頭まで被り無駄とわかりつつも抵抗してみる。小町はベットに立ち、俺の体があるであろう場所を踏み付け、そして捻る。

俺が変態なら快感を感じてしまうであろうそのプレイは今はただ痛いだけであっだ。

 

「早く起きないと遅刻するでしょうが?」

「うっ、痛い痛いです小町さん…」

 

更に体重を乗せてグリグリと踵をねじ込められる。

ちょこんと顔だけ出すといい感じにスカートの中が見えそうなのである。と言っても普段から下着姿などは見ているため興奮したりはしない。

小町と目がニッコリと笑った。

 

「おはようお兄ちゃん。お兄ちゃんの大好きな小町ですよー!」

「そうだな、愛してるぞ小町…」

 

愛してるぞと言いつつ再び顔を毛布の中に引っ込めた。

 

「なっ!朝一で愛してるなんて、お、お兄ちゃん…って寝るなー!」

 

朝から表情の忙しい妹だなと思いながら小町に引っ張られてリビングへと向かった。向かう最中小町はプンスカ怒っていて可愛いかったのでまあいい目覚めになったと言える。

 

「小町〜テレビつけてけろ〜」

 

テレビのリモコンが小町の近くにあり、俺のところからではギリギリ届かないためお願いしたのだが、

 

「それがさ、なんかテレビが付かないんだよねー。なんかの故障かな?」

 

もう一度試しにとリモコンの電源ボタンを押す小町だがテレビはピクリともしない。故障の原因が分からないが付かないのであれば仕方ない。

 

「帰ったら親父に見てもらうか…それからだな」

「そうだね。……ごちそうさま。小町今日は先に行くね」

「おう」

「鍵閉めといてね?お兄ちゃん」

 

まあ小町も色々と忙しいのだろう。なのにわざわざ俺を起こしに来てくれるとはなんていい妹なのだろうか。

やはり愛すべきは妹だな。後は戸塚。むしろ小町と戸塚だけがいればいいまである。

きっと、小町と戸塚が笑顔なら世界に平和が訪れるだろう。

 

 

このときにでも些細な異変に気付くことができていれば、なんて思うのはとても無駄なことであるのはわかっている。でも、そうじゃないのだ。

ただ、自分を責めずにはいられない。

 

 

 

 

 

「比企谷君、比企谷君?」

「…、あ、おう」

 

雪ノ下は俺の顔を見ながらティーポットを持って不安そうな顔をしている。

ああ、そうか。

 

「…おかわり、もらっていいか?」

「ええ」

 

こうなってしまってから時々、こうなるときがある。

決まって小町のことを考えているときである。小町は今生きているか、親父やお袋、その他の奴の事だって心配だ。俺だって関わっている人がいる、関わってしまっている人がいる。

 

「平塚先生が戻ってきたらさ、今日でバリケードを職員室辺りまで増やそうって、取りたいものがあるみたい」

「由比ヶ浜さん、その、取りたいもの、とは何かしら?何か聞いているかしら?」

 

取りたいもの?何だろうか?

職員室自体には入ることができる程度にはバリケードは広がりつつある。それにこの間も少しだけではあるが職員室に俺と平塚先生で行き、必要なものや使えそうなものは取ってきたのである。

 

わざわざ最低限の安全を確保してから取る必要があるもの、それはなんなのだろうか?

 

「わかんない。聞いたけど、それを取ってきた後に君たちに話すって言われたから…」

「そう…」

 

平塚先生がそう言うということはきっと重大な事なのだろう。それが嫌な事でないことを祈るばかりだ。

平塚先生はこの状態になった日から何か知っているようではあった。ただ、俺たちと同じく困惑している様子やどうしていいかわからないという不安は隠す事が出来ていなかった。

 

一時の沈黙の後、平塚先生であろう足音が微かに聞こえてくる。その音はしっかりとリズムがあって平塚先生は無事なのだと安心する。

 

「今戻った。さて諸君、バリケードを広げに行くぞ」

「…ぼちぼち行きますかね」

 

皆が立ち上がり必要なものや段取りを確認する。まあ段取りと言っても、誰が彼らを誘導してその間に広げるだとかそんなものだ。

最初はみんな怖がり苦戦を強いられていたがどうにか要領を掴むと後はもうスムーズだった。

 

「比企谷」

「はい?」

 

引き止められ平塚先生の方を振り返ると、どうしてかシャベルを持っていた。それが当たり前のように感じた。

わかりやすく言うとヤンキーが釘バットを持って立っているように自然で、しっくりきてしまう。

もしそれで助けてもらったりしたらもうあれだな、完全に惚れちゃうまである。

 

「平塚先生かっこいいです〜。私も武器とか欲しいな。せんぱい、私は何が似合うと思います?」

「…どうだろうな。…鎖とか?」

「せんぱいの中の私のイメージってどうなってるんですか…」

 

一色のイメージ。笑顔でよってくる男をあしらったり誘惑してそう。そして俺は鎖で叩かれながら仕事をさせられていそう。もしくはでっかい注射器持ってニコニコしていそう。

決して俺の性癖ではない。

 

そう言えば平塚先生の存在を忘れてしまっていた。どうして呼び止められたのだろうか。

 

「それで平塚先生、どうしたんですか?」

 

俺と一色の会話を聞きながら煙草を吸っていた。

今のこの状況でどこから煙草を取ってくるのだろうか。

 

「ああ、そうだったな。君に天空の剣でも授けようかと思ってな」

 

平塚先生はパパスですか…

パパスこと平塚先生から授かったのは天空の剣、もといシャベルだった。

 

「俺が持ってても『いてつくはどう』くらいしか出来ないですよ」

 

なんか無性にドラク○ⅴがやりたくなってきた。もしもこの状況が良くなってドラ○エⅴができるようになったのなら絶対ビアンカと結婚しよう。

…なに言ってるんだ俺は…

 

「比企谷、もしもの時、雪ノ下や由比ヶ浜、一色を守るのは君だ。頼りにしているよ」

「そうですよせんぱい。私のことをちゃんと守ってくださいね。せんぱいはどれ…頼れる人なんですから」

「おい待て一色、今俺のこと奴隷って言おうとしてただろ」

 

一色の奴隷なんて嫌だぞ。絶対一生こき使われるに決まっている。俺はそんな社畜みたいな人生は嫌だぞ。

 

「そろそろ行くとするか」

 

煙草を吸い終えた平塚先生は携帯灰皿に吸殻を入れて歩き出した。

その後ろ姿は綺麗で、どこか花火のようにな一抹の寂しさというか儚さを感じる。

 

「平塚先生」

 

平塚先生が振り返る。

今ここで何かを言わなければこの人はきっと跡形もなく散ってしまうも思った。

何か、何か

 

「俺が守る対象には平塚先生も含まれてますよ」

 

俺は本物が欲しい。そして、本物を奪われたくない。

せめて今周りにあるものだけでも。

 

「君は本当に頼りになるな」

 

優しく平塚先生は微笑んだ。

 

 

 

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