ライフ4000とかすぐ消し飛ぶんじゃが   作:満満不満足

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第1話

「……これ、デュエルディスク、だよな……?」

 

 寝起きの寝惚け眼に入ったのは遊戯王でお馴染みのデュエルディスク。

 布団の横で転がっていたデュエルディスクは昔に発売されたそれとはどこか違った、玩具っぽさを感じさせない造り。それこそアニメに出てきたあのデュエルディスクと何もかもが一緒だ。

 

「あー……? 俺まだ寝惚けてんのかな、昨日は遅くまで起きてたから……」

 

 頭を振って意識を無理やりに覚醒させる。させる、が。

 

「え? これほんとにモノホン? ……なんで?」

 

 完全に目覚めると同時に視界から消えると思っていたが、依然ディスクは横に転がったまま。手を伸ばし、試しに持ってみる。ディスクは驚くほどに軽く、デッキもセットされていた。

 

「はー、クオリティたけぇなおい。よくこんなもん作ったなあ」

 

 このままデュエルを始めようと思えば、すぐにでも始められるのだろうと思ってしまうほどにその完成度は高い。

 しかしわからん。なんで俺の部屋に転がっていたんだ? プリズマーがオマケでついてきた方のディスクだって、当然買った事なんてない。

 

「ちょいと父さんやーい。昨日俺が寝てる間、に……」

 

 ディスクについて聞くべく居間に入るが、テレビを見て二の句が告げなくなってしまう。

 画面にはだだっ広いコートとその両脇に立つ二人の男と――

 

『藤川のシンクロ召喚が決まり、現れたのはエースモンスターであるギガンテック・ファイター! 長いデュエルとなりましたが遂に私達の前にその姿を現しました!』

 

 遊戯王カードで何度も見た、力強さを感じさせる豪腕の戦士。

 

「アイエエエ!? ギガンテック・ファイター!? ギガンテック・ファイターナンデ!?」

 

 何故ギガンテック・ファイターがテレビに……どういう……ことだ……まるで意味がわからんぞ! 答えてみろ誰か! アババーッ!

 

「うるさい」

 

「アッハイ」

 

 俺の疑問は答えてもらえるどころか、テレビに映るデュエルに夢中になっている父さんに一言で両断される。

 結局、対戦相手はろくなカードを引けなかったようで、苦し紛れのモンスター裏守備連打。そのまま藤川とやらのギガンテック・ファイターに押し切られデュエルは終了した。

 

「ふぅ……やっぱり藤川が勝ったか。と、それでどうした? お小遣いはもう渡せないぞ?」

 

「あ、いや、そうじゃなくて。これなんだけど……」

 

「? デュエルディスクじゃないか。それがどうかしたのか?」

 

「……大丈夫。今のでなんでもなくなったから」

 

 首を傾げる父さんを無視して部屋に戻る。流れていたテレビ番組と今の父さんの言葉で察する事が出来た。……何故かは全くわからないが、俺は遊戯王――デュエルモンスターズが当たり前の世界にいるのだと。

 

★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 起きたのが昼頃というのもあり、早速俺は外に出ていた。

 俺の部屋、家含め周りは何も変わってはいなかった。……デュエルモンスターズが当たり前になっている事以外は。

 その煽りを受けてか街にはカードショップが激増していた。確か、この辺りは二店舗ほどしかなかったのだが、この世界では至るところに建っている。

 それだけでなく、デュエル塾なるものも存在していた。あまりのわけのわからなさに、道を行く見知らぬ人に聞いてしまったほどだ。だが、聞かなければ良かったと程なくして後悔する。

 

『あの、デュエル塾って何を教えてくれるんですか?』

 

『は? デュエルに決まってるじゃん、何言ってんの?』

 

 …………そ、そうだよな、ダメステの流れとかマジわけわかめだもんな。始めたばかりだと時と場合だとか、するとできるの違いで躓くもんな。教えてもらわないとサイクロンが最強無敵の魔法カードになっちまうし……はあ。

 

『それにさぁ、キミ何でデュエルディスク持ってないの? デッキは? しっかり持ち歩かなくちゃ』

 

『え? え? ……えぇ?』

 

 言われてから気付いたがディスクを装着していないのは俺だけで、周りの人達はみんなディスクを装着していた。

 そうだよな、公園でもちびっ子達がデュエルに興じていたし、学校の傍を通り過ぎた時も校庭でデュエルの授業をしていたし。もうマジ意味わかんねぇ。

 極めつけはカードショップだ。

 この世界ではどんなカードが人気なのかと確かめるべく足を踏み入れたのだが……。

 

『なあ、あいつ……』

 

『はあ? なんであいつデュエルディスク持ってないんだ?』

 

『おかしいよな。デュエルディスク無いとか』

 

 入店してすぐにUターンした俺は悪くない。俺が悪いんじゃない、この世界が悪いんだ。

 そうして自宅に引き返して来たわけだが……うん……。

 

「ほんとにさぁ、なんでどいつもこいつもデュエル脳なんだよ。ディスク腕に着けてないだけで悪者とかマジ意味わかんないんだけど」

 

 どうやら部屋に転がっていたディスクは俺の物で間違いなさそうだ。正しくは、この世界の俺の物というべきか。

 とにかく、今後はこのディスクを着けて生活しなければなさそうだ。

 今確認したところ持っているカードはこの世界に来る前から使っていた物が一通り揃ってはいるけど、でもこのカードってこっちの世界で使えるのか?

 いざデュエルしようとディスクに入れたはいいものの、認識されず仕舞いとか本当に嫌なんだけど――

 

「――ん? 誰か来たのか?」

 

 家中に響くインターホンの音。……そういえば今家には俺しかいないんだっけ。

 

「はいはい。今出ますよっと」

 

 宅配便かはたまた新聞の勧誘か。体感としては久しぶりの誰かの訪問を面倒くさく思いながら出ると、玄関前に立っていたのは隣に住む友人だった。どうやら人間関係も前と一緒らしい。

 

「よお、邪魔するぜ」

 

 長い茶髪に前髪をオールバックにした、チャラい風袋の友人。……やはり腕にはディスクが装着されている。ブルータス、お前もか。

 

「邪魔するのはいいけど、俺ら遊ぶ約束してたっけ?」

 

「あん? なに言ってんだよ、昨日話してたじゃねえか。話あるから、明日お前の家に行くって」

 

 ああ、この世界の俺がした約束事か。しかし話というのはなんなんだ? とりあえず上がってもらい、話とやらを聞くとしよう。

 

「ほい、飲みもん。んで、話ってなんぞ?」

 

「すまねえな。んで話なんだけどよ、お前って確か遊ヶ丘高校に入学するんだよな?」

 

 そうそう、そうなんだよな。春から遊ヶ丘高校に――って高校!? 高校だと!? どういう事だ!? 高校なんてとっくの昔に卒業した筈だぞ!

 冗談でも言っているのかと思ったがそんな様子は無く、その表情からこいつが冗談で言ったわけではないと窺える。それに何より、俺の記憶の中のこいつはもっと老けていた筈だ。もう少し聞いてみたほうがいいか。

 

「あー、ああ、そうだな。それがどうかしたんか?」

 

「どうしたもあるかよ。お前、デュエルするの嫌ってたじゃねえか。それがどうして遊ヶ丘に入学すんのかと思ってよ。なんだって今更になって始めようと思ったんだ?」

 

「え? デュエル嫌い? それマジ?」

 

 この世界の俺はデュエルが嫌いだっただって? こいつの話し方から察するに、遊ヶ丘って高校はデュエルアカデミアみたいな場所なのだろう。

 デュエルモンスターズを嫌ってる奴が、それを専門に扱っている学校に入学しようだなんて、確かに気になる話だ。

 これはなんと答えるべきか。俺自身は遊戯王が嫌いどころか大好きだし……。朝起きたらデュエルモンスターズが当たり前の世界に来ちゃってましたあはーとか、頭を疑われる事間違い無しだ。

 

「それは、あー、その、あれだ。実は結構前にデュエルの楽しさに目覚めてさ。それで勢いのままに遊ヶ丘に受験したわけよ。いやぁ、すまん。言ってなかったな」

 

 こういう時に自分のアドリブ力の無さを呪いたくなる。我ながらなんと適当な言い訳か。

 

「そうか……そうか! お前もやっと楽しさを理解できたか! へへっ、自分の事じゃないのになんだかすごく嬉しいぜ……!」

 

 すまない……事実を告げられない男で、本当にすまない……。

 この嬉しそうな顔を見て、心底そう思ってしまう。まあ、デュエルが大好きなのはマジだしノーカンノーカン。口に出したら声が震えそうになるだろうから決して言わないけど。

 

「って事はよ! 当然デッキはできてるんだろ!? 俺が相手してやるからよ、早速デュエルしようぜ! 先に表出てるな!」

 

「あ、ちょ」

 

 ……行ってしまった。あいつどんだけ俺とデュエりたいんだよ。

 さて。デュエルするのは良いんだけど、どのカードをどれだけ使ってもいいのかがわからない。向こうでは当たり前のように使っていたカードも、この世界ではとんでもない地雷になっている可能性が無きにしも非ずなわけだし、そうなると今使えるデッキは限られる。

 

「――いや、あれでいいか」

 

 あのデッキなら怪しまれる事なく、問題無く使える筈だ。あまり待たせるのも悪いしさっさと行くとしよう。……心なしかなんだかドキドキしてきた。

 

★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

「まさかお前とこうしてデュエルできるなんて、思ってもみなかったぜ!」

 

 こうしてディスクを構えると、家を出る前に感じていたドキドキが更に大きくなっているのがわかる。俺のモンスターがあのテレビに出てきたギガンテック・ファイターみたく目の前に出てくるわけだろ? あ゛ーほんとに緊張してきた。こんな事ならもう少し派手な奴が出てくるデッキにすれば良かったか? まあ、考えるのは後だ。

 

「……これからは、何度だってできるさ」

 

「そうかよ。――じゃあ、始めるか!」

 

『デュエッ!』

 

 互いにデッキから五枚ドローする。先攻後攻はディスクが勝手に決めてくれるようだ。

 先攻は――俺か。手札は悪くない!

 

「俺はモンスターをセット! カードを二枚伏せてターンエンド!」

 

 LP 4000 手札 二枚

 モンスターゾーン セット一体

 魔法&罠ゾーン セット二枚

 

 前の世界ではあいつは遊戯王をやっていなかった。だからこの世界ではどんなデッキなのかが全くわからない。まあ、相手のデッキが未知というのもこのゲームの楽しさではあるのだが。

 それにしても、LPは8000じゃなくてアニメ準拠の4000なのか。8000でさえ一瞬で溶けるというのに……その半分の4000かぁ……。

 

「俺のターン、ドロー! 俺は【剣闘獣ラクエル】を召喚!」

 

「おお……」

 

 現れたのは炎輪を纏った獣戦士。生で見る迫力あるモンスターに、年甲斐もなくはしゃぎそうになってしまう。しかし、これは……みんなが夢中になるのも頷ける。

 

「自分の場に剣闘獣モンスターが存在する場合、こいつを手札から特殊召喚できる! 来い! 【スレイブタイガー】! そして効果発動! こいつをリリースする事で自分の場の「剣闘獣」をデッキに戻し、別の「剣闘獣」を呼ぶ事ができる! 俺はデッキから【剣闘獣ディカエリィ】を特殊召喚! こいつの効果で特殊召喚したモンスターは「剣闘獣」モンスターの効果で特殊召喚した扱いとなる!」

 

 確か二回殴れる奴だったか? 攻撃力1600とは言え、LP4000のこの世界じゃこいつもまた殺意に溢れていると言える。

 

「そしてディカエリィに装備魔法【剣闘獣の闘器グラディウス】と【剣闘獣の闘器ハルバード】を装備! グラディウスは装備モンスターの攻撃力を300アップさせ、ハルバードは装備モンスターが攻撃を行ったダメージステップ終了時にフィールドの魔法または罠を破壊する! 俺はディカエリィでセットモンスターを攻撃!」

 

 ハルバードはちょっと嫌だな。片方は別に破壊されてもいいけど、もう片方は……。まあ今回は発動させなくてもいいか。運否天賦運否天賦。

 出された命令に従い、ディカエリィはその手に持ったハルバードを俺のモンスターに振るう。

 そうして攻撃を受けたモンスターはリバースし、その姿を現す。

 

「この瞬間、【ダイス・ポット】のリバース効果を発動!」

 

「【ダイス・ポット】? なんだそりゃ?」

 

 効果を知らない? こっちだとあまり知られていないのか? まあいい。

 

「お互いに賽を振り、相手よりも小さい目を出したプレイヤーは出目×500ポイントのダメージを受ける! ただし出目が6の場合はダメージが6000になる!」

 

「はあああああああ!? 6000!? お前ふざけてんのか!?」

 

「何キレてんだよ。ほれ、賽を振るのはターンプレイヤーからだ。振りなよ、賽をさ」

 

 舌を出してニタニタと人を小馬鹿にしたかのような笑みを浮かべる【ダイス・ポット】から吐き出された賽を受け取り、あいつはそれを振る。そして出た目は……5か。なかなかじゃないか。

 

「振ったぞ。お前もさっさと振れよ」

 

「言われなくても」

 

 俺もあいつと同じように賽を受け取り、前に放り投げるように振る。出た目は――

 

「おしきた! 出た目は6! よって6000ダメージを与える!」

 

「はあ!? てんめぇぇぇぇぇ!! ふざけんじゃ――」

 

 あいつは怨嗟の声を上げるが、それは賽を渡した【ダイス・ポット】によってかき消される。

 

『げら――げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら!!』

 

 まるで敗者を嘲笑うかのように【ダイス・ポット】は耳障りな笑い声を上げる。そうして一頻り笑ったかと思うと小刻みに震えだし――直後にその身を爆発させた。

 

「ウボァァァァ!!」

 

 辺りに響く爆発音と、それに混じるあいつの断末魔。

 ……うわあ。【ダイス・ポット】ってこんな煽りスキルたけぇの? もしかしてあいつが【ダイス・ポット】にキレ気味だったのってこれを知ってたから? いや、あいつは【ダイス・ポット】を知らなかったみたいだしそれはないか。まあ、とりあえず……。

 

「これ、知らない人相手に使うのはやめとこう」

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